あやかしランブル!~蒼澄カンナ伝:私の家がなんかデカい穴に呑み込まれてるんですけど……~   作:吾輩はもぐらである

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間が開いてしまいましたが必ず完結させます


第六十六話:Yume in dreamworld #3

「ぐぁっ。」

 

幻聴と共に一瞬僅かな頭痛が走る。シジョウの惨劇後にカンナが頻繁に体験した「あれ」の再発である。

 

(うわっ、本当に久しぶりだな!ナクサに来てからは初めてだ。もう完全に存在を忘れてたのに今更再発するなんて。)

 

相変わらず、痛みも幻聴も一瞬で跡形もなく消え失せる。シジョウに居た時と同様、特に気にしないことにしたのだが、どういうわけか頻度は上がっていく。幻聴を繰り返す内にカンナはこれを大ミミズク様の警告と結び付けて考えるようになっていた。

 

『檻越しに感じたんだ。君の内側、内面世界とか無意識としか言いようのないところに、何か危ないものが潜んでいるってね。』

 

とはいえ、警告と幻聴に関係があるというのは根拠の無い推測である。陰陽寮の健康診断で異常を指摘されておらず、体感的にも体調は良好なので、他に心当たりがないだけだ。

 

(無意識の世界に何かいるって、何かって何よ?それとも実は私は多重人格で精神病質カンナ、凶悪カンナみたいな人格があるとか?だいたい無意識の世界ってどこ?脳?それとも悪夢のこと?)

 

あれこれ悩んでも「今の私には解けない問いである」という結論に至る。症状は軽微で、例えばマガツヒとの戦っている真っ最中に発症しても戦闘に支障は無い。現状の実害は「薄気味悪い」だけである。カンナも暇ではないので、解けない問題にいつまでも取り組むことはできない。結局、昔と同様に「何か大きな問題の前触れでないことを祈りつつ無視する」という対処しか取りようがなかった。

 

「ぐあっ」

 

今日も執務室で書類仕事をしている最中に幻聴が再発する。気にせず仕事を再開しようとするが――

 

「カンナ、体調が悪いのか?」

 

カンナのわずかな変化を見逃さなかった鬼一法眼に声をかけられる。

 

「頭痛と、それと幻聴ですね。」

 

カンナが頭痛と幻聴のことを詳しく説明すると、鬼一法眼は腕を組んで何やら考え事をし始め、何らかの答えに行きついたらしい。

 

「うむ。カンナ、今夜我の家に泊りに来なさい。」

 

というわけで、夜になると自宅に着替えを取りに戻ってから鬼一法眼の家へ向かう。ユメもいた。随分珍しい組み合わせだ。

 

「カンナ。我がユメと共に其方の夢に潜る。準備せよ。」

 

開口一番、鬼一法眼が有無を言わさぬ口調で宣言する。

 

「先生が私の夢に、ですか。」

 

「うむ。実は我も他者の夢に入る秘術を身に着けている。」

 

「な、なるほど。」

 

武術をどう磨けば他人の夢に入れるようになるのかは見当もつかないが、鬼一法眼に言われると「出来るものなのだろう」と思わされる。

 

「先生は私の夢でどういったことをされたいんですか?」

 

「カンナの中に潜む危うきものの正体を確かめる。」

 

鬼一法眼がカンナと初対面の時から感じていた危惧を語って聞かせる。

 

「法眼先生もそのように考えられていたんですね。実はミナカタで大ミミズク様という霊獣にも同じようなことを言われました。私の中に何か危ないものが潜んでいる。不可視の鎧はそれを閉じ込める檻だと。」

 

「そうか。恐らくそれはカンナが毎晩見る悪夢や頭痛と幻聴と無関係ではないだろう。大事になる前に正体を突き止めるべきだ。」

 

「放っておくと大事になりますか?」

 

「わからぬが可能性はある。事の深刻さを確かめるのも今回の調査の目的だ。」

 

「それはありがたいのですが……」

 

大ミミズク様と鬼一法眼が口を揃えて何かあると言うなら何かあるのだろう。誰かに頼るべき問題とは分かっているが、前にユメを怖い目に遭わせているので気乗りしない。

 

「ユメは良いの?また夢の世界で私に襲われるの嫌じゃない?」」

 

「お気になさらず。まだジュソウでの恩を返せていないので、やる気満々ですー!」

 

ユメがキリッとした表情を浮かべて見せる。

 

「安心せよ。ユメは我が責任をもって護衛する。」

 

「先生がそう仰って下さるなら私も安心です。お願いします。」

 

「では早速始めるとしよう。布団に仰向けに寝転がりなさい。」

 

言われた通りにすると、鬼一法眼がマウントポジションをとるように圧し掛かってくる。

 

「目を閉じて、顎を少し高くあげよ。」

 

「こうですか?」

 

「ああ。力を抜いて。それと不可視の鎧を解いてもらえるか?」

 

「はい。」

 

不可視の鎧を解く。攻撃を受けると無意識でも勝手に出現する不可視の鎧だが、出ないよう念じれば出現を防ぐことができる。

 

(ん?法眼先生は一体何を――)

 

「御免!」

 

鬼一法眼の不意打ちがカンナの顎を打つ。

 

「ヴっ。」

 

失神するカンナ。

 

「よし。」

 

「あっ、あのー?」

 

「どうした?」

 

「どうして殴り倒したのでしょうか……?」

 

怯えた表情でユメが尋ねる。

 

「カンナが起きていては夢に入れぬではないか。」

 

「眠らせるなら私の催眠術でも問題ないのでは……?」

 

「ん?……あっ!」

 

豆鉄砲を喰らった鳩のような表情で硬直する鬼一法眼。気づいていなかったらしい。

 

「……。」

 

「……。」

 

「……潜りますか。」

 

「う、うむ。」

 

いくばくかの気まずさを引きずったまま2人は夢の世界に飛び込む――

 

▼▽▼▽

 

夢の世界へと続く扉だけがぽつんと存在するはずの空間。だが、なぜか扉が存在しない。

 

「ユメ、こっちだ!」

 

鬼一法眼がユメを抱き寄せる。ユメはまだ何も察知していないが、鬼一法眼は何かを感じ取っているのか表情は険しい。

 

「用心せよ。不穏な気配がする。」

 

「ほひひ……。」

 

果たして、例の笑い声が響く。

 

「!」

 

前回味わった恐怖を思い出しユメが身震いする。鬼一法眼がユメを強く抱きしめる。

 

「案ずるな。何があろうと我がユメを――」

 

ユメが聞き取れたのはそこまでだった。得体のしれない大きな力に囚われ、どこかへ連れされられる――

 

▼▽▼▽

 

ユメは椅子の上で目覚めた。

 

「はっ!」

 

首を回して素早く周囲を確認する。

 

強い薬品臭。天井や床に飛び散った赤黒い液体の跡。天井に取り付けられた壊れかけの照明。またしても牢にいるらしい。なぜか部屋の形状や照明の数が前回とは微妙に違うが、椅子に拘束されて動けないのは前回と同じだ。念のため能力で拘束具を外そうとするが外れない。

 

(ということは……)

 

恐る恐る扉についた覗き窓を見ると、やはり誰かがこちらを凝視している。

 

扉がゆっくりと開く。そこにはカンナが立っている。右手に金槌、左手に釘を何本も握りしめている。

 

「ほひひ……。」

 

例の笑い声を発するカンナ。

 

(これがカンナさん……?)

 

醜悪な笑みに身震いしそうになる。カンナが牢へ足を踏み入れようとした時――

 

「止まれ、外道!」

 

鬼一法眼の鋭い声と共に何か大きな物が飛んできてカンナを吹き飛ばす。

 

「っきいいぃぃぃ!」

 

猿のような甲高い悲鳴をあげるカンナ。牢の外で戦いが始まるが、数秒ほどで静まり返る。

 

「ユメ、無事か?」

 

鬼一法眼が牢に入ってきて素手で拘束具を破壊する。

 

「はい。」

 

「ヤツは倒した。」

 

牢を出ると広い通路が広がっている。通路を挟んでいくつか独房が互い違いになるよう向き合って設置されている。通路の床には鬼一法眼が投げつけた椅子の残骸が散乱し、カンナは首をへし折られ口から血を流して倒れている。

 

「カンナさん……!」

 

「こ奴はカンナではない。」

 

鬼一法眼が断言する。

 

「カンナは左利きだ。」

 

「あっ!そういえばこの人、凶器を右手に持っていました。」

 

「そもそもカンナがこんなに弱いはずがない。いかに我とてカンナを容易くは倒せぬ。」

 

「だとするとこの人は一体……?」

 

「分からぬ。だが救いようのない外道なのは間違いない。だからこそ其方も、こ奴が他者を害さないよう封じ込めていたのだろう?」

 

鬼一法眼が目を向けた先。いつの間にか骸骨が立っている。

 

「あっ……。」

 

色褪せてボロボロの蒼い着物を身にまとった骸骨。前回見たあの骸骨で間違いない。190cmに達しようかという長身だが、骨盤の形状から女性であることが見て取れる。

 

「カンナ。我は其方を救いに来た。」

 

鬼一法眼が骸骨に語りかける。

 

「信じよ。我は負けぬ。」

 

ユメの目には一瞬骸骨が頷いたように見えた。

 

壁。床。天井。目につくありとあらゆるものから黒い炎が生じた。倒れたカンナからも。そして鬼一法眼とユメと身体からも。

 

「一瞬ピリピリしますけど熱くないですね。」

 

「恐らくカンナが敵と見なした対象だけを攻撃する術なのだろう。」

 

不思議な光景だった。周囲が黒い炎に覆われて暗黒の世界と化すが、それでも骸骨と鬼一法眼の姿がはっきり見える。熱を感じず呼吸に支障もない。

 

「ユメ、心せよ。真の敵はこの先にいる。」

 

ありとあらゆるものが黒い炎に覆われ、空間が壊れていく――

 

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