キヴォトスの二ッ岩は悪だくみの天才なんじゃよ 作:ぱる@鏡崎琴春夜
「あぁ、戻ったかマミゾウ。どうだった?」
「……なんじゃ、その。すごいな」
温泉開発部の部長を取り押さえて帰ってきた万魔殿で、マコトの質問に答える。
部活動として温泉を掘るのも驚きだし、その目的のためには大規模な破壊活動すら実行する見境のなさも驚きのことだと言っていいだろう。それと、キヴォトス人の頑丈さも特筆しておくべきだろう。
「イロハはどうした?」
「引き渡しに行っておる。儂は近くを通ったときに降ろされたんじゃ」
儂がそう答えると、マコトはそうかと短く返し、少し迷った表情を見せた。
「どうした? なにか儂に言いたいことがあるのか?」
「あぁ、その、朝は作ってもらっただろう? 夜はどこかへ食べに出かけないか? 私の奢りだ」
特に断る必要もない。洋食がメインとなるが、和食以外食べぬというわけでもなし、奢ってもらえるのならなおよろしい。儂は喜んで頷いた。
「しかし為政者じゃろ? 車とかは使わんのか?」
学園最寄りの駅から三つほど隣で列車を降り、駅前を歩く。通りにはキラキラとした看板が立ち並び、人も賑わいを見せていた。その雑踏の中で儂はマコトに質問した。
「キキッ、あぁ私は確かにゲヘナ学園、ゆくゆくはキヴォトスを統べる女だ。だが、だからこそ地に足をつけて歩まねばならない。もちろん必要なときは使うがな」
「ほほ、立派な王様じゃのぅ」
そのように話していると、マコトが足を止め、ここだと示した。見るとそれなりに繁盛していそうな大衆食堂。店内は犬猫や機械に紛れて数名の学生グループが見える。入口脇には商品見本が並べられており、ステーキやハンバーグ、ナポリタンのような洋食が美味しく見えるように照らされていた。まさに大衆向けといった感じである。店名は筆記体で書かれており読めないが、たぶんそれっぽいことが書いてあるのだろう。
マコトの案内した店は、悪くなさそうだと思う反面、意外でもあった。奢ってもらう側として少し図々しく聞こえるかもしれないが、もっと高級そうなところに連れていかれると思っていたのだ。
「どうした? 不満か?」
「いや、そうではないのじゃが……」
まさかもっと高そうなところに連れて行ってくれるものだと思っていたなどとは言えない。元の世界では見ないものだったから珍しくてなどと言い訳をしようとしたとき、マコトが動きを止めた。
「───悪いが店を変えよう」
店の中を見たマコトが急に顔を強張らせて言った。
いったい何がと尋ねる間もなく、扉が開かれた。
「あら、奇遇ですわね万魔殿の方とお会いするなんて」
さらさらとした白髪の少女、その後ろには赤毛の童女と金髪の少女、そして今度は長髪を二つ結びにした白髪の少女が続く。それは先ほど店内で見ていた学生グループの一つだった。
「キシシ、美食研究会、お前たち……何もしていないんだよな?」
「ふふふ、そうですね……食事は致しましたので、何もしてないとは言い難いですわ」
美食研究会とは何とも道楽的な集まりだが、それではマコトがここまで警戒する理由がわからない。恐らくリーダー格だと思われる先頭の白髪少女は、にこやかに返事をしていて危ないとは思えない。
「そうか、では私たちはこれから食事なんだ。失礼するぞ黒舘ハルナ」
マコトは早々に話を切り上げ店内に入ろうとする。だが、それを金髪の少女が止めた。
「残念ですけど、それはちょーっと難しいんじゃないでしょうか」
「どういうことだ、鰐渕アカリ」
「ふふっ、私、今日はお腹がすいていたので多めに注文したら、提供できる料理がなくなってしまったようでして」
そんな馬鹿なと店の中を覗くと、先ほどまで彼女らがいた席の近くに山々と積まれた食器を発見する。冗談の様だが、あの積まれる皿たちからして本当のことなのだろう。
「でも、まだ食べたりなくて……これから梯子をしようと思うのですが、ご一緒します?」
鰐渕アカリとマコトに呼ばれた少女は、ニコリと笑い提案する。
「ふむ、美食研究会と言っとるんじゃから美味い店知っておるんじゃろ?」
悪くないと思い、マコトの方を見ようとする。だが、そうする前にハルナの声が、そちらに意識を向けさせた。
「まぁ! 貴女も美食の探求の考えに理解を示していただけるのですね!」
「えっ、あぁ……美味いモノは誰だって好きじゃし、美味いモノ食いたいと思うのは自然のことじゃろ?」
なぁと同意を得るためにマコトを見ると、マコトは額に手を当てながら天を仰いでいた。
何故そのようなことをしているのか、儂は数時間後に理解することとなる。
「……お前たちには奢らないからな」
「あら、残念です」
「───そうですねぇ、大人数になりましたし、鍋物にしましょうか」
「お鍋!? いいね! 早く行こ! おっなっべ~♪」
「ちょっ、イズミ!」
「鍋……はちょっと遠慮したいかのぅ……」
私の頭に美食研究会は人格インストールできなかった。
でもできなかった方がよかったのかもしれない。
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