あやかしランブル!~蒼澄カンナ伝:私の家がなんかデカい穴に呑み込まれてるんですけど……~   作:吾輩はもぐらである

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2章:師友
第十話:西賀亮班


西賀(さいが)(りょう)は陰陽寮が彼に割り当てられた執務室で、アヤノと仕事の話をしていた。

 

「その新人のカンナさんはいつから来るんですか?」

 

「週明けかな。今週中はまだ執務室には来ないと思うよ。まずは受け入れの事務手続き、次に人事の全職種共通研修、後は健康診断と適性検査で予定が埋まってるから。」

 

「分かりました。今いる式神の鍛えなおしも含めて、やり方を任せてもらえるなら引き受けますよ。」

 

「任せるよ。余計な口出しをする気は無いから。報告はアヤノが必要と思ったタイミングで構わない。」

 

イズナが予想した通り、アヤノは教育係を快諾してくれた。本人なりに色々と考えがあるらしい。

 

アヤノは西賀亮班には貴重な模範的な式神である。同世代の若手だが、優れた仕事ぶりを陰陽寮から表彰された経験もあるエリートである。仕事に厳しく、不愛想で物言いがきついので一見近寄りがたい印象だが、内面は誠実で面倒見が良い。班の大黒柱と言える人材だった。

 

(これで班の状況も立て直せるかな。)

 

西賀亮班というチームは深刻な機能不全に陥っている。

 

班の式神の数は既に自分の管理限界を超えている。しかし、これは他の陰陽師も似たり寄ったりである。陰陽師よりも式神の方がはるかに人数が多いため、人材を遊ばせないために1人の陰陽師が多数のアヤカシと式神契約を結ぶことが常態化しているためだ。

 

問題は1人分の仕事をこなせない式神が多すぎることだ。できる式神は自分の仕事とできない式神の尻拭いに追われ、できない式神を指導する余裕が無い。その結果、できない式神はいつまでもできないままなので現状が再生産されるという悪循環に陥っていた。

 

とはいえ、この手の問題はあらゆる組織に普遍的な問題だろう。だが、通常存在するのは「自分の仕事の5か6割しかこなせない一部のノロマを、10割をはるかに越える仕事をこなす優秀層がカバーして帳尻を合わせている」という程度の問題に過ぎないのではなかろうか。西賀亮班の問題はその程度に止まらないのだ。

 

まず、西賀亮班には1人分の仕事をこなせない式神がやけに多い。与えた仕事の5割も捌ける式神は西賀亮班では控えめに評しても中の上以上の人材であり、ノロマ扱いは不当評価と言える。なにせ、1割の仕事すらも拒否する常時サボタージュ闘争中の輩が片手では数えられないほどいるのだ。今だって、本来ならば部下であるメグと会議をしているはずの時間である。メグの勤務態度について(ネガティブな)フィードバックをすること、そして一緒に改善策を考えることが会議の目的と事前に伝えたはずなのだが、まさか欠席されるとは。しかも体調不良や急な身内の不幸といったまともな理由で欠席しているのではなく、ただ単に無断欠勤しているのである。大したタマだと逆に感心しそうになるが、こんな部下が他にも何人もいる。仕事の能力以前の問題である。

 

それに止まらず、西賀亮班の式神は不祥事も多い。ここで言う不祥事とは単なる業務上の過失に止まらなず、「陰陽寮の財産を意図的に破壊した」「公共の場で爆弾騒ぎを起こした」「一般人を本人の許可なく呪術の実験体にした」「危険な霊獣を封印するための物資を私利私欲のために盗み封印を解いてしまった」等の凶悪犯罪としか言えないものが多数含まれている。陰陽寮にはサスペンスや推理物の創作にたまに登場する「犯罪者だが、能力の高さを惜しまれ、厳重監視体制のもとで特殊な仕事に従事させられている登場人物」を地で行くアヤカシが所属していることは事実だが、その手のアヤカシの大半が自分の班に属しているのではと疑わずにいられない。そんな困った部下たちのせいで自分は始末書、顛末書、謝罪文の山に日々埋もれている。お陰様でベテランの陰陽師もあまり知らない始末書のワークフローに随分精通してしまったものだ。

 

自分が未だにストレスで心身を壊しもせず、絶望して仕事を放りだしもせず、怒り狂って部下を殺傷してもいないことが(やろうとしても返り討ちだろうが)奇跡としか思えない。自分を優秀だと思ったことは一度もないが、手の施しようがない部下を抱える悩みへのレジリエンスだけは誇って良いのかもしれない。自分に状況を変える能力が無いことは我ながら残念だが、若手の社会人に過ぎない自分にこんな状況を何とかさせるのは理不尽な無茶ぶりだと言いたくなるのは罪だろうか?

 

(任せたよ、アヤノ。)

 

始末書が山と積み上がり、モラルが砕けて砂と化した混沌の職場に秩序をもたらすのは並大抵の仕事ではないだろう。この仕事を任せられる部下は少ないが、アヤノがその内の1人なのは間違いない。

 

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