あやかしランブル!~蒼澄カンナ伝:私の家がなんかデカい穴に呑み込まれてるんですけど……~   作:吾輩はもぐらである

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第六話:悪夢

カンナは物心ついた時から、毎夜のように内容が酷似した悪夢を繰り返し見続けてきた。ナクサでの最初の夜、長旅の疲れですぐに眠りに落ちたカンナは、お馴染みの悪夢を見ていた。

 

夢の中。カンナはどこか広い屋敷にいる。屋敷のとある私室には地下へと続く隠されたスロープがある。

 

スロープを下りきった先には広々とした地下室が広がっている。地下室の天井にはいくつかの電灯が備え付けられているが、大半は製品寿命を迎えており、光源としての役割を果たしておらず、地下室はかなり暗い。

 

地下室は広い通路を挟んでいくつかの独房に分かれている。独房の木製の扉には覗き窓が付いている。手近な独房の覗き窓を身をかがめて覗き込む。中は畳六畳ほどの広さだ。誰もおらず、牢の中心には拘束具がついた大きな椅子が設置され、椅子とその周辺の床には赤黒い液体がべっとりとシミを作っていた。まともな独房でないことは明らかだ。

 

他の独房も順番に中を覗くが、どの独房も部屋のつくりは同じだった。ただし、部屋によっては床に刃物や鎚が転がっていることもあった。この独房で行われた所業と赤黒い液体の正体についての嫌な予感が確信に変わろうとした時、どこからか子供の泣き声が聞こえた気がした。

 

声がする方へ向かう。声の発生源は最奥の独房からだった。中を覗く。この部屋の椅子は高い背もたれが扉の方に向いている。そこに座る者の姿は見えないが、間違いなく鳴き声は椅子から聞こえてくる。椅子の傍らに刃物を持った何者かが立っている。これまでの独房の様子を見れば、これから何が行われようとしているのかは容易に予想がつく。

 

「やめろ!」

 

叫ぶが、その何者かはまるで気に留める様子もない。右手に持った刃物を椅子に座った誰かに近づけていく。

 

(助けなきゃ。)

 

独房の扉を殴打するがビクともしない。素手で岩を砕きマガツヒを撲殺する打撃がきかないのは何故?もはや一刻の猶予も無いのに。

 

その時、刃物を持った「そいつ」と目があった気がした。なぜだろう。暗くて顔は見えないのに、そいつが笑っているのがわかる。これから起きる光景を見せつけられることを喜ぶかのような、あるいは見ているだけで何もできないでいるカンナをあざ笑うかのような、醜悪な笑みだった。

 

そいつが椅子に座った誰かに刃物の先端を押し当てる。子供が狂ったように泣きわめく。そいつは血が付着した刃を見せつけるようにこちらへ向けた。

 

「ほひひ……。」

 

そいつは笑っていた。子供の鳴き声が牢に反響しているのになぜか笑い声はクリアに聞こえる。妙な笑い方だが、腹の底から笑っているのが分かった。

 

(殺す!)

 

一秒でも早く牢に駆け込み、この狂った殺人鬼を仕留め、子供を救わなくてはならない。

 

その時、そいつの身体から何の前触れもなく黒い炎が生じた。そいつは慌てて黒い炎を消そうとするが、次はそいつが右手に持った刃物からも黒い炎が生じた。次にそいつの衣服から、椅子から、床から、天井から、廊下の電灯から、とにかくありとあらゆる場所と物体から黒い炎が生じた。

 

黒い炎に飲まれたそいつはしばらくもがき苦しみ、跡形も無く消滅した。周囲の光景も、もはや黒い炎に覆われていない箇所を探す方が難しい。目にする全ての光景が黒い炎に飲み込まれた時、カンナは覚醒した。

 

(……いつも通りの朝だな。)

 

外を見ると朝日が昇り始めていた。久々に暖かい布団で寝たからか、普段より少し遅い目覚めとなったようだ。

 

何度見ても忌々しい悪夢だが、もはや慣れきっていて動じることはない。本当に、似たような悪夢を何度も見続けてきたのだ。幼いころから今に至るまで、何度も、何度も。日によっては被害者の子供の顔が見えたり(知らない子ばかりだが)、殺人鬼が手に持つ凶器が錐やハンマーに変わることもあるが、流れはいつも同じ。殺人鬼の凶行の瞬間を目撃し、怒り狂い、黒い炎と共に目覚める。

 

少し寝坊したことを除けば、カンナにとってはいつも通りの標準的な一日の始まりだった。

 

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