それではどうぞご覧ください。
「許可する」
看守の1人がそう言うと、シェローナの胸が黒く光り出した。
虹色に輝くメガシンカ。それを塗り潰す様に黒い光が侵食し、やがて彼女を包み込む。
「あ、あれはッ……!!」
アイリーはその姿を見て思い出した。
以前、共に依頼をこなし、友情が深まってきた頃。
帰り際にシェローナから教えてもらったとある秘密。
「どうしたアイリー!?」
ドッピンが叫ぶ。
「"黒いメガシンカ"……」
Level3に幽閉された理由の全て。
否、そこで留まったのが不思議なほど恐ろしい力。
「……セコンドの2人、それから戦場に近い皆さん……どうか、どうか私に近づかないでください」
サーナイトの通常のメガシンカと異なり、頭以外は色違いの様に黒色。
色違い。それで済まされるのか。
漆黒のオーラが彼女の周りに付き纏い、禍々しさを増している。
「へー、あたしの相手に相応しくなったってわけだ」
「できれば耐えて……そして──────」
目がぎょろりとラピッルに向く。
「死なないで」
次の瞬間、シェローナがシャドウボールを放つ。
そのシャドウボールが尋常ではなかった。
「おぉっと!?」
ラピッルは大きく跳ねて避ける。
地面を抉り、彼女を簡単に飲み込めるほどの大きさ。少し触れただけでも命を削り取られてしまいそうな真っ黒な玉。
想像以上の力にラピッルの鼓動は高まる。
「ははっ!たまらないね!スカイアッパー!」
ラピッルは瞬時に近づき、シェローナの顎目掛けて"スカイアッパー"を繰り出す。
「無駄です」
それをシェローナは首を横に向けて回避し、通り過ぎるラピッルに対して"おにび"を放つ。
"おにび"の直撃。だが、ラピッルには状態異常無効の装置が付いている。
「そんなの効かないね!」
豪語するラピッルは"グロウパンチ"の体勢に入った。
「リフレクター」
先ほど同様に物理に対しての"リフレクター"。
「くーらーえぇぇぇぇッ!!!」
"グロウパンチ"が炸裂する────────。
ガンッ。
鈍い音がスタジアムに響き渡った。
「………ッッ!!」
ラピッルは即座に退がる。
腕を気にする素振りを見せる。セコンドくらいの位置ならわかるが、彼女の腕は微かに震えていた。
ラピッルが恐怖するとは思えない。震えていないなら原因はなんなのか。
「………かったぁ」
ポツリとラピッルが呟く。
「アンタのそれはメガシンカって言えるのか?」
「はい、メガシンカですよ」
「メガシンカってのはもっとこう……ぎゅぎゅぎゅーんドカーン!!って感じなんだけどな。アンタからはそんな音しないんだ。あたしは耳がいいし、強いからよくわかる。ドロドロとして嫌な音と気配がする」
「……私のせいです」
「なにが?」
「私が多くの命を奪ったから……これは復讐と怨念の塊。だから私はこの牢獄から一生出ていけないのです。けど、大切な仲間の為の1000年。優勝する事に関しては別。勝たせてもらいますよ」
ラピッルの理解が追いつかないまま、彼女は一瞬にして後方の壁に吹き飛ばされる。
"サイコキネシス"がラピッルの身体を壁にめり込ませていく。
「ぐぬぬっ……あたしも負けてられないんだッ」
そしてラピッルは元から備わっている根性で体勢を立て直し、壁を蹴ってシェローナに近づいた。
それに対してシェローナは"シャドーボールを放つ。
「当たらないッ!!」
"こうそくいどう"で巨大なシャドーボールを避け、シェローナのボディに"グロウパンチ"を放つ。
だが、"リフレクター"で物理技のダメージを軽減。シェローナは動じない。
「リフレクターがなんだってんだ!ダメージが全く効かない訳じゃないんだろう!?」
「……ッ!?」
突然、ラピッルの動きが加速する。
シェローナの攻撃を回避しながら、確実に"グロウパンチ"を当てていく。
「グロウパンチ!グロウパンチ!グロウ、パンチッ!!」
気でも狂ったのか。スタジアムにいる誰もがそう思った。
ただ"かくとうタイプ"のセコンド2人は声を上げる。
「シェローナッ!早くその攻撃をやめさせて!」
「ヤベェぞ!」
アイリーとドッピンの声を聞き、事態に気づいたのはその後である。
そしてニヤリとラピッルが微笑む。
「れいとうパンチッ!!」
シェローナは防御を挟む暇もなく、直後"リフレクター"が貫通。
彼女の身体にズブリと拳がめり込む。そこから音を立てながらシェローナの身体が凍り始めた。
「決まったッ!!」
「───まだですッ……!」
「なっ……!?」
シェローナは凍りつく手前で身体を逸らした。
勢い尽きぬままラピッルの身体は宙に晒される。
「ふっ!」
ラピッルに手を添え、至近距離でシャドーボールを放つ。
そしてラピッルは上空高くまで吹き飛ばされた。
「がはっ……!?」
「これで最後です」
シェローナは片腕にサイコパワーを集中させる。ピンク色の綺麗なサイコパワーやがて黒い光に包まれる。
強い怨念たちが次々にサイコパワーを、彼女を蝕んでいく。
悲痛な声を上げつつも、シェローナは完成した黒い刃をラピッルに向ける。
「ぐぅぅぅっ……!!!」
"ゴーストソード"。黒いメガシンカ中に発動される特別な技。
サイコパワーと怨念が混合し、凝縮して固められた黒く鋭い刃。
その刃の破壊力は尋常ではない。
「あぁぁぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」
目を血走らせながら繰り出した"ゴーストソード"はラピッルの身体を切り裂いた。
「ぶほぉあっ……!!?」
それは相手を倒すには十分過ぎる威力だった。
「うっ……!!」
その瞬間、シェローナは膝を着き、黒いメガシンカが解かれた。
身体にある痛々しく刻まれた"アザ"が微かに広がる。
「はぁ……はぁ……」
黒いメガシンカによる体力の大幅な消耗。そしてその前の戦闘においても彼女身体は既に限界に達していた。
ギリギリだった。シェローナも安堵する。
「………」
司会のペラップ、シャウトもその様子を見て試合を終わらせようとした。
その瞬間───────。
「─────────ぎ、し……がい"せぇ"いいいいいいいいいッ!!!」
シェローナの身体がくの字に曲がる。思わず血を吐いた。
「あっ……がぁっ……」
そしてシェローナはスタジアムの壁まで吹き飛んだ。
スタジアムが揺れるほどの衝撃波に会場は騒然。
「あたしの……か……ち────────」
ラピッルが倒れる。
だが、同時にシェローナも倒れた。
スタジアムは沈黙に包まれる。
「なっ、えぇ!!?………ひ、引き分けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!!!」
シャウトの叫びにて、この試合は引き分けに終わった─────。
*****
その後、シェローナとラピッルは担架で運ばれて治療が行われた。
幸い命に別状ないらしい。
控え室に戻ってきたアイリーにエボは尋ねる。
「アイリー、あれはメガシンカ……なんだよね?」
「ええ、メガシンカよ。でも、彼女のメガシンカは従来のそれとは違う別物。黒いメガシンカは極めて危険で、本来なら対戦相手が死んでしまってもおかしくなかった」
「シェローナが抑えてくれたんだ……」
「あの子は優しいから。ただ優しさと復讐心がシェローナを変えてしまったのよ。いずれ力が暴走する可能性だってあるし、その力は着実に彼女を死に追いやってる」
「………なんとかできないの?」
「シェローナも無理だって言ってた。どんな名医も治さないんだって……でも、これが自分の罪だから。この贖罪は一生背負わなきゃいけないって治す気もないらしいのだけれど」
控え室内の空気が重くなる。
が、その空気をすぐに破ったのはキンタだった。
「とにかくシェローナどんが頑張ってくれたでごんす!このまま優勝を目指す事が彼女の為にもなるでごんす!」
それに続きフォスも発言する。
「ま、こいつの言う通り勝てばいいんだろ?それに今もこっちの方が有利ときた。シェローナが罪云々の前によ。頑張ってくれた事に感謝して今は喜ばねーとな。あいつに申し訳ないぜ」
「たまにはいい事言うでごんすね!」
「うるせーよデ……」
「ふー!ふー!」
「なんでもございません」
これで1勝1分。
未だ有利な状況だが、エボたちに暗雲が立ち込める────。
お待たせしました……ちょっと時間が掛かってしまいました。
Mission.16「狐と力士 その1」
次回もよろしくお願いします!!