あやかしランブル!~蒼澄カンナ伝:私の家がなんかデカい穴に呑み込まれてるんですけど……~   作:吾輩はもぐらである

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第二十九話:シジョウの惨劇

「……」

 

シジョウに戻ったカンナは久しぶりの故郷の様子に絶句する。

 

民家、商業施設、役所。ほとんどの建物のガラスが割られている。そして、木製のもの、布には歯形に似た痕跡が無数に見られる。

 

たまにガラスが割れた建物から防疫マスクを着用した人が出てくる。担架に白い布で覆った「何か」を乗せて。

 

(遺体だ。)

 

臭いと、運ぶ者が放つやるせない雰囲気でそう察せられる。遺体の回収をしているのだ。

 

完全武装の警官数名と大きな横断幕を持った数名のペアが街を練り歩いている。警官はこれ見よがしに銃を携帯し、一様に緊張している。

 

『陰陽寮関係者 自警団 医療消防関係者 衛生局職員以外の外出厳禁』

 

『マガツヒ出現 姿見せるな 大声出すな 見つかる』

 

横断幕にはそう書かれている。

 

カンナがいるのは南区。新聞では東区、西区と共に比較的被害が少なかったとされている行政区だが、それがこの様である。

 

(北区や中央区はどうなっているんだろう……。)

 

鳥肌が立った。もしかするとカンナの想像を超える壊滅的な被害を受けているのではないか。

 

(外出厳禁ということは、私も見つかるとマズいのか。自警団は例外みたいだから本当に入団した方が良さそう。)

 

運良く「自警団」の腕章を付けた男が通りかかる。

 

「そこの自警団の方、すみません。入団を希望しているんですけど。」

 

「危険だけど、分かってる?」

 

「私はアヤカシです。ここに来る途中も街の外でマガツヒと戦ってきました。」

 

「犯罪者とは?」

 

「はい?」

 

「犯罪者とは戦える?今、警官が全然いなくてね。ものすごく犯罪が増えてるの。南区はまだマシだけど、時間の問題じゃないかな。」

 

「……マガツヒを倒せるんですから、犯罪者にも負けませんよ。」

 

どうやら事態はかなり悪いらしい。

 

「お姉さん、年齢は?自警団は未成年は入れない決まりなの。」

 

「二十二歳です。」

 

本当は十七歳だが嘘をつく。カンナは大人のような見た目をしているので、多少サバを読んでも堂々としていればまずバレない。

 

「身分証があれば良いのですが、北区の自宅に置いてきてしまいました。」

 

「ご自宅は北区ね。ご愁傷様です。はい、入団おめでとう。自警団の腕章をあげるから、これを着けてまずは自警団の詰め所がある南区区民会館に行って、指示を貰ってください。アヤカシなら多分中央区に行くよう言われるけど、本当に危険だからね。怖かったら他の区にしてくれって、はっきりと断るんだよ。南区の代表は優しい人だから、多分聞いてくれるよ。いいかい、自分の命を最優先に考えるのは、何にも間違ったことじゃないからね。」

 

「ありがとうございます。あの、今朝まで他所の街にいたんですが、北区と中央区はどうなっていますか?」

 

「中央区はね、もう無法地帯よ。街中でマガツヒと陰陽寮の人らがドンパチやってるし、マガツヒが出ないところでは犯罪者と警察がドンパチしてて、大勢死んでるよ。北区はね、もはやマガツヒの巣よ。犯罪者すらいないって。陰陽寮の人も近づけなくて苦労してるって。」

 

「ありがとうございます。よく分かりました。詰め所に向かいますので、この辺で。」

 

腕章を着け、焦燥感による吐き気をこらえながら区民会館へ走る。

 

『ご自宅は北区ね。ご愁傷様です。』

 

『中央区はね、もう無法地帯よ。』

 

『北区はね、もはやマガツヒの巣よ。』

 

「嘘だ!」と怒鳴り返してやりたかったが、反論できる材料が何一つ無かった。

 

その時、頭に残る男の不吉な発言を押しのけて、嫌な気配を感じる。

 

(マガツヒの気配だ。商店街の方から。)

 

南区で一番大きな商店街へと続く大通り。マガツヒの気配はその先から漂ってくる。もうそこまでマガツヒの侵攻を許しているのだろうか。

 

商店街に着く。普段は人通りの絶えないアーケードは無人で、代わりに暗紫色の靄でできた人型のマガツヒが二十体ほどいる。こちらに気付いている様子は無く、たどたどしい足取りであてどなくアーケードを徘徊している。

 

「あーん!!」

 

その時、商店街のどこかから赤ん坊の泣き声が聞こえた。

 

「■■■■■■–––!!」

 

マガツヒが一斉に蠢く。靄とした人型がたちまちに人間の姿となり、手の先端を刃のように尖らせ、泣き声がする方へ一斉に走り出す。

 

(こいつら、街の外で戦ったやつか!)

 

後を追う。

 

靄のマガツヒの群れは一軒の精肉店に殺到し、刃の先端でシャッターを破壊しようとしている。精肉店の二階は民家。中から二人の赤ん坊の泣き声が聞こえる。

 

「うわーん!!」

 

「えーん!!」

 

マガツヒがシャッターを叩く音に怯えているのか、赤ん坊の泣き声は大きくなるばかりだ。泣き声に混じって、赤ん坊を必死で宥める年老いた男女の声も聞こえてくる。

 

「おい!こっちに来い!」

 

叫んで注意を引く。狙い通り、マガツヒの標的がカンナに変わる。狂喜の笑みを向けながら一斉に突っ込んでくる。

 

「そこの方、助太刀します!」

 

突如、若い女性の声が響く。次の瞬間、巨大な火の玉が飛来し、靄のマガツヒをまとめて吹き飛ばす。助っ人だ。

 

「乱入失礼しました。私はリク。陰陽寮の関係者です。」

 

助っ人は獣人系の若い女性のアヤカシ。キリッとした精悍な顔立ちをしている。動きやすそうなシンプルな服装だが、膝に獣の意匠の装飾、足の甲に弾丸を射出する特殊機構がついた派手なロングブーツが目をひく。二の腕にはヤツカと同じ陰陽寮の腕章をつけている。

 

「ありがとうございます、リクさん。ついさっき自警団になったばかりの蒼澄カンナというものです。シジョウの住民です。」

 

「そうでしたか。この度は大変な目に遭われたことを心より同情申し上げます。赤ん坊の声を聞いて駆け付けたのですが……。」

 

「すぐそこのお肉屋さんの二階です。」

 

「分かりました。……なるほど、赤ん坊とご年配の方のにおいがしますね。すみません、少し仕事の連絡をするのでお待ちを。」

 

そういいながらリクは懐から符を取り出し、霊力を流し込んで話しかけ始める。

 

「業務連絡。私は陰陽寮ナクサ本部から派遣されたリクという者です。南区第一商店街中央通り、南側の入口付近にある『花丸精肉店』という店の二階に赤ん坊が二人と、ご年配の男女が居ます。私は移動中なのですぐに誰か回して下さい。」

 

「お疲れ、リクさん。こちらは陰陽寮ナクサ本部から派遣されている南山田です。全部で四人ってことね?ウチの式神が行くから五分待って。」

 

符から男性の声が応答する。本で読んだことがあるが、陰陽寮が遠隔地との意思疎通に用いる「通信用の符」と呼ばれる霊具に違いない。

 

「失礼しました。蒼澄さんは自警団に入られたばかりということは、南区の区民会館へ向かわれていますね?」

 

「そうです。リクさんはどちらへ?」

 

「私は南区で避難所に使う校舎の警護を任されているので、南区へ向かいます。私は南区区民会館の方から来ました。道中のマガツヒは粗方倒したはずですが、急いで移動中でしたので打ち漏らしがいるはずです。気を付けて下さい。さきほどのマガツヒは人間の声、姿を頼りに獲物を探知すると考えられます。ご注意を。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ここは私に任せて下さって結構です。」

 

移動を再開する。道や壁に、リクがつけたと思われる壁や地面を抉った跡がある。戦いの痕跡だ。

 

(こんな市街地にもマガツヒが出たのか。)

 

南区区民会館まであと少しというところで、誰かの悲鳴が聞こえる。

 

(今度は何?)

 

人気のない住宅密集地。一体のマガツヒが数人の男性を追い回している。

 

(鬼のマガツヒだ。)

 

「鬼のマガツヒ」は、その名の通り鬼のような角を生やした巨躯のマガツヒである。類似の個体が大陸各地で発見されている。カンナのような一般人が「マガツヒ」と聞けば、鬼のマガツヒの姿を連想することが多い。

 

(今なら不意打ちできるな。)

 

跳躍して民家の屋根に飛び乗り、屋根や建物の突起を伝って鬼のマガツヒに接近する。鬼のマガツヒは男たちの背を追うのに夢中でこちらに気付いていない。屋根から跳躍して飛び掛かり、人間なら頸椎がある部分に渾身の飛び膝蹴りをお見舞いする。更に勢いそのままに、角を掴んで強引に引きずり倒す。

 

「■■■■■■––!!」

 

(くそっ、これじゃ死なないのか。)

 

首を完全にへし折ったが、鬼のマガツヒは怒号をあげて平然と立ち上がる。マガツヒには生物の常識が通用しないことも多い。脳や心臓を破壊されても動き続けたり、同類のマガツヒでも急所の位置が全然違ったり、そもそも急所が無いマガツヒも存在するらしい。

 

(どうしよう。)

 

カンナはマガツヒに精通しているわけではない。義務教育や趣味の読書で身に着けた一般教養程度の知識を持つのみである。マガツヒを見てもぱっと倒し方がわかるわけではない。

 

(動けなくなるまで身体を壊すしかないか。)

 

鬼のマガツヒが振り下ろした長さ二メートルはあろうかという棍棒を紙一重で回避する。棍棒を握る指の骨を折り、棍棒を奪い取り、マガツヒの全身を徹底的に殴打する。棍棒がマガツヒの顎を強打すると、マガツヒが怯んで顔を両手で覆い、後ろ飛びで距離をとる。

 

(もしかして、弱点は顔なのか。)

 

遠投は大の得意だ。こちらを睨む鬼のマガツヒの顔。その中心を目掛け、槍投げのようなフォームで棍棒を投げつける。

 

「––––!!」

 

ぐちゃっと嫌な音、見事命中。顔面が吹き飛ぶ。鬼のマガツヒは瘴気の霧となって消えた。

 

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