あやかしランブル!~蒼澄カンナ伝:私の家がなんかデカい穴に呑み込まれてるんですけど……~   作:吾輩はもぐらである

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第六十二話:交渉人

翌朝。

 

「大ミミズク様は灰色の山で最も高い冠岳にいらっしゃるはずです。」

 

集落を発ち、山々の間を進んでいよいよ冠岳に入山する。村の者がミミズク様に会いに行く時のために一応登山道が整備されているが、ヒトには楽な道のりではないだろう。

 

「はあっ!はあっ!」

 

コネは潜毒による体調不良を大量の咳止めと気付け薬でごまかして無理矢理同行しており、かなり辛そうである。頑固で責任感が強く、おんぶを申し出ても「新村長として大ミミズク様に情けない姿は見せられない」と決して首を縦に振らない。

 

コネに合わせているのでペースは遅い。二合目……三合目……。大ミミズク様が寝床にしている六合目の森を目指しゆっくり歩んでいく。

 

「平和な山。」

 

誰かがぽつりと口にする。

 

聞こえるのはセミと鳥の鳴き声、風に揺れる木々のざわめき、コネの喘ぎ声。危険な霊獣もマガツヒもいない。

 

(良い山。地元を思い出すな。)

 

任務でなければ楽しいハイキングだっただろうに、今から力でこの平和を作り出した霊獣の怒りを鎮めなければならないのだと思うと怖いもの知らずのカンナもさすがに気が重い。

 

「なあ、大ミミズク様ってものすごく強い霊獣なんだろ?あたし、なんの気配も感じないぞ?」

 

ナタクが疑問をこぼすと他の者も同調する。

 

(そういえば気配がしないな。それに、勘が良いナタクさんでも何も感じないということは――)

 

「どう考えても隠れてるってことだよね。」

 

亮も自分と同じ考えらしい。

 

「警戒しましょう。大ミミズク様に逃げ隠れしなければならないほどの天敵がいるとは考えづらいです。だとすれば目的は待ち伏せです。コネさんと亮さんを囲む陣形で進みましょう。私が先頭を歩きますので――」

 

後ろを振り返る。最後尾にいたはずの亮とコネがいない。

 

「西賀さんとコネさんは!?」

 

他の面々も異常に気づく。その時――

 

「ようこそ、客人よ。」

 

進行方向から声変わりしたばかりの少年のような、それでいて老成した賢者のような語り声がする。振り向くと、10メートルも離れていない位置に大ミミズク様がいた。

 

(いつの間に。)

 

体高約7メートル。頭部に絶妙なバランスで冠を被り、首と足首に装飾品を身に着けている。羽毛は烏のように黒く艶があり、掛け軸に描かれていなかった翼の内側は孔雀のような飾り羽で彩られている。こんな場面でなければあまりの愛らしさにはしゃいでいたかもしれない。そしてその大きな右翼で「何が起きたのかわからない」という表情の亮とコネを抱え込んでいる。

 

(攫われた!)

 

ナタクが先手をとる。

 

「2人を離せ!」

 

敢えて大声を出して大ミミズク様の注意を引き、その隙に周囲の木々の合間を縫うように縛妖索を走らせて大ミミズク様を捕える。火尖鎗が火を噴き、風火二輪が唸りをあげ、一瞬の内に大ミミズク様の懐に飛び込む――が、なぜかそのまま勢いを失って墜落し、火尖鎗を手落とし、大ミミズク様の腹部に顔面から突っ込んでピクリとも動かなくなる。

 

「僕の住み家で暴れないでくれるかな。」

 

大ミミズク様が縛妖索を払いのけながら呆れたような声を出し、まん丸の目でこちらを見つめる。

 

(何?何か来r––)

 

不可視の鎧に何かが触れる感触。攻撃だ。攻撃を受けている。だが、何が起きているのかわからない。何も理解できないでいる内に紅葉とアヤノが声も無く倒れる。

 

(うそっ、何が起きてるの?)

 

自分が無事であることから物理攻撃を仕掛けられた可能性が高いが、紅葉もアヤノも傷一つない。大ミミズク様と遭遇して約2秒。早くも立っているのは自分と火天だけだ。

 

「意外だね。そっちの霊獣以外は全員倒れてもらうつもりだったんだけど。」

 

大ミミズク様が首を傾げる。どういうわけか、頭頂部の冠は全くズレない。

 

「どうやって防いだのか気になるところだけど、まずは本題から済ませよう。その前に――」

 

大ミミズク様の姿が消える。気づいた時には背をとられていて、コネと亮とは反対側の翼にナタク、アヤノ、紅葉を抱えている。

 

「君、名のある霊獣だろ。」

 

「その通り。十二天が一柱、火天だ。」

 

火天が振り向かずにこたえる。

 

「火天?それは良かった。火天は智慧の炎と呼ばれるほど賢いはずだからね。何で人間と一緒なのか知らないけど、抵抗する素振りを見せただけで皆殺しってことは理解しているかな?」

 

「もちろんだ。戦うつもりはないよ。キミを殺すつもりならこんな場所までのこのこと来やしないさ。」

 

目の前の相手が火天と分かっても大ミミズク様が怯む様子は全く無い。

 

「安心したよ。この山、僕が自分で手入れしてるんだ。散らかると面倒だからね。」

 

大ミミズク様が首をぐりんと回してこちらを見る。

 

「人間。君もだよ。」

 

言われずとも、想像を絶する力の差に抵抗は無意味だととっくに悟っている。どのように攻撃されたかすら未だ見当がついていない。

 

「わかりました。大人しくします。」

 

「うん。そうして。」

 

大ミミズク様の首が回りコネを見つめる。

 

「君、ミナカタの人間だろ。」

 

「はい。コネと申します。ミナカタの新しい村長です。」

 

「新しい村長か。」

 

コネを降ろし、身体をぐっと屈めて目線を合わせる大ミミズク様。

 

「じゃあ話し相手は君だね。ズイはどうしたんだい?」

 

「先代のズイとズイの息子ズノは流行り病で亡くなりました。私はズノの一人娘です。」

 

「そうか。じゃあコネ、他の連中は君が連れてきたんだね?ミナカタの者には見えないけど何者かな?どうして連れてきた?」

 

「こちらの方々は陰陽寮です。大ミミズク様に契約を反故にしたことを釈明するためのお手伝いをしていただくために私が呼びました。」

 

「陰陽寮?ああ、やっぱり部外者か。」

 

大ミミズク様の声音に不快感が表れる。

 

「僕とミナカタの間で起きた問題に部外者を関わらせるなら事前にお互いの合意が必要だ。契約にそうある。」

 

「あっ、大変申し訳ありません。ズイもズノも立て続けに亡くなったもので引継ぎを受けておらず、存じ上げておりませんでした。私の失態です。」

 

コネが青ざめながら必死で謝罪する。

 

「分かればいいよ。それよりコネ。ミナカタが僕との契約を反故にした件についての申し開きがあれば聞こうか。」

 

「申し上げます。大ミミズク様からのお返事をいただいた後直ちに村人に聞き取り調査を行いました。ですが、村人たちは契約を違えた覚えが無いと申しております。率直に申し上げまして、我々がどう契約を破ったのか分かりかねております。」

 

「そうか。ならば教えよう。侵入者だ。」

 

「侵入者?」

 

「そう。灰色の山から明らかに人工物と分かる物を見つけた。しかも同じ物を5つもね。誰かが灰色の山に無許可で侵入した動かぬ証拠さ。」

 

大ミミズク様が更に身を屈め下からコネを見上げる。声音は落ち着いているが怒りが滲み出ている。

 

「引継ぎを受けていないとはいえミナカタの人間なら相互不可侵の契約は知っているはずだ。違うかい?」

 

「仰る通りです。」

 

「相互不可侵の契約は僕とミナカタの間で結ばれた最も重い契約だ。霊獣だって人間と同じで誰かが自分の住み家に勝手に入ってくるのは嫌だからね。村長である君には責任をとる義務がある。違うかい?」

 

「おっ、仰る……。」

 

怯えた表情でコネが硬直する。額から脂汗を、目から玉のような涙を流し、手の震えを拳を握りしめて必死で止めようとしている。

 

(マズい。そろそろコネさんが限界だ。)

 

何を言えば助けになるのかは分からないが黙っているわけにはいかない。

 

「横入りすみません、あの––」

 

喋りながら考えるつもりで話を切り出す。ところが――

 

「大ミミズク様、どうか自分の話を聞いていただけないでしょうか?」

 

亮に被せられた。緊張のあまり顔面蒼白だが、目に決意の光が宿っている。

 

「何だい?部外者の出る幕ではないんだけど。」

 

「仰る通りです。ですが、自分たちに手伝いをさせていただければ必ずや問題解決の一助になれます。」

 

「はぁ……まあ君たちも村長の客人だ。一応聞いてあげるよ。」

 

「ありがとうございます。大ミミズク様の縄張りを犯したのはミナカタの住民ではなく外の者の可能性があります。就任直後で先代から引継ぎを受けておらず、しかも疫病に冒されているコネさんでは調査は停滞します。」

 

「だから君たちが代わりに調べるとでも?」

 

「その通りです。」

 

「君、名前は?」

 

「西賀亮です。」

 

「そうか。では西賀亮、僕の気持ちを想像しながら答えてくれ。その申し出を僕がすんなり信じられると思うかい?この場を誤魔化す姑息な言い訳でないと僕に信じさせることはできるかい?」

 

「できます。」

 

「へぇ。」

 

僅かに、僅かにだが大ミミズク様の声音に新たな感情が混じった。好奇心だ。

 

「調査が終わるまでの間、俺が人質になります。」

 

「!?」

 

「ちょっ――」

 

火天とカンナが思わず割って入りそうになり亮に目線で止められる。

 

「俺は陰陽師です。大した名はありませんが、それでも人類にとっては極めて貴重な陰陽術の適性の持ち主です。俺が人質になればここにいる仲間たちだけでなく陰陽寮が動きます。」

 

「ずいぶん自己評価が高いみたいだけど、陰陽寮や仲間が君を見捨てたらどうするんだい?僕はいつまでも待ちはしないよ。」

 

「俺は陰陽寮と仲間を信じています。だから命を賭けられる。俺の自惚れなら命で責任を取ります。」

 

「へぇ。」

 

(西賀さん、そう来たか。)

 

かなり苦しい言い分に聞こえる。自分が大ミミズク様なら多分信じない。姑息な誤魔化しとは思われないだろうが「君にそんな責任能力があるようには見えない」と反論されたらそれまでだろう。

 

大ミミズク様がしばし思案する。普通のミミズクのように首をあちこちに回しながら「うーん」とたまに声を出す。動くのは首だけで、冠も、翼に抱えられた仲間たちも微動だにしない。

 

やがて、大ミミズク様が亮と他3人を優しく地面に降ろす。

 

「西賀亮。残念ながら説得力皆無だ。君は交渉人に向いていないよ。」

 

「そんな––」

 

亮の顔が引きつる。

 

「でも信じるよ。」

 

「えっ?」

 

お次はぽかんとする亮。

 

「はぁ?」

 

ここまで緊張した面持ちで無言を保っていた火天が思わずこぼす。

 

「君の話は面白かったよ。大した陰陽師でもなさそうなのに、陰陽寮を動かせるとか、自分の命で責任を取れるとか思いこんでるその無知と傲慢さが気に入った。」

 

「はぁ……。」

 

「さて、この人たちにもそろそろ起きてもらうか。」

 

大ミミズク様が紅葉、アヤノ、ナタクの上に羽をかざす。羽から3つの光球が降り注いで3人に吸い込まれる。途端に3人が飛び起きた。

 

「はっ!」

 

「えっ?」

 

「2人を放せぇ……んっ!?」

 

「聞くんだ。陰陽寮の客人たち。」

 

大ミミズク様が語り掛ける。

 

「100日の猶予を与える。禁域に侵入しゴミを捨てて逃げた不届き者を突き止めて責任を取らせるんだ。君たちが仕事をサボらないよう、西賀亮の身柄はこちらで預かる。乱暴に扱うことはしないが、100日経って納得がいく進展が無ければ命は保障できない。」

 

「亮を食べる気だな!」

 

ナタクが食って掛かる。

 

「それはしない。僕は菜食主義だ。」

 

「サイショクシュギ?」

 

「肉を食べないということだよ。」

 

「それって亮は食べないってことか?」

 

「……西賀亮。この子は僕をおちょくってるのか?」

 

「決してそのようなことは!俺の式神が大変な粗相をしてしまい申し訳ありません!」

 

亮が勢いよく五体投地して詫びると、ナタクも己の失言を察したのか亮の所作を真似る。

 

「……まあいいよ。顔をあげて。人間は個体間で知能の差が大きいことは知っているから気にしない。それより村長。」

 

コネに目線を戻す大ミミズク様。

 

「君が無断で部外者を連れてきたことは侵入者の件とは別問題だ。きっちり責任を取ってもらう。」

 

「もちろんです。」

 

「契約では部外者諸共死んでもらうことになってるんだけど――」

 

「えっ。」

 

「安心してくれ。君は若いし責任感もありそうだ。祖父と父親を亡くしたばかりなのに体調不良を押して来てくれんだろ?その意気込みと新村長の就任祝いとして罰を減じよう。」

 

「お慈悲に感謝いたします。どのように償えばよろしいでしょうか?」

 

「唄だ。」

 

「唄?」

 

「そう。唄を捧げてくれ。新曲を頼むよ。」

 

頼むよと言われてもコネは潜毒に冒されている。咳止めが効いているので会話に支障は無いが声はガラガラでとても唄える様子ではない。

 

「コネの調子が悪いなら君たちでも構わない。コネの手伝いに来たんだろ?外の唄を聞かせてくれ。そうだ、君。」

 

「私ですか?」

 

「そう。君、名前は?」

 

「蒼澄カンナです。」

 

「蒼澄カンナ。君の声はとても美しい。唄は得意かい?」

 

「唄の稽古をしていた時期がありますので、並の人よりは上手いはずです。」

 

「素晴らしい!では君の唄を聞かせてくれないか。」

 

(ええ……何この流れ。)

 

とても唄いたい気分ではない。だが、亮の命を張った交渉で何とか軟着陸できそうなこの状況で断るわけにもいかない。

 

「大ミミズク様の期待に応えられるよう微力を尽くします。」

 

「よし、じゃあ君を舞台へ連れて行こう。」

 

「舞t––」

 

疑問が口から出るよりも早く、カンナは空を飛んでいた。

 

(!?)

 

いつの間にか大ミミズク様の足に掴まれていたらしい。一度の羽ばたきで空からの景色を眺める間もなく六合目の森に到着する。

 

大ミミズク様に導かれ、崖に掘られた大きな洞穴に案内される。

 

「諸君。これから音楽鑑賞の時間だ。外してくれ。」

 

大ミミズク様が洞穴にそう呼びかけると、色々な動物やら鳥やらが洞穴から出てきて走り去っていく。

 

「ようこそ、僕の家へ。」

 

中は綺麗なドーム状にくりぬかれている。大ミミズク様の術で構築された結界が土砂を内側から押しのけることで洞穴になっているらしい。天井に光り輝く実をつけた植物の蔓や枝が生い茂ってほんのりと明るく、温度も湿度も過ごしやすい。ミナカタからの貢物と思われる家具や装飾品が立ち並び、奥には食糧庫や小さな滝まである。

 

大ミミズク様が冠を外し、檜で出来た棚にそっと仕舞う。

 

「滝は人間でも飲める綺麗な地下水だから喉が渇いていたら飲んでくれて構わない。準備が出来たら得意な唄を披露してくれ。個性的な唄が良いな。音痴でも構わないけど、とにかく真剣にやってくれ。手を抜いたら僕には分かるからね。」

 

巫女や祈祷師でもあるまいし、まさか霊獣に唄を捧げる日が来るとは思いもしなかった。歌唱力には自信があるが、大ミミズク様の好みに合うのかはわからない。

 

(ここで躊躇っても状況を悪くするだけだな。さっさとやろう。)

 

滝の水で喉を潤し簡単な発声準備を行うと、大ミミズク様が念力で岩を積み上げて用意したお立ち台に上がった。

 

「私はここより遠く南西にあるシジョウという街の生まれです。地元の伝統的な民謡である『共に歩む』という唄を披露させていただきます。」

 

「いいね。民謡は好きだよ。」

 

歌うのは6年ぶりだ。14歳の時に地元(シジョウ)の歌唱コンクールに出場し『共に歩む』を唄って3位になったことがある。歌い終えた時には「絶対に自分が優勝だ」と確信していたが、10歳にして既に歌手として生計を立てている芸能人の双子に1位と2位をかっさらわれた。他人と何かを競って負けたのは人生初のことだったが、2人の唄のあまりの美しさに感動して号泣してしまい、悔しいという感情すら湧いてこなかったのを今でも思い出せる。

 

(私が守る。)

 

ただの女の子だったころの美しい思い出。だが、今は邪魔だ。脳裏の奥深くに押し込める。今の自分は亮とミナカタの明日を背負う身だ。

 

(私が勝つ。)

 

緊張が消える。『共に歩む』は重めの曲だが、今の状況なら軽やかな曲よりもかえって歌いやすい。大丈夫、蒼澄カンナは本番に強い人種だ。

 

大ミミズク様の目を見つめる。広いホールにただ一人の観客。軽く深呼吸をするとカンナは歌い始めた。

 

「我等敵に背を追われ 艱難辛苦の旅路を辿り来ぬ

久しき道の果て 深き山にて異邦の友よ 汝と相見えたり

共に獲物を追い 共に田を耕し 共に剣を振るい 共に亡国の悲哀を分かちぬ

故郷を偲びて千夜を泣き明かすとも 悲嘆の淵は浅らぐことなし

然れど友よ 移ろふ時の流れに身を委ね また曙の光を追いて新たなる道を開かん

また困難なる旅路を往かん時には 友よ 共に歩まむ 共に歩まむ」

 

洞穴に自分の唄が反響する。まるで歌劇場のように音の通りがよく、それでいて音同士が互いに干渉し合わない。もしかすると大ミミズク様は本当に音楽好きで、意図してそういう設計の洞穴を作り上げたのかもしれない。コネの家に音楽関連のグッズが多かったことをふと思い出す。

 

大ミミズク様がこちらを見つめている。卓越した洞察力の持ち主であるカンナにも大ミミズク様の考えは読めない。もう一曲求められた時に歌う曲を考えつつ、ブーイングを喰らった時に即座に土下座できるよう膝の力を抜く。

 

「歌詞を解説してほしい。」

 

「『共に歩む』の歌詞はシジョウの黎明期を表しているとされています。700年前、シジョウが位置する大陸西部は戦乱の時代でした。シジョウはその頃、海向こうから戦火を避けて亡命してきた渡来人が隠れ潜んでいた集落に、大陸の敗戦国から逃げてきた難民が受け入れられて出来た街です。渡来人と大陸人が苦楽を分かち合う中で友情を深め、亡国の悲しみを乗り越え共に未来へ進むことを決意したことが表現されています。」

 

「なるほど。歴史背景を踏まえると大陸人が自分たちを受け入れてくれた渡来人への感謝の思いを述べた歌詞ともとれるね。」

 

「仰る通りです。渡来人の祖国はもう滅びて存在しないのですが、シジョウでは渡来人由来の文化や技術を継承する活動が盛んです。」

 

「やっぱり外の話は興味深いな。この唄を選んだ理由があれば聞かせてよ。」

 

「恐れながら、大ミミズク様に灰色の山に受け入れられたミナカタの人々と、渡来人の集落に受け入れられた大陸人が似ていると感じたからです。どちらも異邦の地で育った存在に受け入れられ、その恵みにより数百年の歴史に残る人里を創り上げました。ミナカタと大ミミズク様の問題が一刻も早く解決し、また『共に歩む』日々が戻ることを祈りつつ唄いました。」

 

「素晴らしい!」

 

大ミミズク様が左右の翼で拍手のような動作をする。どういうわけか、本当にぱちぱちという拍手の音がする。歌唱コンクールを思い出し、思わず深々とお辞儀してしまう。

 

「聞かせる唄だったよ、蒼澄カンナ。君には感謝している。」

 

「ありがとうございます。お楽しみいただけたようで何よりです。」

 

「西賀亮は100日間空腹にはさせないと約束しよう。コネも本当に面白い人を連れてきてくれたことだし、何か礼をする。」

 

明らかに上機嫌になる大ミミズク様。芸は身を助く。一生の座右の銘にすると固く誓った。

 

「ところで蒼澄カンナ。」

 

「はい?」

 

「君が最初の僕の攻撃を防いだ術、とても変わった術だったね。誰に習ったんだい?」

 

「誰かに習ったわけではありません。物心ついた時にはもう無意識でも使えて、転んでも物がぶつかっても傷一つ負ったことがありませんでした。能力を意識してからは我流で鍛えてきました。」

 

「術に呼び名は?」

 

「私は不可視の鎧と呼んでいます。」

 

「鎧?ふーん、そうか。君は鎧だと認識しているのか。」

 

「私の目にも映らないので鎧の形かはわかりませんが、身を覆うように守るものといえばやはり鎧かなと。」

 

「なるほどね。僕は檻だと思ったけどね。」

 

「檻?」

 

「どうやら気づいてないようだね、蒼澄カンナ。そうだ!君の美声に敬意を表して柄にもなく警告を授けよう。長寿の霊獣らしくね。」

 

大ミミズク様がずいと顔を近づける。

 

「檻越しに感じたんだ。君の内側、内面世界とか無意識としか言いようのないところに、何か危ないものが潜んでいるってね。」

 

「危ないもの、ですか。」

 

「君が鎧と読んでいるものはそいつの害を抑える檻なのさ。そいつを刺激せず、そいつが外に悪さをしないための、ね。」

 

「不可視の鎧が檻……考えたこともありませんでした。ですが、危ないものとは?」

 

「とても曖昧な存在だよ。そいつを表す語彙を僕は知らない。」

 

「……。」

 

「かえって混乱させたかもしれないけど、君は賢そうだから僕の言葉を覚えておけば自ずと答えにたどり着くだろう。」

 

「ありがたいお言葉に感謝します。心に刻みました。」

 

身に覚えが無いというのが率直な感想だが、毎晩見る悪夢や、ナクサに来てからはとんと聞かなくなった幻聴など、自分でもわからない自分がいることは事実だ。

 

(300年も生きてる偉大な霊獣には私みたいな小娘には分からない微妙なものまで感じ取れるのかもしれないな。)

 

そう受け止めた。

 

「さて、これで君は役目を果たしたわけだから元の場所に送り返そう。だが、その前に君たちの捜査に必要な物を渡す。」

 

「侵入者が捨てていったゴミですね。」

 

「その通り。これを持っていきなさい。返さなくていいよ。」

 

大ミミズク様が棚から取り出したのは5つの箱。中を開けると――

 

(黒い人型?)

 

黒く塗装した木材を削って作ったかのような人型が入っていた。

 

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