あやかしランブル!~蒼澄カンナ伝:私の家がなんかデカい穴に呑み込まれてるんですけど……~   作:吾輩はもぐらである

65 / 67
第六十四話:仮説

ラクドウ東部第一警察署の第一大会議室。赤猿組・黒城会壊滅作戦の関係者が詰めかけている。

 

ラクドウ警察からは赤猿組・黒城会壊滅作戦合同班の全班員を始めとする関係者が128名。どいつもこいつも犯罪者顔負けの凶相である。陰陽寮からは葛の葉、北別府、央元、イズナ、オモイカネ、研究部門の研究者2名。そしてラクドウの地元紙である「ラクドウ政経新聞社」から記者の赤城。

 

会議の司会は作戦の責任者である岩井テツ。

 

「では次の議題に移りたいと思います。陰陽寮さんより脇差に関する調査の進展を共有いただきます。お願いします。」

 

「陰陽寮研究本部第二研究部主任研究者の伊良部アキトより報告します。」

 

30歳前後のいかにもインテリといった風貌の男が立ち上がる。

 

「錆びついていた脇差の復元、及び能力の解析に成功しました。」

 

警察関係者がどよめく。「早い」「さすがは陰陽寮だ」と驚きを声に出す者も多い。

 

「脇差には所有者の決まった発声、具体的には『切り裂け弟切草』と唱えることで、脇差に込められた霊力を消費して敵1人の臓器を直接攻撃する呪術が備わっていました。」

 

「やっぱりだ!」

 

「昔シジョウの紅連会がシノギにしてた偽弟切草だ!」

 

「やっぱり黒城会が噛んでるぞ!」

 

警察関係者が興奮を隠せないといった様子で騒ぎ出す。

 

「みなさん静粛にお願いします。伊良部先生のお話はまだ途中ですので。伊良部先生、失礼しました。続けてください。」

 

「岩井様、ありがとうございます。いわゆる偽弟切草は黒城会が発明し、シジョウの紅連会や今回の赤猿組といった配下の組織を通じて商売に用いられていたと事前に共有いただいています。過去に押収された偽弟切草を調査させていただければ、発明に用いられた術の特性について更なる有益な情報を提供できます。」

 

「シジョウ警察と連携して偽弟切草を陰陽寮に提供できるよう取り計らいます。異議のある方は挙手願います。」

 

会場が沈黙で賛意を示す。

 

「決定ということで次の議題に移ります。黒い人型についての調査の進展を陰陽寮さんより共有いただきます。」

 

オモイカネが立ち上がる。

 

「ナクサ本部西賀亮班に所属しているオモイカネです。今回解析依頼を受けた黒い人型は呪物であると断定します。」

 

「呪物というと、ここに持ち込んでも問題無いものでしょうか?それと、どのような呪術に用いられるものでしょうか?」

 

最後尾で聞いていた記者の赤城が質問する。

 

「今回押収した呪物は解呪したので無害です。黒い人型に込められていた呪術ですが、自然界の霊力の流れに沿って呪いを振り撒き、呪われた人に風邪や肺炎のような症状を引き起こさせる、あるいはそういった症状を引き起こす菌への免疫を低下させるといった効果があるものと推測します。」

 

またしても警察関係者がざわつく。

 

「生物テロやんけ。」

 

「どこのボケがんなもん発明したんや!これも黒城会か!」

 

「静粛に、みなさん静粛に!」

 

岩井がイラついた口調で会場を鎮まらせる。

 

「落ち着きのない連中ばかりで申し訳ない。1つ質問ですが、黒い人型を効率的に探索する方法はありますか?我々としてはこいつを使った悪事をいち早く発見し、できれば未然に防ぎたいので。」

 

「その質問にお答えするためにまずお伝えしたいことがあるのですが、黒い人型には耐用年数のようなものが存在すると考えられます。」

 

「ほう、耐用年数?」

 

「はい。個々のばらつきが非常に大きいですが、短いもので7日、長いもので120から140日ほどは呪いを発し続けます。呪いの強さも個々のバラつきが大きいです。呪いを振り撒いている人型は呪術の専門家ならば探せます。ですが、耐用年数を過ぎた人型はただの物なので探索は困難です。」

 

「要は動いているやつ以外は探せないと……厄介ですな……。」

 

「岩井殿。ナクサ本部西賀亮付の陰陽師補佐イズナだ。探索方法について提案がある。」

 

「おお、ありがたい。ではイズナ先生、提案内容の説明を。」

 

イズナが立ち上がる。

 

「陰陽寮に所属するスクナビコナという薬師が新垣製薬に出向してワクチンと治療薬の開発に携わっておる。スクナビコナによると、潜毒菌は健康な人間の免疫を突破する能力がなく、今起きているほどの大流行を引き起こすとは到底考えられんらしい。」

 

「確かに潜毒がこれほど大陸広くで流行しているというのは細菌学や疫学的に考えづらいと新聞等でよく騒がれていますが……今その話をされたということは、まさか――」

 

「そのまさかだ。黒い人型が大量に製造されて各地にばら撒かれ、潜毒の大流行を引き起こしている可能性がある。」

 

三度会場がざわめくが、岩井の一睨みで今度は静かになる。

 

「陰謀論かと思う者も多いかと思う。だが根拠があるのでまずは聞いてもらいたい。陰陽寮は最近、タバとミナカタという2つの人里で発生したトラブルを解決した。トラブルの内容はどちらも同じで、人里近くにある霊獣の縄張りでゴミが見つかったために霊獣の怒りを買ったというものだ。」

 

岩井がはっとした表情でイズナと目を合わせると、イズナもうなずく。

 

「そうだ。霊獣の縄張りに捨てられていたゴミとは黒い人型だった。そしてタバとミナカタは大陸で最も潜毒が流行している地域だ。」

 

会場が四度目のざわめきを見せる。

 

「黒い人型が潜毒の大流行を引き起こしていたのか!?」

 

「何てことを考えやがる!」

 

「潜毒が流行っている地域を調べて黒い人型が見つかれば確定だ!」

 

今度は岩井も騒ぎを鎮めない。「なんちゅうことを……」と呟き、口をあんぐり開けている。

 

「誰かが発言したが、潜毒の流行地域から黒い人型が見つかれば仮説の強力な裏付けになるはずだ。陰陽寮の組織力を活かして主要な潜毒流行地域から虱潰しに探索して行き――」

 

▽▼▽▼

 

イズナの仮説は当たっていた。潜毒の感染が多発していた地域を調べると、必ずと言っていい程黒い人型が数個見つかったのだ。

 

ラクドウ警察の厳しい尋問に耐えかね、赤猿組の構成員が黒い人型は黒城会が赤猿組の構成員やどこの組織にも属さないならず者を使って各地にばら撒いたことを吐いた。黒城会が実質的に支配するフロント企業が保有する医療関係の株価を吊り上げること、社会不安を煽ることで黒城会が得意とする霊力詐欺やインチキ霊具のシノギを拡大することが感染拡大の狙いである。

 

また、陰陽寮の調査でラクドウやシジョウで過去に押収された偽弟切草が赤猿組の構成員が持っていたものと同一のものであることも判明した。ラクドウ警察の情報と併せることで、黒城会が紅連会や赤猿組といった下部組織の構成員を偽弟切草で武装させて使役する関係が浮かび上がってきた。

 

葛の葉は黒城会のこのやり口を「これほど大規模かつ悪辣な方法で霊術を悪用し私服を肥やす組織は1000年生きてもそうお目にかかれない」と徹底的に糾弾し、「陰陽寮は黒城会に抵抗するあらゆる治安組織への協力を惜しまない」という声明を各地の新聞社に片っ端から送付した。黒城会の反発は凄まじく、西部第二支部に爆発物が投擲され、葛の葉の元には1週間で100を越す殺害予告が届いた。

 

黒い人型の真相が明らかになり実行犯も逮捕されたことで亮は大ミミズク様の元から解放された。酷遇されていないかを心配する者も多かったが、そんな不安を吹き飛ばすかのように心身共に健康な姿でナクサに帰還した。

 

「毎日3食美味しい果物や野菜を食べて過ごしてたからむしろ食生活は普段より豊かだったよ!晴れの日は川で泳いだり釣りをしたりして、天気が悪い日は大ミミズク様と将棋をしたり本を読んだりして、後はひたすら筋トレと昼寝して過ごしてたから。」

 

どうやら亮にとっては素晴らしい夏休みだったらしい。日焼けして肌艶が良くなっており、声にもハリがある。

 

「ご主人、それ何ですか?」

 

「これ?大ミミズク様の木彫りの像だよ。ミナカタのお土産。」

 

「わー、可愛いっス!」

 

「これは1000分の1スケールなんだよ。」

 

「ええーっ!?じゃあ実物はおっきいんっスね。」

 

「そうそう。大きいんだけどものすごく器用でさ。大ミミズク様は翼の先でモノを掴めるんだけど、将棋の駒なんかも人間みたいにひょいっと持ち上げちゃったりして––」

 

大ミミズク様グッズを見せびらかしながらミナカタの思い出話を披露する亮。無垢な笑顔からは大ミミズク様への悪感情など微塵も感じ取れない。良い扱いをしてもらったのだろうとひとまず安心する。

 

「カンナ、ありがとうね。」

 

「えっ?私何かしましたか?」

 

「俺の扱いが良いのはカンナのお陰だって大ミミズク様が言ってたよ。カンナの唄が無かったら食事は1日2食までで良い釣り場は教えてやらなかったって。」

 

「そういうことですね。」

 

「ほぅ?随分と元気そうで安心したぞ、亮。」

 

喜色満面の亮にイズナが苦い現実を突きつける。

 

「お主がいない間にたまった決済の書類が9つ、始末書が11つもあるぞ!ミナカタで養った英気を存分に発揮するといい!」

 

どさっと分厚い書類の山を突きつけるイズナ。青ざめる亮。

 

「ミナカタに帰りたい……。」

 

誰にも聞こえない小声でボソッと呟く亮なのであった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。