あやかしランブル!~蒼澄カンナ伝:私の家がなんかデカい穴に呑み込まれてるんですけど……~   作:吾輩はもぐらである

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第五十九話:再会

ユメによる殺人鬼の悪夢の調査では結局ロクな成果を得られず、謎は深まるばかりだった。

 

自分はいつもの悪夢を見たのだが、ユメによると独房に囚われていたのは彼女自身で、殺人鬼の正体は自分であり、彼女を救ったのは襤褸をまとった骸骨だったらしい。

 

(骸骨?)

 

例の悪夢で骸骨など見たことは無い。何も分からないまま登場人物が増えて困惑するばかりである。ちなみに、独房は真っ暗だったので監禁されていたのがユメだったのかは自分には分からない。

 

何にせよ、ユメに相当なストレスを与えてしまったことだけは間違いない。彼女が経験者であることに甘えて深く考えずに夢に入ってもらったが、まさか自分の悪夢がそれほど危険だとは思いもしなかった。

 

(ユメに悪い事しちゃったな。今度何かお詫びをしないと。)

 

ただ、悩んだところで今の自分には答えを出すために必要な情報が欠けている。これ以上調べようもないので引きずらないことにした。

 

私生活ではトラブルを起こしてしまったが、仕事の方は万事順調である。

 

「カンナ、央元さんから支援任務のお声がかかってるよ!」

 

ある日、亮とアヤノからから嬉しそうにそう伝えられた。支援任務のお声がかかるとは、つまり央元から任務を手伝ってほしいと名指しで指名されているということだ。

 

「式神になって半年で名指しで指名されるなんて相当早い方です。」

 

「うん、すごいね。」

 

「支援任務は通常任務よりも大きく評価されるので査定でもお得ですよ。」

 

「アヤノさあ、カンナのこの活躍ぶりなら次の模範式神投票で表彰台を狙えると思わない?」

 

「狙えますよ、もちろん。カンナさんも当然、表彰台に立つつもりですよね?」

 

アヤノが「当然」の部分を強調して問いかけ、亮も試すような笑みをこちらに向ける。

 

(2人とも私の扱い方を分かってるなぁ。)

 

煽られたり試されたりするとやる気が上がる性質なのは自覚している。

 

「アヤノさんが一位になったやつですよね?もちろん一位を狙ってますよ。」

 

「「さすが!」」

 

陰陽師間で式神のリソースを貸し借りすることは繁忙期にはよくあることである。まして、潜毒の大流行大陸中でマガツヒの出現数が増えている今の状況ならなおさらである。

 

式神が他班の陰陽師を支援する場合、契約相手ではない陰陽師からは霊力の補助を十分に受けられない。普段よりも悪い条件で任務に臨むわけだが、逆に言えばそれでも戦力になると期待されているからこそ指名されるのだ。

 

(やるぞ!)

 

誇らしくないわけがない。自分を選んで正解だったと思わせる仕事ぶりで応じるべきだろう。

 

今回は紅葉も指名を受けている。彼女は西賀亮と契約する前は地方支部を転々としていて、西方の支部に陰陽師の知り合いが何人かいるらしい。

 

今回の任務地はラクドウ。シジョウの南側に隣接する大きな街で、ジュソウの功績で出世した央元が支部長を務める第八管轄区第一管区西部第二支部がそこにある。

 

転移の陣で西部第二支部へ飛ぶと央元が待ち受けていた。

 

「蒼澄さん、紅葉さん、忙しい中指名に応じてくれてありがとう。」

 

「こちらこそ指名いただけて光栄です。」

 

「央元様、お初にお目にかかります。ナクサ本部西賀亮班所属の紅葉と申します。今回の任務では微力を尽くす所存ですので、なにとぞよろしくお願い申し上げます。」

 

「えっ!?ああ、わざわざご丁寧にありがとうございます。俺は紅葉さんの上司ではないから、紅葉さんがやりやすいように接して下さって構いませんよ。」

 

「マジ!?じゃあ春樹っちって呼ぶからヨロー!」

 

「紅葉、それはちょっと飛ばし過ぎ。」

 

「ぐふっ、何だよそれ。一応仕事だし馴れ馴れ過ぎるのは駄目だからな。」

 

真面目な性格の央元が気を悪くしないかと焦ったが、とりあえず笑って流してくれるらしい。

 

「そういえば央元さん、支部長就任おめでとうございます。確か史上6番目に若い支部長でしたっけ?」

 

「おう、そうだな。まあ、史上6番目と言いつつ俺と同じ23歳で支部長になった同率6位が過去に14人いるらしいから、15人目の23歳の支部長なんだけどな。」

 

「支部長って普通の陰陽師とどう違うんですか?」

 

「一番の仕事は仕事の割り振りと評価だな。陰陽寮の実動部隊って上から順に管轄区、管区、各地の陰陽寮支部ってピラミッド型の組織になってるだろ?支部長の上には管区長が居て、管区長が『お前の支部で片付けろ』って降ろした仕事を支部に所属する陰陽師に割り振って成果を評価するわけ。他にも支部の施設や任務で使う装備の管理とか、管理会計報告、地域交流みたいな仕事もあるよ。」

 

「割と中間管理職的な仕事にも聞こえますね。」

 

「いっそ管理業務に集中させてくれって思うんだけどな。だいたいどこの管轄区も支部長や管区長クラスはしょっちゅう現場に駆り出されてて、平の陰陽師と大して現場業務の量は変わらないよ。ウチの管轄区は特に忙しくて、管轄区長の千里さんですらよく現場に出てるからな。」

 

「お忙しいんですね。」

 

「上の仕事に興味ある?じゃあ教えてやるよ。(ぺーぺー)、支部長、管区長、管轄区長と昇進する度に基本給は5割ずつしか増えないけど、責任は3倍ずつ増えていくんだ。ちなみに管轄区長の上は主席陰陽師っていう幹部職だけど、基本給は管轄区長とほぼ同じなのに責任は10倍重いんだ。陰陽寮の闇は深いんだぜ……。」

 

「ふふっ、何ですかそれ……勉強になります。」

 

「ところで央元様、千里様はお元気ですか?」

 

今度は紅葉が話題を変える。

 

「千里さん?あの人はいつでも元気だよ。」

 

「それはよかったです。実は私が契約する陰陽師がなかなか見つからずにいた時、陰陽師が多いナクサに転勤できるよう千里様に便宜を図ってもらったことがありますので。」

 

「ああ、そうか。確か紅葉さんは千里さんの手伝いを何度かしたことがあるんだっけ?」

 

「その通りです。」

 

「今回の任務も千里さんから紅葉さんを誘えばって薦められてたんだよ。」

 

「千里様と央元様のご期待に必ず応えて見せます。」

 

「あ、ああ。ヨロシクな。」

 

お堅い口調で接してきたかと思えば急にタメ口を発する紅葉に央元は戸惑い気味だが、雑談をする内に作戦のブリーフィングの時間になった。央元の出世により副支部長に昇進した杉が作戦を説明する。

 

「とある人物が負の感情をため込みすぎてマガツヒに変貌しつつあります。その人を救うのが今回の任務の目的です。感情を祓う儀式は北別府怜子という陰陽師が行うので、紅葉さんとカンナさんはマガツヒが出現したら討伐をお願いします。」

 

「「はい。」」

 

黙って聞いていたが、「北別府怜子」の名は聞き流せない。

 

(無事だったの!?)

 

こちらの驚きを見透かしたかのように杉がウィンクする。

 

「怜子さんから蒼澄さんに『再会を楽しみにしている』と言伝を預かっています。」

 

「ああ、今日はさっさと任務を終えて夜は飲もうぜ。」

 

杉が先を続ける。

 

「マガツヒに変貌しかけているのはラクドウ第一行政区役所の元従業員則武文香氏。依頼者は則武氏の夫五十嵐勇作氏です。」

 

「夫婦なのに名字が違うのですか?」

 

「紅葉、この辺の街では結婚しても姓を変えないのが一般的なの。」

 

「なるほど。」

 

「続けます。五十嵐氏によると、則武氏は1年前に勤務先の不正を告発しようとしたところ上司に握り潰され、報復で身に覚えのない横領の濡れ衣を着せられた挙句に不当解雇されたと主張していたそうです。ここ最近、則武氏との意思疎通に困難を感じていた五十嵐氏がラクドウ中央病院の精神科に相談し、当該病院から陰陽寮に通報があって我々も事態を把握した次第です。」

 

「マズいな。素人がわかるほわかるほど様子がおかしいってことは猶予はほとんどないぞ。」

 

「そうだね。1日を争うと思う。」

 

央元、杉、カンナ、紅葉の4人で早速現地へ向かう。

 

ラクドウ郊外にある夫婦の家に到着する。ありふれた戸建て住宅だが、中からわずかにマガツヒの気配がする。

 

(紅馨がマガツヒになった時を思い出すな。)

 

「怜子さんの式神が周辺住民を避難させてるが、俺と龍一は万一に備えて家を結界と壁で隔離する。」

 

央元の指示が飛ぶ。

 

「紅葉さんと蒼澄さんは怜子さんの近くに待機。儀式は術者と被術者への負担がかなり重い。儀式が終わった直後は怜子さんも則武さんも動けなくなってるはずだから、祓われた感情がマガツヒになったら即座に対応して安全を確保してほしい。保険金が出るから多少家をぶっ壊しても構わない。」

 

「わかりました。」

 

「お二人は我々がお守りします。」

 

北別府は居間で待っていた。最後に見た時より若干痩せており、右目に柄付きのお洒落なアイパッチを付けているが、それ以外は何も変わっていない。

 

「カンナさん、久しぶりぃ!」

 

「ご無事で何よりです!」

 

北別府とはシジョウの惨劇後に1ヵ月ほど行動を共にしていたが、作戦中に央元共々重傷を負い央元以上に生存が絶望視されていた。まさか、生きてまた会えるとは。

 

「『赤ん坊2人育てるのに死んでる場合かこの馬鹿女!』って三途の川で俊介(おとうと)に蹴り返されて、無事死にぞこないました。」

 

「右目はどうしたんですか?」

 

「ん?ああ、これね。シジョウの作戦で私怪我しちゃったでしょ?あの時の手術で眼球を摘出することになっちゃって、今は義眼が入ってるの。義眼の外観がダサいからこれで隠してるわけ。」

 

擦りむいて転んだ程度の軽さで眼球摘出の話をする北別府。

 

(さすが怜子さんって感じだな。それにしても、1人で赤ん坊を2人も育ててるのに現場に戻ってくるなんて大丈夫なのかな?私が心配することじゃないかもしれないけど。)

 

「怜子さん、紅葉と言います。今日はよろしくお願いします。」

 

「あなたが紅葉さん?よろしくー!千里さんから腕っぷしは確かって聞いてるから、期待してるね!」

 

北別府は下の名前で呼ばれることを好み堅苦しいのが嫌いなことを紅葉に事前に伝えていたが、どうやら助言に沿って挨拶をしてくれたらしい。北別府は人の好き嫌いが激しいのでファーストコンタクトが上手く行って一安心である。

 

則武を隔離した寝室へ向かう。

 

「違う違う違う私じゃない私じゃない私じゃない私じゃない――」

 

部屋のど真ん中に救出対象の則武文香が全裸でぽつんと座っている。「これが今回討伐するマガツヒです」と言われれば信じてしまいそうな悪鬼の如き形相で己に突きつけられた罪状を否定する言葉をひたすら呟いている。身体のあちこちに札が貼られ、注連縄のようなものが緩く巻き付けられている。

 

儀式用の霊具を寝室に搬入するといよいよ儀式が始まる。

 

「2人は部屋の外で待機。儀式中に扉を開けると最初からやり直しになっちゃうから開けないこと。祓った感情がマガツヒになったら気配でわかるはずだから、中に突入してマガツヒをやっつけちゃって。」

 

「儀式にはどれくらいかかりますか?」

 

「平均30分ってところだけど個人差がものすごいから自分の感覚を信じて動いて。」

 

「「はい。」」

 

寝室の外の廊下でその時を待つ。

 

「中に突入したら2人で一気にマガツヒを殺す。マガツヒが攻撃態勢を取っていたら私が壁になって2人を守るからその間に紅葉がマガツヒを殺す。失敗したら私が2人を担いで一旦退避させるから紅葉はマガツヒを食い止める。これでいい?」

 

「異論ありません。承知しました。」

 

どのようなマガツヒが出現するかわからないので取り決めは最低限にとどめ、後はひたすら待機する。

 

「……」

 

「……」

 

30分経過。寝室に異変無し。北別府は休むことなく呪文を唱え続け、則武はうめき声を発し続ける。たまに何か術を発動する気配もする。

 

「……」

 

「……」

 

60分経過。北別府がたまに咳き込み始めるが、他は変化なし。

 

「長いね。」

 

「そうですね。」

 

120分経過。北別府の咳き込みが激しくなり苦し気な喘ぎ声を漏らし始めるが、則武の様子は一向に変わらない。

 

(まだかな…)

 

緊張を絶やすことはできない。踏み込むタイミングが少しでも遅れたら北別府と則武氏はマガツヒの餌食になる。

 

180分経ったころ、中の様子が一変する。北別府が苦しみ出すのと対照的に則武が無言になり、マガツヒの気配が色濃くなる。

 

「そろそろかもね。」

 

「はい。」

 

それから25分後、ついにその時が来た。紅馨がマガツヒに変貌したあの時と同じ感覚だ。

 

互いに目くばせすると、紅葉は扉を、カンナは壁を蹴破って寝室に突入する。中には肩で息をしながら倒れる北別府とぐったりして動かない則武。

 

(居た!)

 

則武から1mほど離れた場所に瘴気に覆われた人型の何かが寝そべっている。

 

(死ね!)

 

動く前に仕留めにかかる。だが――

 

「カンナさん待った!」

 

「カンナ、その子を攻撃しては駄目です!」

 

北別府が結界でマガツヒを庇い、更に紅葉が腰に抱き着いて妨害してくる。

 

(何で!?)

 

もしやマガツヒの洗脳攻撃を受けたかと肝を冷やすが、2人とも至って冷静な様子である。

 

「何か問題が?」

 

「カンナさん、落ち着いてあれをよく見て。」

 

マガツヒが行動を起こす様子はない。北別府に言われた通り結界で覆われたマガツヒをじっくりと観察する。すると――

 

「マガツヒじゃない……?」

 

「カンナ、恐らくあの子はマガツヒではなく鬼のアヤカシです。」

 

「どういうこと?」

 

意味不明だが、瘴気が晴れて結界の中身が明らかになるにつれ紅葉の言うことが正しいと判明していく。

 

(女の子だ。)

 

12歳くらいの女の子が裸で倒れている。顔面蒼白で苦し気に喘いでいるが僅かにアヤカシの霊力が感じられる。

 

疲労困憊の北別府が寝転がったままかすれ声で指示を飛ばす。

 

「2人でこの子を西部第二支部に連れて行って。事務方に私と央元君の名前を伝えて『詳しい事情は後で説明するからとにかく保護して』って言えば後は向こうがよしなにしてくれるから。その後は央元君の執務室で待機。詳しいことは後で説明するから今は動いて。」

 

「「はい。」」

 

女の子を着物で覆って陰陽寮へ運ぶ。

 

「カンナはこのようにアヤカシが産まれることがあることを知っていましたか?」

 

「知らなかったよ。本当にびっくりした。」

 

「そうですか……。」

 

「何か気になる?」

 

「いいえ、気になるというほどでは……。」

 

紅葉はいつも通りの無表情だがちょっと様子が変だった。

 

支部に帰還すると北別府に言われた通りに女の子を事務員に任せ、央元の執務室で東雲ジャンヌや薮原と談笑しながら2人の帰りを待つ。央元と北別府は30分ほどして帰って来て、すぐに会議室に来るように言われた。

 

「何が起きたか説明したいんだけど、さっきの様子だと紅葉さんは何か知ってるかな?」

 

「はい、私は知っていました。」

 

「どこで聞いたの?中堅陰陽師向けの負の感情を祓う儀式の講習でしか教わらないはずなんだけど。」

 

「教わったわけではありません。私自身もあの子と同じように産まれたので知っていました。」

 

「「「えっ!?」」」

 

3人が同時に驚きの声をあげる。

 

「私は紅葉という女性が嫉妬に狂うあまりマガツヒに変貌しかけたところを陰陽師に祓われ、その時に産まれたのです。」

 

「いやー、驚いたなぁ。まさか当事者とは。あっ、カンナさんはまだよく分かんないよね?」

 

「はい。ああいうこともあるんだなということ以外は何も。」

 

「実はね、今回のように負の感情を祓った結果マガツヒじゃなくてアヤカシが産まれることがあるの。陰陽寮の歴史を通じても少ししか事例がないから陰陽寮にも知らない人が結構いるんだけど。」

 

「理解しました。」

 

不謹慎だが、内心人間の神秘に心打たれ感動していた。ぽかんとした表情を浮かべそうになり表情を取り繕う。

 

「それでね、2人にお願いなんだけどあの子のことは周りには秘密にして。紅葉さんはその辺分かってるよね?」

 

「はい。私も自分の生まれを隠しているわけではないのですが、妄りに公言することは慎むようにと葛の葉様に言われています。心無い人に知られると差別を受ける懸念があるためだそうです。幸い、私はそのような扱いを受けたことはありませんが。」

 

「そういうこと。」

 

「あの子や紅葉さんのことを他人にべらべら話すわけにはいかないな。」

 

央元と北別府が「安心しろ」と言わんばかりに優しい笑みを浮かべる。紅葉も2人を信じているのか笑顔で応じた。

 

「怜子さん、あの子はどうなるんですか?」

 

紅葉が質問する。

 

「陰陽寮で保護する。まだ子供だから一旦は陰陽寮が運営してるマガツヒ禍で親を亡くした子供向けの施設に入れて、産まれた経緯は然るべき時に葛の葉さんが直々に説明するかな。当前だけど普通のアヤカシとして育つことになるよ。」

 

最後の一言を聞いた紅葉が安堵の笑みを浮かべる。自らと同じルーツを持つ者として色々と気になるのだろう。

 

儀式と事後処理が長引いたために残念ながら飲み会は無し。またの再会を誓って紅葉とラクドウを後にする。

 

「すごい体験しちゃったね。」

 

「私もお祓いでアヤカシが産まれるのをこの目でみたのは初めてです。」

 

「あの子、元気に育つといいね。」

 

「はい。自分の産まれに悩むことも多々あると思いますが、自分なりの答えを見つけることを祈るばかりです。」

 

「紅葉もやっぱり色々悩んだことあるの?」

 

「はい。半生のほとんどを自分は何者なのか、負の感情から産まれた私は本当にマガツヒではないのか、人間らしい感情を持つ事ができるのかと悩み過ごしました。自分の答えを得られたのはつい最近のことなのです。」

 

「なるほどね。」

 

客観的に見れば紅葉がマガツヒではなくアヤカシであることは自明としか思えないが、やはり当事者でなければわからない苦悩というものがあるのだろう。

 

「私もカンナに質問して良いですか?」

 

「何でも聞いて。」

 

「カンナは自分の生い立ちを知らないと聞いたことがあります。自分が何者なのか疑問に思ったことはありませんか?」

 

「無いよ。」

 

あまりに端的な答えに紅葉は無表情のままあっけにとられる。

 

「私は自分が蒼澄家のカンナだってことを知ってるし、自分を捨てた産みの親とかどうでもいいから。」

 

「……私も自分が紅葉であることは知っていましたが、それだけでは自分というものに確信を持てずにいました。カンナは強いですね。」

 

「いつかシジョウを救う英雄になる女ですから。それなりには、ね。」

 

「……ふふっ。」

 

「ふふっ。」

 

ナクサに帰還するころには夜になっていたが、執務室はまだバタついていた。

 

(何かあったな。)

 

案の定、亮が急いだ様子で駆け寄ってきた。

 

「紅葉、カンナ、ちょうど良かったよ。怪我とかはしてない?」

 

「無傷です。」

 

「主、お急ぎのようですが何かありましたか?」

 

「うん。緊急の任務があるから2人も動けるなら来てほしい。」

 

どうやら今夜は徹夜になりそうだ。

 

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