あやかしランブル!~蒼澄カンナ伝:私の家がなんかデカい穴に呑み込まれてるんですけど……~   作:吾輩はもぐらである

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第五十五話:三丸

ジュソウでしばらく入院した後、西賀亮班の一行はナクサに戻ってきた。ただしアンナは引き続き陰陽寮の医務室で寝たきりである。

 

亮はここ最近、リンから「カンナを休ませろ」とよく突かれている。

 

「カンナはナクサに来るまで大変なこと続きだったから、表に出さないだけで相当ため込んでると思う。」

 

「カンナが?」

 

彼女が密かにため込んでいる苦悩など全く想像できないというのが素直な思いである。とはいえ――

 

(簡単に表に出せないほど悩みが深刻なのかもしれないし、本人ですら自覚してない悩みの可能性もある。それに俺よりリンの方がカンナとの付き合いは深いんだから、リンが言うことの方が確かだ。)

 

というわけで、ジュソウの戦いで大手柄をあげたカンナには休暇を取ってもらおうと思ったのだが――

 

「休暇?私は休まなくても大丈夫です。」

 

にべもなく断られた。

 

(どうしよう。)

 

最近アヤノの推薦とカンナ本人からの強い要望で契約内容が変わり、カンナは裁量労働制になった。本人が休暇を望まないならこちらからは何も言えない。

 

カンナの働きぶりは見事の一言である。曜日を問わず朝6時から夜8時までひたすら鍛錬と仕事。自分自身に定めた定時を厳守し、1分も遅刻せず、1分も残業しない。班でも最上位層の成果をあげており、口出しする隙などありはしない。

 

「リン、カンナが休んでくれない……。」

 

「良い作戦があるから大丈夫。」

 

リンの作戦、それは「アヤノと一緒に休ませる」である。

 

「カンナってアヤノと遊びに行ったことないんだって。」

 

「えっ?ああ見えて裏では仲悪いとか?」

 

職場での姿を見る限り、カンナとアヤノの人間関係は極めて良好である。特にカンナは「アヤノさんを目指しています」と公言するほどアヤノを慕っている。

 

「そうじゃなくって、単純に2人とも働き過ぎで休みが合わないんだって。」

 

「なるほど……。」

 

できる者に業務負荷が集中するのはあらゆる職場でありふれたことだろう。だが、他の陰陽師から「ポンコツの保育園」「重犯罪者の更生施設」と揶揄される西賀亮班の負荷の偏りたるや、常軌を逸している。もちろんカンナとアヤノは理不尽な負荷を支える柱であり、2人揃って遊びにちょうど良い時間に仕事を切り上げるところなど、そういえば見たことが無い。

 

「カンナはアヤノと仲良くなりたいみたいだし、『アヤノと遊びに行っておいで』って言ったら多分喜ぶよ。」

 

「あっ、それなら良い手が……。」

 

間の良いことに、亮は最近実家から「アリサキ」という温泉街の旅館で使える割引券をプレゼントされた。残念ながら、亮の家族も亮自身も仕事の都合で割引券の有効期間中に行ける目途が立たない。もったいないので、誰かに譲りたいと思っていたところだ。

 

割引券は3枚ある。というわけで――

 

「アヤノ、これあげるから温泉で羽を伸ばして来なよ。ただしカンナを誘うのが条件ね。」

 

「えっ、アリサキですか!?うわーっ、ありがとうございます。アリサキには前から行きたかったんですよ!」

 

ノリノリで喰いついてきた。真面目一辺倒に見えて、意外と旅行や遊びが好きなのである。

 

「カンナさんを誘えばいいんですね?」

 

「うん、お願い。」

 

リンの予想ではこれで上手くいくはずだが、当たるのか?

 

「カンナさん、よかったら休みを合わせて一緒に温s――」

 

「いっ、行きます!いつ休みますか?明日?明後日?」

 

(カンナがこんな食い気味の早口でしゃべるの始めてみたな。)

 

リンの予想は完全に正しかったらしい。

 

「私のお陰だから3枚目は私がもらうね。」

 

というわけで、カンナ、アヤノ、リンの3人が温泉に行くことになった。

 

▽▼▽▼

 

一行はアリサキの外れにある旅館「三丸」に到着した。

 

「ぉきゃっ様ぁ、参りゃしたー!」

 

「「「っしゃせぇー!」」」

 

出迎えの挨拶は独特だが、三丸は高級旅館である。三丸で大人1人が1泊する値段で、ナクサで一人暮らし向けのちょっと良い賃貸を1ヵ月借りられる。亮から貰った値引き率9割というヤケクソみたいな割引券が無ければ気軽には来られない。

 

「こちらがお部屋になります。」

 

(出迎えの挨拶以外は普通なんだ。)

 

部屋は茶色を基調とした上品で重厚な内装だが、レイアウトは開放的である。ほのかな畳の香りと、嗅いだことのないウッディな香りのミックスが鼻に心地よい。お着き菓子は高級菓子屋「らいおん亭」のアーモンドクッキー。ベランダには露天風呂があり、天気が良ければ星が見えるらしい。

 

アリサキは山奥の街であり、しかも三丸はアリサキでもかなり辺鄙な場所にある。周辺にこれといった観光スポットは無いが、三丸には宿泊者向けの娯楽施設が併設されている。食事と温泉の前に3人は遊ぶことにした。

 

最初はダーツ。ルールはゼロワン。つまり各々が同じ持ち点で開始し、順番にダーツを投げてヒットさせた点数を引いていき、最初に持ち点がぴたり0点になったプレイヤーが勝利するのだが――

 

「ええーっ!?」

 

「カンナさん、強すぎません?」

 

「あははっ!」

 

カンナが理論上の最短手順に近い早さで持ち点を0にして完全勝利。

 

「すみません、実はダーツは本当に得意なんです。ほらっ!」

 

カンナが指弾でダーツを3連射する。お見事、全段ど真ん中に命中!

 

「ええっ……どうなってるんですかそれ。」

 

「私だけ目隠ししますか?」

 

「ムカつく!別のやつで遊ぼ!」

 

完全に遊びのスイッチが入ってテンションがあがったリンが選んだ次の種目はボーリング。だが――

 

「やった!私の勝ち!(カンナ:スコア252)」

 

「200後半ってもはやプロですよ。(アヤノ:スコア183)」

 

「何なの、ここ!?カンナが得意な遊びばっかりじゃん!(リン:スコア169)」

 

理不尽なまでにカンナが強い。

 

「学生の頃、友達と遊ぶ時によく遊技場に行ってボーリングとダーツばっかりやってましたから。これでも数年ブランクがあるんですよ。」

 

「次は私が得意なやつ!」

 

むくれ顔のリンが次にチョイスしたのはカラオケ。リンの歌を聞いたことはないが、「ヤクシニと行ったカラオケで自分の方が上手かったから歌は得意」というちょっと説得力が微妙なロジックで本人は自信をのぞかせている。

 

「カラオケでどうやって勝負するんですか?」

 

「これ、採点機能がついてるやつだから、得点が一番高い人が勝ち。」

 

「それでいいよ……ふふっ。」

 

カンナがわずかに笑みを浮かべるのをアヤノが見逃さなかった。

 

「カンナさん、今笑いませんでした?」

 

「えっ?」

 

さっと笑みを消し去るカンナ。

 

「……」

 

「……」

 

カンナを凝視する2人。

 

「……んふっ。」

 

「あっ!」

 

「笑った!」

 

「違う、違うから!急に2人が黙ってこっち見つめるから、つい。」

 

「もしかしてカンナは歌も得意なの?」

 

「えっ?」

 

「正直に言って!」

 

「えーっと、ふふっ、正直に言うと……」

 

「……これ、絶対に自信満々の顔ですよ。」

 

「はっきり言って!」

 

「かなり上手いよ。地元(シジョウ)の歌唱コンクールで青少年部門3位になったことがある程度には。」

 

というわけで――

 

「黒い~星を忘れずにいてー」

 

リン73点!アヤノ88点!カンナ99点!

 

「う、上手すぎる……」

 

「カンナが得意なのばっかりでおかしい!」

 

((ていうか))

 

カンナとアヤノがこっそりと目配せをする。

 

(リン、別に上手くなかったですね。)

 

(ヤクシニさんは多分音痴なんでしょうね……。)

 

無言で感想を共有し、笑いをこらえる。

 

「次、カンナが得意じゃないやつ!」

 

「この施設でまだ遊んでないの、何が残ってましたっけ?」

 

「的当てとビリヤードがあるみたいですね。」

 

「うーん、どっちも得意ですね。2人が相当上手くないとワンサイドゲームになると思います。」

 

どうやらカンナは天に二物、三物と色々与えられてこの世に生まれ落ちたらしい。

 

「カンナが普通の人よりも出来ないこと教えて。」

 

「えっ?うーん……」

 

「……」

 

「……」

 

「早く。」

 

「えーっと……あっ、炭酸水!私、炭酸があまり飲めない。」

 

「これだけ悩んで炭酸って……要は何でもできるってことですよね。」

 

「じゃあ次は炭酸水の早飲み競争!」

 

売店でラムネを買ってくるリン。

 

「今飲むんですか?」

 

「お風呂上がりの方が良くない?」

 

「ダメ。カンナに勝てないとスッキリできないから。」

 

「はぁ……子供じゃないんですから――」

 

「ヨーイドン!」

 

「あっ!」

 

「ずるいっ!」

 

なんだかんだ、大はしゃぎでラムネを一気飲みし始める3人。

 

「ぐふっ……飲みました!」

 

圧倒的な早さのアヤノ。

 

「ごほっ……私も。」

 

アヤノに遅れること約10秒、リンも瓶を空にする。一方その頃カンナは――

 

「んぐっ……ごほっ……ふぅ……。」

 

遅い。まだ半分も飲み終えていないのに、限界まで運動した運動不足の子供のような弱りっぷりだ。

 

「カンナさんがこんなに苦しそうな表情してるの、初めて見たかも……」

 

「勝負ついてるし、もういいよ。」

 

リンがそう言って、勝負は打ち切りになった。

 

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