あやかしランブル!~蒼澄カンナ伝:私の家がなんかデカい穴に呑み込まれてるんですけど……~   作:吾輩はもぐらである

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第十一話:模範的職業人

翌週。いよいよカンナが西賀亮班の面々と対面する日がやってきた。

 

カンナは集合時間の10分前に待ち合わせ場所である陰陽寮の広場に到着した。陰陽寮はナクサの高台に広々とした敷地を持っており、広場は公園ほどの広さがある。当たり前だが、普通の街よりも頻繁にアヤカシとすれ違う。右も左もアヤカシだらけだ。広場を通る人々を眺めていると建物から西賀亮が出てくるのが見えた。若い女性を連れている。

 

「おはよう、カンナ。」

 

「おはようございます。西賀さん。」

 

「紹介するよ。こちら、カンナの新人教育を任せる式神のアヤノです。」

 

西賀亮が連れの女性を指し示す。新人には教育係が就くのか。随分と面倒見の良い職場だ。

 

「蒼澄カンナです。シジョウ出身です。シジョウを救うために式神になりました。要領の良さと体力とメンタルの強さには自信があるのでビシバシしごいてもらえるとありがたいです。よろしくお願いします。」

 

深々とお辞儀をして握手を求めるとアヤノも固い握手で返す。自分より小さい手だが、結構握力が強い。

 

「アヤノです。カンナさんの教育係を担当することになりました。よろしくお願いします。」

 

ぶっきらぼうな口調でアヤノが返す。

 

(アヤノさんはどういう人かな。)

 

シジョウ絡みの重要任務に就ける確率を上げるには班で頭角を現さなければならない。組織では無能より有能の方が意見や要望を通しやすいはずだ。アヤノが班の意思決定に影響力を持つ式神なら彼女からの評価は間違いなく重要になる。少しでも早くアヤノという人を把握したい。

 

アヤノはソバージュが入ったグレーのショートヘア、切れ長の釣り目にエメラルドグリーンの瞳、均整の取れたモデルのような体型が印象的な美人だった。仕事ができそうとか気が強そうといった印象が強い。彼女がお仕事ものの劇に出演する女優なら「ライバルを蹴落とす敏腕女社長」とか「無能な部下を切りまくって成果を上げる鬼上司」みたいな役がピッタリだろう。細身の身体に、子供の背丈ほどの刃渡りの包丁のような形状をした分厚い大剣を背負っている。

 

「寒いし、執務室に行こうか。歩きながら話そう。」

 

西賀亮の先導で歩き始める。高台にある陰陽寮は敷地内にも結構な起伏があるが、坂を登っても西賀亮もアヤノも身体の軸が全くブレていない。身体をバランスよく鍛えている証拠だ。

 

アヤノがこちらを見ている。

 

「カンナさんは……何のアヤカシですか?」

 

「分からないです。私は孤児院の出で、生みの親を知らないので。」

 

「そうなんですね。」

 

「アヤノさんは何のアヤカシですか?」

 

アヤノは外見はただのヒトである。

 

「私は般若のアヤカシです。般若のアヤカシを見たことはありますか?」

 

「ありません。怒ると霊術を使えるというのは聞いたことがありますが。」

 

「……おおざっぱに言うとそんな感じですね。互いの能力を把握するのは重要ですが、私の能力は口で説明するのが難しいので任務の場で見せます。」

 

「分かりました。早く任務に出たいです。」

 

西賀亮が補足する。

 

「陰陽寮には立派な式神を投票で選んで表彰する『模範的式神投票』っていうのがあるんだけどね。アヤノは前回の投票で全式神中一位になって陰陽寮から表彰されたんだよ。新人の最高の手本になると思ったから俺がカンナの教育係に任命しました。」

 

「すごいですね。」

 

カンナが抱いた第一印象は的外れではなかったらしい。しかし、彼女は若く見えるが、全式神中一位とはとんでもないエリートではないだろうか。彼女は西賀亮より少し背が低いはずだが、ほとばしる「できる女オーラ」のせいか、2人の身長は同じくらいに見える。彼女に認められるのが班で頭角をあらわす近道だろうが、逆に彼女に無能の烙印を押されれば一気に窮地に立たされるだろう。

 

(リスクはあるけどチャンスでもあるな。)

 

執務棟にある西賀亮班の執務室に着く。広々とした部屋にたくさんの長机が並べて置いてある。壁に並べられた棚には大量の書類や文具、それに見ただけでは何か分からない霊具らしきものが収納されている。普通の会社の事務職の職場といった感じだ。部屋は閑散としており、広さの割に空席が目立った。

 

アヤノは彼女の定位置と思われる整理整頓が行き届いた席に付き、隣にカンナを座らせる。

 

「カンナさん、私が教えられることは何でも教えるつもりです。」

 

「お願いします。シジョウを救うためならどんなことでもする覚悟です。」

 

「ウチの班は、というより今はどこの班もそうですが、とにかく人手が足りていません。カンナさんも知っているかもしれませんが、最近の世情もあってマガツヒが大量発生しているせいです。」

 

マガツヒは人間の負の感情から生じる超常の怪物である。マガツヒの発生する場所、数、タイミングを正確に予測することは陰陽寮1000年の歴史を以てしても困難だが、経験的に「これ」が起きるとマガツヒが必ず大量発生するという出来事がいくつか知られている。戦争、紛争、飢饉、経済恐慌、大規模な自然災害、そして疫病である。

 

今、大陸は自然災害と疫病に見舞われている。疫病とは約2ヵ月に大陸西部で発生した細菌性の感染症である潜毒のことである。自然災害とはつい3日前に発生した大陸南部の山岳地帯を震源とする地震である。周辺の人里では建物の倒壊や土砂滑りが相次ぎ、現地の人里は山奥にあることが多いため復旧にはかなり時間がかかる見込みと新聞に書かれていた。

 

「なので初日からバンバン仕事を振ってやりながら覚えてもらいます。そのつもりでいて下さい。」

 

「任せて下さい。1日でも早く仕事を覚えて班のみなさんに私を採って正解だったと証明してみせます。」

 

「……ぜひそうしてください。」

 

あまり西賀亮班の式神らしくない子だとアヤノは思った。彼女のやる気が口先だけでないことを願うばかりだ。

 

アヤノは自分が人にものを教える適正が高いとは別に思っていなかった。実務能力が優れている自信はあったが、他人に教えるというのは別種の能力だろう。アヤノが教育係を引き受けた理由は、誰かがやらなければならないことなのに他にやり手がいなかったから、ただそれだけだ。

 

とはいえ、貧乏くじを引かされたとは微塵も思っていない。

 

(私にとっても良い機会だ。)

 

班の現状はそれなりの時間をかけて醸成された悪しき構造である。改善は易々とは進まないだろう。だが、取り組む価値のある問題であることは間違いない。より重い責任を果たすこと、より意義のある仕事をすることこそが優れた職業人の証とアヤノは信じている。自分も一皮むける良い機会だし、少なくとも同僚の犯罪的不祥事の尻ぬぐいに比べればはるかにやりがいがある仕事なのは確実だろう。

 




本作の登場人物の内、原作の登場人物は以下になります。

・西賀亮班の式神として名前が出る人物全員(主人公は除く)
・安倍晴明(本作では名前のみの登場)
・葛の葉(陰陽寮のお偉いさん、本作では脇役)

作者が推してる原作のキャラクターはアヤノです。
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