次からようやく鬼滅を関わらせていけそうです。
京都を拠点とし、あらゆる人々を疫病から救い続け、悪鬼から鬼神へと転身していた鬼、酒呑童子は、ある日突然やって来た実の父親である元八岐大蛇、鬼神、伊吹童子が姿を現したことに驚いていた。
正確には、その父親が連れて来た、童女の姿をしている小鬼……生まれたばかりの鬼神に目を丸くしていた。
「あれま……随分とまぁ、可愛らしい小鬼ちゃんが……」
「親を人喰いの鬼に喰われた孤児でな……。オレの子になるかと問い、承諾を得た上で鬼神の力を与えて迎えいれた娘だ。立場としては、お前の義妹になるな。」
「ほう……まさか、そのような娘をお引き取りになられるとは……珍しいこともあるというものですねぇ……。」
酒呑童子は、月のような髪を揺らしながら、サッと目の前にいる実の父親の背後に隠れてしまった小鬼を見つめながら小さく笑う。
まさか、自分の父親が孤児がいたからという理由だけで、鬼神にしてまで引き取ってくるとは思わなかったのだ。
しかし、それ以上に酒呑童子は父の背後に隠れている月色の娘が気になっていた。
これまで手を出して来た都の娘達とは全く違う、どこか花のような甘い香りを持ち合わせている娘だったがゆえに、興味を惹かれたのである。
「小鬼ちゃん、小鬼ちゃん。キミの名前は何て言うのかな?」
穏やかな声音で小鬼の童女に名前を問う。すると、小鬼の童女は伊吹童子の背後からひょこっと顔を出しては、金色の瞳をぱちくりと何度か瞬かせる。
「……酒呑童子。弥宵が驚いているだろう?あまり急に接近してやるな。」
「おっと……まさか父上から名を教えていただけるとは……。いや、父上から名を明かすことにより、そこの小鬼ちゃんをオレの眷属にしないための対処をしたのか。
できることならば、そこの小鬼ちゃんから名を教えて欲しかったんだが……」
「お前は少々女癖が悪いからな。童女であれ、老婆であれ、千年以上の時を生きるオレ達の前では、対して差はないだろう。」
「……流石は父上ですね。ええ。確かに童女と老婆はさして差はありません。ゆえに、先に唾をと思っていたのですが……どうやら、それは防がれてしまったようで。」
口元に笑みを浮かべながら、自身がやろうとしていたことを明かす酒呑童子に、伊吹童子は頭を抱える。
女遊びをするなとは言わないが、それでも童女に対してそれはないだろうと、相変わらずの愚息に、溜め息を吐き出すことしかできなかった。
「……やくもさま。このかたが、せんじつおはなししていただいた、やくもさまのごしそく……なのですか?」
そんな中、弥宵がおずおずと伊吹童子の背後から出て来ては、酒呑童子へと目を向ける。
その表情からは、聞いていた印象とは全く違う印象を持ち合わせている鬼と出会してしまった……といった感情が読み取れた。
「ああ。そうだ。あの時は話しやすさから、普段オレが使っている言葉遣いで教えたが、実際はこのように軽い莫迦者でな。
真っ当に仕事をこなしているため、あまり女遊びに口出しするつもりはないが、やはり鬼神としては多少なりとも自重をしてもらいたいものだ。」
“まぁ、それを言ったところでまともに話など聞かないだろうがな”と肩を落とす伊吹童子。
彼の表情からは、これだからこの莫迦は愚息なのだという呆れの感情がひしひしと伝わって来た。
「オレからお前達2人の名は教える。まず、こちらの娘からだが、先程も言った通り孤児でな。
名も持ち合わせてなかったため、オレから名を与えた。字名は宵月。真名を伊吹弥宵という。」
「ふぅん……?随分と美しい響きの名を与えたのですねぇ、父上?」
「別にいいだろう。弥宵。こっちにいるのがお前の兄となる愚息でな。字名を夜月。真名を酒呑童子という。
見ての通り、ちゃらんぽらんな阿呆ではあるが、能力としては申し分がない鬼神だ。
だが、あまりこいつの発言は信用しないように。何をしでかすかわからんのでな。」
「……わかりました、やくもさま。」
「あれ……?もしかしなくとも、オレって父上から貶されてる?」
「これまでの行いを振り返るがいい。なぜ、これで貶されんと思ったんだ?愚息。」
「手厳しいことで……。ですが、父上。オレは今は真っ当に生きているつもりなのですが……。」
「ふん。前よりマシになった程度のものだ。あまり妙なことを弥宵に吹き込むなよ。」
「そのようなことは誓っていたしませんよ。ですから、仲良くなることくらいは構わないでしょう?」
伊吹童子と酒呑童子の様子が、少しだけ張り詰めたようなものになっていることに、弥宵は困惑の表情を浮かべる。
実の親子とは、ここまで不仲になるものなのだろうかと、少しの不安を抱く。
「弥宵ちゃん……いや、宵月ちゃんと呼んだ方がいいかな?」
「そうだな。オレと弥宵の前であれば、弥宵で構わないが、オレやお前以外の目がある場所では、宵月の方がいいだろう。」
「じゃあ、今は弥宵ちゃんで。これからキミの兄になる夜月だ。父上が紹介した通りの真名を持ち合わせている。
人喰いの鬼に親が襲われ、命を落としてしまうとは、災難だったね。これからは、オレもキミの家族になろう。」
弥宵と目線を合わし、穏やかな声音で言葉を紡ぐ酒呑童子。
彼の言葉を聞いた弥宵は、何度か瞬きを繰り返したのち、自身が隠れていた伊吹童子の背後から姿を見せ、その場で静かに頭を下げた。
「よろしいおねがいいたします、やつきにいさま。」
「……………。」
「……やつきにいさま…………?」
小鬼の口から紡がれた、夜月兄様という呼称に、酒呑童子は思わず固まる。
急に固まってしまった酒呑童子の姿に、弥宵は何度か瞬きを返し、なぜ固まってしまったのかというように首を傾げると、酒呑童子は勢いよく立ち上がり、伊吹童子へと目を向けた。
「待ってください、父上!?なんなんですかこの可愛らしい生き物は!?先程の言葉聞きましたか!?オレのことを兄様と呼んでくださいましたよ!?」
「急にどうした?」
「急にではありませんよ!!聞きました!?今、この子はオレのことを夜月兄様と言ってくださったんですよ!?」
「やかましいぞ。」
「オレが兄様……兄様かぁ………」
だらしなく頬を緩めて兄様と呼ばれたことを喜ぶ酒呑童子を見て、伊吹童子は思わず引いてしまう。
別の意味でこれには弥宵を会わせるべきではなかったか……?と少しの後悔を抱きながら。
しかし、ふと、酒呑童子が兄様と呼ばれたことを思い返した伊吹童子は、しばしの間考え込んだあと、弥宵の目線に合わせるようにしゃがみ込んだ。
「……その……なんだ。オレも弥宵の家族なのでな。本当の父親ではないが、父親と思ってくれて構わないからな。」
おずおずといった様子で、自分と弥宵には血の繋がりはないが、家族ではあるため、父親代わりにはなるため、遠慮しなくてもいいことを伊吹童子は伝える。
すると、話を聞いた弥宵は、何度か瞬きをしたあと、何かを思いついたような表情を見せる。
「ありがとうございます、おとうさま。」
「ん゛………あ、ああ。改めてよろしく頼むぞ、弥宵。」
無邪気な笑顔のまま告げられた言葉に、伊吹童子は思わず悶える。だらしないぞ、酒呑童子と怒鳴ろうとしていたが、これはなかなか破壊力がある……と、取り乱した愚息の気持ちを理解してしまったのだ。
「コホンッ……!酒呑。これからのことだが、弥宵は鬼神ではあるが、先日なったばかりでな。
まだ、力の使い方を知らん。基本はオレが教えていくつもりではあるが、時間があれば弥宵に力の使い方をお前からも教えてやってくれ。
能力としては、オレと同じ分類のものでな。あらゆる事象を奇跡として起こすことが可能だ。」
「ふむ……つまり、弥宵は完全に父上の眷属となっている……ということですね?」
「ああ。まぁ、眷属ではあるが、扱いとしては家族……オレの娘だ。」
「父上ならばそう言うと思っていましたよ。八岐大蛇と呼ばれる大怪異であったにも関わらず、神と祀られたことにより優しさを得たのがあなたですから。」
「ふん……」
酒呑童子に真っ直ぐと見られ、伊吹童子は視線を逸らす。
厄災でしかなかった己が優しさを抱くなど、当初の彼は予想だにしなかったのだ。
しかし、酒呑童子の指摘の通り、荒御魂として、止めようのない厄災として世に生まれ、須佐之男命に討たれたが、どういうわけか、いつの間にやら信仰される神となり、再びこの世に縛りつけられた時、伊吹童子として生まれ落ち、優しさを得たことにより、彼は様々なことをやるようになった。
かつて己が引き起こしてきた事象……様々な厄災により命を落とした者達への贖罪をと、天照大神から命じられたことも理由の一つではあるが、確かに彼は優しさを得たのである。
それにより此度も伊吹童子は孤児を憐れみ、承諾を得ることにより、我が娘として迎え入れた。
改めて指摘されたためか、伊吹童子はどこかぶっきらぼうな様子を見せながらも、足元にいる小鬼の頭を優しく撫でる。
頭を撫でられた小鬼……弥宵は少しだけびっくりしながらも、大人しくその手を受け入れていた。
「弥宵の力に関しての話……承諾しました。父上に比べたらまだまだひよっこの鬼神ではありますが、確とその新たな鬼神の成長を手助けいたしましょう。」
「ああ。そうしてくれ。だが、育てることにかまかけて鬼神としてのお役目を忘れたりするなよ。」
「オレはそこまで不真面目ではありませんよ、父上。まぁ、異性にだらしないのは認めますが……」
「認めているなら治せ。」
全くの正論である。しかし、酒呑童子には、女性に関してのあれこれは治すつもりがないのか、その正論に関してはまるで聞いていないと言わんばかりの反応を見せたあと、伊吹童子に頭を撫でられている弥宵へと視線を向ける。
「……弥宵ちゃんは、大人になったらかなり魅力的な女性になりそうだね。」
「?」
「おい。堕息子。」
「冗談ですよ。そう恐ろしい顔をなさらないでください。」
“まぁ、半分は本気ですが……”と内心でほくそ笑んでいることに、伊吹童子は目を細める。
しかし、今は色々と呵責したところで、目の前にいる愚息はまともに聞き入れたりはしないことも理解しているため、深い溜め息を吐いた。
「おとうさま……?」
「……やはり、酒呑には会わすべきでなかったかもしれんな。」
満月のような金色の瞳を丸くする弥宵を見て、伊吹童子は軽く後悔しながらも、心配させまいと優しく抱き上げる。
急に抱き上げられたことに、一瞬弥宵は驚いた様子を見せたが、すぐに機嫌がよさそうに笑顔を見せ、落ちないように伊吹童子の肩に腕を回した。
「ひどいですね。別に何かをしようとしているわけではありませんよ。」
そんな伊吹童子に対して、酒呑童子は拗ねたような表情を見せながら、文句を口にする。
だが、すぐに自身の背後にある自身の棲家となっている神域の洞窟に手をかざし、一つの術を発動させた。
「これでいつでもこちらへと飛んでいけるので、本日より父上の住処でお世話になります。
自身の食事や酒は自らの手でこさえますので、構いませんね?」
「……本気で言っているのか?」
「当たり前ではありませんか。弥宵を育てるのも一つの仕事なのですから。」
「……早々に育成を手伝えという言葉を撤回したくなった。」
「いや、本当にひどすぎませんか父上!?」
ゴミを見るような表情で自身を見据える実の父親に、酒呑童子は思わず怒鳴るようにひどいと告げる。
しかし、伊吹童子はそんな酒呑童子の言葉を無視しているのか、さっさと弥宵を抱き上げて、術を利用することにより一瞬にして姿を消してしまった。
「……やれやれ……。父上も相当あの小鬼ちゃんを気に入っているようで。
まぁ、確かに御魂は美しく、容姿も輝きを放つ程のものだった。龍神のサガか、あの綺麗なものは父上にとってはかけがえのない宝ということか……。
さて……どうやってあの父上を出し抜こうか……。人間の女は確かに魅力に溢れているが、寿命と呼ばれる有限の中を生きる生き物のため、必ず命を落としてしまう。
だが、鬼神となった娘であれば、その有限の時は存在せず、永遠に共に荒れるというもの。
なんとしても、オレの伴侶として迎え入れたいところだが……。」
そこまで考えて、酒呑童子は無言になる。
しかし、いくら思考を回そうとも、龍神であり、鬼神の祖でもある伊吹童子を出し抜く方法は思い浮かばず、困ったように頭を掻いた。
「今は答えを出すのは難しそうだ。それなら、今はまだ、彼女の良き兄として過ごし、その過程で彼女を染め上げるとしよう。」
自身にできることはそれだけだと考え、酒呑童子はその場で術を発動する。
それは、伊吹童子も使用していた転移するための術であり、伊吹童子の神力をしるべとし、移動することができるものだ。
基本的には自身が持ち合わせている神力をしるべにするのだが、伊吹童子程の強大な力を持ち合わせている存在がいれば、それをしるべにすることも可能なのである。
「父上。オレを置いていくなんてひどいじゃないですか。」
「……チッ……やはり追って来たか。」
「当然です。育てるのを手伝えと言ったのは父上なのですから。」
追いついて来た酒呑童子を見て、伊吹童子は表情を不機嫌に歪ませる。
しかし、酒呑童子は気にすることなく、懐かしき古巣を見回しては、小さく笑う。
「オレが集めていたものは全て父上が回収していましたか。」
「お前が鬼神として蘇生される前、大江山に大量に残されていたからな。こちらで回収して活用してやったのだ。今更返せとは言わんだろう?」
「ええ。言いませんとも。今は鬼神として第二の生を謳歌しておりますが、一度は命を落とした身。
そちらは全て父上にお任せします。養育費などにも当てやすいでしょう?」
「フン……」
「その代わり、オレも弥宵を育てるために手を出させていただきます。元はオレの宝ですが、それを金銭に当てて構わないと言っているのですから、構わないでしょう?」
「……勝手にしろ。」
「ええ。勝手にさせていただきます。」
伊吹童子に笑顔で返事をした酒呑童子は、すぐに弥宵へと視線を向ける。
そして、彼女の目の前でしゃがみ込み……
「そういうわけだから、これからよろしくね、弥宵ちゃん。」
酸漿のような赤い瞳を細めながら、小さな金色に告げるのだった。
弥宵
伊吹童子により、兄となる酒呑童子と邂逅した童女の鬼神。月光を彷彿とさせる月白色の髪に、金色の瞳を持つ美しい娘。
これから先、2人の鬼神の手により、立派な鬼神へと至るための生活を行うこととなる。
伊吹童子
弥宵を酒呑童子に会わせたが、早々に後悔した鬼神の祖であり龍神。銀色の髪に酸漿のような赤い瞳を持ち合わせている美丈夫。
これから先、酒呑童子と共に、幼い弥宵を育てることになる。
酒呑童子
伊吹童子により弥宵と邂逅することとなった鬼神。朱色の髪に酸漿のような赤い瞳を持ち合わせている美丈夫。
これから先、伊吹童子と共に幼い弥宵を育てることになるのだが、その裏では弥宵を自身の伴侶に迎え入れたいという願望が渦巻いている。