岸部露伴は動かない×8番出口

ある日、諸事情で久しく使っていなかった地下鉄、もとい地下迷宮を進んでいく岸部露伴。

しかし、その道中で妙な怪異に巻き込まれ…?!






みたいな感じです。

ちなみにpixivでこのような題材のイラストを見かけて作成しました。
実質パクりですがぜひ読んでいってください……

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岸部露伴は進まない

最近の地下、特に東京なんかのものはどこも迷宮のような様相を呈している。

それはまるで新品ぴかぴかの掃除機かのように来たばかりの人を吸い込んで、そして出られなくしてしまうのだ。

 

もちろんこれはただの比喩表現であり、都市伝説というのもおこがましい冗談の一種だ。

しかし、オカルティズムの枯渇した、乾ききった現代の地に怪異が降り立つには、それは十分な恐怖を人々に与えていたのだろう。

 

そして、この岸部露伴も、そんな怪異に巻き込まれた被害者の一人であった。

 

 

8番出口

 

 

担当との打ち合わせに、少し遠方のカフェに向かうことになった岸部露伴は、久しく訪れなかった地下の迷宮に足を踏み入れた。

 

彼はいくつかの数奇な運命に巻き込まれながらも、その漫画家としての稼業を留めることはほとんどしていない。

その少し異常とも言えるような執着を持ってして、質の良い漫画を描き上げ続けていた。

なので彼の財は控えめに言ってもかなり多く、迷宮のような地下鉄を避け、移動にタクシーを使うことも多かった。

 

それがなぜ今日地下鉄なのかは追々……。

 

つまるところ彼はその地下鉄を使い慣れている他の人より迷う可能性があるということだ。

しかし彼はそう不用心な人間ではない。

事前に道は調べたし、万が一のために地図も持ってきている。

 

……のだが。

 

「………」

 

角を左に曲がって、右に曲がって、通路を歩いて。

中年の男性とすれ違う。

 

「………」

 

また角を左に曲がって、右に曲がって、通路を歩いて。

また中年の男性とすれ違う。

 

「………」

 

またまた角を左に曲がって、右に曲がって、通路を歩いて。

またまた中年の男性とすれ違う。

 

「……なんなんだ、これは?」

 

彼は眉を顰め、それからまたまたまた角を左に曲がって、右に曲がって、通路を歩いて。

またまたまた中年の男性とすれ違う。

 

「…"ヘブンズ・ドアー"ッ!!」

 

そして彼が突然そう叫ぶと、すれ違った中年男性がばたりと倒れた。

最初は一瞬地図の不備を疑ったが、この堂々巡り明らかに異常だ。

 

疑わしきは心行くまで探れ、だ。

 

"ヘブンズ・ドアー"。能力を受けた人間の心の扉を、本にしてこじ開ける能力。

 

彼は男性の上にまたがると、本をぺらりとめくる。

この本には相手の人生の全てが、克明に記録されているはずだ。

"ヘブンズ・ドアー"に嘘はつけない。

 

「…薄い?」

 

彼は、倒れた中年の本の異常さにすぐさま気付いた。

 

"ヘブンズ・ドアー"により作られる本は、対象のこれまでの記憶が完全に再現されている。

これほどの年の男性ならば読み切るのにかなりの時間がかかるほどの本になりえるだろうに、それは数ページの冊子のようになっていた。

しかも語調も妙に説明的だ。

 

「まるで取扱説明書じゃあないか…まぁひとまず『岸部露伴に攻撃できない』…と。」

 

ぺらりとページをめくると、大きく書かれた見出しのような文字が目についた。

 

「……『ご案内』…?」

 

 

その瞬間であった。

能力を受け、本来目を覚ますはずのない男性の目が、開かれたのだ。

 

「1…異変を見逃さないこと……2、異変を見つけたらすぐに引き返すこと…3、異変が見つからなかったら引き返さないこと……」

「4ッ!正解を9回繰り返し、8番出口から外に出ることッ!!」

「…これは攻撃じゃあない、『ご案内』だ!岸部露伴ッ!!」

 

「なッ…なにィィィ!?」

 

彼を押しのけて立ち上がった男性を見て、岸部露伴の額から脂汗がにじむ。

 

彼の顔のページがめくれ、先程書いていたはずの『岸部露伴を攻撃できない』という文字が少しづつ動き、字体が変化し…

 

「そして今追加された…『ご案内』の5!この中では一切の"攻撃"をできないッ!」

 

人間の常識は、怪異に取り込まれて吸収されるのみ。

"ヘブンズ・ドアー"はしょせん人間の範疇の能力、太刀打ちは難しい。

 

まさか、コイツは……

 

「貴様ッ、何者だッ!」

「私…いや、ここは"8番出口"だ!そして貴様のとれる行為はたった今!進むか戻るか、二つに一つだッ!」

 

コイツは紛れもなく、地下鉄の怪異だ。

ゆっくりと、しかし確実に近づいてくる"8番出口"にあとずさりをしつつ、彼は考える。

 

つまりコイツの言っていることは、間違い探しをしろということだ。

だが、異変も何も、これまでここがどんな様子だったかなんざ彼は記憶していないし、そもそも今までが正解かもわからない。

 

「ここは…戻らせてもらおうかッ!」

 

そう言うと彼は"8番出口"の隣をすり抜けて走り出し、そして角を曲がった。

しかしそこにあったのは、0の文字。

 

「それは『間違い』の選択だ、岸部露伴! 貴様の今の数秒は今ここで無駄となったというワケだ!」

 

またもや奥から歩いてきた男が、自慢げにそう話す。

 

 

「……いいや、全部が全部無駄じゃあない…今のが正解だろ? そして覚えた!例外なく全てをなッ!」

 

そう言って突き出された岸部露伴の手のひらがペラリとめくれて、ページが見えるようになった。

『今から見る景色を絶対に忘れない。』

 

結局ただの間違い探し、少し時間は取られるがルールも正解も把握した彼の敵ではない。

 

「この程度か?異変が聞いてあきれる、まだヒヨッ子だからか?」

「き…貴様…!」

 

彼は余裕そうな笑みを浮かべたまま、「これは正解だ」と呟いて歩いていった。

そして曲がり角に1の文字が見えた。どうやら成功したようだ。

 

「これは間違いか。」

「これは正解だな。」

 

その後も余裕綽々の態度を一切崩すことなく、なんなら少し楽しみながら、彼は進み、戻り、進んでいく。

 

「これは…赤い洪水か?」

 

通路の奥から、赤い水のようなものが大量に押し寄せる。

勢いが強く、飲み込まれたら逃げられなさそうだ。

 

が、彼はそんな異変にパニックになるでもなく、興味を見せていた。

あろうことかその水を少し指をつけて観察を始める。

 

「……なんだ、ただの着色料のついた水じゃあないか」

 

少し落胆したように指を拭い、すぐに引き返した

 

匂いだけで着色料がわかるのは、もしかしたら使えるかもと思って着色料を大量に買い込んだことがあるからだ。

今のところ大量に買う必要性は一切なかったが、必要な出費と割り切っている。

 

 

曲がり角の数字は順調に増え、先ほどのでついに8となった。

脱出は目前である。

 

ザバァーーーッと大きな音を立て、目の前から赤い洪水が迫ってきた。

 

「オイオイオイオイ、このパターンはさっきと全く同じじゃあないか。いくらなんでもそれは……」

 

鼻で笑うようにそう言って、後ろ振り返った彼の動きが止まる。

 

「なッ、なにィィーーーッ!?」

 

後ろからも同じく洪水が迫っている。

前後からの挟み撃ち、この"8番出口"は前に進むか後ろに戻るかの二つに一つで、退路は全く無い。

身を隠す場所も、もちろん無い。

 

その洪水の中をあの男が悠々自適に歩いてくる。

おそらく男は"8番出口"の一部であるから大丈夫なのだろうが、普通なら立つこともままならないだろう。

 

「オイオイオイオイオイオイオイオイオイ!口元が硬いぜッ、岸部露伴!さぁぁあああ、ここからどうするんだ!」

 

男は通路の中ほどに立ち、煽るようにまくしたてた。

岸部露伴の額に脂汗が流れる……が、次の瞬間、彼の口角がにやりと上がった。

 

「ずいぶんと余裕そうじゃあないか、"8番出口"!僕がいつ突破口が無いと言った?」

「なッ…なんだと!?」

 

形勢逆転、一気に精神的な優位に立った岸部露伴がお返しだと言わんばかりに言い返す。

 

「ネタ切れに次ぐネタ切れで、今度は力量で押し流してしまおうってか?芸も品も万策も全部が全部尽きたってのか?"8番出口"ッ!それじゃあここで僕はおさらばさせてもらうよ!」

「……ッ、おおおおおおおおッ!!!」

 

焦りに焦った男が、岸部露伴に詰め寄ろうとする。

が、これが岸部露伴の思惑だった。

岸部露伴は地面を蹴り、高く跳んで洪水を避け、そして男に飛び乗った。

 

「突破口はお前自身だッ!!"8番出口"!」

 

岸部露伴が高笑いとともにそう宣言する。

あとは男を殴るなりなんなり、足場にして移動させて戻ればいいだろう。

漫画家という職業柄、十二分に鍛えられた岸部露伴は、スタンドが無くともこの程度の男は殴り倒せる。

 

と、ここで終わったら岸部露伴は二度と太陽の光を浴びることがなかっただろう。

確かに自分は正しいことをしているはずだ。だが、寒気がする、唐突な嫌な予感が……

 

ふと自分の手を見てみると、自分で書いていた『今から見る景色を絶対に忘れない。』という文字列が赤い洪水の水で消えてしまっている。

この指示は、書いた時点からの景色を確かに記憶できるが、それ以前の記憶は逆に脳の端に押しのけられ、忘れがちになる。

指示文が消えてしまったことで、これを書いた以前の記憶が蘇ってきたのだ。

 

そう、これを書いた以前に……!

 

 

「そして今追加された…『ご案内』の5!この中では一切の"攻撃"をできないッ!」

 

 

男に対して攻撃はできない…しかし、男の移動は自由だ、このままではまずい……

 

「気付いたようだな岸部露伴…この中では攻撃はできない…つまり、俺が前に進めばお前は振り出しからだッ!この洪水をお前が攻略することはできないッ!!」

「お前は永遠に進み続けるんだ、この"8番出口"をなァーーーッ!!」

 

まずい……

スゴくまずい……

 

なんてことは、ない。

 

 

「だが戻る」

 

 

岸部露伴はそう言うと、足を地面におろした。

そして両足を地につけ、仁王立ちした。

そして赤い洪水に流され……なかった。

一切流される気配を見せない彼に、男が驚愕する。

 

「なッ、何ィ!? この勢いの洪水の中に立てば、お前は間違いなく押し流されるはずだぞッ!」

「お前が忘れたのか?それじゃあしっかり覚えられるように書き込んでおいてやる!」

 

 

「"ヘブンズ・ドアー"ッ!!」

 

『『ご案内』の5 この中では一切の"攻撃"をできない』

 

 

"洪水により岸部露伴を押し流す"という行為は、相手の行動への干渉であり"攻撃"。

それは無効化されるため、岸部露伴が洪水により押し流されることはない。

つまり最初から、彼を脅かす障壁など、そこには無かったのだ。

 

「ぐッ、うッ、ああああああッ!?」

 

男が突然呻きだし、そして"8番出口"とともに崩壊していく。

おそらく、男に明確な敵意があったと"8番出口"のルールが気付き、罰を自身に与えたことで自壊したのだろう。

岸部露伴は崩壊していく通路に踵を返し、8番の出口から外に出て行った。

 

 

エピローグ

 

 

「お久しぶりです露伴センセー……ってなんでそんな足元びしょ濡れなんですか!?」

「それはいいから、予定より遅れてるし早く始めてくれ。」

「遅刻したのはそっちでしょう!」

 

口うるさい担当を適当にあしらいつつ椅子に座る。

 

「………ってな感じで、急に書き下ろしを用意しなくちゃいけなくなっちゃって、できますかね?」

「そうだな……今、ちょうどいいアイデアを一つ思いつ…いや、見つけてる。それを描くよ」

 

今日は思わぬ収穫があった。

遅刻を鑑みても、天秤にかけて余裕で得に傾くくらいには興味深い体験ができた。

怪異は人より見てきた自負があるが、現代の怪異は波乱万丈な彼の人生でもなかなか珍しく、貴重であった。

複雑で強大だが、新しく幼い故のミスもある……なかなか良いキャラになりそうだ。

 

「は、はぁ、そんな即断で……まぁわかりました!それじゃ私失礼しますね!」

「あぁ……いや、おい。注文は君が済ませてくれよ」

「え?ケチだなあ、いいじゃないですかコーヒーくらい」

 

眉を顰める担当に、より不快そうに眉を顰め返す。

 

「いやいやいや、君。今日なんで僕がわざわざ面倒な地下鉄なんか使ったか、わかってないのかい?」

「え?そういえば、なんでですか?」

 

「……破産したんだよ」

 

 

 

 /|_________ _ _

〈  To BE CONTINUED…//// |

 \| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄~ ~  ̄

 

 

 




2024.5.6
気が向いたのでちょっとだけ改稿。オチの方をわかりやすくしてみた。



【ちなみに】
最後の「破産したんだよ」というオチですが、これは本家『岸部露伴は動かない』の『六壁坂』という回の冒頭です。
というわけでTo Be CONTINUED…のその先が気になる方はぜひ本家の方も!!
これより圧っっっっっっっ倒~~~的に面白いです!!!!

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