あやかしランブル!~蒼澄カンナ伝:私の家がなんかデカい穴に呑み込まれてるんですけど……~ 作:吾輩はもぐらである
翌日。2つ目の狩場である山林のマガツヒを問題無く全滅させる。
「蒼澄さん、お疲れ。」
初日の狩場より楽だった。狩場は事前に中央区の部隊の偵察要員が難易度を見積もっており、厳しい狩場から順にあたるので、後になるほど楽なのだ。
央元以外の班も、順調に掃討を進めているらしい。
(この調子で終わるといいけど。)
いつ致命的なトラブルが起きるか分からない中学校から1日でも早く他所へ移りたくて、気が急いて仕方がない。
早めに中学校へ戻る。今日は野中、獅子堂、田井中と部下2人が備蓄の運搬に出ている。避難所の中心的人物が居なくて状況が心配だった。
「おかえり、蒼澄さん。野中さんたちとすれ違わなかった?」
安心院が心配そうな口調で話しかけてくる。
「どうかされましたか?」
「いつもより早く出たからもう戻ってもおかしくない時間なの。それなのに戻らないから心配で。」
結局、運搬組は予定から1時間遅れで帰って来た。だが様子が変だ。何も持って帰ってきていない。
「5人組に撃たれました。」
田井中が深刻な表情で説明する。
運搬組は5人組の襲撃を警戒しながら備蓄倉庫へ向かったが、やはり道中5人組に出くわした。5人組は最初から武器を構えており、制止する間もなく銃を乱射した。
「野中さんは生きてるけど、田井中さんの部下は……。」
野中は左肩、部下2名は太ももと腹部を撃たれた。獅子堂と田井中がなんとか3人を担いで逃げたが、部下2名は既に息を引き取っている。
「あああっ!」
血だらけの野中を見て真中と赤音が悲痛な叫びをあげる。
「真中さん、落ち着きなさい!動揺は周りへ悪影響ですよ。」
野中が真中をなだめる。強靭な精神力で普段通りの落ち着きを保っているが、顔色は悪く、脂汗を流している。
「す、すみません。」
真中が手当を開始するが、動揺で手際が悪い。赤音は泣きだしてしまった。
(マズいぞ、これは。)
中学校を支える面々がいきなり大量脱落。それだけでなく、2日続けて備蓄を運搬できなかった。避難所には今日の物資しか残されていない。
「大丈夫かよ。その5人組につけられてねぇだろうな。」
話を聞きつけやってきた大中が騒ぎ出す。もっともな懸念だ。5人組が最初に中学校の避難民と会った時、避難民がどこから来たのか強い興味を持ったらしい。
(どこにいるか分かればこっちから攻めれるのに。)
マガツヒが狩場へ誘導されている分、5人組が潜伏できる場所も増えているはずだ。中央区を闇雲に探すのは現実的ではない。運搬中に襲ってくるのを返り討ちにするのが最も効率的だろう。
「春樹、作戦を練り直そう。」
「そうだな。俺らも運搬に参加しないとまずいが、避難所の警備も心配だ。獅子堂さん、田井中さん、安心院さんにも作戦会議に入ってもらおう。蒼澄さん、悪いが呼んできてくれ。」
「はい。」
上の階へ向かう。みんなは3階にいることが多い。
(そういえば。)
ふと、疑問が浮かぶ。
(何で5人組は襲ってくるんだろう。)
運搬組を襲ったところで大した物は持っていない。それに、備蓄倉庫にはまだ物資があるはずだ。
最初に田井中が見つかる。部下2人を亡くして意気消沈しているが、作戦会議のことを話すと目に光が戻った。
「確かに、今すぐ動かないといけませんね。動揺で頭が働いていませんでした、いや、お恥ずかしい。」
安心院と獅子堂は廊下で話し込んでいる。央元によると、安心院と獅子堂は公民館にいる時から良い雰囲気らしい。
(赤音––)
その時気付いた。ここに来るまで1度も赤音を見かけていない。田井中とも一緒にいなかった。
「安心院さん、獅子堂さん。あの、赤音を見かけませんでしたか?」
「ん?俺は見てないな。」
「私も。」
「……今後の話があるので職員室へ来てもらえますか?あと、私は少し遅れると伝えて下さい。」
3階の教室を片っ端からのぞくが赤音はいない。その時、顔面蒼白の東が駆け寄ってくる。
「蒼澄さん、気になることが。」
嫌な予感がする。
「あのね、授乳室の窓から外を見ていたら学校の外に変な人影が見え––きゃっ!」
校内に「バン」と大きな音が響く。一階の方からだ。
「今のは……。」
「その人影、多分公民館を襲った暴徒です。」
「えっ。」
「人が多い教室に隠れて、早く!」
東を見届けず、窓から1階の中庭に飛び降りる。その間にも数回「バン」という音が響いた。
(なんで気付かなかったんだろう。)
武装した男5人。物資はある。警察も行政も崩壊した中央区。マガツヒの完全包囲を受ける極限状況のストレス。
(狙いは女の人だ。)
【こういう時私みたいな子はすぐ強盗や強姦魔に襲われるって本で読んだことある】
赤音がノートに書いた言葉を思い出し鳥肌が立つ。
廊下で見知らない男が獅子堂と安心院に銃を突きつけている。
「動くな。指示に従えば殺しはしない。」
「暴徒です!皆さん、周りの人に伝えて、1ヵ所に集まって!」
安心院は構わず叫び、懐から取り出した防犯ブザーを鳴らす。
「動くなって言っただろ!」
暴徒が銃を撃つが––
「うおおおおぉぉぉ!」
獅子堂が身体で安心院を庇う。
「どけぇ!」
複数の銃弾を受けて獅子堂が倒れる。暴徒が追い打ちをかける前に、安心院とカンナが同時に暴徒を殴って意識を奪う。
「獅子堂さん、安心院さん、大丈夫ですか?」
「私は大丈夫。蒼澄さん、暴徒はあと4人。少なくとも3人は銃を所持してる。」
「俺もまだ動ける!この男は俺たちに任せて、行ってくれ。」
「分かりました。」
先へ進むと、物置から女の叫び声がする。
(真中さんだ!)
慌てて中に飛び込む。男が仰向けの真中にのしかかり、猛烈な勢いで服を剝ぎとっている。真中はピクリとも動かない。
男がこちらに振り向く前に手刀で首を叩き意識を奪う。だが、男の顔を見てカンナは驚愕した。
「おっ、大中さん!?」
真中を襲っていた男は大中だった。
(なんで……?)
驚愕のあまり数秒硬直する。だが、真中が先ほどからぐったりして動かないことに気付き、現実に押し戻される。
「真中さん、大丈夫ですか?」
まさか撃たれたのだろうか。しかし彼女は後頭部にたんこぶが出来ているものの、身体には傷一つない。
ふと、真中の顔から強い薬品臭がすることに気付く。更に、床には湿ったガーゼ。ガーゼからも同じ臭いがする。
(薬で眠らされてるんだ。)
真中は生きている。呼吸し、心臓が動いている。しかし、このまま放置して大丈夫なのだろうか。真中は恐らく薬を嗅いで一瞬で失神している。自分は何ともないが、かなり強力な薬を嗅がされたはずだ。
(私が考えても分かるはずがない。動こう。野中さんに見せないと。)
真中を抱き上げ、ひとまず野中の元に運ぶことにする。
(その前に。)
なぜか大中が所持していた倉庫の鍵を使い、大中を倉庫に閉じ込める。物置にあったペンで倉庫の扉にでかでかと『暴徒監禁中 開けるな』と書く。
真中を担いで野中が居るはずの保健室の扉を開ける。だが、そこは既に修羅場である。
「あっ––」
血だらけの野中が床に倒れている。4人の暴徒が央元、杉、田井中に銃口を向け奥の壁際に追いつめている。3人とも遠目にもわかるほど打撲跡だらけでぐったり座り込んでいる。
「何だ!?」
暴徒が一斉にこちらを振り返る。慌てて真中を身体でかばうが––
「待て、撃つな!女だ!」
暴徒の1人が他を制止した。他の者より大きな銃を持つその大男の顔に見覚えがあった。
「
見間違えようがない。カンナの親を爆殺した紅馨その人である。
「あっ、蒼澄!?何でお前がここにいる?竹崎はお前がここに居るなんて言ってなかったぞ!」
「何であなたがここに?」
頭がパンクしそうだ。数秒ほど押し黙った挙句––
「竹崎って誰?」
割とどうでもいい質問をしてしまう。
「あ?竹崎はここに住んでるんだろ?」
「若、竹崎は今『大中』って偽名を使ってるんですよ。」
紅馨の隣にいた力士体型の猫又の大男が小声で告げる。この男にも見覚えがある。
(こいつ、私が紅連会の本部を襲った時にいたやつだ。)
何が何だかわけが分からない。確かなのは大中が竹崎で、暴徒たちと何らかの繋がりがあることくらいだ。
(落ち着け、蒼澄カンナ。今はこの場を切り抜けること以外は考えるな。)
今すぐ4人を攻撃すると他の者が撃たれる可能性がある。それだけは避けなくてはならない。
その時、杉と目があう。気絶しているように見えるが演技のようだ。指の腹で床を叩き、目で何かを訴えている。
(そうだ、杉さんの壁があれば他の人を銃から守れる。)
ぬりかべのアヤカシには一目でそうとわかる身体的特徴が無い。恐らく暴徒は杉がぬりかべのアヤカシとは知らないはずだ。
(杉さんが壁を出す隙を作る。)
手のひらを自分の膝に2度軽くあてる。杉が壁を生み出す時の所作を真似たつもりだが、伝わったらしい。杉が小さくウインクする。
(作戦決定。)
「お前ら、この女はアヤカシだからうかつに近づくな。銃は効かない。」
「えっ、マジですか……。」
銃が効かないと聞いて猫又以外の2人が怯んだ。
「何であなたがここに居るんですか?終身刑って新聞で読んだんですけど。」
「ああ、そうだよ。あの日、お前が呼んだ警察がどさくさ紛れに本部を調べやがって、見られたらまずいものを色々見られたよ。お陰でみんなムショにぶち込まれて、会長は壁の中で亡くなられ、会も自然消滅したさ。」
紅連会のその後については新聞で把握していたので知っている。問題なのは紅馨がなぜここにいるかだ。
「例の笑い女とかいうマガツヒが街を破壊するついでに刑務所の壁をぶっ壊してくれてな。こいつらと一緒に看守をなぶり殺しにして、武器を奪って大脱出したわけよ。」
紅馨はおしゃべり好きな性格なのだろう。紅連会の本部を襲った時もよくしゃべっていた。恨みも因縁も深い自分が会話を持ちかければ乗ってくると踏んだが、予想通りだ。
「なんでここに来たんですか?」
「竹崎と組んだんだよ。あいつは空き巣の常習犯で、前にムショで知り合った。脱獄後に街中で竹崎を見かけたんで声をかけたら『中学校に避難してる』っていうから場所を教えさせたのよ。」
「来た理由は?まさか私ですか?」
「違う。お前がいるとは思ってなかったって。ここに来た理由なんて、女に決まってるだろ。ムショでは女日照りだし、中央区は滅茶苦茶で娼館もやってねぇ。脱獄した後は逃げ遅れた女をやってたが、最近女をマガツヒに殺されたんだよ。ここには何人か若い女を攫いにきただけのつもりだったが、お前が居るなら話は別だ。」
紅馨がにやにやと嫌らしい笑みを浮かべ出す。
「なあ、蒼澄ぃ。俺はお前に再会できたことを喜んでるんだぜ?お前、あの日は散々可愛がってくれたよな?お前に味あわされた痛み、忘れてないからな。」
「そうですか。私は紅さんのことを忘れていました。思い出したくもなかったですけど。」
「黙れ!」
紅馨が眉間に青筋を立てて怒鳴り散らす。短気で挑発に乗りやすい性格は変わらないようだ。
「若、挑発に乗らないでください。何か企んでるのかもしれません。」
猫又の大男が紅馨を諫めるのを見て内心ヒヤッとする。
(黙れよ、殺すぞ!)
会話を長引かせて隙を生みたいカンナとしては、紅馨に会話を打ち切られるのは嬉しくない。
(とにかく何か話し続けないと––)
その時、保健室の扉が開いた。
「おい、蒼澄!俺を殴って物置に閉じ込めたのはお前か!」
大中こと、竹崎だった。
(どうやって物置から出て––そうか、こいつ空き巣なのか。物置の鍵くらいなら開けられるのか。)
「なんだ竹崎、お前やられたのかよ。」
紅馨が軽薄な笑みを浮かべる。
「女をやろうとしてたら急にぶん殴られたんですよ。」
「女って?」
「こいつです。」
竹崎が真中を指さす。
「この女、俺を目の敵にしやがって。授乳室の傍を通るなとか、厠はあっちを使えとか、ごちゃごちゃうるさかったんですよ。いつか絶対にやってやろうと思ってたら一人で物置に入って行ったんで、つい。」
「攫ってからでいいだろ!どんだけやりたいんだよ!」
紅馨と取り巻きが笑いだす。隙が出来たかと期待するが、猫又の大男だけは冷静な面持ちで周囲を警戒している。
(あの男をどうにかしないと。)
猫又の大男は自分の攻撃がカンナに通じないことを知っている。戦いになればまず央元、杉、田井中を人質にとる可能性が高い。猫又の瞬発力が相手では阻止するのは至難の技だ。
「蒼澄、そいつ渡せ。」
竹崎がカンナが抱えている真中に手を伸ばす。
「触るな。」
反射的に蹴り飛ばしてしまった。竹崎が吹っ飛び、壁に背中を打ち付けられる。
「蒼澄ぃ!そいつに女を渡せ!」
紅馨が怒鳴る。
「竹崎、その女やってもいいぞ。」
「本当ですか?」
竹崎が狂気の笑みを浮かべる。
「だが待て。その前に、避難所に他に女はいるか?あまり多くても扱いに困るからな、蒼澄と真中とあともう1人くらいがちょうどいい。それと、人質に使うから蒼澄のダチがいたら教えろ。」
「安心院って警官の女がいます。女のくせにリーダー面しててうざいですが、多分紅さんの好みです。あと、蒼澄の人質なら赤音ってガキが使えます。いつも蒼澄にべったりなやつです。もう、天使みたいに可愛いです。職員室にいたんで、外から鍵かけて閉じ込めておきました。」
「1人貸してやる。今すぐ2人をここに連れてこい。」
竹崎が紅馨の取り巻きの1人と一緒に保健室を出ていく。
「何をするつもりですか?」
「言っただろ、俺たちの目的は女だって。目的のブツを品定めしてさっさと出ていくんだよ。」
「何を考えてるんですか?逃げ場なんてあるわけないのに。」
「アホか。紅連会が無くなった時点で俺たちに帰る場所なんか無いんだよ。俺たちの最期はマガツヒに殺されるか、また警察に捕まって死ぬまでムショ暮らしするかのどっちかだ。まあ、悪党の最期なんてそんなもんさ。ウジウジしてても仕方ねぇし、それまでは徹底的に遊んでいくんだよ。」
「本物のクズですね、あなた。マガツヒ以下ですよ。」
「せいぜい今のうちにほざいてろ。お前が本部で暴れた日に俺が言ったことを覚えてるか?輪姦する、爪と歯を金槌で砕く、家畜の糞を食わせる、死体は刻んでドブにまき散らす。あの言葉を実現する機会が思いがけず訪れたな、蒼澄ぃ?家畜の糞は手に入らなさそうだが、今なら住民の死体が手に入る。腹いっぱい食わせてやるから楽しみにしておけ。」
しばらくして竹崎たちが安心院と赤音を連れて戻ってくる。安心院は抵抗したのか顔に酷いあざがある。
「野中先生……!」
赤音が床に倒れた野中を見て卒倒する。安心院が慌てて赤音の体を支えるが、紅馨の取り巻きに「勝手に動くな!」と殴られ、赤音と一緒に倒れこんだ。
「おい、あまり顔を殴るな。」
「すみません。」
「竹崎、そいつらが安心院と赤音か?」
「はい。」
「へぇ、いいじゃん。確かに安心院は結構好みだわ。こいつ、警官なんだよな?たっぷり可愛がってやる。」
紅馨がニヤニヤ笑う。
「よし、出発する前に景気づけの余興だ!お前ら、そこでぶっ倒れてる真中ってやつを犯せ。」
猫又の大男以外が獣のような笑みを浮かべる。
「やめろ!」
安心院が止めようとして更に暴行を受け、気を失う。
「蒼澄、分かってるよな?黙って見てろよ。」
紅馨が銃を壁際で倒れている3人に向ける。
「紅さん、こっちを先にやっちゃっていいですか?」
竹崎が嬉しくてたまらないという顔で赤音の方を指さす。
「お前、女の趣味が悪いな!こんな痩せっぽっちのガキが好みなのか?」
「いいじゃないですか、こういう状況なんだし。」
(竹崎、ホントこいつは……。)
隙を見逃さないよう、安心院が殴られても動かずにいたが、そろそろ怒りが臨界点を突破しそうだ。そんなカンナに紅馨は悪意に満ちた笑みを向ける。
「蒼澄。ガキを助けたいなら1つだけ手があるぜ。」
「何ですか?」
「お前がここにいる男全員相手するんだよ。この場だけでなく、ここを出た後も奴隷のように俺たちの言いなりになるんだ。ナニをしゃぶれと言われたら俺たちが小便をしている最中でもしゃぶれ。やらせろと言われたら一日中でも股をおっぴろげて俺達を楽しませろ。お前が俺たちの相手をしてる間は他の女に手を出さないでやるよ。なあ、お前らもそうだろ?」
「はい!」
暴徒たちが邪悪な笑みを浮かべる。
(救いようがないな、こいつら。)
淀みなく吐き出される暴言の嵐。さらけ出される野蛮な欲望。だが、猫又の大男だけは相変わらず冷静さを失わない。
「蒼澄ぃ!今この場で俺たちのおもちゃになるか、それともそのガキがおもちゃにされるのを黙って眺めるか、3秒以内に決めろ!決めなきゃまずはガキからだ!」
「分かりました、分かりました。言う通りにするので赤音ちゃんには手を出さないで下さい。」
カンナが両手をあげて降参の意を示すと、紅馨が満足げな笑みを浮かべる。
「お前ら、俺がこいつで遊んでる間、周りのやつらに銃を突きつけてろ。ちゃんとお前らにも回してやるから安心しろ。」
「早くしてくださいよ、紅さん!」
紅馨と取り巻きの興奮振りは相当なものだが、その中でも竹崎のはしゃぎ方は群を抜いている。顔を真っ赤に紅潮させ、口の端から涎を垂らし、かくかくと腰を振っている。大人の男がここまで見苦しく興奮しているのを見るのは初めてだ。
(こいつ……人として終わってるな。)
竹崎が視界に入るだけでこちらの目が腐れ落ちそうだ。
「まずは俺のナニをしゃぶってもらうとするか。」
紅馨は待ちきれないという様子でカンナを見つめている。だが、カンナは猫又の大男の方に意識を集中していた。
(馬鹿が。これで自然に紅馨と猫又に近づける。)
絶好の機会だ。
「分かりました。」
紅馨と竹崎は必死の形相でカンナを視姦している。取り巻きは紅馨の背後に立ち、壁際の3人に銃を向けている。みな、これからの出来事への期待に目を血走らせている。
「ふぅ。」
軽く深呼吸して、紅馨にゆっくりと歩み寄る。
体内を巡る霊力の流れに集中する。さらさらと身体の隅々まで循環する霊力の流れが豪雨の後の川のように勢いを増し、身体という枠に押し込められて荒れ狂う濁流の渦となる様子を想像する。想像の世界では、既にカンナの拳が暴徒たちの邪悪な欲望を顔面諸共打ち砕いている。数えきれないほどのマガツヒをこの手で仕留めてきた自分が、性欲と嗜虐心で頭が一杯の愚かな猿に敗北することなどあり得ない。
(発鬼。)
心の中で唱えるのと同時に、霊術を発動する。全身に力が満ち、感覚が鋭敏になり、周囲の状況が克明に把握できるようになる。杉が緊張した様子でタイミングを伺っている。安心院、真中、赤音は意識が戻っていない。暴徒たちの悍ましい暴言を聞かずに済むからかえって幸運だ。
「服はどうすればいいですか?」
「あほか!今からお前は犯されるんだよ!全裸に決まってるだろ!」
「わかりましたよ、いちいち怒鳴らないでください。じゃあ脱ぎますね。」
長ズボンを脱ぐ。下半身は下着と黒のレギンス1枚。男たちが歓声をあげる。
次に上着を脱ぐ。上半身は黒のタンクトップ1枚。カンナの身体のラインを見て男たちがさきほどよりも大きな掛け声をあげる。竹崎に至っては「早くやらせろ!」と半狂乱だ。
(よし。)
猫又の大男もこちらに見とれている。所詮、紅馨のようなクズの取り巻きをやっている男だ。肝心なところで頭が足りていない。
(舐めた真似をしたことを後悔させてやる。)
もう1度杉と目を合わせ、脱いだ着物を手のひらでぽんぽんと叩いて合図する。杉がこくりと小さく頷く。
(さてと。)
上着の内ポケット。親からの最後の誕生日プレゼントの万年筆。
(おじいちゃん、お父さん。見てて。)
意を決する。杉が手のひらを床につけると、足元からごく僅かに振動し始める。杉の目論みを把握し、発鬼で感覚が研ぎ澄まされているカンナだけが感知できるほどの微妙な揺れ。杉の壁が生成され始めたのだ。
(今だ。)
万年筆を握って半分にへし折り、上着越しに指弾の要領で射出する。
「あっ?」
猫又の大男が銃を取り落とす。暴徒たちはなぜ彼が銃を落とすのか分からず呆けた顔をしている。数秒後、猫又の大男の目に折れた万年筆が深々と突き立てられていることに誰かが気付いた。
「撃––」
紅馨が命じる前に杉の壁が床を突き破って現れ、カンナと暴徒たちを包囲する。1人が構わず撃ったが、跳弾で自分自身を傷つけるに終わる。
狭い壁の中での戦いは一方的だった。半ば諦めた表情で立ち向かってきた猫又の大男を一撃で殴り倒す。紅馨以外は即座に銃を捨て降伏の意を示したが、構うことなく制裁を加え、眼孔に深々と指を突っ込む。
(クズが、私の肌を見てタダで済むと思うなよ。)
泣き叫ぶ暴徒の股間に蹴りをいれて失神させる。
竹崎が必死の形相で叫ぶ。
「痛いのは止めてぇ!」
その表情からは恐怖と自己憐憫の情しか感じられない。
(こいつ、ヤバいな。)
恐れ知らずのカンナの背筋に紛れもない恐怖で震えが走り、反射的に殴って失神させてしまう。
「あ……蒼澄てめぇ!」
絶体絶命の紅馨が至近距離で銃を乱射するが、当然カンナはダメージを受けない。壁際に追いつめ、手首の骨を握り砕いて銃を奪う。
「あっ……ああっー!」
「無駄な抵抗は辞めて下さい。」
「ざけんなよ、クソ蒼澄!お前だ、お前のせいだ!お前が紅連会を潰したせいで俺はお先真っ暗だ!今に見てろよ!お前の家族、恋人、友人、そいつら全員––」
紅馨にはもはや耳障りな悪態をつくことしかできない。
(もう一度、力の差を思い知らせておくか。)
銃身を咥え、残丸を全て発射する。
「えっ?」
紅馨がきょとんとして黙りこくる。カンナの口内にはかすり傷すらつかない。不可視の鎧は口腔内も守れるのだ。
弾丸を紅馨の顔に吐きかける。
「わっ!」
紅馨が避けようとして後頭部を壁に打ち付ける。
「さっき私になんて言ってましたっけ?」
「……」
「ナニをしゃぶれとか言ってましたよね?ほら、やってあげますから、ズボンと下着を脱いで下さい。」
銃身を奥歯で噛みしめ、ぺしゃんこに凹ませて見せる。紅馨は睨み返すばかりで何も言わない。目から戦意が消えている。
(雑魚が。)
目突きと金的蹴りを喰らわせると、紅馨は泡をふいて失神し倒れる。
(ここで殺しておくか。)
頭部を踏み潰そうとした時––
「わん!」
どこからか響く犬の鳴き声。
(ガウガウ!?)
驚き、周りを見渡すが、もちろん周りに犬などいない。空耳だ。
(そうか、勝ったんだ。もういいんだ。)
深呼吸して落ち着き、服とズボンを履いて囲いから出る。
「終わりました。」
文字数9000はヤバい