帝都初恋剣戟譚 作:新免ムニムニ斎
「本来の奥義は、あの方より授かった『
よく分からない単語の混じえてうそぶいたかと思うと、僕の剣と切り結んでいた白鳥の剣が閃くように動いた。僕の右前から左前へ回り込みながら斬りかかってくる。
僕も左へ振り向きざまに木刀を動かして防ごうとするも、白鳥の剣はぶつかる寸前にヒュッと
僕は大きく退歩することで剣を強引に引っ込め、柄頭を上に向ける形で木刀を構えた。白鳥の水平斬りとぶつかり合い、両剣が一瞬十文字になる。
そのまま白鳥はすれ違う形で僕の右後方へ移動。僕は持ち上げていた剣をそのままの高さのまま、振り向きざま水平に斬り放つ。
しかし白鳥の剣は、僕の剣に宿る鋭さを
「っ——このっ!!」
返す刀を防ぐ意味で、僕は白鳥の上腕を思いっきり下から蹴り上げた。白鳥もそれを避けようと腕を動かしたが、前腕と違って動きに乏しい上腕を狙った蹴りなので避けきれず、当たってわずかに仰け反ってしまう。その間に、僕は後退して剣の届かぬ距離を作る。
左肩にわずかに残る痛みという余韻を、深く呼吸して軽減させる。
「良い師に就いて学んだようだな。——なおのこと気に食わん。己や、己の同胞、故郷を暴虐の徒から守るはずのその優れた「剣」で、よりにもよって暴虐の徒を守っているのだからな」
侮蔑と、いくらかの
僕は我が手にある剣の存在を意識し、毅然と言葉を返した。
「あなたの言うとおり、剣とはそういうモノだ。僕もそれは承知している。……
「あの娘が同胞だとでもっ? 笑止! 奴は十二年前にこの国を
純度の高い怒りと憎悪。
僕がどれだけ言葉を尽くして否定や説得を試みても、彼らは絶対に考えを曲げない。曲げることができない。
だけど——それは僕も同じことだ。
「あなたはそうかもしれない。仲良くなれないかもしれない。けど——
僕は、いつか誰かに言ったのと同じ言葉を告げた。
「あなた達には無理でも、僕にとっては無理じゃない。たったそれだけの話なんだ」
白鳥は目を見開く。自分にとっての理解を超える生き物を目にしたような、驚きと困惑の表情。
「自分達が仲良くできないからって、他の人にもそれを強いるな。あなた達の憎悪を、僕にまで押し付けるな」
しかしやがてそれは、静かな怒りと、諦めのソレへと変わる。
「僕は、エカっぺと一緒にいたい。——だから、あなたに剣を向ける」
きっと今、彼は本格的に、僕を
それは僕も同じだった。
だからこそ、それ以上何も語り合わず、互いに剣を再び構えた。これから僕らのすべき事は、もう分かっていたから。
一対の「正眼の構え」。
それらが、ときどき半歩退がりながら、徐々に近づいていく。
間合いが触れそうになり、かと思えば僕が一歩退がり——かと思えば白鳥が急迫しながら僕の剣を左へ払い、間合いへ踏み込むと同時に「
また『
「っ——」
肘という硬い部位で肋骨を打たれ、苦悶で目が白黒する。チカチカする視界の左端から、木刀の切っ尖がきれいな弧を描いて飛来してくる。
当たるという直前で、どうにか引っ込めた木刀による受けが間に合った。木の快音に、微かに軋むような音が混じる。
しかし崩れた体勢で受け止めたため、後方へ数歩よろける。一方、白鳥はすでに刃を翻し、もう一太刀発していた。右から迫る!
その『
さらに数歩後ろへもたついている間に、眼前の白鳥はすでに「裏剣の構え」を取っていた。
構えからそこはかとなく感じる、爆発前の火山めいた充足感。
来る、「高級剣技」が。『
まずい。足元のおぼつかない今来られたら、避けられない。当たる。
僕の重心の安定が戻るのとほぼ同時に——白鳥の「裏剣の構え」が爆裂する。
岩の重みと、風の速さ。それらの矛盾を帯びた
——それに対し、僕は自分で驚くほど自然に、そして呑気に剣を動かしていた。
顔の延長線上にある両手。それらが握る剣を前へ大きく伸ばし、わずかに右へ傾ける。
重心は前に出た左足。そこから後方の右脚へと重心を
そんな重心の流れに、剣に螺旋を描かせながら懐深くまで引く動作を同調させる。
細長い渦めいた太刀筋の中に宿る、強大な「軸」の存在を、僕は他人事のように実感していた。
渦を描く僕の剣と、轟然と迫る白鳥の『迦楼羅剣』とが、近づき、触れ合い、
「な——」
白鳥の動揺の声に答えるように、彼の太刀筋が力を失う。
同時に、僕の木刀が「ばきり」と音を立てて折れた。最初に『迦楼羅剣』を受けて潰れていた箇所から。刀身の部分ほぼ全部である。
宙を舞う木刀の片割れ。
顔を前に出して、前のめりに傾いてくる白鳥。
そして——木刀の
「か——」
渾身の柄当てを叩き込まれた白鳥は、冗談みたいな勢いで仰け反った。
仰向けに倒れる音とともに、ようやく思考する余裕を取り戻す僕。
——『
『迦楼羅剣』と並び、至剣流の「高級剣技」の一つである型。
何の
——
『蛟ノ太刀』の吸引力による勢い、そして僕自身の柄当ての力をカウンターパンチのごとくぶつけられた白鳥は……完全にのびていた。