夢と現のクロスロード   作:佐月栄汰

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 拓海が屋根の上を転げていく。その後を追って、亮も飛び出す。

 跳ねるスーパーボールのように。標的を定めた鳥のように。

 

「…………!」

 

 アキラと共に窓から降り、二人に続こうとするが、やはり一歩遅い。

 黒の二人が落ちていく光景に、未来は出そうになった悲鳴のような呼び声を咄嗟に呑み込む。

 多種多彩の絡繰に手間取って仕方なかったとはいえ、ただただ歯痒くてたまらない。

 

 そんな未来をよそに、先に屋根に立っていた美月に銃口を突きつけられていた沙良は、これ見よがしに嘆息した。

 

「……なんて無粋な。せっかく興が乗ってきたところなのに。けーわい、というやつですか?」

 

「むしろここまで手を付けなかったことを褒めてほしいわね。後もう死語よそれ」

 

「つまりどうでもいい補足しかできず、待ても出来ない駄犬だった、と」

 

「……言うじゃない。錆どころか苔すら生えそうなくらい古臭い(○○○)が」

 

「――フフ」「――ハハ」

 

 二人は、親しげに言葉を交わし合い、壮絶に笑う。

 

「仕方ありません。代わりにあなた達で舞うと致しましょう。構いませんね? 創喚者」

 

「今は貴女の我が儘に付き合うターンです、好きにしていいですわ。でもそれは……」

 

「分かっています。――さて」

 

 片や、翼刀で狙いを定めながら。

 

「創喚者、パターンは?」

 

「んー、そだね。手数には手数で対抗するしかない、し、2か3でいこうか」

 

了解(ダー)。――さてと」

 

 片や、周囲に球体の光を浮かばせながら。

 

 両者共に軽く創喚者と言葉を交わしながら構えを取ると、瞬く間に視界から二人の姿が消え、

 

「「殺す」」

 

 ――次の瞬間。

 場はあっという間に荒れ狂う戦場となり、そして鮮やかに彩られた。

 

 常軌を逸した、弾丸と刃飛び交う幻衛士の戦い。

 その上空では、数多の光球と黒い刃があちらこちらで交錯し、その二つが衝突するたび花火のように散る。

 真夜中の城の上で咲くそれは、星々の輝きも合わさって美しい。

 

 ……だが、やはり結界の差は大きいらしい。

 良く見れば全く足りない球体の包囲を、黒刃は安々と潜り抜ける。

 

「チッ、ィ、【カラミティ、ブラストⅠ】……!」

 

 舌打ちしながら後退。

 向かってくる切っ先を前回とは違い、アタッチメントを展開せずにカラミティブラストを放ち、まとめて撃ち砕く。

 続けざまに、後を追ってきた沙良の振るう猛攻。

 避けて防いでの対処をするが、当然ながら、スピードもパワーもあちらは強化されているのでジリ貧だ。

 それでもなんとか、押し込まれるギリギリのところでなんとか耐えて、耐えて、耐え続ける。

 

 一方。

 ここまで見守っていた未来は、できる限り視界に入らないよう下ろしていた腰を少し上げ、周囲を見渡し確信する。

 間違いなく、いまそれぞれの意識は、相対する者たちのみに向けられているということを。

 

《――好機(チャンス)、だな。まァ、時計の針のように巡ってきた必然だが。で、どうする?》

 

 そう、アキラは問うてくる。

 拓海たちの元へ行くか、それともここに混ざるのか。

 数秒の思案をしてみたが、まあ、やはり初めに浮かんだ答えから変わらない。

 

《紫苑さん達を追います》

 

 正直、今行ったところで間に合うわけもない。

 幻衛士である亮もいるから、最悪なことになることはまずないだろう。

 だから、いてもいなくても、変わりないのかもしれない。

 けど、

 

《いけば、なにか役に立てる事があるかもしれないから》

 

 創喚者としては、ここで脱落してもらった利益になる。

 だがそうするには、ただ停戦協定を結んだだけの関係というにはお互いのことを知り過ぎた。

 

 そう、だからこれは創喚者としてではなく。

 ただの植野未来として、友達の助けになりたいというだけの話だ……!

 

《まっ、リベンジもなにもしてねェしな。オーケー、創喚者。それでいこう》

 

 そう思ってニヤリと笑った自身の幻衛士と目を合わせ、軽く頷く。

 一つ文字をなぞってから創喚書を抱えると、未来は念の為、時亜との心話の接続を始める。

 

 ……が、駄目。

 繋げた時にある震えのような/波紋のような感覚がない。

 仕方ない、と息を吐く。

 

「……三、で行きますよ。一、二の」

 

 と、未来は口頭でアキラとタイミングを合わせながら中腰となり、後ろに下げた左足に力を込めようとして……

 

 その時、影纏うコインが/蜂の玩具のようなものが、未来に向けて迫っていた。

 

「――クソ、がッ!」

 

 直撃する直前にアキラが前に躍り出て、ルーンルインのトリガーを引いたままおもむろに薙ぐ。

 すると刃に熱が纏われ、それに触れたコインと鋼の蜂は、鉄を叩く音が鳴る前に溶けて消えていった。

 

「ッッ手前、ら――ッ!?」

 

 焦りと怒りの汗を流しながら、アキラは怒鳴りを上げかける。

 だがその寸前。気付いた彼女らによる弾丸と浮遊刀の追撃を前に口を閉ざし、防御に徹する。

 

「Beeカメ。武具扱いで創喚した、簡単に言うとゲーム内カメラを監視カメラとして利用しただけのもの。

 まあ普通に考えて、何もしないで放置するわけないじゃんね」

 

 そう失笑する時亜の言葉に、流石に気付かれていたか、と未来は密かに肩を落とした。

 

「一応、心話で協力を仰ごうとしたんですけど、ね」

 

「あら、そうなん? どのみち行かせるつもりないし、断るけど」

 

 苦し紛れながらに告げた言葉も、残念ながら一蹴されてしまったが、意外とは思わない。

 あれだけ睨みを利かされていたのだ、どんなに鈍かろうと嫌でも察しがつく。

 さっき回線が繋がらなかったのも、心話という文字通り、こちらを敵として認識しているが故に心を閉ざされているからだろう。

 

「そうですわね。先程の向かい先から察するに、たっくんところへ行こうって言うのでしょうから、尚の事ですわ」

 

 時亜の言葉に、ナタリアも頷く。

 それはつまり、紫苑さんを心配する必要はない、ということだろうか。

 むしろ、いやだからこそ他の、つまり敵か味方かも定かじゃないやつを彼等のところに行かせる方が怖い、と。

 

(……どんな生き方をすれば、そんな風に思われるんだろう)

 

 今度、暇があったら聞いてみようかな。

 などと思いつつ、今関係ないことに思考を割くわけにはいかないので、頭の隅に追いやっておく。

 

「まあ? そちらからすれば、『動いてくれて助かった』、でしょうけどね」

 

「あっははは、イグザクトリー☆ と返しておこうかな。それはそれとして」

 

 と、時亜はニコリと笑う。

 

「そういうわけだから、野良犬にでも噛まれたとでも思って――」

 

「いい加減に、しやがれェエ!!」

 

 丁度ここで、時亜の言葉を遮って、忍耐の限界らしい彼による一手。

 ばら撒くように槍を振りながら放つ砲撃、からの突撃!

 直近の凶器を破壊しながら爆風に紛れて姿を消し、

 

「【技能】【発動】【武具分裂(わかれろ)】!」

 

 そしてすぐ幻衛士二人の前に姿を現したアキラは、まるで二つに折ったかのように双つに分かたれた短い双槍を二人に振り下ろす。

 それを難なく防がれるが、アキラはそのままトリガーに指をかけ――

 

「話遮ってんじゃ、ないわよ!!」

 

「ゴ、ゥ、ッ!?」

 

 その前に、美月が動く。

 宙返り。正確に言うのなら、サマーソルトと呼ぶべき動きでアキラの顎を蹴り上げながら、大股二歩分後ろに下がる。

 

「アキラさん! 【セレク――」

 

 支援の為に創喚書を開き、文字をなぞろうとしたところで、未来の元へ光弾と凶刃が迫る。

 

「っ、【能力】【発動】【熱嵐領域(荒れ廻れ)】!」

 

 もう一度しゃがみ込み、事前に準備していたものを起動する。

 そうして未来を中心として巻き起こったのは、文字通り熱の嵐!

 不可視のそれ(・・)に接触したものは、吸収されるような形で蒸発させていく。

 

 未来に降りかかる危機は払った。

 だが代わりに、アキラは美月の攻撃を真っ向から受ける事となる。

 距離を取った美月が、今度は瞬間移動したかのような速さで目の前にいて、

 

「【スキル・エアロバレット】!」

 

 下から振り上げるように撃たれた弾丸は、彼等の足元に着弾し――ブワッと、不自然な形で二人の体は空を舞った。

 

「ほむっ!?」「なっ!?」

 

 驚きの声を上げるアキラと沙良へと目を合わせながら、美月はバク宙の要領で空高くに飛び上がり、アキラ達の頭上へ到達共に停止。

 と、共に左右に方向を変えた腰のブースターを点火する。

 すると美月の体が回りだし、向けたままの二丁の銃、その引き金に指をかけ――

 

「【スキル・エアリアルバレット】!!」

 

 空に浮いて、何故か上手く身に動きが取れない(・・・・・・・・・・・・・・・)二人に、大量の弾丸が掃射された!

 間もなく集中砲火を身に受けた二人だが、蜂の巣になることもなく、ただひたすらに光の弾丸に滅多打ちにされている。

 

「【影纏(まとい)】――(くだ)け!」

 

 その時、ナタリアが硬貨を袖から目の前にバラ撒き、影を含ませたそれらを()って弾って()ち飛ばす。

 まるで昇る鉄の雨。

 だがそれも意味を成さず、何故か美月の身体を素通り(・・・)してしまっていた。

 

「――【スヴェート】【チェムノター】、【バレル・オープン】」

 

 そして数秒後、美月は態勢を整え二丁の銃を隣合わせにして、以前のように付属のアタッチメントを展開し――

 

「【チェンジ・バスターモード】」

 

 しかし、それは前に見たモノとは違い、一つの巨大なライフルへと変貌した。

 銃口より、五つの光が灯り、集束を始める。

 

 チャージによるタイムラグ。しかも前回よりも長い。

 明らかな隙に、アキラも沙良も身を捩る様が見受けられるが、何故か効果がない。

 こちらからの支援さえ、何もできない。

 

(いや違うこれ!)

 

 正確にはこれ、美月以外の動きがゆっくりになって――

 

「【フルチャージ】消し飛ばせ、【カラミティクラスター】!」

 

 時間切れ(タイムリミット)

 健闘むなしく、五つの災害を模した砲撃は放たれた。

 赤、青、黄、緑、茶の光線は二人に直撃し、爆発。

 その衝撃は屋根を大きく揺らし、見る限り全ての瓦に罅を作る。

 飛び散った爆風の熱に触れた瓦は、ドロドロに溶けて原形を留めていない。

 

 こうして今この足場は、今にも崩れそうな不安定な場所となった。

 

「――、――、――――」

 

 息を荒げ、汗だく状態の美月は、大きく深呼吸をする。

 すると同時に、双銃の排熱口から煙がブワッと吐き出される。

 

 まるでゲームにおけるコンボのような猛攻。

 例え幻衛士であれど、あれだけの攻撃を受ければただでは済まない。

 最後の一撃に至っては、常人であれば灰も残さないだろう。

 

 ……ああ、全く。

 アキラの体は、異様なほど頑丈であると、逐一描写しておいてよかった。

 

 煙の先より爆発音。

 勢い良く飛び出して美月の前に現れたのは、血と煤に塗れたボロボロのアキラだった。

 右手の槍を下に向け、ジェット機のように爆風を利用して急接近した彼は、左の槍を彼女へ突き立てる。

 

「なっ――」

「ブッ飛べェ!!」

 

 至近距離による爆砲!

 まともに受けた美月は、放物線を描くように飛んで堕ちていく。

 

 さらにそのまま横に槍を振るい、その勢いを利用して方向転換。

 煙だらけの場所へ、砲撃を放つ。

 

 が、しかし。

 煙の払われた先にいた、煤だらけの沙良の三本の飛刃によって斬り刻まれた。

 

「良い一手でしたよ。……本当に、惜しかった」

 

 汚れているが無傷だった沙良の顔と首に爆炎が飛び散って、僅かながらに血が流れる。

 ただそれだけというには、彼女の澄まし顔は険しいものに変わっている。

 

 それもその筈だ。

 なにせその足元には、光線と爆炎を浴びすぎた結果真っ赤になって突き刺さる飛刃達があり、たった今全ての飛刀が使い物にならなくなったから。

 

 もう一度撃てていれば、本人に直接当たっていれば、少なくとも痛み分けという形になっていただろう。

 

「ち、くしょ……ぅ」

 

 無念の表情のまま、アキラは黒ずみとなった瓦の上の中心に落下した。

 そのまま動かないところをみて、沙良はムッと不満そうに眉を顰める。

 

「……打ち止め、ですか。せっかく楽しくなってきたところだったのに……仕方ありませんね」

 

 白無垢之剣を逆手から順手持ちに切り替えながら、処刑人はゆっくりと歩いてくる。

 

(これは駄目、これ、も駄目……!)

 

 創喚書を捲る、捲る。

 打開する為の手を見定める。

 

 ナタリアの妨害も、時亜からの邪魔も振り払い、アキラを助けられる一手はないか。

 一心不乱に頁を捲り、そしてやはり瞬間停止で手を止め、

 

《――それ、少し待ってくれ》

 

「えっ?」

 

 アキラからのストップに未来は目を丸くし、その直後に執行者の足は、アキラの目の前で止まる。

 死刑執行する為に、その剣を振り上げ、るのかと思えば何故か穢切の持つ腕を横に広げ――

 

 突如として飛来したそれを受け止めた。

 

「――不意を突いたつもりだったが、流石に無理か」

 

 その正体は、屋根から飛び降りた筈の黒の幻衛士である亮。

 斬り飛ばされた筈の腕は斬られたという形跡が見つからない程、しっかりとくっついている。

 

 さらに、その背中(うしろ)

 真っ白い一対の、天使を彷彿とさせる翼が、そこにはあった。

 

 恐らくは以前にもあった、亮の肉体が変化した時と同じモノ。

 これによる肉体変化は翼だけなのか、それからこれには後どのくらい種類があるのかと思わざるを得ない。

 

「当然。このくらいは児戯と言ってもいいくらいでしょう」

 

 一方、沙良は無理矢理に刀を振るい飛ばす。

 吹き飛ばされた亮は翼を羽ばたかせて姿勢制御を行い、体勢を整えて頭上に停止する。

 

 静寂する場。

 ようやく沙良は亮の背中にある翼へ目を配る。

 

「……しかし、随分と風変わりな『いめちぇん』ですね」

 

「ああ、これ。似合うか?」

 

「残念ながら、まったく」

 

「それは残念」

 

 等と言いつつも、亮はどこか嬉しそうであり、沙良はそれを訝む。

 表面上だけかもしれないが、張り詰めた空気に僅かながら穏やかなものが流れ込む。

 

 いや、そんなことよりも。

 

(紫苑さんは?)

 

 亮がここにいるのなら、必然的に拓海も近くにいるはず。

 未来は左右後ろと見渡し、その姿を探す。

 

「残念な言葉をくれたお礼に、ちょっとした親切を一つ。上から見下ろすばかりで、見上げることを知らないようだから」

 

 そこでふと、亮が語る。

 それはそれは面白そうに、ゆっくりと上を指し、

 

「頭上にはご注意を」

 

 その言葉に、未来はハッと目を見開いて、真上に目を向ける。

 すると、真っ暗な空に強烈な光が広がり始め――

 

 そして、絶句した。

 

「――う、そ」

 

 何を考えているのか、馬鹿なのか馬鹿だった、いくらなんでもそれはないだろう。

 と、今すぐにでも、考えうる限りの罵詈雑言をぶつけたい気持ちでいっぱいになる。

 

「……まあね。兄貴の事だし、幻衛士もいたし、助かってすぐ復帰するとは思ったけどさあ」

 

 頭上を見上げ、目を細めて目の当たりにした光景に、時亜は呆れたように呟く。

 

 恐らく今、二人の、この場にいる全員の心境は一致している。

 誰が見たって、同じ気持ちになるに違いないだろう。

 

「お空からダイナミックエントリーは、想像してなかったなあ……」

 

 だって、ただの人間であるはずの拓海が、空中遊泳を満喫していたのだから。

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