あやかしランブル!~蒼澄カンナ伝:私の家がなんかデカい穴に呑み込まれてるんですけど……~ 作:吾輩はもぐらである
カンナは陰陽寮で西賀亮の採用面接を受けていた。
面接を担当するのは陰陽師の西賀亮、陰陽師補佐のイズナ、式神の小狐丸の3人。
西賀亮は事前に聞いていた通り若い陰陽師である。見た目は20代前半、中肉中背に見えるがかなり身体を鍛えていると思われる。愛嬌のある童顔で、よく躾けられた人懐っこい子犬といった印象を受けた。彼が大黒天がいう未完の大器なのかどうかは分からないが、安全で親しみやすい人物なのは間違いないだろう。
イズナは妖狐のアヤカシである。年齢は不明。妖狐のアヤカシは基本的に寿命が長く、しかも寿命の大半を若々しい姿で生きるので、外見で年代を判断しようがないのだ。偉そうなしゃべり方で2人称がおぬしなのがちょっと面白い。小柄で華奢なので子供っぽく見えるが、高難度の試験をパスしないとなれない陰陽師補佐をやってるだけあって、知的な人物であることが察せられた。
小狐丸も妖狐のアヤカシである。白地に赤と黒の柄が入った着物を身にまとい、腰には刀を引っ提げている。かなりの使い手であることが見て取れる。イズナもそうだが、妖狐の典型的な身体的特徴であるふさふさモコモコの尻尾が目を引く。陽気で人当たりが柔らかく、堂々として落ち着いている。どんな集団でもたくさん友人ができる人気者という感じがした。
面接は和やかな雰囲気で進行していた。長机を挟んでカンナの正面に西賀亮が座り、両脇にイズナと小狐丸が座っている。履歴書の内容を元にカンナの技能や経験について深掘りされた後に、事務員が言った通り技能を実演する機会があった。
「ここに串と金槌があります。」
カンナは面接に来る前に買ったBBQ用の串一ダースと日曜大工用の金槌を取り出した。串が金属でできていることを3人に確かめさせた後、机に金槌を置き、串を束ね、机に置いた自分の手のひらに刺し口を突き立てた。
「どなたか金槌で串を思いっきり叩いてもらえますか?」
「「えっ?」」
西賀亮とイズナが少し驚いた声を上げる。
「私がやりましょう。」
小狐丸がためらうことなく金槌を串の持ち手側に振り下ろす。串の刺し口はカンナの手のひらを傷つけることはなく、「ごん」と固いものにぶつかったような音を立てて跳ね返された。
「「おおっ!」」
またも西賀亮とイズナが少し驚いた声を上げる。特技を披露しがいがある観客だ。
「……ご覧の通り、瞬間的に霊力の障壁を展開して全身を守ることができます。『不可視の鎧』と私は呼んでいます。銃で撃たれても至近距離で爆弾が爆発しても問題ありません。」
この手の能力を使えるアヤカシは少ないはずだ。防御系の霊術には物体を操作して盾にするものが多い。
「もう1つ。私は
「ふうっ」と息を吐き、金槌の頭を左手で握りしめる。2秒ほどして手を開き、握力でひしゃげさせた金槌の頭を3人に見せつける。
「おおっ!」
合間を開けず、束ねた鉄串を左手の人差し指と中指の手刀でまとめて真っ二つに切断してみせる。
「発鬼はおおざっぱに言うと霊術で身体のリミッターを解放する技です。馬鹿力を発揮する以外にも、視神経を強化して動体視力を上げたり、痛みを消したりできます。」
肉体派のアヤカシは多かれ少なかれ似たようなことをしているが、リミッター解放と言えるほど爆発的に身体能力を向上できるアヤカシは少ない。
「お見事!近くで見ていても霊術を行使する予兆が全然見えなかったです、いやぁ凄い!」
小狐丸が拍手する。さすがに剣術の達人だけあってか着眼点が鋭い。驚きのあまりポカンとしてた西賀亮とイズナも小狐丸に釣られてぱちぱちと拍手し、お披露目会は終了した。見栄えが良く、他のアヤカシと被らなそうな技を披露したが、悪い選択ではなかったようで安心した。
「では次の質問になりますが、蒼澄さんが式神になろうと考えた動機を改めて教えていただけますか。」
西賀亮が問う。
「シジョウを救うためです。「
西賀亮、イズナ、小狐丸が軽く肯首して同意を示す。
シジョウの惨劇でシジョウを急襲したのは「黒蝗」「笑い女」の通称で呼ばれる、2体の名前付きのマガツヒである。
黒蝗は推定200億匹とされる大群で行動する神出鬼没のマガツヒである。目についた人間に片っ端から襲い掛かり、顎から有毒な瘴気を注入して瞬く間に衰弱死させる。これだけでも恐るべき脅威だが、黒蝗には群れの数がある程度減ると殺戮を中断して一目散に逃走し、おまけに時間が経つと死んだ個体が蘇る再生能力まで持ち合わせている。シジョウの惨劇より前から観測事例があったマガツヒだが、出現する度に人里の人間をほぼ皆殺しにしており、陰陽師と式神にも複数の戦死者が出ている。陰陽寮にとっては近年で最悪の宿敵である。
笑い女は城と見まがう巨大なしゃれこうべに羽根を生やしたような姿をしたマガツヒである。シジョウの惨劇で初めて観測された。黒蝗の襲撃直後、唐突にシジョウ富士の麓から出現した。笑い女は街北部を蹂躙した後、シジョウ富士の麓に異界へ続く穴を出現させ、黒蝗と共に中へと姿を消したという。未知の部分が多いマガツヒだが、生存者の多くが「女の笑い声のような鳴き声を発していた」「しゃれこうべの頭部に女性のものと思われる髪を振り乱していた」と証言したことから笑い女と呼ばれている。
「おぬしの言う通りだ。例の穴はそもそも陰陽寮の封印部隊と研究者以外は接近を禁止されている。仮に異界に突入する方法が見つかったとしても、未知の異界に大人数を投入するのは危険すぎるから、穴に飛び込むのは討伐任務を担当する少数精鋭だけであろう。」
イズナがカンナの考えを補足する。
現在、異界へ突入する方法は見つかっていない。穴に飛び込んでも黒蝗と笑い女が潜む異界には辿り着かず、穴の反対側の淵から飛び出てきてしまうのだ。陰陽寮は「穴の内部は空間が歪んでおり、異界の入口である可能性が非常に高い。笑い女が異界との接続を切断をしてしまっているため、穴に飛び込んでも異界深部へは辿り着かず排出されると思われる。」との見解を出している。
それから二言三言会話して面接は終了した。
帰り道、カンナは面接でのやり取りを反芻していた。
『蒼澄さんが式神になろうと考えた動機を改めて教えていただけますか。』
(『シジョウを救うため』って答えたけど、3人には私がどう見えていたんだろう。)
シジョウを救う。言うのは容易いが、陰陽寮が2年かけても成し遂げられていない難業である。そんなことを平然と口にした自分は、現役の式神からすれば取り組む問題の大きさも測れない愚かな子供に見えていたかもしれない。はっきり言ってその通りだ。高さも知れない壁を超えた先の景色を望んでいるのだから、我ながら破滅的な無知としか思えない。故郷で鬱々としながら陰陽寮が問題を解決するのを待つ方がよほど賢明なのかもしれない。
(シジョウを救うため……か。)
嘘はついていない。だが、本質的な動機は苦悩に耐えかねただけなのかもしれない。何もかもを失ったカンナには依って立つ柱が、目標が必要だった。シジョウを救済する使命に向けて走っている間は絶望に溺れずに済む。結局のところ、自分は世間知らずで、何もせずに待つことに耐えられない子供に過ぎないのかもしれない。
(それでも……私はやる。)
無知でも子供でも、故郷を絶望から救いたいと願い、行動する権利くらいはあるはずだ。いや、権利など必要ない。やりたいからやる、それだけだ。
大切なものを奪ったやつらが穴の向こうに生きて潜んでいることが許せない。必ずこの手で撃ち滅ぼさなければならない。そのための準備はしてきたつもりだ。シジョウの襲撃からの2年間、マガツヒや犯罪者との戦いに明け暮れ、復興作業の激務に耐え、肉体と精神がへとへとになっても鍛錬を欠かしたことはない。
今日の面接だって、限られた時間でやれる限りの準備はしてきた。陰陽寮の外来窓口の職員をとっ捕まえて時間が許す限り履歴書の添削と面接の練習に付き合わせ、それでも不足を感じたので藤野真に頭を下げて夜遅くまで面接の練習相手をさせた。面接は相当うまくやれたはずだし、十中八九合格したという手ごたえもある。
(私が助ける。)
いつもの呪文を心の中で唱える。シジョウの人々を思い出す。シジョウの惨劇の生存者はその後も過酷だった。失ったものの大きさに耐えかねて精神を病んだり取り返しのつかない過ちを犯した者がカンナの知り合いだけでも何人もいる。問題が解決するのを指を咥えて待つつもりはない。
(私が勝つ。)
無知でも子供でも関係ない。異界に突入するのはこの蒼澄カンナだ。
▽▼▽▼
カンナが去った後、西賀亮、イズナ、小狐丸は陰陽寮の食堂で昼食をとっていた。
「面接の感想はどう?」
西賀亮が厚揚げを突いているイズナと小狐丸に問いかけると––
「「採用確定。」」
2人がほぼ同時に応えた。
「理由は?」
「最大の理由は経験だな。シジョウの惨劇の生存者たちを犯罪者とマガツヒから守り続けた経験は必ず式神としての仕事に活きるだろう。エピソードが現実的だし履歴書に書いてあることは全て事実で間違いない。恐らく即戦力の人材だぞ。」
「私も見た瞬間にビビっと来ましたね。カンナさんは19歳でしたっけ?若いですが間違いなく達人の領域に足を踏み入れた武芸者ですよ、彼女は。」
「後は履歴書の文章と面接での受け答えだな。かなりの準備がなされていたと思うぞ。」
「分かります。しっかりしてましたよね。すごいまともな社会人って感じで。」
大絶賛だ。西賀亮も同じ所感を得ていた。
「あと、めっちゃ美形でしたね。亮さん、可愛い子はもうたくさんいるから次はああいう綺麗で大人っぽい子を集めるんですか?」
小狐丸がニヤっといたずらっぽい笑みを浮かべる。
「亮……おぬし、そんな不純な動機で人材を選んでおるのか?」
イズナはちょっと本気っぽい口調。違うんだよ、俺の式神が女の子だらけなのは原作が美少女ゲームだからで、俺の採用基準に問題があるわけじゃないんだ……。
「顔はさておき、俺も大黒天が『あの子の覚悟は本物』って言ってたから期待しちゃってたんだけどさ、蒼澄さんは期待以上だったよ。絶対に立派な式神になれると思う。面接始めて10分くらいで絶対に採らないとって思ってたよ。」
「知っておる。態度に出ていたし、正直カンナも察していたと思うぞ。」
「えっ、本当に?小狐丸もそう思う?」
「あの子は洞察力が鋭いタイプだと思いますし、多分気付いていたでしょうね。亮さん、めっちゃ採りたいオーラ出てましたから。」
「気付いてなかったなぁ。まあいいか。今日中に上に提出する書類を書き上げて、帰るついでに蒼澄さんの家に採用通知書出してくるよ。」
「教育係はどうする?」
イズナの言葉に––
「教育係?」
小狐丸がポカンとした顔を浮かべた。
「そうそう、教育係。俺さ、アヤノに『一人分の仕事できてない子たちどうするんですか?放っておくんですか?』って前々から結構怒られてるんだよね。」
アヤノは西賀亮班の式神である。優秀だがかなりがみがみ言うタイプで、契約主にも歯に衣を着せない物言いをする。
「一人分の仕事ができてない子って誰ですか?」
「えっとね……俺の班の式神のほとんど!小狐丸は違うよ?強いし、内勤もしっかりやってくれてるから。だけどさ、ほら、俺の式神でどっちもできる人って言うと……」
「ああ、なるほど。確かに戦い以外も含めてきちんとってなると『うーん、あと少しほしいな』って子が多いですもんね。」
小狐丸が苦笑する。
西賀亮班の特徴として、自分の得意領域以外の仕事が全くといいほどできない式神が異様に多いというものがある。尖った人材と言えばそれまでだが、陰陽寮では基本的に契約している式神の数に応じて陰陽師に割り振られる予算と仕事の量が決まる。そのため、一人分の仕事をこなせない式神がいるとその分他の式神が尻ぬぐいの負荷を強いられるのだ。西賀亮も現状を何とかしたいとは思っているが、自分の仕事だけでも手一杯で手を打ちたくても打てずにいるのだ。
「そう、そういうこと。アヤノには『一人前じゃない式神は計画的にフォローして、これから採る式神はちゃんと教育係を就けて責任もって仕事を教えさせろ』ってめっちゃ言われてるんだよ。」
「それはまぁ……アヤノさんの言う通りですよね。」
アヤノが言うことはたいてい正しいのだ。
「そう。だから色々作戦考えないといけないんだけど、忙しくてできてないんだよね。」
「いっそのことアヤノさんに教育を任せてみたらどうですか?教えるのが上手いですし、なんだかんだ面倒見もなんだかんだ良いから向いてると思うんですよね。」
「良い案だな。」
小狐丸の提案にイズナが賛意を示した。
「うーん、でもアヤノも死ぬほど仕事抱えてるしな。」
「確かにそうだが、アヤノには班の現状を何とかする方に頭を使ってもらった方が良い。案外本人もやりたがるかもしれんぞ。仕事の配分を見直してみよ。」
「そうかな。確かにアヤノなら上手くやってくれそうな気はするな。よし、一度アヤノと話してみるよ。」
式神に性別要件はありませんが、あやかしランブルはDMM/FANZAの美少女ゲームのため、原作主人公(新人陰陽師)と契約する式神は全員見目麗しい女性です。本作では西賀亮が原作主人公に相当します。