とある転生者達の青春記録(ブルーアーカイブ) 作:瓶詰め蜂蜜
(……先生達は勝てたのかな?)
アリウス自治区にて、聖園ミカは祈りを込めて憐れみの賛歌を口ずさみつつ、たった一人でユスティナ聖徒会の複製達を相手に奮戦していた。
だが、トリニティからの脱走、追手を振り払いつつの逃走、サオリとの激闘、そして倒しても倒しても尽きる事の無い亡霊達との連戦。
どれほどの神秘を持っていたとしても、生徒のミカには苦しく長い時間であった。
(……ちゃんと助けてあげられたのかな)
ふらふらとした足取り。しかし、複製へと向けられた銃口は振れない。
(私は、時間を稼げたかな)
疲労によって乱れる視線。されど、複製達には背を向けない。
(私は……頑張ったよね)
普段なら丁寧に手入れされた艷やかな髪はボサボサに乱れ、汗で落ちてしまったメイクに、土埃で汚れた制服。玉のような白肌は流れた血によって赤く染まり、火傷によって爛れていた。
「あー、こんな姿。先生には見せられないなぁ」
いつの間にか蓄音機は動きを止めて、ミカの軽口だけが虚しく響いた。しかし、自分はまだやれると無理やり奮い立たせて震え
る足に力を込める。と、
───♪
「えっ……」
再び、何処からか憐れみの賛歌が流れ始める。ミカは思わず蓄音機へと視線を向けるが、動きの止まった蓄音機はうんともすんとも言っていない。
どこから聞こえるのだろうかと辺りを見渡すと、ユスティナ聖徒会を挟んだ向こう側から、コツコツと誰かの足音が響いてきた。
────私が殺す、私が生かす。私が傷つけ私が癒す。我が手を逃れうる者は一人もいない。我が目の届かぬ者は一人もいない。
「───!」
何かを呟きつつ近づいて来ていた誰かへ向けて、複製達は一斉掃射を行う。
────打ち砕かれよ。
しかし、銃弾の雨を跳躍して躱すと、複製達のすぐ目の前に降り立つ。
────敗れたもの、老いた者を私が招く。私に委ね、私に学び、私に従え。
慌てて照準を合わせる複製達。しかし、その全てを無手で薙ぎ倒す。
距離が近付いたことでその姿がミカにも見えた。不思議な髪型をした少女だった。
────休息を。唄を忘れず、祈りを忘れず、私を忘れず、私は軽く、あらゆる重みを忘れさせる。
猛威を振るう少女は、その間も一切言葉を途切れさせずに動き回る。
「すっごぉ……」
驚愕のあまり、ぽかんと呆けた顔をするミカ。どんなに辛くても上げていた照準が思わず下がる程に驚いていた。
────装うなかれ。
そんな事はお構い無しに、再び跳躍して今度はミカの前へと降り立つ少女。近くに来たことで、その特徴的な髪型がよく見えた。例えるならば、甲殻類のような髪型だった。
────許しには報復を、信頼には裏切りを、希望には絶望を、光あるものには闇を、生あるものには暗い死を。
いまだに言葉を紡ぐ少女。否、それは言葉というよりは歌。それも、祈りを込めたものだった。
────休息は私の手に。貴方の罪に油を注ぎ印を記そう。
一体誰に対しての、どの様な祈りを込めているのかはミカには分からなかった。
────永遠の命は、死の中でこそ、与えられる。
しかし、とても純粋で強い祈りが込められている事だけは分かった。それこそ、ミカが歌った『憐れみの賛歌』と同じ程に。
────許しはここに 受肉した私が誓う。
「────“この魂に憐れみを”」
歌い終わった少女はくるりと反転してミカへと向き直る。その背後で、複製達は一斉に塵となった。
「……へ?」
思いがけない光景に、再び間抜けな表情をさらしてしまうミカ。
その姿に、甲殻類の様な髪型が特徴の少女、甲クララは困ったように笑うのだった。