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「――――ッガ、ァ、グッ!?」
爆発を真っ向から受け、壁となっている木々に触れられるところまで吹き飛ばされた相坂亮は、跳ねるように地面に打ち付けられる。
節々が痛む体を無理矢理起こしながら、ドジッたと内心毒づく。
だが想定していたよりはダメージがない。
どうやらかけられていた身体強化が、防御膜の役を担ってくれたらしい。
それも、たった今力尽きたように消える。
(すぐに創喚者にかけ直して貰わないとな)
後は拾える距離に落としてあるカリバーンをすぐに取りに行けば、なんとか帳尻を合わせることが出来る。
よし、と意気込んで、顔を上げる。
するとそこには、大槍を振り上げるアキラの姿があった。
「ッッッ!?!?!?」
背筋が凍る光景に声のない悲鳴を上げながら、咄嗟に転がるように横へ跳び、その勢いのまま前転し、立ち上がる。
すると先程までいた場所に大槍が叩きつけられ、そこに小さなクレーターが出来上がる。
もし、すぐ顔を上げていなかったら……そう思うと、背中に噴き出す冷たい汗が止まらない。
「オ、ラアァ――――!」
「っ、クソ…………!」
安堵する暇も額の汗を拭う暇もなく、壮絶な笑みを浮かべながら振るうアキラの槍を避けながら、聖剣の元へ向かう。
避けて、避けて、避けて、そして辿り着くと同時に掴み、また迫りくる大槍を受け止め――その瞬間、アキラの方から熱気が漂ってきた。
「熱っ――!?」
その熱さに思わず声が上がる。幻衛士の身であっても、火傷しそうだと思うほど。
発生源は彼の持つ槍。しかし先程とは違って煙を噴いていた。
それだけではない。その刃は薄っすらと赤みを帯びていて、徐々にその色が、熱と共に濃くなってきている。
「アキラさん、
「ん? ……ああ、いけねェいけねェ、忘れてた」
戦闘に集中しすぎていたのか、未来の声掛けで槍の異常に気付いたらしいアキラは、鍔迫り合いながらおもむろに空いた手で傷口に触れ、掬い上げるように血を手に取る。
そしてたった一度、刃の身を撫でるように指に付けた血を塗るだけで、蒸発する音と共に熱が引いていった。
「なんだ、それは」
「別に、火力が保証されてる代わりに呪われてるだけの槍だ。変なのはそっちの黒いのも大差ねェ。まっ、あんまし使わねェから安心しな」
「そうかい。……しかし、解せないな。それだけの火力、能力を持っていながら、なんで今まで使ってこなかった。使っていれば、無駄に血を流すことなかったろ」
「創喚者の指示でな。動きや能力の大体のパターンを掴む為の様子見ついでに、あわよくば本格的に動く前に、ってな」
「なるほど、下地作りか。他にやり方があるだろうに、どうやら青の創喚者は、見た目に反して人使いが荒いらしい」
時間稼ぎも含んだ問答。
狙いとは裏腹に緩むことなく、むしろ増しているアキラの力に耐える。
しかしそれも、恐らく長くは保たない。
さっきまで穴を埋めていたものがなくなった事もあり、均衡が崩れるのも時間の問題だ。
「まあ、普段の様子を見てると、基本は無茶言わねェんだがな。そっちの創喚者の調子を見て、少し無茶すればもしかしたら油断してくれるんじゃねェか、って判断したんだろ」
「…………」
「……口の軽さは一級品ですね、アキラさん」
耳の痛い話をされて思わず黙ってしまっていると、端から見ていた未来が割り込んでくる。
「悪ィ、悪ィ。ま、創喚者をこれ以上待たせるのもあれだしな――そろそろ真面目にしようぜ」
「ッ!?」
その言葉を受けたアキラがそう言った瞬間、手にかかる負担が一気に増し、体ごと押され始める。
(もう、限界か……!?)
迎え撃つ為、内に眠る多くの力の中から選び、準備する。
だが、これでは足りない。そもそも出力が足りない。
なので穴埋めが必要なのだが、どういうことか。この期に及んで援護の一つも来ない。
《創喚者。この状況だ、そろそろ……創喚者?》
催促も兼ねて、心話を繋げるが、応答がない。……嫌な予感がする。
「――――拓海!?」
追い打ちをかけるように、真里華の悲鳴が響き渡る。
目を向けると、そこにはぐったりと倒れて意識のない拓海と、彼を支えて必死に呼びかける真里華の姿があった。
「……なんだかよく分かんねェが、勝負アリってところか」
「さあ、どうかな。まだまだこれから、分からないのが戦いだろ?」
「強がるな、手前だって分かってンだろ」
……彼の言うとおり、理性は既にどうしようもないと諦めていた。
個人的な視点から見ても、創喚者というアドバンテージは大きい。
コミュニケーションは必要だが、それだけで欲しい時に傍から、詠唱殆どなしに強力な支援をくれる。
しかもデメリットもない。そう考えるだけでも破格だ。
それが今、原因不明の失神状態にあり、相手の方は当然健在。
まあ、一瞬手の力が緩みそうになるのも仕方ないだろう。
それでもと、亮は聖剣を強く握り、目前の敵を睨む。
「頭では理解してる。けど、納得はいってない。だから抗わせてもらう。いつだって、そうしてきたからな」
「ま、そうだろうな」
そう言って、アキラは少し口角を上げる。
「なら味わうがいい。かつて呪いの子と言われた者達が振るう、その力。魔導師の象徴、魔導をなァ!」
そう吼えたアキラは、手に力を込めて剣を亮の体ごと弾き飛ばすと、熱の引いた槍――ルーンルインの刃に再び血を塗りたくる。
「【オレ式魔導の一番】! 【
すると血は一旦飛び散るようにして、すぐそれは言葉通り纏うように、紅く長い刃となる。
先程より五〇センチは長くなったルーンルインを、肘を後ろに構え、弾けるように跳躍!
アキラは亮の元へ跳び出し、力の入った声と共に突き出された!
「――――」
亮は目を見開き、タイミングを測ってそれを避ける。
間髪入れず、乱れ突く穂先。
逃げながら、当たりそうな攻撃だけを選別して回避する。
(……思った通り、無強化でも辛うじて此方の方が疾い。けど)
距離を離せる程じゃない。逃げ切るのには、連れる人が多い。
なら立ち向かうしかないわけだが、ほんの少し速いだけで他のスペックは、あちらが格段に上だ。
せめてもう一人、人手があれば……。
「考え事たァ余裕だなァッ!」
「【技能】【発動】【
その時、アキラの声と重なって、不穏な言葉が聞こえる。
その
聞こえた内容に亮は思考を切り替えると、目前のアキラは乱れ突きをやめ、打ち下ろす。
迫りくる大槍を、亮は先程のように弾こうとするが、
「ッ」
あまりの力の差に、それは叶わない。
せめてカリバーンを手放さないよう受け止め、その衝撃は、亮を一〇メートル先後ろにまで下がらせる。
受けた左腕は震え、響くような鈍痛が続いている。
そんな亮に構わず突っ込んでくるアキラは、槍を空いた横腹に向け、薙いでくる。
「、クッ!?」
咄嗟に剣を右手に持ち替え、左手で刀身を支えて防ぐ。
その重さに呻き、少し押されるもなんとか耐える。
さてどうしようかと、未だ力強くカリバーンを押さえつけるルーンルインを見回す。
その時、風が吹いて――目を見開いた。
だって赤い刃に触れたジャケットの裾、その部分だけが、たった今消えたのだから。
(
疑問を解消する間もなく、刃を捻るようにしてカリバーンのガード部分を引っ掛けられ、上に向かって弾かれる。
「ド、ゥラアァァ――――!!」
そうして無防備となった腹へ、アキラは肘を引き絞り、勢いよくルーンルインを突き立てる!
「ッ、――!」
このままでは風穴が空く――その思うと全身に怖気が走り、体が無意識に回避行動に入る。
致命傷は避けられたが少し遅く、触れた衣服を溶かしながら、脇腹にその刃が掠る。
ジュッ、と。
その時、嫌な音が体に響いた。
「ッ――く、ゥ――――!?!?」
焼ける、溶かされている。
熱はなく、しかしそう思わせる感覚と激痛が、亮を襲う。
あまりの痛みに耐えきれず、その場で膝を着く。
それを見過ごす敵はおらず、再度降り下ろされる槍をなんとかカリバーンを盾にして防ぐ。
全身に響く衝撃と痛み、軋む音がする程かかっている腕への負担に耐えながら、チラリと傷を見る。
そこはそれこそ熱で炙ったように爛れて溶けており、僅かに肉の間から骨が見え隠れしている。
「【ヒー、ル】……」
患部に意識を向け、種族・天使が扱う輝力をそこに送り、なんとか傷口だけは塞ぐ。
量も質も貧弱だが、応急処置としては十分だろう。
「凄え往生際の悪さだ! さっさとくたばった方が楽だろうによォ!」
「冗談、じゃない……ッ。せっかく、現界したんだ。何もしないで、死んで、たまるかよッ」
「なるほど、そいつは残念だった、なァッ!」
そう言って槍を下げ、無防備となっている腹を蹴り飛ばされる。
痛みに喘ぎながら、地面に転がり、その勢いを利用して立ち上がる。
「何故なら! 今からオレが、その想いごと手前を砕くッッ!」
そうしている間に、地面を蹴り上げ、迫るアキラ。
対して亮は軽く息を整えて、迎え撃つように構える。
(戦いそのものは既に負けている。それは良い、まだ生きている。だがどうする、どう立ち回る? どうすれば次に持ち越せる!?)
結論は出ないまま跳び出し、間合いに入る寸前のところで剣を振るい、既に振るわれている槍と打ち合おうとして、
目の前に、
『――――!?』
直後、雷鳴が轟き、雷が二人の間を割って入るように落ちる。
その衝撃は二人の体を間合いから引き離し、体勢を崩され動きが止まる。
すると落雷した場所に溢れる黒煙を掻き分け、ナニカが跳び出す。
向かう先にいたのはアキラ。
その速さは、まさに雷の如く。
音すら置き去りにして、それはアキラを捉える。
予想でもしていたのか、既にルーンルインを盾として構えており、突っ込んでくるナニカを受け止める。
「チッ、ィィ――!?」
しかし、雷のような速さが乗った質量に耐えきれず、そのまま押し出されたアキラは、瞬く間に奥に見える後ろの木壁の方まで吹き飛ばされていく。
「【
その時、風のように涼やかな女の声が聞こえる。
するとナニカからアキラへ燃える稲妻が撃ち出され、直撃。
そこに爆風とプラズマが、溢れ出すように広がった。
「アキラさん!?」
唐突かつ一瞬の出来事に、冷静だった未来も、流石に声を荒げてアキラを呼ぶ。
危機は脱した。
そのことに安堵するべきだろうが、あまりにいきなりだったので、亮も先に混乱というか、呆然が先にくる。
「――ふう。なんとか間に合った、かな」
早すぎて見えなかった、そのナニカから、先程の女の声が聞こえる。
声は肩の力を抜いて、こちらへ振り向く。
その正体は、眼を見張るほど美しい少女だった。
毛先が散らばらないよう白いリボンで、纏められたブロンドの長い髪。
爛然と輝く紅玉の瞳は真っすぐと亮を見据えている。
彼女の体を包む真里華達が着ているような紺色のブレザー、黒のスカートには、軍服を思わせるような装飾が施されており、ブレザーはスカートを前以外隠すくらい丈を伸ばしている。
黒いニーソを纏う長い脚や手の指貫グローブには、簡素なアーマーが施されており、動きを阻害しない程度に身を守っている。
そして左腕には、まるで短剣の鞘でも裏に重ねているような小盾。
右手には、ガードに四色の宝石を埋め込んだ細剣がある。
その刀身に黒いラインが彫られており、そこから溢れるように電流が迸っている。
十中八九、その細剣でアキラを吹き飛ばしたのだろう。
「貴方が、黒の幻衛士、で良いんだよね?」
「……っと。ああ、ご明察。黒の幻衛士、相坂亮だ。そういうアンタは、もしかして」
亮の回答に、彼女は「よかった」と言って、ホッと一息吐く。
「私は
彼女――来珂は柔らかな微笑みを浮かべてそう言った。