0・二つのペンション、二つの展開
あおいとなでしこが雑誌の懸賞で当てたペンション宿泊券を使い、『山梨の雪国』と呼ばれるほど雪深い地域にやってきた千明たち。
資金不足からペンションに宿泊せず雪中キャンプを行おうとした千明だったが、次から次へとトラブルに見舞われ早々に断念。みんなでお金を出し合ってペンションに泊まることにした。
宿泊できるペンションはふたつ。
あおいが当てた、最近オープンしたばかりのペンション『ダウンヒル』。
そして、なでしこが当てた、老舗ペンションの『ラディウス』だ。
千明は――。
◇
「――そうだな。せっかくだから、ペンション『ラディウス』のほうにするわ」
千明はしばらく考えた後で答えた。
あおいがどこか面白くなさそうな顔をする。
「なにが『せっかくたから』やねん。どうせ泊まるならちょっとでも高い方に、ってハラか? アキの考えそうなことやな」
あおいが泊まる予定のペンション『ダウンヒル』の宿泊料金は一泊一万五千円。
それに対し、ペンション『ラディウス』は一泊二万円だ。
千明の宿泊費は五人でワリカンするから、一人当たり千円ほど高くなる計算になる。
値段目当てと思われたことに、千明は心外とばかりに反論する。
「別にそういうわけじゃないぞ? ラディウスは古くから営業してるペンションだから、安心の信頼と実績があるからな。雑誌やテレビとかでもよく取り上げられてるし、前からちょっと行ってみたかったんだ」
「確かにラディウスと違ってこっちのダウンヒルはオープンしたばかりやけど、老舗には無い魅力もあると思うで? 料理がおいしいと評判やし、サウナから露天風呂ゾーンに降り積もった雪に直接ダイブする『雪サウナ』も楽しめるそうやしな」
「サウナと露天風呂はラディウスにもあるから、雪サウナはこっちでも楽しめるだろ。料理はこっちの方が豪華そうだし」
「あんたなぁ。宿泊費を立て替えてもらう立場で、普通高い方選ぶか? ほんま常識が無いな」
イヤミな口調で言うあおいに、千明もカチンとくる。
またまた言い争いになりそうな空気を察したのか、恵那が
「まあまあ、あおいちゃん」
と、あおいをなだめた。
「どっちかには泊まらなきゃいけないんだし、アキちゃんが向こうに泊まりたいって言うなら、仕方ないよ」
あおいはまだ言い足りなそうな顔をしていたが、一度深呼吸をすると、
「まあええ、ウチらはウチらで楽しむわ」
と言って、視線を千明から恵那に移した。
「ほな恵那ちゃん行こか。おいしい料理とあたたかい温泉サウナと風呂上りの冷え冷えフルーツ牛乳が待ってるで」
あおいはプイッと背を向け、そのまま行ってしまう。
恵那はあおいの後を追いかけながら振り返り、
「ゴメン、じゃあ、あたしも行くね」
と、あおいたちに手を振った。
「ああ。また明日な」
手を振りかえす千明。
「天気が崩れるかもしれないから、二人とも気を付けてね」
なでしこもリンと二人で手を振って見送った。
「……あおいちゃん、やっぱりアキちゃんと一緒に泊まりたかったんじゃないかな?」
あおいの背中を見つめながら、なでしこが心配そうな声で言う。
「そうか?」
と、千明は首を傾ける。
「イヌ子のことだから、『うるさいヤツがいなくて静かに寝られるわー』とか思ってるぞ、きっと」
「もう、アキちゃんは乙女心が判ってないんだから」
呆れたように言うなでしこに、千明は
「いや、あたしも乙女だ、失礼な」
と、頬を膨らませた。
「まあ、それよりあたしたちも早くペンションへ向かおう」
リンが腕時計を見ながら言った。
「のんびりしてると陽が暮れるぞ」
「そうだね」
と、なでしこが同意した。
しかし、千明は
「いや、ちょっと待て」
と言って視線を落とし、顎に手を当てて考える。
「ん? どうしたの? アキちゃん?」
なでしこが首を傾けた。
千明は――。
◇
千明は顔を上げた。
「あ、いや、せっかくだから、あたしも一回くらいスキーをやっておきたいなー、とか思ったんだが、今からスキー場へ向かうと遅くなるし、暗くなったら道に迷うかもしれないから、やめておくわ」
陽はすでに大きく西に傾いている。
かなりの山奥なので、すぐにどっぷりと暗くなるだろう。
そうでなくとも空は雪雲に覆われていて、すでに周囲は薄暗い。
「うん、それがイイね」
なでしこは笑顔で答えた。
「よし、じゃあすぐテントを片づけるから、待っててくれ」
雪上に設置したテントをたたみ始める千明に、なでしこが
「あ、手伝うよ、アキちゃん」
と声をかけ、
「リンちゃんもお願い」
と振り返った。
「ん、判った」
三人は協力してテントを片づけると、急いでペンション・ラディウスへと向かった。