それは与えられた荷物を送り届けること。
その荷物は大切な人へ贈られる愛が籠った荷物。
愛の運び屋……キャリー・ローダーのまたの名は幸せを運んでくるピエロ。
僕の記憶に母親という記憶はない。
気が付いたときにはボロイ服を着て何もない廃れた町の道路にちょこんと座っていた。
そして僕は拾われた……キャリー・ローダーに。
そして僕は運ばれた……家に。
「合格おめでとう。ミサエル君」
そう言われ、金髪の女性から合格証書と書かれた大きな紙を手渡され、大きな青い色の帽子を被せられた。
「これであなたも今日から一人のキャリー・ローダーよ。頑張ってね」
キャリー・ローダー……それは荷物を運ぶことを任務とし、どんな場所にでも依頼された荷物を届ける。
たとえ地面から炎が噴き出している場所だろうが化け物が救う中に住んでいる人の家だろうが、
果てはこの世の地獄だろうが。
そして、この人の名前はアリス・ミエルさん。
キャリー・ローダーの本拠地であるホームと言われる場所の秘書をしている元ローダー。
「いや~まさか一発で合格するとはね。教育係の私も鼻が高いよ」
アリスさんの後ろにある机のそばに立っている白髪で灰色の服にも包んでいる人はローダーの頂点に立ち、
現役を引退した今はローダーたちの指導者兼組織の運営長をしているピアスンさん。
声に出しては言わないがローダーの教育をしてくれたのはこの人ではなくアリスさんだ。
あくまでこの人は外野でガヤガヤ言っていただけ。
「にしても……私の下について5年もたったのに伸びないわね。フフ」
含み笑いをしながら俺に向かってアリスさんがそう言うが確かに、言われてみればそうだ。
この前の身体測定で測ったときは164cmしかなく、15歳という年齢で見れば低い。
そんなことを思った直後、突然、さっきまで明るかった外が真っ暗になった。
「あぁ、もうこんな時間か」
ロスト・サン――――今から二百年ほど前に発生した超特殊自然災害。
太陽がほんの一瞬だけこの世界に降り注がなくなった……その瞬間に今まで人間が作り上げてきた電子機器はすべて原因不明のバグを起こし、壊れてしまった。
それによってこの二百年の間に人間は機械に頼らない世界へと後退したんだ。
今でも一日の12分の1に当たる時間、太陽の光は届かなくなってしまう。
「さて、こんな真っ暗な時間帯に申し訳ないが君に運んでもらいたいものがある」
そう言い、ピアスンさんは机の上に置いていた丁寧に包装されている箱を一つ僕に手渡し、
行先を書いたメモ用紙を帽子のつばに挟んだ。
「配達場所はガスダ地区・フユ。ここからなら1日もあれば着く」
「万一、ワームと遭遇した時は教えたとおりにするのよ」
「はい。じゃ、行ってきます」
二人にそう言い、ホームから出て僕はガスダ地区へと繋がっている橋に向かって歩き始めた。
ローダーの中には乗り物を使用して配達場所へ行く人もいるけどそれが許されているのは速達で配達しなければならない荷物を与えられた時や政府から与えられた荷物の時のみ。
あとは徒歩で向かわなければならない。
まあ、ガスダ地区はそう遠くない場所で何も問題が起こらなければ山を一つ越えればすぐに着く。
「まあ、何も起こらないということはないとは思うけど……けど」
山へ入ろうとした矢先、視界の端に何かが映り、歩を止めて見えたものの方を向くと山への入り口に一匹の老犬が尻尾すら動かさずに座っていた。
キャリー・ローダーの使命は何が何でも荷物を届けること……なんだけど。
「無視はできない。まったく、誰が捨てたやら……配達希望書だ」
配達希望書――――――読んで字のごとくローダー本部へと配達願いを出された荷物に挟まれる書類。
ということはこの犬は誰かが配達する予定の荷物……。
「出されたのは……滲んでよく見えないな。期限は……今日か……ガスダ区宛……ついでに行くか」
そう決め、犬のリードを持って引っ張ってみるが犬は全く動かなかった。
ジーッと見つめてくるその両の目を見ていると何故かは知らないけど僕に必死に運べと訴えているようにも見えなくはなかった。
別に運ぶのはいいんだけど……大型犬だし。
「……分かったよ。担いで運ぶよ」
そう犬に向かって言うとさっきまで硬い表情だった犬の表情が一瞬だけ和らいだように見えた。
「どっこいしょ……でかいくせに軽いね君」
思ったよりも軽い犬を担ぎ、僕は山道を駆け出した。
この山は人が頻繁にとおるから道がきれいにされているからこんな大きなものを担ぎながらでも、
安全に走ることができる……奴らが出てこなければの話だけど。
犬を担いで山道を走ることおよそ5厘(一厘=10分)、ようやくガスダ区へ繋がる橋が見える山頂付近にまで到達できた。
「ふぅ。ここを通ればもうガスダ区はすぐそこだ」
山頂からの道をかけようとしたその瞬間!
「うわっ!」
突然、前方の地面が盛り上がったかと思えば何かが飛び出し、地面に大きな穴をあけた。
「ワームっ!」
歴史上は二百年前に起きたロスト・サンの日以降に地上から出現したとされている肉食巨大生物・ワーム。
幼体は巨大なイモムシそのものだけど成長し、脱皮を繰り返すことによって生態となったときは、
凄まじい力を持つとされている。
目の前の個体はまだ、個体名すら持たない幼体……今の僕なら。
「ワン! ワン!」
「ど、どうしたの!?」
ワームの姿を見た瞬間、今まで全く吠えなかった大型犬が突然吠え出し、
今にも僕の背中から飛び降りてワームへ襲い掛かろうとせん勢いで暴れ始めた。
待てよ……そう言えば首輪についていた依頼書には宛先は書いていたけど充て主の名前は書いていなかったし、
本部の依頼受付印も押されていなかった……もしかして、この子の飼い主は。
「っと!」
その長い胴体を鞭のように撓らせ、振り下ろしてくるけど後ろへ大きく飛び下がり、
その一撃を避けた。
「悪いけど少し待ってて……君の代わりに僕があいつを倒すから」
そう言い、脇差に刺してある刀の持ち手に手を添え、目の前で暴れているワームへ視線を向けた。
「僕の荷物も、彼の大事なものも……奪わせない」
一歩も動かない僕めがけて僕の数十倍の大きさはある巨大なワームがその巨大な口で僕を飲み込もうと、
大きな口を開けて僕へ飛び込んでくる。
「受け継ぐ力は抜刀・第一閃」
巨大な口が僕に覆い被さろうとしたその瞬間、脇差から刀を今出せる最大の速度で引き抜き、
自分の真上にいる巨大なワームを口から真っ二つに切り裂くと左右に分かれた体が僕を避けるように地面にボトッと落ち、塵へと帰っていく。
抜いた刀を脇差に戻し、後ろで待っている犬の方を向こうとしたその時、真っ二つになり、
塵へと帰っている最中のワームの体内に鉄で出来た何かが見え、完全に塵になるまで待ってから、
その鉄で出来た何かを拾い上げるとそれはペンダントだった。
そうか……ワームが捕食してその溶液で溶かすことができるのは人間のみ……それ以外は体内に残るんだ。
開けてみるとそこには犬と一緒に笑みを浮かべて映っている少女の写真が収められていた。
「…………行こうか。君の故郷に」
そう言うと犬は自らの足で立ち上がり、歩き始めた。
「はい、ご苦労様」
「では、またのご利用。お待ちしております」
荷物を充て主に無事に送り届け、用紙に印鑑をもらい、僕の与えられた任務は完了した。
でも、この子の任務はまだ終わってないんだね。
僕の足元でお座りをしている犬は時折、辺りをキョロキョロと見渡したりしているけど、
その表情はどこか悲しげなものだった。
通り過ぎてゆく人にこの犬のことを尋ねてみても誰も知らないといい、去っていく。
「君の行きつく先はここなのかな」
「あら、グスタフじゃない」
そんな声が聞こえ、犬の方を見てみると畑から帰ったばかりなのか背中の籠に、
一杯の作物を入れたおばさんがしゃがみこんで犬の頭をなでていた。
「あの、この犬をご存じなんですか?」
「ええ。もう数先前(1先=1年)かしらね。ローダーにお使いを頼まれた女の子がいてね。
その子が飼っていた犬なのよ。もう、その子は食べられたっていう話だけどね」
やっぱり、この子の飼い主はさっきのワームに捕食されていたんだ……。
「あの、この子の飼い主の家、わかりますか?」
「ええ。そこをまっすぐ行ったところの角を曲がったところの赤い屋根のお家よ」
「ありがとうございます!」
おばさんにお礼を言い、リードを持って軽く駆け出し、言われたとおりにまっすぐ行ったところにある曲がり角を曲がり、まっすぐ続いている道を走っていくと赤い屋根の家が見えた。
その家を見た瞬間、犬は僕を追い越していき、家の扉の前で立ち止まると扉に前足をかけ、
必死にドアを叩き始めた。
「あの! 誰かいませんか!?」
僕もドアを叩くのに加わり、声をかけるとドアノブがガチャっと開かれ、ゆっくりとドアが開いた。
「はい、どちらさん」
「あ、あの。このワンちゃん、もしかして貴方の家の子では」
そう言い、犬を抱きかかえて見せた途端、眼鏡をかけたおばあちゃんが目をカッと見開き、
そのしわくちゃにしわが折りたたまれた両手で犬の顔を優しく手で包み込むと、
両目から大粒の涙を流し始めた。
「グスタフじゃないか……サマキと一緒に帰ってこなくなったから死んだと思っていたのに……よかった。
よく今まで生きていてくれたね。こんなに嬉しいことはないよ」
この犬……グスタフの行きつく先はこの家だったんだ……良かったね。
キャリー・ローダーの仕事。
それは与えられた荷物を送り届けること。
その荷物は大切な人へ贈られる愛が籠った荷物。
愛の運び屋……キャリー・ローダーのまたの名は幸せを運んでくるピエロ。
パパッと思いついたオリジナル作品です。それでは