あやかしランブル!~蒼澄カンナ伝:私の家がなんかデカい穴に呑み込まれてるんですけど……~   作:吾輩はもぐらである

17 / 67
第十七話:良い仕事

カンナが西賀亮の式神となり、ちょうど1ヵ月が経った。仕事にも慣れ始め、生活にも一定の秩序が生まれ出した。

 

午前5時起床。身支度を済ませて6時半までに陰陽寮の修練場に移動し、アヤノと一緒に鍛錬に汗を流す。鍛錬の後はたまにアヤノの髪を乾かし、髪型をセットしてやる。8時45分ごろ執務室へ移動し始業。アヤノから与えられた膨大な仕事に取り組み、20時までには終業。家事をして寝るまで鍛錬。これが内勤の日の基本的な1日の流れである。

 

「班では誰が、いつ、どこで、何の仕事をしているかをこの『業務分担表』に記載する決まりです。カンナさんも自分の仕事の計画と記録をこれに書いて下さい。」

 

業務分担表を一読するだけでも班の状況が色々と察せられる。

 

(人によって異様に仕事量に差があるな。アヤノさんと、他には河伯さんやクラマさんって人も他の式神の5倍は仕事してる。多分この人たちが班のエースなんだろうな。メグとかマシロって人はほとんど仕事してないな……怪我で療養でもしてるのかな?あと、エヴァ様とか善如龍王って人もいるけど、これは本名?『様』って何?それに善如龍王って、おとぎ話に出てくる龍の名前じゃん。)

 

『あらゆる組織には生産性が高い者が2割、中程度の者が6割、低い者が2割存在する』と主張する「二六二の法則」なるものがこの世にはあるらしいが、どうやら西賀亮班は法則に当てはまらない例外らしい。役割分担表から読み取れる情報から判断する限り、西賀亮班に働いているのは「一五四の法則」だろう。

 

(シジョウ絡みの重要任務に就くためにも、一日も早く上位1割に入らないと。早く仕事を覚えないとな。)

 

その時、業務分担表に見覚えのある名前を発見した。

 

(ヤツカさんとリクさんだ。西賀さんの式神だったんだ。)

 

同名の別人の可能性もあるが、カンナはヤツカ、リクという陰陽寮関係者を知っていた。2人はシジョウの惨劇の後に任務でシジョウに来ており、その際に面識を得たのだ。

 

(あの時会った人と一緒に仕事をする機会があるかもしれない。活躍しているところを見せないと。)

 

アヤノは新人だろうと容赦なく膨大な仕事を与える。質も早さも求められる。

 

「どんな仕事も必ず必要な品質を見定めて下さい。式神はマガツヒの戦いの合間を縫って内勤の仕事を片付けますから、全ての仕事で早さが求められます。品質不良も過剰品質も大問題です。余計な品質を作りこむ暇はありません。仕事を早くするコツはやらなくていいことは一切しないことです。」

 

黙々と馬車馬のように働く。勤務初月から西賀亮との契約で決まっている残業時間の上限に達する。

 

(まだまだ働けるな。もっと働いて仕事を覚えたいんだけど。)

 

陰陽寮における式神の人事査定は契約相手の陰陽師の評価でほぼ決まる。そしてアヤノから聞いたところによると、西賀亮の評価は実績主義、加点方式の性格が非常に強いらしい。多少問題があるやり方でも成果さえ出せば評価はあがる。

 

(シジョウ絡みの重要任務に就くためにも、死ぬほど働いて死ぬほど成果を出して評価をあげないと。)

 

班にはまだまだ自分ができる仕事が残っているはずなのに、歯がゆかった。

 

「カンナさんって月の残業時間の上限は60の契約ですか?」

 

「そうです。」

 

「もうすぐ上限ですよね?よくやってる方とは思いますが、私が与えた仕事量に対して残業が多すぎます。」

 

「すみません。」

 

「明日は普段の仕事はしなくて良いので、今月の仕事を振り返って、来月の残業時間を45時間以内に抑える作戦を立てて私に報告してください。来月の仕事は今月より2割ほど多い見込みなのでその前提で。」

 

「分かりました。あの、アヤノさんは私より残業してますよね?上限に達してないんですか?」

 

「私はカンナさんとは契約内容が違ってて、いわゆる裁量労働制なんです。成果さえ出せば好きな時に好きなだけ仕事をして良くて、勤務時間を報告する義務も無いんです。」

 

「私もそうできませんか?正直、残業時間の上限とか邪魔でしかないんですけど。」

 

「西賀さんに言えば、カンナさんなら許可してもらえると思いますが、お勧めはしないです。残業ありきで仕事を終わらせる癖がつくのは本当によくないので、最初は制限時間内により多くの仕事を片付けるやり方を身に着けることに専念した方がいいです。」

 

「そうします。アヤノさんから見て裁量労働制にして良いと思ったら教えてください。西賀さんに契約変更の相談をするので。」

 

「分かりました、覚えておきます。ただ、私は厳しいですよ。」

 

「分かってます。」

 

カンナが退社する。外はもう暗いが、アヤノの仕事はこれからだった。

 

(私がカンナさんを班の柱に育てないと。)

 

カンナには並の新人ではまずこなせないほどの仕事を任せている。任せた仕事の3割は次月持ち越しになるはずだったが、まさか月内に全て片付けるとは。

 

「スパルタですねぇ、アヤノさん。」

 

いつの間にか任務先から帰ってきていた同僚のリッカに声をかけられる。

 

「お疲れ様です、リッカさん。帰ってたんですね。」

 

「いい加減健康診断を受けろと人事から名指しで督促を受けまして。明日の午前に診断を受けて、午後からまた任務地に戻ります。ところで、背が高い美人さんとすれ違ったんですけど、誰ですか?」

 

「蒼澄カンナさんです。今月からウチに入った新人さんです。」

 

「まーた、西賀さんは変な子を拾って来たんですか?」

 

「カンナさんはめっちゃまともですし、仕事もできる子ですよ。」

 

「へぇー、アヤノさんがそこまで言うなんて珍しいですね。どれどれ、彼女の仕事ぶりはと……。う、う~ん?」

 

業務分担表でカンナの仕事量を把握したリッカが驚きの声をあげる。

 

「いくら何でも新人に仕事させすぎじゃないですか?」

 

「カンナさんはシジョウ出身なんです。シジョウ絡みの重要任務に絶対就きたいそうで。」

 

「ああ、それ。確かに新人がシジョウに行くのはよっぽど点を稼がないと無理ですもんね。」

 

「式神の仕事ぶりに投票で順位付けして表彰するやつ、あるじゃないですか。」

 

「模範的式神投票でしたっけ?前回アヤノさんが最優秀賞になったやつですよね?」

 

「それです。カンナさんにはあれで表彰台に立ってもらうつもりです。」

 

「新人で表彰台!?前代未聞じゃないですか?」

 

「そうですが、大きな仕事の機会さえあればカンナさんなら狙えると思います。」

 

「期待の新人なんですね。それにしても、アヤノさんがそこまで後輩の育成に熱心とは思いませんでしたよ。」

 

「別に……私もそろそろ人を育てられるようになった方が良いと思っただけです。」

 

言いながら、本当にそれだけかと自問自答する。

 

カンナは腕っぷしと頭脳に優れ、プロ意識も高い。西賀亮班にはかなり珍しいタイプの式神である。西賀亮班にはプロ意識以前の常識やモラルに欠ける者が異様に多く、もはや問題児の競技会会場と化している。

 

そういう意味で、カンナは必ずしも育て甲斐があるタイプではない。最初から能力が高く、要領も良いので、仕事を与えまくるだけで勝手に吸収して伸びるのだ。他のポンコツを手取り足取り面倒を見てやった方がやり甲斐を得られるかもしれない。

 

だが、それでもカンナを育てる事には並々ならない情熱を感じていた。

 

(なんだかんだ、私もカンナさんの才能とひた向きに惹かれてて、目をかけてるんだな。)

 

アヤノにとって、優れた職業人とは、より重い責任を持ち、より意義のある仕事を果たす者である。自分が指導した後輩が望みを叶え、シジョウ救済という大仕事で重要な役割を担う。その傍らには自分もいる。そんな光景を少し想像してみる。

 

(……いいな。)

 

今日も夜遅くまでの残業が確定しているが、なかなかいい気分だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。