あやかしランブル!~蒼澄カンナ伝:私の家がなんかデカい穴に呑み込まれてるんですけど……~   作:吾輩はもぐらである

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第四十九話:不意打ち

リンと2人、獣骨のマガツヒに何度も襲われながら東へ走る。

 

「キキキッ!」

 

「バゥッ!」

 

獣骨のマガツヒは木の上、建物の影、川の中からすら湧いてくる。犬型が多いが、猫、馬、豚、牛、羊型も混じっている。

 

「バルルッ!」

 

一体がリンの首元目掛けて飛びかかるが、カウンターの裏拳で頭蓋を砕かれ返り討ちに。獣骨のマガツヒは一体一体はさほど強くないが、俊敏で、気配を察知しづらい厄介な特性の持ち主である。

 

「リッカたちが心配だから急ぐよ!」

 

リンは息を荒げ、声に焦りと苛立ちが滲んでいる。

 

戦闘中に通信用の符が破損することはままある。だが、5人で行動中なら1人を央元への状況連絡に回せるし、そうするはずだ。そうしないということは、つまり––

 

(報告に人を割けないような問題が起きてるんだ。)

 

庁舎までの道のりを半分ほど過ぎたところで、不意に庁舎の方から真っ赤な閃光が走る。1回だけではない。2回、3回と断続的に続く。

 

「リン、あれ何かわかる?」

 

「紅葉だ!紅葉が戦ってる!」

 

「良かった。全滅してたわけじゃないんだね。」

 

「うん。でも、戦ってるってことはマガツヒに襲われ――!カンナ、避け––」

 

前を走っていたリンが急に視界から消える。

 

「っ!」

 

反射的に飛び退く。カンナが先ほどまで立っていた場所に赤くぶよぶよした細い触手の束がべちゃっと叩きつけられる。

 

「リン!」

 

触手に攫われたリンを追う。

 

「––っ!」

 

リンが鉤爪で触手を引き裂いて脱出するが、触手が一斉にその背を襲う。

 

「っああ!」

 

リンの乱舞が大量の触手を一気に切り刻む。着地の隙を狙って川からひと際太い一本の触手がこちらへ伸びてくる。

 

「下がって。」

 

リンを庇うように立ち塞がり、触手をがっちり受け止めてホールドする。その瞬間強大なマガツヒの気配を感じる。

 

「リン、こいつ大物だよ!名前付き並!」

 

「川から引き上げられる!?」

 

「やってみる!」

 

触手の力は強くずるずると水際へ引きずり込まれていく。

 

(こいつと水中戦は勝ち目無いな。)

 

その時、何かと不意に目が合う。

 

(え?)

 

よく見ると触手の至る所から生えた血走った目玉がこちらを凝視している。生理的嫌悪感を掻き立てられる光景だが––

 

「リン、目を潰して!」

 

リンが鉤爪で目を潰しまくると––

 

「ギュオオオォォォ!」

 

苦痛にまみれた耳障りな悲鳴。抵抗が弱まったところを一気に引き上げると、触手の主が川から姿を現す。

 

「ギュルル……」

 

そのマガツヒは赤黒い肉を幾重にも積み重なって融合したかのような歪んだ球状の身体を持つ。身体の中心にぽっかり空いた真っ黒な口から大量の細い触手を伸ばして獲物を探し、下部についた2本の太く目玉だらけの触手で鈍重に這いまわる。

 

「バルルッ!」

 

下部の触手の間は穴があいているらしく、そこから獣骨のマガツヒを産み落としている。

 

「こいつは私が倒す。カンナは庁舎に向かって。」

 

リンが鉤爪を太い触手ごと地面に突き刺し、触手のマガツヒを陸に縛り付ける。

 

「こいつ、強いよ。2人でやった方が確実じゃない?」

 

「ダメ。庁舎の方、さっきから赤い閃光が見えない。紅葉に何かあったかもしれないからカンナは急いで。」

 

「ギュアアアアァァァッ!」

 

「行って!」

 

「待ってるから!」

 

触手のマガツヒをリンに任せて走る。

 

(焦ってるな。)

 

状況が掴めないせいで、ついネガティブな想像が膨らんでしまう。川に引きずり込まれるリンの姿、大量のマガツヒに押しつぶされる鬼一法眼、獣骨のマガツヒに喰い荒らされるアヤノたち――

 

(余計なことは考えるな……他人の心配なんて脳の無駄遣いだ。今は自分の役目だけ考えろ。)

 

一瞬、ほんの一瞬だがカンナは焦りを消すために精神を集中した。その隙を狙うものが居た――地面の下に。

 

「■■■■■■––!!」

 

「うわっ!」

 

地面を突き破って現れたのは天牛(カミキリムシ)を連想させる4m近い虫型のマガツヒ。表皮は金属質な鈍色に輝き、全身を真っ赤な文様が覆っている。

 

「死ね!」

 

異様に大きな頭にカウンターで手刀を打ち込んでかち割る――が、一瞬で再生した顎で胴をがっちり挟まれ、宙吊りにされる。

 

「ゔっあぁぁぁ!」

 

顎はなぜか不可視の鎧をすり抜けて肉に突き刺さり、血が噴き出す。力が強すぎて外せない。

 

「このっ!」

 

目に足刀を叩き込んで怯ませた隙に顎の付け根の関節を捻って破壊し、無理やり脱出する。

 

「はぁっ、はぁっ。」

 

傷口が赤い文様に覆われている。文様はうぞうぞと蠢動し、流れる血と共に広がっていく。

 

(呪いだ。)

 

裂傷拡大の呪い。噛まれた箇所から文様が徐々に広がり、文様に覆われた部位も裂傷を負い出血する。

 

(このままだと何もしなくても失血死だな。)

 

「■■■■■■––」

 

天牛のマガツヒは破壊した目と顎を一瞬で再生させ、地に潜る。名前付き相当の強大な気を放っているにも関わらず、姿が消えるのと同時に気配が途絶える。

 

(くそっ、こいつも気配を消せるのか。)

 

天牛のマガツヒは地中からこちらの位置を正確に把握しているらしく、音も振動もなく襲撃してくる。

 

(まずい、防戦一方だな。)

 

急所を庇いながら反撃するが、頭を潰そうが足を引き千切ろうが瞬く間に再生する。

 

(こいつに時間をかける余裕は無いのに。)

 

庁舎へ向かいながら戦う。ジュソウの街並みが過ぎていく――住宅街、真新しい工場、産業廃棄物の保管場……庁舎にこいつを引き連れるのはまずい、どこかで決戦を挑まなければ……田んぼ、農場、取り壊し予定の大型倉庫、広大な空き地――

 

(ここだ!ここなら討飆が使える。)

 

カンナの討飆はまだ不完全である。鬼一法眼の討飆と比べると威力は半分未満、発動にかかる時間は約3倍、消費霊力は体感約5倍。乙陣は性能不足で、衝撃波から周囲を完全に保護することはできない。

 

(でも、ここなら。)

 

周囲は無人、建物も無い。空き地が滅茶苦茶になるだけで済む。

 

「■■■■■■––!!」

 

腹部を狙った一撃を回避しながら首に足を絡め、強引にへし折る。

 

「––!!」

 

天牛のマガツヒは転倒すると同時に傷を修復して立ち上がるが、その隙に甲陣を展開し始める。

 

(コイツは一発喰らうと一旦地中に潜って態勢を立て直す癖がある。)

 

無駄に何発も喰らっていたわけではない。果たして、予想通り天牛のマガツヒは地面に飛び込む。

 

(ここだ!)

 

地中に潜った天牛のマガツヒの位置を知る術はないが、潜った直後なら居場所は自明である。

 

「下だ!」

 

足元に甲陣を出現させ、拳を叩き込んだ。

 




ビッグバンインパクト!蚯蚓は死ぬ。
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