あれ?最強タグいるんじゃねこれ……?
万世極楽教……100年程前から長らく続いている宗教の一つ。
極彩色の瞳を持ち、長らく信者の者達を苦しみから救ってくださっている教祖、童磨の元には、常日頃から沢山の信者が相見える。
時には長く続く苦しみから抜け出したいと望む者や、伴侶から振るわれる無慈悲な暴力から逃げ出して来たもの……他にも、様々な不幸に見舞われて出家しては、極楽へと導いて欲しいと望み、童磨の元に傅く者が沢山いる。
これは、そんな童磨に仕えている、1人の信者が見たものである。
信者達の朝は早い。
日が昇ると同時に目を覚まし、まずは寺院の掃除をこなしていく。
中には寝坊してしまう信者もいるため、そのような信者達もしっかりと起こし、信者達は全員で寺院を綺麗にしていくのだ。
信者の中には、体が不自由な者もいるため、その者達には負担をかけぬように、健康な信者達のみで掃除を行う。
極楽へといくためには神々への感謝が必要だと、いつだったか告げて来た教祖に従って。
次に準備するのは信者達の食事である。
万世極楽教に集まる信者は、それはそれはかなりの人数がいるのだ。
そのため、数人では食事を間に合わせることはできず、手分けして作ることが大切なのである。
これもまた、童磨からの教えだ。教祖たる童磨ですら自分で食事を用意して、それを食べているのだから。
君達の手を煩わせるわけにはいかないからね、と明るい笑顔を見せながら、そう告げて来た童磨の姿には、多くの信者が感動していた。
これらの作業を終えたら、自由に過ごすことができる。
子連れの信者あればその子供に勉学を教え、体に不自由ある信者あれば手を貸して日常を送らせる。
手を取り合って助け合う……それもまた一つの教えだと、この寺院にて過ごしている者達は、童磨から教えられている。
……まぁ、これらを伝えた童磨からしたら、大人数の世話を焼くのはめんどくさいから信者達に押し付けてしまおうという認識にしかならないのだが、盲目にこの寺院にいるはずのない神と、我らが教祖はその声を聞くことができると思い込んでいる信者達に、彼の考えなど把握できるはずもなく、それを教えだと認識して実行し続けているのである。
……その信者はそれなりに長く童磨に仕えている信者だった。
自身の人生に起こる不運の数々……それらを嘆き、苦しみ、命すら投げ出してしまいたくなっていた時に、万世極楽教の話を聞き、身を置くようになった経歴を持つ。
その信者は仕えることに長けていたようで、様々な役割を担い、生活していた。
ある時は童磨と顔を合わせるための信者を整理し、ある時は寺院の執務などをこなし、ある時は信者達の引率役を自ら行う働き者のその信者を、童磨は役に立つ人間だとして側仕えを命じていた。
彼直々に側仕えに任命されたその信者は、誰よりも童磨に忠誠を誓い、誰よりも童磨の役に立ち、誰よりも童磨と寺院の神を信仰している。
側仕えに任命した極彩色の教祖から、哀れな人間だと嘲笑されていることなど知ることなく、これこそが自身の生きる道であると定めながら。
そんな信者は、最近、よく童磨がふらりとどこかへといく姿を見かけていた。
どこか足取りは軽く、何かを楽しみにしている幼子のように、上機嫌な様子だったと、のちに信者は語っていた。
最初のうちは気にも止めていなかった。童磨が夜になるとどこかへと行くことは度々あったため、気にするほどでもないと思っていたのだ。
しかし、最近はどこかへと出かける頻度がかなり上がっており、さらには帰りすらも遅くなっているのである。
いったい何があったのか……長く仕えている信者は、脳裏に疑問を浮かべていた。
「……童磨様。遊びに来てくださるのは構いませんが、朝日が昇るまでに帰宅することができない程長居するのは如何なものかと思いますよ。」
「だって宵月ちゃんと離れるの嫌なんだもん。ねぇ、そろそろこの寺院を宵月ちゃんの仮宿の寺院にしない?そうしたらずっといられるよね?」
「いきなり何を言ってるんですかあなたは。できるわけがないでしょう?童磨様の救済方法は、我々には刺激が強すぎますし、仮宿にすることはできません。
確かに、苦しみがなくなるという点では間違いはないかもしれませんが、こちらはあのような救済方法は黙認できないので。
わたしに宿ってほしいと望むのであれば、救済方法を一から見直していただかないと困ります。」
「え〜……。でも、俺はあれくらいしか救う方法を知らないよ〜……。」
「であれば、ここを仮宿にすることはできませんね。顔を合わせることはしても構いませんが、万世極楽教の主神になることはお断りさせていただきます。」
最近の童磨の動向に信者が首を傾げていると、童磨がいつも腰を据えている部屋から幼子の声と部屋の主の声が聞こえてくる。
驚いて部屋の襖を軽く叩けば、中からどうぞ〜と言う間延びした許可の言葉が返って来た。
失礼しますと信者が部屋の中に入ってみると、いつものように上座に座っている極楽教の教祖と、明らかに人ではない風貌を持ち合わせている童女の姿があった。
月光がそのまま毛髪になったのではと錯覚してしまう月白色の艶やかな髪に、白銀の鱗に覆われた左腕。
蛇を思わせる縦長の瞳孔を宿した盈月の瞳に、根本から枝分かれしたかのような額の角……。
視界に映るまるまるとした右頬には、大中小の3枚の鱗が猫の髭のように並んで生えており、この世のものとは思えない美しさを持ち合わせている童女……なんの訓練もされていない一般の人間であっても、ハッキリと澄み切った神秘的な気配を持ち合わせているとわかる程に異質な気配を持ち合わせている存在を見て、信者は思わず言葉を失う。
「……全く……こうなるから送りたくないんですよ。あまり人目につくのは得意ではないので。
だというのに……なぜ童磨様はいつも昇る朝日に照らされてもおかしくない時間帯までわたしのもとから離れないのか。」
「だって宵月ちゃんと話せる時間が少な過ぎるもん。もう少し近くにいてくれたら、もっと長く一緒にいられるだろう?」
「ですから、こちらの寺院の主神にはなることはできないと言っているでしょう?
あなたの救済方法は、我々からしたら邪道にすぎません。別の神を当たってくださいませ。」
「そんなぁ……。俺の神様にはなってくれないの?」
「考えを改めてくださらない限りは不可能ですね。では、わたしは失礼します。
夜遊びも程々になさってくださいね。わたしの元まで遊びに来ても、初めて会った時のように、ちゃんと時間を決めて速やかなご帰宅をお願いいたします。」
見惚れて固まる信者を見つめ、月白の童女は一度目を細めたのち、興味をなくしたかのように目を逸らす。
そして、童磨に物申したいことをハッキリと言ったのち、風により舞い上がる桜の花びらのような薄紅色の光を吹雪かせてこの場から立ち去った。
「……あーあ……今日も口説くの失敗しちゃったなぁ。でも、本当に今の救い方しか俺は知らないし、どうしたもんかなぁ……。
別の救い方があるなら、教えてくれてもいいじゃないか……宵月ちゃんの意地悪……。」
むすっと拗ねたような表情をしながら、光の余韻が残る場所を見つめ、落胆したような声音で言葉を紡ぐ童磨。
そのような姿は、これまで仕えてきた童磨の側仕えは見たことがなかったため、思わず目を丸くする。
しかし、すぐに頭を切り替えては、静かに口を開いた。
「あの……教祖様……。先程の方は……?」
つい数日前、教祖様が口にする神の姿を見たと騒ぎ立てた信者が1人いた。
それにより寺院はかなりの賑わいを見せ、信者達が一斉に拝み始めたことは記憶に新しい。
しかし、我らのような低俗な人間の前に、神は姿を現すだろうか?という疑問を抱くものもそれなりにおり、側仕えの信者もその疑問を抱く1人だった。
なぜ、今になって神が姿を現したのか?本当にそれは神だったのだろうか?疑いたくはないが、この目で見ない限り、わからないものだ……と、この信者は思っていたのである。
「さっきの子?俺の神様だよ。まぁ、神様本人はまだ俺の神様になってないって言うし、今はなるつもりもないって言ってるから、予定にしか過ぎないんだけどね〜……。
どうやら、俺はまだ彼女に認められてはないみたいなんだ。」
残念だなぁ……と肩を落とす童磨に、信者は無言を返す。
あれが教祖様が仰っていた神の姿……。美しくもどこか触れ難い気配を持ち合わせていたあの童女が……我らが信仰している存在……。
教祖たる童磨自身は、まだ認められていないと口にしているが、彼が言うのであればそれが絶対。
いずれは認めていただき、極楽へと向かうためのお導きを示していただけるのかと思うと、信者は感じたこともない高揚感に襲われる。
「あの……教祖様。先程の御方の名は……?」
「ん?宵月ちゃんだよ。腕と頬の鱗や角からわかると思うけど、一応は龍神様なんだって!半分は違うらしいけど。
すごく綺麗だよねぇ……!あんなに綺麗な神様だったなんてこれまで考えもしなかったよ!
自然を司ったり、厄を除けたり、病を退けたり……って、様々な力を持ってるんだよ、宵月ちゃんって。」
その日あったことを無邪気に知らせる幼子のように、明るい声音で先程の童女……自分達が信仰すべき神格の話をする童磨。
話を聞いていた信者の脳内は、初めて目の当たりにすることとなった童女の姿をしている神、宵月の名前が反芻していた。
「宵月様……龍神様……我々が信仰すべき龍の神格……っ」
「そうだよ。いつかあの子に認めてもらわないと行けないから、信者君もこれまで以上に励むんだよ?俺も頑張って認めてもらいたいからね。
あ、一応他の信者の子にも伝えてもらえる?やっと見つけた神様なんだから、覚えてもらわないといけないし。
それに、みんなが知っていれば、あの子が部屋にいても驚かないでしょ?何度も聞かれて答えるのも大変だしね。」
「っ……!!はい!!すぐにでも!!」
童磨からそのように告げられ、側仕えの信者は頭を下げて、室内から退室していく。
我らが神をいつか必ず迎え入れるために。
……一方その頃。
「……なんだか妙に力が湧き上がってくる気がするのですが、気のせいでしょうか?」
「……弥宵ちゃん。もしかしてどこかで信仰でも引っかけてきた?」
「その記憶はありませんが……言われてみれば人間に本来の姿を見られた気がします。」
「……宗教に関わる人間であれば、お前を信仰すべき神格として認識してしまった可能性があるな。
まぁ、悪いことではないが、あまり人前に姿を出さんようにな。信仰が集まるのは神格にとって大切なことではあるが、思慮深く信仰心が強い人間が目撃した場合、盲信した末に気が狂うぞ。」
「え……?発狂されてしまうんです……?」
「するやつはするかな。ただでさえ、弥宵ちゃんは神在月の暦により出雲に集まった神々から加護をもらっちゃってるし、神格で言うと、父上に並ぶくらいあるし。
いや、父上に並ぶ程の神格なのかな、これ……?」
「……いや、神格から行くと、オレより高くなってしまっているな。三貴子を始め、常世の女王や日本の神々の父、その他位の高い神格連中が酔った勢いで加護を与えていたからな。
力を上手く扱うことができない状態ゆえに、オレや酒呑に劣ると言うだけであり、扱い切ることが可能になれば、この立場は一気に逆転してしまうだろう。」
「……ってなんで止めてないのですか父上ぇ!?」
「すまん。あの時はオレも酔っていてな……」
「……わたし、父上以上の神格を持ってるんですか…………?」
「……7にも満たない幼子を連れて行くべきではなかったかもしれんな。」
童磨のせいで予期せず信仰を会得してしまった宵月は、自身の住処でもある山の鬼神御殿にて、自身が持ち合わせている神格がどれ程のものであるかを父親から教えられ、遠い目をしていたのだった。
童磨
宵月は自分の神様だと堂々宣言する人喰い鬼。
どうやったら宵月ちゃんは俺の神様になってくれるのかな?と絶賛思案中。
……人喰いを止め、本当の意味で人を救うようになれば、彼女も認めてくれるのだが、今はまだわからない。
側仕えの信者
童磨に忠誠を誓うなんの変哲もない人間。
出会した童女こそが我々の神であると口にした童磨のせいで、宵月の信者になってしまった。
宵月は我らの神であり、教祖様は宵月様の神子であるな脳内数式が出来上がってしまったため、この信者を介して宵月の信仰が増えていくことになってしまった。
宵月
童磨に振り回され中の半龍半鬼神の少女。
彼のせいで信仰が集まることになってしまったのだが、それよりも自身の神格の高さを知り、遠い目をしてしまった。
伊吹童子
宵月が加護まみれになった原因であり、同時にそれを止めなかった鬼神の始祖。
酒に酔っ払っていたせいで、まともに思考が回らなかったらしい。
酒呑童子
このバカ親は何をやらかしてやがるんだ……(ドン引き)