夢と現のクロスロード   作:佐月栄汰

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《あ、あー。二人とも、聴こえるか?》

 

「っ」

 

 呆然とその光景を観ていたその時、脳内に響き渡る声に拓海は思わず声を上げそうになるが、なんとか抑える。

 

(この声は、亮? なんで……いや、そうか。これが心話(しんわ)か)

 

 創喚書を媒体に、同じ創喚者や現界した幻衛士と、互いの心を創喚書へ供給されている力――神の力、神力と仮称しておく――で接続することで会話出来るという、機能の一つ。

 

(テレパシーのようなもの、と考えれば良いんだよな。だったら、会話の要領で言葉を思い浮かべれば……)

 

 朧げに、イメージする。

 自分の心と、亮の心と、それから恐らく真里華の心という目に見えないモノを線、糸か何かで結び繋ぐように。

 

《……えっと、聞こえてるけど、そっちはどうだ? こんな感じで、良いんだよな?》

 

《ええ、大丈夫。しっかり聴こえてるわ》

 

《オーケー、感度良好だな》

 

 そして言葉を送るように思えば、すぐに返事が返ってきて、拓海は密かにほっと息を吐く。

 

《さて、創喚者の御二方はお互い、話し合いが必要なようだが、それは一旦置いといてくれ。

 で、まず白の創喚者。アンタんとこの幻衛士はどうしてる?》

 

《……とっくに呼んでる。けど、ごめん。本当なら、戦いが始まる前には来てるはずだったんだけど》

 

《取り込み中、と。ならすぐにでもこちらへ来るよう催促してくれ。最悪、お客様をそのままお連れして来ても構わない、と一言も添えてな》

 

《……妙に臭い言い回しが気になるけど、まあ了解》

 

《それについてはオレの創喚者に文句言ってくれ》

 

「ぐっ」

 

 急に刺してくるのはやめてほしい。羞恥で死にたくなる。

 

《さて、早めに来てもらう事を願うとして、それまでは……創喚者》

 

《………………えっ、あっ、お、俺か?》

 

 呼ばれると思ってなかった拓海はビクッと驚きつつ、問い掛ける。

 

《そうだ。この状況を打開できるのはオレと、オレの創喚者であるアンタしかいないからな。だから少しでも手伝ってもらう》

 

《そんなこと言われたって……》

 

《大丈夫だ。ただアンタは、創喚者としての戦い方を、そのままこなせばそれで良い。基本的な事はその頭に刻まれてるんだ、それを頼りにすれば良い》

 

 彼の言う通り、確かに拓海の頭には、さっきまで知る由もなかったはずの情報が流し込まれている。

 自身の本を創喚書とした時点で創喚者は創喚書と接続。

 どこからか神力が供給されており、その時に創喚者認証も施され、同時に創喚や心話他の基本機能の説明が刻まれるらしい。

 

(前回の祭りで、基本的な情報すら良く理解されずに質問の嵐を受けたのが堪えたから、っていうまぬけな説明まで入れなくてもいいだろうに……)

 

 ともかく、確かに心話のようにしっかり全部頭に入っていれば、やってみてもよかったのだが……。

 

《その情報が穴だらけなのは、こっちでも把握してる。その情報量でももう少し知識入れればごくごく最低限の基本的なことは出来るはずだから言ってるんだ。

 大丈夫。こういうことを想定してかは知らんが、目次にあたる部分に武闘会の説明が書いてあるからそれを読んでくれ。具体的には二、三ページ目のスキルってところ。

 だからお願いしますすぐに援護してくれそろそろ流石にきつ》

 

「半端者の戦いってのはこんなモンかァ!? 口先だけじゃないところを見せてくれよ、オラァ!!」

 

「ッ――」《っ、てぇなァ!》

 

 後半早口気味に伝えられた言葉通り、少しずつ、少しずつだが亮がアキラに押され始めている。

 逸らすことに力を入れているようだが、それでも傷が増えている。むしろ良く保っている方なのかもしれない。

 

《戸惑いはあると思う。言いたいことだってお互いに沢山あると思う。けど今は、彼の言うとおりにやってみてほしい。棄権する気は、ないんでしょ?》

 

 と、引き継ぐように伝わる真里華の心話には、確信の声音があった。真里華自身も、諦める気はないと思わせる声。

 そして今ここで対抗できるのは、拓海達だけ。だからこその苦渋の提案なのだろう。

 

《……ああ、当たり前だ。真里華だって、この武闘会から手を引くつもり、ないんだろ?》

 

《……うん。私にも、願いがあるから》

 

 こんなことをしてまで、ほしいものがあるとは初耳だ。

 真里華を守るために創喚者となった拓海には、そんなものはないが、叶えたいっていう思いの熱は知っている。

 

(……そんなものを持つ権利なんて、俺にはもうないけど)

 

《拓海?》

 

《……なんでもない。それより、分かった。やってみる》

 

 唐突に湧き上がる、昏い思いを振り払うように創喚書を開き、亮の言っていたように二、三ページ目を開く。

 

「えっと、あいつが言ってたのは……これか」

 

 

――――

 

 能力―アシスト―

 創喚者が幻衛士達を支援するための機能。

 二種に別れている能力を使い分けることで、幻衛士達を有利にできる。

 描写が不十分だと能力が再現されず、不発かただの小さい光弾等、攻撃性の低いエネルギー体になることがある。

【〜〜】【発動(リリース)】【〜〜〜〜】

 

 異能―アビリティ―

 相手への攻撃系魔法などと言った援護やデバフなど、相手を邪魔する能力がこれに分類される。

 

 技能―スキル―

 幻衛士の身体を治す回復系、ステータスを上げるバフなど、自陣の補助を行う能力に分類される。

 

 ※宣言時の能力のカテゴリーを間違えると、不発するか出力が大幅下がってしまう為、注意。

 

――――

 

 

「……なるほど。確かに余計な横やりをいれるよりは確実か」

 

 説明書のその部分だけを拓海は読み切ると、次はとある単語を見つけるべくパラパラと捲り、三分の一くらいの辺りで手を止める。

 

(あそこまで不利な状況になっているのは単純にスペックの差が原因だ。なら、少しの間だけでもその差を縮めれば良い)

 

「【選択】【技能(スキル)】」

 

 そうしてなぞったのは、技能。

 指を払い、文字を空に。それは丸まるようにして魔方陣となる。

 

「【発動(リリース)】――【身体強化・Type.N】」

 

 そして宣言すると、文字は球体となって亮の元へと飛んでいき、到着と同時に亮は自身に振り下ろされようとする槍を無視して振り向き様にそれを斬る。

 すると真っ二つとなった球体は亮の体に吸い込まれ――叩きつけられた槍の先に、亮の姿はなかった。

 

「――!? グッ、ゥ!!?」

 

 驚くように黄玉の目を見開きながら、なにか感じ取ったのかアキラは咄嗟に振り向き、槍で守りの構えを取る。

 すると甲高い音が鳴り、そこには首へ白剣を振るっていた亮がいた。

 

 攻撃を防がれてしまったが、無理に槍を構えたのもあってか、先程との手応えの違いに一瞬、アキラは硬直している。

 その隙を見逃すわけもなく、亮は目の前の槍を余っている黒の剣で弾き返し、無防備となったその腹に蹴りを叩き込む。

 

 呻き声と共に低空で吹き飛んでいくアキラは、槍を地面に突き刺し体勢を建て直しつつ、亮を睨もうとして――遠くから突きつけられた黒い剣に目の見開いた。

 

 

 その黒剣の銘はカラドボルグ。

 ただ殺すためだけの剣にさせられた、カリバーンとは対をなす元聖剣(アーティファクト)

 この剣は元々黒かったわけではない。

 亮が持つ前の誰かが血を誤魔化すためにと作り直されてから、これは黒剣となり、聖剣でなくなった。

 

 この剣は元々捻れたような歪な形をしているのだが、剣であれば所有者の望む形へと変えられる特性を持っており、今もまた亮の望みに合わせて形状を変えられている。

 それはあらゆる距離でも殺せる剣。すなわち、

 

 

「……【弾丸】【装填】」

 

 ふと、口ずさむ。

 すると、亮が自前で持つ力の一つ・気が黒剣に流れ込み、ナニカを嵌め込んだような音がする。

 そして柄に不自然にある引き金を引き――

 

「――銃剣か!!」

 

発射(フォイア)!」

 

 切っ先にある銃口から、弾丸が吐き出された。

 

「チッ!」

 

 アキラはすぐに立ち上がり、雨あられのように迫る銃弾から逃走する。

 走り、跳び、体を捻り、四肢のいずれかを大きく動かして、可能な限り直撃を避ける。

 

 通り過ぎた弾は、身に付けている黒シャツとカーゴパンツ、腰に巻いているジャケットだけを裂く。

 構造上入らない筈の数の弾が、フルオートで撃ち出されているので、遅かれ早かれ当たるだろう。

 

 アキラもそう判断したのか足を止め、手に遊ばせていた大槍を円を描くように振り回し、盾とすることで襲いくる凶弾の嵐を弾き飛ばす。

 そこで亮の方もあちこち動き回ることで位置を変えるが、その度にアキラの槍盾もそこへ合わせて防ぐ。

 

《……さーて、創喚者。もう一つだけ、良いか?》

 

 その時、苦笑交じりの声が、拓海の頭に届く。

 

《……これ俺の手助け必要か? さっきと違って、こっちが優勢だろ》

 

《だがこれ以上攻めあぐねてる。なにせこれじゃ、決定打とはなりえないからな》

 

「えっ」

 

 思わず口から声が出て、慌てて口を噤む。

 

《勿論、現実の弾はともかく、神力で加工されたオレの弾丸なら、幻衛士(オレたち)の肉体も容易く貫くだろうさ》

 

《じゃあ、なんで……》

 

《単純な話、今のように避けられて、防がれるからだよ。仮に当たっても、防護魔法的な何かでダメージの軽減させてくるはず。オレ達基準で言えば、基本的に牽制にしかならないんだ》

 

《……つまり当てるなら高火力で攻めるしかない、と》

 

 その火力の見当も、物語で良く使っていたので付いている。

 でも、それも避けられればそれまで。

 

《そうだ。だから、もう一つ。頼む創喚者》

 

 そこで出番なのだと頼まれた拓海は、脳内プロットをチラッと探る。

 ……すぐ思い付くのは、一つだけ。

 せっかくだ、さっき読んだ部分で使ってない方をお試しがてらやってみるとしよう。

 

 そうしてページを捲り始めた時、弾雨が止む。

 最後の弾道を辿った先を見れば、やはり亮の姿はなく――

 

「見え透いてンだよ」

 

 カンッ! と音が鳴る。

 気がつけばアキラは槍の鍔辺りに持ち替え、真後ろにいた亮の振り下ろしていたであろう双剣を、長い柄で勢いよく弾いていた。

 そうすることで出来た隙を見逃すことなく、露になった脇腹へ振り向き様に銛を突くように、投げる要領で手を滑らせて突き出され――ここだ!

 

「【異能(アビリティ)】【発動】、【ファントムハンド】!」

 

「なっ――!?」

 

 突き出された槍に向かって、半透明の黒い腕が割り込む。

 腕はギリギリのところで槍の柄を握り止め、地面へと押さえつけた。

 

 拓海が能力で出したのは、名前通りの幻影の手。

 異能の発動で現れた小さな魔方陣の裏面に手を当てて、そこから飛び出し、伸びた手を操作しただけ。

 力もそこまで入っていないので、石突き部分まで下がった手を持ち替えられれば、すぐにでも振り払われてしまうだろう。

 

 

 でもこれで、隙ができた。

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