作者のモチベーションと、作品を継続するか否かに関わるため、よろしければ評価、ブックマーク登録、お気に入り等お願いします。
魔物の支配の及ぶ、紅の木々を駆ける小さな影。
魔都フェアンヴェーから研究資料を窃盗した、一匹のドブネズミは命からがら逃げ出す真っ最中であった。
ボロの布切れを羽織った鼠頭の獣人は幾度も振り返り、追手の魔の手を掻い潜りつつ、夜目を光らせる。
「何処にいる、七帝様に逆らうドブネズミが。ただでは済まんぞ!」
「そんなの、元からわかってやったんだっチュ……資料を早く届けないと!」
暗闇に怒号が響く中で囁くと、獣人は背中の小弓を手を取り、音を殺す。
悟られて仲間を呼ばれでもすれば面倒だ。
低身長の彼に合った、分厚い辞書のような大きさのそれに矢をつがえた。
毛の生えていない剥き出しの肌色の手に、力を入れて
(オイラにも譲れないものがあるっチュ!)
意思を秘めた一撃は空を切り、七帝の下っ端の脳天へと突き刺さる。
叫び声はなく、おそらく物言わぬ屍と化したのだろう。
敵とはいえ殺人に手を染めた、後には引けない。
口を開けば高鳴る鼓動が、周囲に漏れてしまうのではないか。
動けば草木が揺れ、居場所がバレてしまうのではないか。
(う……ジッとしていたらお腹が……)
獣人の代謝の影響で、小さな義賊の彼は意外にも大食漢だ。
このまま恐怖に怯え野垂れ死ぬ、最悪の選択を取るのは愚策。
(一か八か……っチュ!)
獣人は敵へと気づかれぬのを祈りつつ大地を駆けると、一心不乱に近隣の村まで向かうのであった。
第2話 聖なる歌
「……ハァハァ……っチュ」
フェアンヴェーから資料を盗んでから追手の追跡を振り切るまで、ほぼ飲み食いなしで休息を取らずにきた弊害か。
疲弊した鼠頭の獣人は引き摺るように脚を動かすと、門の出入り口は灯台が船を導くが如く、魔法の光を煌めかす。
見えた人影に近づくと門前で対になった2人の門番は、険しい面様で鼠頭の獣人に目配せした。
「止まれ、こんな時間に何用だ」
「怪しい賊ではなかろうな」
訝しむ門番は威圧的な声色で問い訊ねた。
怪しまれるのも無理はないが
「この村の滞在中の人物に、届け物があるっチュ! オイラの話、聞いてないっチュ?」
正直に用件を伝えると、2人は視線を交わらせ
「宿屋にいなかったか? 仕事に疲れて旅にでたという男が」
「ああ、確かにあの人は近々獣人が来てくれるといってたな。なるほど、お前さんのことか」
「しかし非常識だぞ、こんな時間に来るなんてな。ま、外は寒かろう。村に入れ」
呆れつつも、二つ返事で納得した。
依頼者が日頃から獣人の話をしてくれたのが、幸いしたようだ。
案内されて村に入ると都市からほど近いだけあり、木製の安っぽいものではなく、石煉瓦で作られた耐火性に秀でた住宅が建ち並ぶ。
「彼の宿泊する宿屋はあそこだが、もう閉まっているからな。誰かに泊めてもらうしかないだろう」
「ありがとうっチュ。後はオイラ一人で大丈夫っチュ」
礼を述べると彼は一宿一飯の施しを受けるべく、家々を回って声をかけた。
しかし夜中だからか夢の世界に引きずり込まれ、起きてこない人が大半だ。
運良く扉を開けて応対した家人からは
「なんだよ、汚い鼠の獣人かよ。さっさと帰れ」
冷たく追い返され、彼は路頭に迷ってしまった。
腹が減って力がでない、今すぐにでも何かを口にしなければ。
鞄を漁ると乾パンを齧って空腹を紛らわし、再び暫く村を散策する。
10分ほど彷徨うと剥き出しのコンクリートの建物の中から、薄明りが漏れているのに気がついた。
「誰か起きてるっチュ? うぅ、もう体力がもたないっチュ……」
腹を抱えて老爺が歩むように、ゆっくりとそちらへ向かう。
建造物が目と鼻の先になると、誰かが抑えた唄っており、立った耳がピクピクと反応した。
誰かいる、この人に泊めてもらえるよう頼もう。
もうちょっとだ、彼がなけなしの気力を振り絞った刹那―――脚は泥濘に沈んだかのように止まり、次には体が前に倒れた。
「泊めて、ほしいっチュ……」
うわごとのように何度か呟くと誰かが駆け寄ってきたのを最後に、彼の意識が闇に飲まれていく。
小さな義賊 ボーガード・カッシュ
職業·盗賊(シーフ)
種族·獣人(ワービースト)
MBTI:ENFP
アライメント 中立·善
歓楽街フェアンヴェーから、とある研究資料を盗んだ鼠頭の獣人の義賊。
戦闘では小柄な体躯に合わせた小さな弓を器用に扱って敵を無力化し、悪を討つ。
鼠同様に前歯が伸びる体質で住民と出逢う度に硬い物を要求し、一心不乱に齧り、前歯を適切な長さに保つ。
温厚だが他人に流されない、確固たる意思を持つも若干間の抜けた性格。
【挿絵表示】