0・次、どこ行こうか
資金節約のため雪中キャンプに挑んだ千明だったが、様々なトラブルに見舞われ早々に断念。みんなに宿泊費を肩代わりしてもらい、リン・なでしこと一緒に老舗のペンション・ラディウスに泊まることにした。
陽が暮れる前にペンションへ行くべく、なでしこたちはテントを片づけようとするが、一人だけスキーをしていない千明は考える。
千明は――。
◇
「――なあ。せっかくだから、今からスキーに行かないか?」
「ええ? 今から?」
なでしこが戸惑いの声を上げた。
「今からだと、ペンションに着く前に陽が暮れちゃうよ?」
時刻は午後四時を過ぎたところ。
この時期山梨の日没時間は五時過ぎだが、ここはかなりの山奥であり、恐らくもっと早いはずだ。
ここからペンションまでは徒歩で十五分ほど。スキーをしてから向かうと、日没までにたどり着けないかもしれない。
「それに、天気も心配だ」
リンも空を見上げながら言う。
空はどんよりとした雪雲に覆われており、かなり大粒の雪がちらつき始めている。
風も強く、冷たくなってきた。
「この様子だとすぐに雪が降りはじめる。天気予報は、夜には吹雪になるかもしれないって言ってるし、早めにペンションへ行った方がいいと思うぞ」
しかし、千明としてはそれくらいのことでスキーを諦めたくない気持ちだった。
「ちょっとくらいなら大丈夫だろ? 暗くなってもライトがあるし、多少雪が強くなっても、ペンションはすぐそこだからなんとかなるさ。
それに、あたし一人だけスキーをしていないのは不公平だ。
後になって、みんなで『あの日はみんなでスキーをして楽しかったねー、あははー』なんて話になった時、あたしだけ会話に入れないことになる」
「別にいいだろそれくらい。せっかく雪中キャンプを断念したのに、スキーに行ったせいで遭難してたら、意味が無いぞ」
「やだー、あたしもスキーしたいー。したいしたいしたいー」
千明はごろんと横になり、手足をじたばたさせてアピールする。
「駄々っ子か」
リンはやれやれと肩をすくめ、なでしこと顔を見合わせた。
リンとなでしこは――。
◇
「――しょうがないな」
とリンは言って、なでしこを見た。
「じゃあ、あたしがテントを片づけるから、その間に、二人で行ってくる?」
「え? いいの、リンちゃん」
「まあ、千明の気持ちも判らなくはないからな」
リンはため息をつきながら視線を千明へ移した。
「その代わり、一回滑るだけだぞ?」
「やった、さすがリン。物わかりがいいぜ」
千明はがばっと起き上がると、リンの両手を握ってぶんぶんと振り回した。
「よっしゃ。じゃあなでしこ、サクッと滑ってこようぜ」
「あ、ちょっと待って」
なでしこはスキーウェアの内ポケットからペンションの宿泊チケットを取り出し、リンに渡した。
「ここで待っててもらうのも悪いから、リンちゃんは先にペンションに行ってていいよ」
「そうだな。じゃあ、そうさせてもらうわ」
リンは受け取ったチケットをジャケットの内ポケットに入れ、また千明を見る。
「ホントに一回だけだぞ? 遅くなって遭難しても、知らないからな」
「判ってるって。じゃ、ちょっと行ってくるわ。片付けた荷物は後であたしが持っていくから、ここに置いていってもいいからな」
千明はリンが使っていたスノーボードを借りると、なでしこと二人、スキー場へ出かけて行った。