「ナイス!」
亮はその言葉だけを拓海に贈ると、少しアキラから距離を取り、再び銃口を向ける。
「【弾丸変換】」
一つ口ずさむと、カラドボルグの中で生成され続けていた弾丸が消失し、空きができる。
――亮がいる物語は、七つの種族が生まれた世界。
大まかに分けられたその種族分、国もある。
そしてそれらが絶え間なく戦争を繰り返し、それでも人は生きているという世界観なわけだが、それは置いておく。
それぞれの種族特有の特徴や特異性、能力が備わっているのだが、その中でもさらに特異性のあるものを
それぞれの容量は低いが、変わりに全ての種族が持つ力を持っていること、それが亮の特異者たる所以。
他にも理由はあるが、ともかく。
一見、強そうな特異性だが、問題の容量がかなりの少なさで、初級にあたる術でも数発撃てば枯渇する程。
他のアーティファクトで少しはマシになったが、それでも心許ない。
それでも持っているのなら、この力達を活用したい、その思いをカラドボルグは叶えたのだ。
「【魔弾】【装填】」
さらに唱えると、一瞬カラドボルグに光が灯る。
マガジンを嵌め込むような音がして、心なしか一回り切っ先の口径が広くなる。
選んだのは魔力。使っていたのは魔族。
人間に最も近い人外達が分類される種族が使う、二つの力の内の一つだ。
「【属性:炎】」
もう一つ呟くと、銃口から光が漏れ出す。
その光は熱気のように揺らめいていて、銃口周りの景色が歪んでみえている。
「
トリガーを引き、エネルギー弾が発射される。
ここでアキラはファントムハンドから脱しているが、既に遅い。
弾は間違いなくアキラに着弾し――
そこに、火炎が爆ぜた。
魔力から生成した弾丸の性質は、単発火力強化。
亮の物語にある魔法も、爆弾やレーザーといった火力に特化した形を取っており、その威力には何度も亮を苦しめ、助けられてきた。
いかにも消費が激しそうな魔力でも、どの力であってもカラドボルグから生成される弾丸は、エネルギー消費量が少ないので、正に亮に合わせた剣と言える。
そうして吐き出された弾丸は、常人では近くにいただけで木っ端微塵だ。
いかな幻衛士であれど、まともに受ければただでは済まない……!
「
引き金を引く度に爆発弾が放たれ、爆煙が上がる。
これで終わらせると言わんばかりに次々と撃ち出され、モクモクと膨れ上がる黒煙が、初撃目で吹き飛ばされた後のアキラを覆い隠す。
連なって発せられる直撃時の爆発音は、聞こえてくるはずのアキラの悲鳴を掻き消している。
計一〇発。
それだけ撃って指を離し、赤熱したカラドボルグを地面に突き刺した。
「っ、はあ……はあ……はあ…………」
流石に撃ちすぎたのか、息切れを引き起こしている。
気以外の力は、使い切っても命に別条はないとはいえ、体内エネルギーを一気に使えばこうもなる。
ゆっくりと呼吸しながら、ベルトに引っ掛けていた水筒を取り出し、熱を発していた刀身にぶっかけ、熱を冷ます。
「……ふう。助かったぜ創喚者。良い判断だった」
息を整えた亮は、立ち上る陽炎が水蒸気に変わるのを見ながら、称賛をくれる。
「……まあ、うん。役に立ててたようで良かった」
「何いってんだ、創喚者が居なかったら、そもそも土俵にも立ててなかったんだぞ。アンタはもっと自分を褒めてやるべきだ」
「……そっか。なら、そうしとく」
亮の褒め言葉を素直に淡々と受け取りながら、拓海は内心高揚していた。
思わず口角が上に上がる。
(……さっきの俺、今の戦いの中に入れてた。俺、こいつらと同じ世界にいたんだ!)
確かに、派手に戦うのは幻衛士のほうかもしれない。
だが、だからといって創喚者はこの祭りにおいて創喚するだけのおまけなわけではなく、同じ主役なのだと理解し、実感する。
「……とはいえ、まだ相手は倒れてないみたいだけどね」
と、自身の幻衛士と会話していたのか、ずっと隣で黙っていた真里華がそう言って、拓海の持つ創喚書へ目線を向ける。
「あ、そっか。そういや倒した印みたいなのがあるんだっけ」
創喚書の中心にある、埋め込んだグリモアの種の周囲には、いくつかの窪みが囲うように存在する。
もし誰かが脱落した場合、その人のグリモアの種の欠片のような宝石が、その凹に埋まるようになっているらしい。
「ああ、だから油断せず警戒を――」
「――なあんだ、もうバレたのか」
『!?』
突如、耳に響くように届いた声に驚き、振り返る。
二〇メートル先。爆煙が晴れ、草木が灰になった程度のその場所に、ボロボロになったアキラは立っていた。
額も手足も血と煤まみれ。
思っていたよりは元気そうだが、それでもダメージは大きいはず。
……なのに、なぜあんなにも余裕のある表情のままでいられるのだろう。
「いや、流石に今のは危なかったぜ。正直、他に手がなかったら間違いなく終わっていた」
「そのまま消えてくれても、オレは良かったんだけどな」
「そりゃ、残念だったな」
拓海が困惑する中、亮はさっきと同じようにアキラと軽口を叩きながら、冷ましていたカラドボルグを手に取り、顔を顰める。
仕方ないと言わんばかりに微かに息を吐くと、握っていた手を放すと、粒子となって消える。
「だが少なくとも、法螺吹きはここにいなかった事を証明出来たわけだ」
「創喚者の助力あっての結果だ、オレ一人じゃ、何もできずアンタを落胆させたままだったろうさ」
そう言い返しながら、なにやら亮はキョロキョロと見渡している。
何を探しているのかと拓海も周りをみる。特に何も変わりは……いや、待て。
(なんで今まで気付かなかった……!?)
「それでもあそこまでの展開に持っていけたのは、手前ェの采配あってのことだろ? 現時点での黒の創喚者は、そういう面でも期待できねェしな。
普通なら戦うことだけに集中したいところだろうに、素直に拍手だ。見習っていかねェと」
慌てて探し出す拓海を他所に、妙に敵を褒め称えるアキラは、そう言って此方へ目線を寄越す。
釣られるように亮も此方へ振り向き――目を見開いた。
「創喚者――!」「なあ、創喚者――?」
二人の呼ぶ声と共に、左裾を引っ張られる感覚。
振り向き、下を見る。
するとそこには、裾を右手で引っ張り、もう片手で地面に触れている、その両手に紋様らしきものを描いた未来がいた。
「【異能】【発動】、【
「――――っ!?」
次の瞬間、浮遊感と共に身体が石のように固まり、そのまま動かなくなる。
さらに触れていた地面に触れていた未来の手にあった紋様が消え、気付けば未来と共にアキラの真横に移動していた。
ゆらりと未来が下がり、穂先を拓海に向ける。
その切っ先にはなにやら空洞があり、そこへ光が集束し始めている。
――そこに、一人の兵士が疾走する。
《白の創喚者!》
走りながら、真里華へ心話で呼びかける亮の右手に、光が集まる。
うっすらと身体を纏うような感じからして、恐らく気。
人間が扱う気に、固定された技というのは存在しない。
あるとすれば肉体強化くらい。
故に個々の扱い方があり、完成度が高ければ、それは流派として別の人間に伝わる事がある。
と言っても、彼に流派を作れるだけの練度はないし、誰かのを真似るほど気の量もない。
だからこそ、少量でも火力を出せるカラドボルグは必需品なわけだが、それでも出来ることはある。
《悪いが、着地はそっちに任せるぞ!》
「ハ、ァア――――ッ!」
拓海に向かって、右手を殴るように突き出すと、突風のような衝撃波が拓海を吹き飛ばす。
かなりの勢い。しかし痛みはない。
練度が低く、量も少ないからこそ、気による波弾は単なる突風に成り下がる。
戦闘時は致命的だが、こういう時にはうってつけで、緊急救助する描写で使っていた。
おかげで難を逃れた拓海の体は、飛んだその先にいる真里華の元へと向かっていく。
「【
その時、真里華の詠唱が聞こえる。
そこにはさっきまでなかったはずの、人一人分包み込めるくらいのクッションがあった。
(あれって、大きいけど真里華が持ってきてたハンカチか? 詠唱内容から察するに、なるほど。能力って、現実にあるものにも作用してくれるのか。良いことが知れた)
ともかくこれで危機は脱した。
精神的疲労と寝不足も相まって、意識に少し靄がかかっているが、問題はない。
(なのに、なんでこんな不安なんだ)
亮が拓海を助け出す為に走ってくる時から感じているもの。
先程の興奮に水をかけられているような寒気。
それを消すために、状況を確認するために、亮の方へ目を向ける。
――その時だった、アキラの口角が上がるのを見たのは。
「マジで来やがった」
「しまっ――」
アキラの、未来の狙いは、その亮が無防備になるこの状態。
拓海に向けていた砲口は、既にその懐に向けられており、その穴に光が塞ぎ切っていた。
回避も、支援も間に合うはずもなく。
「お返しだ」
トリガーを引かれたのは、クッションに体が沈んだのと同時。
放たれた砲弾は花火のように爆ぜ、至近距離で受けた亮は、為す術もなく後ろに向かって弾け飛び――
「――――――――」
それは、かつての
「は――っ、は――っ、は――っ、――――」
息が乱れる。視覚が点滅し、ぼやけ始める。心臓が痛いくらいに早鐘を打つ。
胸を掴むように押さえる。当然ながら止められない。
ならば思考を止めようとしても、止められない。
それどころか鮮明となっていき、
――少年が、横断歩道の前で立っている。
その目の前には、いろんな音があった。
つんざく悲鳴、轟く怒声、鳴り響くサイレン。
集まってざわついて、果てはスマホを掲げて動画やら写真やらを撮るだけの人だかり。
それらが雑ざり合い、不協和音が頭の中で鳴り続けている。
うるさい、うるさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!
そう頭の中で怒鳴り叫んでも、小さくならないそれどころかドンドン音量が大きくなっていく。
頭が不快な爆音に支配されようとした時、足に冷たいナニカが触れる錯覚がきて――
――頭の中で鳴っていた音が全部消える。けれど意識は足の方へ向けていた。
液体。けれど何故かモノクロ。
広がっているその液体の元へと視線を辿ると、ソレはパッと色付く。
「――――――――ぁ」
するとそこにあった潰れた■■から、〝赤〟が広がっていて――
プツン、と。
次の瞬間、ブラウン管テレビの電源を消したように、拓海の意識は暗転した。