最初に出会す鬼滅キャラは誰にしようかな……。一応、数人には絞れているんですが、ここから決めるのが難しい……。
ちなみに、その数人は漏れなく主人公に寝返ります。寝返る理由はかなりあれですがね……。
伊吹童子に拾われ、伊吹弥宵という名と、宵月という名を与えられた孤児は、食事と湯浴みを済ませたのち、穏やかな眠りに落ちていた。
「弥宵。起きろ。朝になったぞ。」
不意に、弥宵は穏やかな男性の声を聞く。同時に感じたのは緩やかな揺れ。
それらにより意識を覚醒させた弥宵は、静かに瞼を開けた。彼女の視界に映り込んだのは、穏やかな笑みを浮かべ、自身を見つめる鬼神だった。
「やくもさま。おはようございます。」
「ああ、おはよう。よく眠れたようだな。」
「はい。ゆっくりとやすむことができました。」
「ならばいい。……そこにある鏡を見てみるといい。それが、これからのお前の姿だ。」
伊吹童子に言われ、弥宵は指定された鏡に視線を向ける。そこに映し出されたのは、まるで月光をそのまま髪にしたかのような月白の美しい毛髪に、金色の瞳を持ち合わせている童女の姿だった。
弥宵はその姿を見て、目を丸くする。これが自分の姿なのかと驚くように。
「どうかしたのか?」
「あ……その……まさか、このようなすがたになるとはおもわず、つい、おどろいてしまって……。
ここまで、たんれいなようしなど……わたしに、あってないようなきもして……」
「何を言っている?お前は元から容姿は整っていたぞ?鏡を見たことはなかったのか?」
「かがみなどというこうかなものは、わたしのおやはもっていませんでしたから……」
「なるほどな……」
自身の容姿の良さに気づいていなかった弥宵を見て、伊吹童子は少しだけ考え込む。
この容姿の良さや活かし方を知らぬとはなんと勿体無いことかと、思いながら。
なんせ彼は鬼神ではあるが、美しいものを好む龍神でもあった。美しいものは手元に置き、その美しさを磨き続けたいとも思ってしまう性質がある。
そして、鬼神の前にいる新たな鬼神、伊吹弥宵もまた、鬼神がそのような考えを向けるには十分過ぎる程の輝きを持ち合わせていたのだ。
「弥宵。お前は十分美しい娘だ。合っていないはずがない。確かに、神格を帯びたことにより、美しさはさらに華やいでいるが、元からその美しさの基となるものを持ち合わせていた結果とも言える。
だから、決して分不相応な見た目ではない。弥宵には、その容姿が良く似合っているぞ。」
「そう……ですか……?わたしには、よくわかりませんが……」
「今はわからなくてもいい。ただ、決してお前は人間であった時でも醜女ではなかったことを覚えておくといい。」
伊吹童子の言葉に、弥宵は小さく頷く。それを見た伊吹童子は小さく笑ったのち、自身が暮らしている御殿の一つの部屋へと移動した。
程なくして姿を見せた鬼神の手元にあるのは数着の着物と、美しい下駄、そして、華やかな簪とつげの櫛だった。
「これは全て弥宵のものだ。昨晩、弥宵が眠っている間にこさえておいた。こちらに来い。眠っている間に乱れてしまった髪を梳こう。」
「よろしいのですか?」
「ああ。いずれば自分でできるようになった方がいいが、今はまだオレがやってやろう。」
「ありがとうございます……やくもさま。」
素直に感謝の言葉を述べ、弥宵は伊吹童子の元へと静かに歩み寄り、その目の前にちょこんと座る。
座り込んだ弥宵を見た伊吹童子は、すぐに手元にあった櫛で月の如き美しさを持つ長い髪を優しく梳く。
「ほう……弥宵の髪は、とても綺麗な髪だな。櫛通りがよく、みるみるうちに落ち着いていく。
しかし、少々クセがあるようだな……。櫛が引っかかるわけではないため、剛毛というわけではないらしい。
というか、随分と毛髪が細いな。まるで猫の毛を梳いてるようだ。」
「ねこ……ですか……?」
「ああ。猫はなかなか毛が細かくてな。この山にも野良猫は何匹もいるが、どの猫も少し洗うと触り心地が良くなるぞ。」
「ねこってあらえるんですね……」
「洗えるとも。まぁ、猫共はあまり湯浴みは好ましくないようだがな。」
「ねこはみずをきらう……などといわれていることがありますからね……」
「確かにな。」
穏やかな会話を行いながら、伊吹童子は弥宵の髪を整えていく。
程なくして、それを終えた鬼神は、弥宵を静かに立たせ、持ってきた着物を見せる。
「ここには見ての通り複数の着物がある。今日はどれを着たい?」
「では、こちらのよざくらのようなおきものを……」
「わかった。着付け方はわかるか?」
「はい。」
「では、着替えるといい。オレは後ろを向いておこう。」
弥宵が選んだ着物と帯を手渡した伊吹童子は、すぐにその場で後ろを向く。
伊吹童子の視線が外れたのを確認した弥宵は、身を包んでいた古惚けた着物を静かに脱ぎ、手渡された着物に袖を通す。
これまで自身が着てきたものとは遥かに違う手触りの上質な着物に、少しだけおっかなびっくりになりながらも、丁寧に着付け、おかしなところがないかを確認する。
「きがえました。」
問題はないと判断した弥宵は、後ろを向いていた伊吹童子に声をかけた。彼女に声をかけられた伊吹童子は、すぐに視線を彼女へと向ける。
そこには、着崩れを起こさぬようにしっかりと着付け、帯も丁寧に巻いている弥宵の姿があった。
「フ……良く似合っているな。」
「ありがとうございます、やくもさま。」
その姿は、冗談抜きに伊吹童子ですら綺麗だと思ってしまう程のものだった。
まるで、かつての世を生きる貴族や姫君のようだと考えたが、その思考に誇張は一つもなく、本当に美しかった。
「あとは髪を結い上げるだけだな。こちらに背を向けて座るといい。お前に似合う髪型にしてやろう。」
「わかりました。」
背を向けた弥宵の頭に手を伸ばし、伊吹童子は丁寧に髪を結っていく。その手つきはどこか慣れたもので、弥宵は痛みを感じることがなかった。
「終わったぞ。」
伊吹童子に告げられ、鏡の方へと視線を向ける。そこには、髪を一つに結い上げ、簪をさしている弥宵の姿が映り込む。
良くある結い方ではあるが、弥宵はこれまで簪を使うような髪型をしたことがなかったため、初めて髪を結い上げる自身の姿を何度か瞬きをしながら見つめる。
「気に入ったか?」
「はい。とても。はじめてかみをゆいました。これまでは、とくにきにすることなくすごしていたので。」
「ならば、これから髪を結えばいい。神格を持ち合わせている者は、見目も整えなくてはならないからな。
世の中には醜女の女神も存在しているが、それは強大な力を持ち合わせているがゆえに許されているようなものだ。
神格にもいくつか分類はある。オレのように災いが転じて神格となった者もいるし、元から強大な神格を持ち合わせている者もいる。
そして、オレや弥宵のように災いが転じて神格になったり、後天的に神格を得た者は、はなから神格を持ち合わせている高天原の神々程強大な力は持たぬゆえ、見目も整えておかなくては信仰を得ることは不可能だ。
神格は信仰を、人々の陽の気や感情を向けられることで維持できるのでな。」
「みめをととのえておくひつようがある……」
「そうだ。ゆえに、これから弥宵も自身の見目の美しさを損なわぬように、見目は必ず整えておくように。」
「はい、やくもさま。」
伊吹童子から、鬼神とは何が必要であるかを教えられ、素直にそれを聞き入れていく弥宵。
伊吹童子はその姿を好ましく思い、同時に純粋過ぎるがゆえに染まりやすい性質を見出す。
─────……これは、吸収すべきものとすべきではないものを確りと教えなくてはならないかもな。
自己を中心に欲を満たし、果てには命を落とすこととなった自身の息子であった鬼、酒呑童子。
素直に聞き入れて吸収する器用さはあるが、それゆえに善にも悪にも染まりやすい性質を持つ娘、伊吹弥宵。
あまりにも真逆過ぎる我が子達を脳裏に浮かべた伊吹童子は、これはまた骨が折れそうだと思いながらも、目の前にある丸々とした頭を優しく撫でる。
伊吹童子がそのようなことを考えていることなど知らない弥宵はというと、優しく頭を撫でてくる大きな手に安心感を覚えているのか、どこか幸せそうに笑っていた。
「弥宵。ゆっくりではあるが、鬼神としての力の使い方を今日から少しずつ教えていく。
何。鬼神となった以上、我らの時間の終わりは無に等しい。それに、お前は人の命を奪うことも、ましてや何かしらの悪事を働いたわけでもないからな。
贖罪などする必要がなく、すでに鬼神として確立されている。ゆえに、鬼神としての力は全て覚醒されている。
あとは、その力の正しい扱い方を会得し、鬼神として人々を守り、救うという責務をこなせばいいだけだ。」
これからやることを告げられた弥宵は、何度か瞬きをしたあと小さく頷く。
しかし、すぐに何か考え込むような様子を見せたあと、静かに口を開いた。
「やくもさま。さきほど、わたしはたにんのいのちをうばったわけでも、あくじをはたらいたわけでもないから、きじんとしてすでにかくりつされているとおっしゃいましたが、わるさをしていたら、きじんにはなれないのですか?」
それは純粋な疑問だった。命を奪うことや、悪事を働くこと……それらをしていた場合、その者はどうなるのか気になったのである。
そのような質問をされるとは思わなかったのか、伊吹童子は一瞬驚いたような表情を見せた。
だが、すぐに考え込むような様子を見せたあと、口を開く。
「いいや?鬼神にはなれるぞ。ただ、なるまでの道のりが長くなるだけだ。」
「みちのりがながくなる……?」
「ああ。鬼とはいえ鬼神は神に分類する存在だ。ゆえに様々な奇跡を起こすことができ、多くの人間を救うことができる。
だが、一度でも悪事を働けば、罪をもつものとして地獄へと落ちることが確立され、世界より敵として認識されてしまうんだ。
ゆえに、悪事を働いたものは本来、鬼神にはなれん。しかし、もし、かつて悪事を働いた者が反省し、鬼神へと至るための道を歩みたいというのであれば、一度だけオレが機会を与えることができる。」
「きかい……?」
「ああ。いわゆる、神格を持つ者の特権だな。神格は皆等しく人々を見守り、時に試練を与える。
かつて行ってきた悪行を超える程の善行を特定の期間内でこなし、信仰を高めることができたら、鬼神へと至るための修行を果たすことができたとみなし、鬼神へと転身することができるんだ。
それは、人の命を奪った者であってもな。かつての愚息……酒呑童子がいい例だな。
あれは多くの悪事を働き、命までも奪い、好き勝手していたのだが、結果的にあれは都より遣わされた剣士達の手によりその命を絶たれた。
因果応報と言う奴だ。オレとしても、あれに関しては庇うことができん。
だが、その後、首を取ったことを知らせようと都へと足を運んだ剣士達に、手厚く埋葬されたらしくてな……。
なんでも、都に住まう帝が鬼を討ったことは褒めるが、その首を持ち込むなと言われたようだ。
そして、それを聞いた都の剣士達は、その首を埋葬したのだと聞いている。」
「それがいちれい……とはどういうことですか?」
「酒呑童子は自身のような悪鬼の首を手厚く埋葬してくれたことが嬉しかったようでな。
ある日、オレの元へとやって来てこう言ったんだ。“オレはなんと愚かなことをやっていたのか……命を落としたことにより、それに気がつくことができた。”
“もう二度と、オレは悪事を働かない。オレのような悪鬼すらも手厚く埋葬してくれた人間達の力になりたい。”
“ゆえに、鬼神に至るまでの修行をさせてくれ。一度でいい。一度だけでいいから、最後に機会を与えてほしい”
“もしも、修行を果たすことができなければ、その時は地獄の業火で延々と焼き尽くして構わぬから、どうか今一度、オレに機会を”……とな。
それを聞き、駄目だとは言えなくてな。一度だけ修行を許可し、これまで奪って来たものを遥かに超える程の人助けを10年で行ない、信仰を集めよと告げたんだ。
すると、酒呑童子はオレの命じた通りに人助けを行い、鬼神へと至る修行を果たしてな。
今は、京の方で疫病を祓う治癒の神として生活している。今度合わせてやろう。あれにも妹ができたことを伝えねばな……。」
穏やかな声音で、しかし、どこか呆れているかのような様子で言葉を口にする伊吹童子を見て、弥宵は何度か瞬きをする。
だが、すぐに伊吹童子にとって、酒呑童子と呼ばれている自身の兄に当たる鬼神が大切であることや、だからこそ、悪鬼となったことに失望したこと、それでもなお、放っておくわけにもいかないと手を差し伸べたことを把握し、目の前の鬼神の優しさがどれだけ深く、強いものであるかを理解した。
その手に自身も救われたのだと、胸の内に灯る温もりを抱くように、弥宵は静かに胸元へと手を添える。
「……やくもさま。」
「何だ?」
「わたしは、どれだけやくもさまのきたいにこたえられるかはわかりません。
ですが、あなたのやさしさにすくわれたものとして、おおくのひとびとをやくもさまや、わたしのおにいさまたるしゅてんさまとともにすくい、そのやさしさにこたえていきたいです。
ですから、これから、よろしくおねがいいたします。いたらぬところはもちろんあるとおもいますが、わたしにできることであればなんでもいってください。」
金色の瞳に確かな光を宿し、これから先、自身も鬼神の1人として、伊吹童子や酒呑童子の役に立ちたいと告げる弥宵に、彼女の前にいる鬼神は一度目を見開く。
しかし、幼さが宿る声音で紡がれたその言葉には、彼女の誰かを救いたいという強い思いが確りと含まれていることをすぐに把握しては、穏やかな笑みを浮かべる。
「ああ。これから頼りにさせてもらうぞ、弥宵。だが、酒呑童子も一応は鬼神なのでな。あの莫迦息子のことは夜月と呼ぶように。」
「やつき……。」
「そうだ。それがあれの字名なのでな。」
「わかりました、やくもさま。……やつきさま……どのようなかたなのでしょうか……」
「……まぁ、そうだな。鬼神として人を助けるようにはなったが、まだ、問題児の部分が少し残っていてな……。
気をつけるようにとしか言えん。あの愚息は……その、割とあれなところがあってな……」
「???」
脳裏に弥宵と酒呑童子を会わせた場合のことを思い描きながら、苦笑いをこぼす。
自身がかけたまじないにより人間より鬼神へと転身させたはいいが、決して血が繋がっているわけではないため、少しばかり不安を覚えてしまったのだ。
自身の愚息が、新たに迎えた娘を気に入り、嫁にしたいと騒ぎ出したらどうするべきか……伊吹童子は、弥宵の頭を優しく撫でながら考える。
対する弥宵はよくわかっていないのか、不思議そうな表情をしながら首を傾げるだけだった。
伊吹弥宵 字名:宵月
悪事を働いたものであっても鬼神へと至ることができる話を聞いたことにより、やらかし鬼神少女になることが確定した。
かつてはいなかった兄妹ができることを楽しみにしているが、伊吹童子からは気をつけろと言われた。なぜ……?
伊吹童子 字名:八雲
悪事を働いたものであろうとも鬼神へと至ることができる話を弥宵にしたことが原因で彼女がやらかし鬼神になってしまうことを確定させてしまった。
兄妹ができることを楽しみにしている弥宵に、あれに会わせていいのだろうか……この純粋無垢な小鬼を……と不安になっている。
酒呑童子 字名:夜月
実の父親である伊吹童子から問題児扱いされている元悪鬼の鬼神。
近々、まさか父親が自身の妹となる小鬼を連れてくるとは思っていない。