夢と現のクロスロード   作:佐月栄汰

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※沙良の浮遊刀の設定変更の為、一部書き直しました。




29

「……………………勝手に、殺さないで、くださいまし」

 

 ナタリアはそのままの状態で、少し掠れた声で言葉を返す。

 冗談はこのくらいで、一体全体どうしたというのか。

 

「実はさっきまで会長のおかえりなさいお疲れ様会が行われていたらしいのですが、その出迎えから、それはもう盛大なものだったようで。お疲れのご様子が見られた、という話は聞かなかったのですが……」

 

「つまり疲れたところを見せないように立ち回って、そのパーティーが終わってすぐ人目につかないここに辿り着いた結果、こうなったと」

 

 おいたわしや姉上。

 ひとえにそんな理想の偶像ムーブなんかするからだが。

 

(そういうの苦手のクセに)

 

 全力でそれに応えようとするし、隙を見せないようにするのも、彼女の短所であり長所でもあるのだが。

 まあ、それはともかく理解した。

 一人で来いとは、そういうことか。

 

「たっくーん……」

 

「はいはい、仰せのままに、お嬢様」

 

 案の定、ナタリアは体の向きを変え、こちらへと両手を伸ばして催促して来た。

 仕方なく抱えて奥にある机のふかふかな椅子に座らせると、拓海は周囲を見渡し、ティーカップなどが納められた端にある小さな棚へと足を運ぶ。

 そこにある複数の茶筒から適当な茶葉……アッサムを取り出し、並べて置かれていた急須に入れて、保温ポットのお湯を足す。

 子供の頃から、ナタリアにせがまれて執事の真似事をしてきたので、それなりのことは出来る。

 もっとちゃんとしたやり方があるかもしれないが、所詮真似事なのでそこは御愛嬌。

 

(リア姉も本格的な事は求めてないだろうし)

 

 昨日の呼び出しに、約束など建前。

 求められるがまま、完璧であるよう努めてきたナタリア。

 彼女が我が儘を言える数少ない人である拓海に、頑張った自分を甘やかしてほしいだけなのだろう。

 どのみち何かと理由をつけて、こうしてどこかしらに呼んでいたに違いない。

 そしてその姿を、真里華であろうと見せたくなかったから、一人で来いと言ったのだと思う。

 こんなでも、意地っ張りな人だから。

 

 そんな彼女を労るべく淹れた紅茶を机に置くと、ナタリアはティーカップをつまむように持ち、一口。

 

「はふぅ……」

 

「この様子だと、誕生日会も散々だったみたいだな」

 

「婚約者、いるって言っても、寄って集ってきて……もう嫌ですわ」

 

「まあリア姉は美人さんだからな。気持ちは分からんでもない」

 

「まあ、そう思ってくださいますの?」

 

「思う、思う」

 

「そっかあ〜、えへへ」

 

 適当な返事だが、それでもナタリアはうんざりした表情から一転。

 子供の頃のような、甘えん坊で無邪気な笑みを浮かべる彼女をみて、拓海も思わず吹き出すように笑う。

 

「……なんというか、兄貴が兄貴たらしめる理由を見た気がするなあ」

 

「というか、あの、えっ? 会長、婚約者いるんですか?」

 

 未来は目を丸くして問う。

 いる、というか。

 

「それ、俺」

 

「「はい!?!?」」

 

 今度は時亜も揃って、驚きの声を上げた。

 その時亜に至っては顔色が真っ青になっている。

 

「と言っても俺達が小さい頃に親が勝手に決めたのだし、あってないようなものなんだけど。事あるごとにリア姉が言い寄られるから、断る口実に使ってるんだよ」

 

「そっかあ。……もう! それならそうと早く言ってよね!」

 

 時亜はホッと胸を撫で下ろすと、すぐ気を取り直して文句を垂れ流しだす。

 ちなみにそれについては真里華も知っているので、知られて困ったことになる心配はない。

 

「……それよりわたくし、たっくんに一人で来てって言った筈ですが。どこの、どなたですの?」

 

「それについては、勝手についてきたこいつに聞いてくれ」

 

 そう、少し調子を取り戻したナタリアはまた不機嫌そうに呟くので、拓海は即座に時亜へとバトンタッチ。

 流れるようなムーブに時亜は、ジト目で睨んでくるが、すぐ気を取り直してコホン、と咳払い。

 

「はじめまして! 兄貴のお姉ちゃん! 僕は――」

 

「貴女にお義姉ちゃん呼ばわりされる筋合いなんかありませんわ!」

 

「????????」

 

 そして自己紹介を遮られて告げられた言葉に、時亜は宇宙猫顔になっていた。

 この姉、いきなり何をおっしゃるのか。

 

「そうわたくしを呼んで良いのはまーちゃんだけなのですわ。まーちゃんですら本当は嫌なのに、それ以外なんて以てのほか。絶対にいや」

 

「「………………」」

 

 プンプンと怒るナタリアに、沈黙する三人。

 これは……なにかとんでもない勘違いをしてらっしゃる様子。

 

「えっと、リア姉。一回、トキ……時亜が言ってたことを思い出してみようか」

 

「いや」

 

「いやではなく」

 

「むう」

 

 ふくれ面をするナタリアは、しばらく沈黙。

 そして次第に首を傾き始めるナタリアに、改めて時亜は自己紹介。

 椅子の上で縮こまるナタリアちゃんがそこにいた。

 

「あー、リア姉? とりあえずバースデーケーキ買ってきたんだけど、食べる?」

 

「……食べる」

 

「オーケー。トキと植野さんと……後、美月だったっけ。お前達は、どうする?」

 

「あっ、食べて良いの?」

 

「良い良い、元々複数人で食べるためにホール買ったんだし、むしろ食ってくれないと困る」

 

「なるほど。そういうことでしたら、お言葉に甘えて」

 

 というわけでそれぞれソファーに腰掛け(ふかふか)、鳳姫に行き途中に買ったケーキを、ナタリアのを多めにする形で切り分ける。

 

「それじゃあ改めて、一八歳の誕生日おめでとう、リア姉」

 

「ありがとう。まあ本当の誕生日は三日前なのですが」

 

「唐突に梯子外すのやめてくれる??」

 

 祝いモードでいたのに、という拓海をよそに、ナタリアは既に受け取ったケーキを楽しんでいた。

 ……まあ、無駄なツッコミはいつものことなので、気持ちを切り替えよう。

 

「はむ……んー!」

 

「えっと、それじゃあ私も失礼して……ん、んん!? これ、美味しい……!」

 

「大げさだな、これよりいいものなんて食べてきただろうに」

 

「大げさなんかじゃありませんよ! これ、一体どこで買われたんですか?」

 

「あー、それは……」

 

「どうせ、兄貴のバ先でしょ。兄貴が食べ物持ってくる時は大体そこだし」

 

「……ご明察」

 

 拓海の知るところで、色んな食べ物を取り扱ってて、かつ持ち帰りもできるところなんて、そこ以外で知るよしもない。

 なので、土産物を持ってこようと思うと、基本的に消去法でそこになる。

 その際、上司に色々と詮索されて面倒だったが……

 

(まあ、でも)

 

 ナタリアは当然、未来も美味しそうに食べてくれたのなら、寄った甲斐があったというものだ。

 

「そんなお店がこの街にあったんですね……よろしければ、今度案内してくれると嬉しいです」

 

「それくらいなら。その時は売り上げに貢献してくれると助かります。さっ、食べよう食べよう」

 

 雑談もそのくらいで、それぞれケーキに集中し、それから数分後。

 

「ふう、ご馳走様でした。大変美味でしたわ」

 

「お粗末様。それはよかった。……じゃあ」

 

「ええ。それでは、もう一つの本題に入ると致しましょうか。――聞きたいこと、あるのでしょう?」

 

 そう口にした途端、ただのナタリアは、四葉ナタリアへと切り替わる。

 拓海もそれに倣って姿勢を正す。

 

「ああ。と言っても単純な話だ。リア姉は、本気で願いを叶えようと思って動くのか。今後俺達の前に現れるのは、黄の創喚者でしかないのか」

 

 昨日のうちに聞くべきだったことを問う。

 その返答次第で、拓海達の動きも変わってくる。

 正直な話、ナタリアとそうなるのは嫌だが、しかしだからこそ問わねばならない。

 それを聞く聞かないで、心持ちが違うから。

 

「そうですわね……実際、叶えられるというのなら叶えたい願いは、確かにありますわ」

 

 ナタリアはおもむろに立ち上がり、机の上を指でなぞりながらその前に出る。

 

「しかしそれは、できるだけ優しい世界になってほしい、ただそれだけ。たっくんに願いがあるならお譲りするくらいの軽いものですわ」

 

「! でしたら!」

 

 未来は嬉しそうに声を上げる。

 だが拓海は、顔色を変えず。

 ただナタリアをじっと見据え、対して彼女は目を閉じる。

 

「――ですが」

 

 次の瞬間、鈍く、甲高い音が背中から響く。

 振り返ると、目を見開く未来と時亜。

 そして拓海に向かって振るったのであろう刀を持つ黄の幻衛士・沙良と、それを双剣を以て防ぐ亮がいた。

 

 ――やっぱり。

 拓海は若干冷や汗を流しつつ、ホッと息を吐く。

 

 ナタリアも未来も、敵として相対するなら心話でもなんでもあらかじめ言うタイプだろう。

 そもそもとして優しい人だから、拓海も彼女達を信じた。

 

 だが幻衛士の事を考えると話は別となる。

 アキラは良い。

 前は不意打ちしてきたとはいえ、わりかし仁義を大事にするタイプだ。理由なく約束を破ったりはしないはず。

 

 問題はこのナタリアの幻衛士だ。

 先日でも、ナタリアの意思に反し、本気でこちらをやりに来た女だ。

 信用したところの寝首を掻っ切られてもおかしくない。

 

 そう思って、アキラにはああ言ったが、ずっと亮には妖力で姿を隠したまま近くまで着いてきてもらっていたのだ。

 この懸念が外れていてくれていたら、ただ自分が約束も守れない間抜けに成り下がるだけだったのだが……

 

「【選択(セレクト)】【結界(エリア)】」

 

 その用心は正解であり、不正解だったようだ。

 

 覚えのある単語を耳にした拓海は、まさかと思い、今一度ナタリアのいた場所へと目を向ける。

 机の上、ナタリアが指でなぞっていた箇所に、欺瞞が解ける。

 するとそこには、開かれたままの創喚書が置かれていて――

 

「リア姉……!」

 

「沙良が、わたくしの幻衛士がどうしてもというのです。だからごめんね、たっくん。少しの間だけ、付き合って――【展開(オープン)】、【新月城】」

 

 そうして地面に零れ落ちる、ナタリアの指に付着していた光が、目に見えるもの全てを塗り変えた。

 洋風のきらびやかだった部屋から、畳の敷かれた木製の広く古めかしい空間へと。

 

 暗くなった部屋に差し込む冷たい風が、肌を撫でる。

 硝子はなく、木製の格子で隔てた窓の外には、星はあれど月の見えない新月の昏い空がある。

 

「今度は邪魔が入ることは期待しないように。【偽装・溶解】」

 

 互いに弾き合い、跳躍した沙良はナタリアの隣に降り立つと、マフラーに仕込んでいた巻物を広げ、印を組む。

 すると、背に浮かばせていた五本の刀達は、ドクンと鼓動を始める。

 

「させるか――――!!」

 

 その隙に、亮は沙良へと跳んでいた。

 風の波に乗るように、滑らかに沙良の間合いに入りながら、白剣を振るう。

 それは嵐の如き、振るうだけで周囲を荒らす斬撃。

 恐らく渾身の一振り。

 

 しかしそれはひらりと躱され、ならばと亮は魔力と気を剣に流し、続け様に斬波を放つ。

 一撃、二撃、三撃!

 沙良はそれら全てを片手間に弾いてみせると、その小さな唇を開く。

 

「舞え、【七支・翼】」

 

 沙良の一言と共に、突風がなり、亮もそれに吹き飛ばされる。

 思わず瞑った目を上げると、その五本は風変わりしていた。

 形としてはまるで溶けたように、何の変哲もない刃があるだけの鉄の棒。

 しかし一方で、それらは見ているだけで神秘と悍ましさを感じ取らせる。

 

「ご覧の通り、これがあたしの翼、あたしの手、あたしの刃。このみてくれですが、これは既に曰く付き。本来なら人の手に余るもの故、くれぐれも侮るなきよう。――そして」

 

 背中からの亮の追撃をその五本にて受け止めながら、手にある直刀と脇差を掲げる。

 

「【真打・開銘】【穢切】【白無垢之剣】」

 

 カチンと音が鳴る。

 じわりじわり。

 侵食するように、直刀は真っ白に、脇差は真っ黒に染められていく。

 そうして全体に色が行き渡り――

 

「――おまたせしました。これが我が名刀等、その本領になります」

 

 完成したその瞬間に、理解する。

 なぜかは分からない。分からないが……

 

 あれらには一つとして傷を受けてはいけないと、震える身体が言っている……!

 

「……面倒なプロセスだな。それが今後、致命的な隙になったらと思うと気が気じゃないんじゃないか?」

 

「面倒なのは確かですが、これはあたしなりの気遣いなのです。これから貴方がたのような愚者を斬ってくれるものが何なのか、知っておきたいでしょう?」

 

「それはそれは、お気遣いどうも。アンタの思想を否定するつもりはないが、その余裕が致命的にならないように祈っておけ……!」

 

「……ほむ。どうやら勘違いしているようですね」

 

 ぽつりと言葉を零しながら、沙良は亮の剣を弾き飛ばす。

 

「なら今のうちに言っておきましょう。これより始まるは戦いにあらず。あたしによるあたしの為の演舞。貴方に与える隙などありはしない」

 

 飽くまでも上から目線。

 恐らく、いや間違いなく、もう既に勝った気でいるのだろう。

 確かに結界は最大のアドバンテージになりはするが……まあそこは一旦置いておこう。

 それより、拓海は以降全く動きのない、窓際にいるナタリアに目を向ける。

 

「だとさ。どうする?」

 

「……そうだな。とりあえず――」

 

 あのような言い草をしていたが、ここまで来てナタリアもやる気がないとは言わないだろう。

 むしろ、せっかくだから楽しもうという思考になっている筈だ。

 その上で、勝ち取る気であることも察せられる。

 

「――お望み通り、足元から引きずり下ろしてやろう!」

 

了解(ヤー)!」

 

 だったら、それに全霊で応えるのも、弟の役目だろう――!

 

「ほむほむ、意気込みや良し。では――まずは、この一手」

 

 そう言って沙良は黒いニーソの上に履く草履で、唐突に床をトントン、トンとリズム良く叩き、

 

 ――ガシャン。

 

「「はっ?」」

 

 足元から音が鳴り、唐突に浮遊感。

 下を見れば、踏みしめていた筈の床がぽっかりとなくなっていて……

 

「「ああああああ――――――!?!?」」

 

 程なくして。

 二人はなす術なく、その開いた穴の中へと落ちていった。




終盤の穴の中に落ちていくまでのところで凄い書き直してました。
最初、穴空いたのにギャグ漫画みたいに落ちずに2行分の話を聞いてた感じになってたので、それをどうにかするのに一週間かかりました。うーん、時間かけ過ぎ。
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