キヴォトスの二ッ岩は悪だくみの天才なんじゃよ 作:ぱる@鏡崎琴春夜
「すまないマミゾウ、遅くなった」
風紀委員長が来て四半刻、つまりは三十分程過ぎた頃、整っていた髪が跳ね、服の所々がほつれたマコトは、議長の為の執務机に座りながら言った。何故部屋に戻ってきて話しているのか? 談話室が今掃除中だからじゃよ。
「それは別にいいんじゃが……大丈夫か?」
楽園の素敵な暴力装置にボコボコにされた時を思い出すほどのボロ雑巾具合となったマコトだったが、本人は何事もなかったかのようにしている。
「気にするな、制服代と美容院代は風紀委員会に請求する。それより貴殿のことだ」
イロハの方に視線を送ると、いつものことですと言うような呆れた目をしていた。おそらくいつものことなのだろう。
「貴殿には、万魔殿の相談役になってもらいたい」
「は? 正気ですか?」
イロハが驚いた声を上げる。その反応が正しいことを示すように、周りにいる万魔殿の構成員たちも不安そうな顔をする。
「無論正気だ。家の方は私の家の部屋を提供しよう」
信じられないという目でイロハはマコトを見る。まぁ、それはそうだろう。今朝急に現れた素性の知れない者を、突然相談役に就任させるなんて正気の沙汰ではない。ましてや自分の家に住まわせるとまで言うのだから、それが普段のマコトを思えば別人に入れ替わっているとでも思われているのではないだろうか。
「私の判断を疑うのも分かるぞイロハ。だがな、私はマミゾウをどうしても手元に置いておきたい」
マコトは儂の力を見た。イロハは見ていない上に特に説明もされていない。これでは理解を得る方が難しいだろう。
「……先ほど、情報部から報告が上がってきました」
パサリと数枚の紙を束ねたものをイロハが差し出す。
「ゲヘナ学園内及び、キヴォトス入出者管理のデータにおいて、二ッ岩マミゾウという人物は存在しない。また、ゲヘナ学園領内の監視カメラ映像にも、対象と思われる人物は映っていない───とのことです。つまり、身分が無いどころか、存在自体が記録に無く、急に現れたような人物と言うことです」
ザワザワとざわめきだす万魔殿メンバー、口を挟まずにいるイブキも不安そうな顔をしてこちらを見ていた。
マコトはジトっとこちらを見た。どうして記録に残らないように入ってきたんだという問い詰めの雰囲気を感じる。だが、それについては何とも言えない。酒に酔って記憶が無いのだから。
いっそのこと見せてしまった方がいいだろうか。うん、そうしよう。わからせた方が早い。
「そうじゃな、皆ちとこっちを見ていてくれるか」
何人かメンバーは足りないが、この大多数が仲間に置いておきたいと思えば、数で押し切れるだろう。
ポンと白い煙で儂の体を包む。化ける相手は、とりあえず目に付いた事務作業中の平生徒にした。
「えっ」
「わっ、二人に増えちゃった!」
「なっ、わたし!?」
などなど、えとせとら。煙の向こうに居た儂を見て、各々が驚きの声を上げる。
「まだまだこんなもんじゃないぞ、ほれ!」
次はイブキに化ける。その次はイロハ、そのまた次は風紀委員長に。
儂の有用性と恐ろしさを教える。その目的において、この行為は恐ろしい効果を上げるだろう。
「わかりました、もう充分です。貴方を手元に置いておきたがる先輩の気持ちがよく分かりました」
何度か化けたあと、イロハに止められ、儂は普段の姿に戻る。
「記録が無い理由はこの能力とは無関係なことも知っておいてくれると助かるぞぃ。儂は気づいたら路地裏に居ただけじゃ、酔ってはいたがのぅ」
「……話す気は無いんですね」
「話せることが無いからの」
イロハが疑わしそうな目で儂を睨む。信じるか信じないかはお前さん次第と言ってやりたいが、これ以上煙に巻いているように感じさせると一生信用してくれなさそうに思えたので、マコトに頼むと視線を送る。
「───と言うわけだ、私も始めてみたときは驚いた。そして、これを逃してはならない。傍から逃がせば、我々は一生自分以外を信用できなくなる」
ゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。誰もが儂が敵に回った時を予想したのだろう。あんまり怖がられ過ぎると今度は、始末してしまおうという考えに傾きかねない。ここはひとつ誠実さを見せておこう。
「狸が恩に篤いように、儂も受けた恩はきちんと返す。さっきのを見て信用してくれとは言いにくいが……まぁ、なんじゃ、しばらくの間、先達の皆には世話になる。新参者じゃが、よろしくお頼み申す」
深く頭を下げる。今の儂は能力で誰かを脅して下につけれるほど基盤を持っていない。だから、脅威ではあるが仲良くはできる相手として振舞う。
佐渡の二ツ岩は、今、新たな居場所を持つに至った。
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なるはずなんです。