帝都初恋剣戟譚 作:新免ムニムニ斎
一般客席、VIP席問わず、
しかしその二人は、いささかの緊張すら見せず、柳のような静かな立ち振る舞いを保ち続けていた。
共に、当代の至剣流における頂点と呼べる剣豪達であった。
両者とも、白い上衣と黒袴の稽古着。両肩には白い
左手には鞘に納まった刀。もちろん本物だ。
二人は互いに広く距離を開いて、向かい合う。
一礼。
双方、刀を左腰に差して
双方、おもむろに抜刀。
双方、「正眼の構え」を取る。
双方、切っ尖が触れ合うまで近寄る。
双方、
双方、立ち上がって後退。
双方、切っ尖が触れ合うまで近寄る。
双方、止まる。
——そこからまず最初に動いたのは、螢だった。
閃くような速さと、全身の力が
対し、寂尊は退きながら刀身を
螢は踊るように身を捻って刺突から逃れつつ、寂尊の左を取ると同時に円弧の太刀を振り放つ。至剣流の『
寂尊は振り向きながら、右耳隣に剣を垂直に構えた「陽の構え」を取る。そう構えた拍子に螢の太刀を受けてから、すかさず剣尖を鞭のごとく発する。至剣流の『
螢はその一太刀を柔らかく受け流しながら、鋭く身を進める。
寂尊は大きく退きながら、我が身に太刀筋を巻き付けるように剣を振る。
その『
寂尊もまた、悠々と刺突。その切っ尖の
螢はそれも軽く避けて、また次の技を放つ。
寂尊もそれを軽くいなして、また斬り返す。
互いの攻防を入れ替えながら続けられるその様は、まるで互いの
——周囲の観客は、唖然としていた。
演武と呼ぶには、あまりにも危険と隣り合わせで。
しかし斬り合いと呼ぶには、あまりにも
そんな「演武」であった。
真剣を使っているにもかかわらず、「演武」をひたすらに繰り返す二人の剣豪は、命のやり取りのような緊張感は微塵も無かった。
あるのは、ただ、溶け合うような心地良い「剣の調和」のみ。
二つの支流が遭遇し、触れ合い、流れを同じくし、大河となるような。
——『
至剣流の型をすべて体得した者同士で行う、至剣流の稽古法である。
お互いの知る技を、攻防を入れ替えながら、幾度も出し続ける。
途中でやめず、円環のごとく続ける。
それによって、今の自分に足りぬ型を体で見つけ出し、それを手掛かりに稽古をして改善していき、至剣へと着実に近づいていく。
『生々流転』が終わるのは、どちらか片方の太刀筋に「詰まり」が生まれた時だ。
現在自分の体得している型の中で、最も習熟されていない型にのみ生じる
——二人の『生々流転』もまた、そのように終わりを迎えた。
先に
心身ともに「剣の調和」に浸っていた螢は、そんな「詰まり」という不純物を敏感に感じ取り、そして条件反射でピタリと剣を止めた。
双方、退く。
双方、「正眼の構え」となって切っ尖を触れ合わせる。
双方、蹲踞。
双方、立ち上がる。
双方、構えたまま五歩退く。
双方、納刀。
双方、左腰から鞘ごと引き抜き
一礼。
途端、割れんばかりの拍手が膨れ上がった。
当代に名を馳せる二人の剣豪が魅せた、極上の剣舞。
剣を知る者はもとより、知らぬ者もみな惜しみない称賛を送っていた。
だが、それを
二人は、視線をぶつけ合う。
その視線には、意味があった。
——しかし「その意味」を解せるのもまた、この二人だけであった。