それではご覧ください。
昨日は仲が良くなった囚人達と沢山会話をした。
この監獄でのルールや生き方、裏の取引からなにからまで、全て教えてもらった。
この内容が看守達に聞かれたらと思うと、恐ろしいものが多々あったが、実に有意義な時間であった。
そして今日、エボは会話中にもあった依頼を受けるつもりだった。
「さて───」
受付では看守のヤドン【ウワンソラ】が、ずっと一点を見つめたまま動かずじっとしていた。
「すみません、依頼を受けたいんですけど」
「………………」
「すみません、依頼を受けに来たんですけど」
「………………」
───日が暮れそうだ。
エボはその間に昨日の会話内容を思い出す。
*****
「いいか、エボ。ここも地獄だが、地上の方はもっと地獄だ。流石の看守も最初は簡単なもんを勧めてくると思う。まぁその代わり刑期は全然短くならねーけどな」
「そうだよね」
ドッピンの他にも囚人達がいたが、どうやら彼がここのリーダーのような存在で、彼中心に話が進んでいく。
ここに居るのも長いらしく、どれも有益な情報ばかりだ。
「まず外に行くに当たってのルールその1。必ず2人以上のチームを組まなければならない」
「一応それは脱走防止でしょ」
「ご明察。ただ2人作っただけじゃ、協力して逃げられちまう可能性もあるから、腕に発信機を取り付けられる。この発信機は、いつ、どこにいようが、すぐにわかっちまう厄介なもんさ」
「そしてもう1つは2人以上じゃないと危険」
「ははっ、話が早くて助かるぜ」
2人で1つのチーム、か。
この場合ランダムに決まるのか、それとも事前に決めてもいいのか。
「チームは基本、同じ依頼を受けた奴と行く事になってる。だからまぁ事前に決めても問題ない。ただ生憎だが俺はやめておくぜ。ここをすぐに出たいってわけじゃねーしな。そもそもここの環境は悪いわけじゃない。寧ろ待遇は良い方だ」
「そっか……」
「そう悲しい顔すんなよ。ちょうどそこに────」
ドッピンはエボの後ろの方に視線を向ける。
エボが振り向くと、そこには壁を背に腕を組むコジョフーの姿があった。
「あの女は相当な実力者だ。よく依頼受けてっから、あいつが今断ろうがいずれ当たるだろうさ」
「…………」
「と、話を戻すぜ。ルールその2だ。誰も助けちゃくれない」
「え?」
「看守達は俺たちを助けるなんてことしてくれねー。死んだら死んだ。それで終いだ」
「それって2人のみの場合とか、相方が死んでしまったら1人なるよね?その場合はどうなるの?」
「不審な動きをしたら回収される。それ以外の場合は基本的にほったらかしだ。大体その状況の時なんて、死が目の前に迫って来ている最悪な状態だろうからよ」
「……僕たちをなんだと思ってるんだ」
「悪事を働いた分、危険な依頼を受けて、文字通り死ぬ気で社会貢献してくださいってわけ」
僕の罪は「殺人」だ。
記憶がないにしても、これが本当であるなら、僕の犯した罪は一生掛けても償えないだろう。
でも、僕以外の人はどうだ?
ここの階層はLevel1。軽犯罪者も多く収監されているはず。こんなに危険な依頼を受けて、報酬はあの莫大な刑期が少し縮むだけ?死と隣り合わせなのに?
あまりにもやっている事が鬼畜だ。
「ふざけてる……」
「………ルールその3。これが最後だ。依頼主とは会えない。会わせてくれない」
「依頼主にすら会えないんだ」
「人質に取られたら厄介だからな。俺たちみたいなのは黙って依頼をこなしてやって事だ───とまぁ、ルールつってもこんなもんだ。他については外に出て見た方がわかりやすい」
「ありがとう、ドッピン」
「いいって事よ。それじゃあ明日は頑張れよ……必ず生きて戻ってこい────」
*****
「────あの依頼を……」
「はっ!!!!!!!」
「!!!!!!???」
ウワンソラは「ねんりき」を使い、スッと、エボに依頼書を差し出す。
依頼は選ばせてくれるわけではないのか。
いや、多分もう1枚出そうとしてるのに間に合っていないのだ。
「ふぅ……」
エボは諦めて1枚めの依頼を読む。
依頼詳細
誰か野菜泥棒をやっつけて!お願い!
依頼主:ムックル
場所:エリアA
本来なら依頼主の名前、それから報酬が書かれている筈だろう。
しかし、エボ達囚人は報酬という対価を得られない。話に聞いた刑期が減らせるのだろう。
その詳細すらも書いていないとは、つくづく囚人は、ただのポケモンだと思われていない。
「もうこれで行きます。これでお願いします」
エボがそう言うと、ウワンソラはぴたりと止まり、カウンターの横にあったベルを鳴らす。
これは受注された、ということでいいのだろうか。
「とりあえずこれで………」
「待って」
誰かに呼び止められた。
エボは振り向く。
「君はぁー……」
「私は【アイリー】。あの時、後ろに居たでしょ」
そこいたのはドッピンと話をしていた時、一緒に居たコジョフーである。
「あーあの時の!それで何か?」
「その依頼、私も同行してあげるから」
「えっ!」
まさかの同行願いに、エボは思わず声が漏れた。
「初依頼を受けるポケモンには同行してあげてるの。変に死なれても困るしね」
「でも、いいの?」
「あなた本当に悪いポケモンじゃないみたいだし、私、悪いポケモンには声を掛けない主義」
「そ、それならお願いします……」
思わず敬語になってしまうエボ。
彼女はやはり慣れており、同じ依頼を受け、スムーズに受付カウンターの横にある入口へと足を運ぶ。
「ほら」
「う、うん」
この入り口を含め、地上に繋がっている道はたった2つ。
そこのエレベーターに乗る前に別部屋へ連れて行かれ、そこで退化装置とは別の、進化装置に掛けられる。
元の姿を取り戻した2匹は地上に続くエレベーターで地上へと出る─────。
*****
「ここがエリアAか……」
そこは中々に発展した街だった。中央には大きな広場があり、そこを中心に色々な施設が立ち並ぶ。
UBの危機が迫っているとは思えないほど、人々には笑顔が溢れており、街もポケモン達の声が響き、とても賑やかな雰囲気である。
そしてエリアAは唯一の安全地帯と言われており、他にもエリアB、C、Dが存在するが、この3つのエリアに関しては凶悪なポケモンやUBが蔓延っているという話である。
「ここは都心部よ。目的地はもう少し先」
「………」
「なに?」
「やっぱり慣れないなーって……」
紫の色味が濃いコジョンド。アイリーはちんまりとしたコジョフーの姿から、エボが見上げるほど背が高く、ほっそりとして美しい見た目に変貌してしまったのだから、驚くのも無理はない。
「あなたは元々ブースターだったのね」
そんなエボの方はブースターの姿へ進化していた。
だが、エボは記憶喪失中であり、この姿が本来の自分であるのかよくわからなかった。
「それはどうだろう?」
「退化装置でイーブイに戻されたんじゃないの?」
「ここに連れてこられた時からイーブイだったみたい」
「……それは変ね」
「変?」
「退化装置は、その名の通り本来の姿から退化させられる。例えばあなたがブースターだった場合はイーブイに戻される。だから進化装置に掛けられれば、元の姿のブースターに戻るはずよ。あなた進化装置に掛けられていたでしょ?あなたがイーブイのままであったのなら、力は元に戻ってもイーブイのままのはず」
「うーん……こんがらがってきた」
「つまり本来ならあり得ないって事……ただまぁ、あなたがイーブイだから、もしかしたら装置の遺伝子情報が狂ってるのかもね」
「?????」
「話は終わり。さぁ、そろそろ野菜泥棒の所に向かうわよ」
エボは頭の整理がつかないまま、アイリーに連れられて目的地を目指す。
───────。
暫くして例の畑に着いた。そこにポケモンは1匹もいない。
囚人とは関わる事はできない、というルールがある以上、どこか遠くでみているのだろうか。
「どうやって野菜泥棒を捕まえる?」
「待つしかないわね。ひっそりと」
そこで2匹は畑の横にあった荷車の後ろに隠れることにした。
こんな所で待ってて本当に来るのだろうか。
「流石に来ないんじゃ……」
「黙って見てて」
アイリーに言われるがままに待っていると、ノコノコとマンキーが数匹畑の中へと入ってきた。
そのマンキー達は、今がその時だと、野菜を引っこ抜いて回収し始めたのだ。
エボはアイリーの合図でバッ、と野菜泥棒の前に現れる。
「な、なんだお前ら!」
「やっぱりね。あなた達みたいなお馬鹿さんは、調子に乗って、なんの警戒もなしにやって来る」
どうやらアイリーは、あのちょっとした時間で周りを調べていたようで、彼らがまたすぐにここへ来る事がわかっていたようだった。
マンキーは怒り狂う。それは現場を押さえられたからではなく、自分たちへの侮辱に対する怒りだ。
「女ァ!!俺たちマンキーモンキーベイビーズに喧嘩売るとはいい度胸じゃねーか!!行くぞ、兄弟マンキーモンキーベイビーズ!!」
「マンキーモンキーベイビーズの力を見せてやるぜ!!マンキーモンキーベイビーズの兄弟達よ!!」
「マンキーモンキーベイビーズの名に掛けて!!マンキーモンキーベイ──────」
「しつこい」と、アイリーは1匹に「はっけい」を食らわせる。
そのまま吹っ飛んだマンキーは他マンキーをも巻き込み、まるでボーリングのピンのように弾け飛んだ。
「このクソアマァァァッ!!!」
「───『つばめがえし』」
マンキーは「ひっかく」を繰り出したが、目の前にいたアイリーはスッ、と消える。
次にマンキーの身体に衝撃が走った。
腕の長く伸びた体毛が、まるでムチの様にしなり、マンキーを遥か彼方に吹き飛ばしたのだ。
「お、おいおいまさかこいつら……!!」
「例の囚人どもか!ちっ、やべー奴らを雇いやがって!」
アイリーは次に次にマンキー達を無力化していく。
一方のエボはやる事がなく、ただ茫然と立ち尽くすだけである。
「────ん?見ろよ兄弟!あそこにカモがいやがるぜ!」
「本当だ!あの野郎、女に任せて高みの見物とは恥ずかしくねーのか!」
そう言ってマンキー達は、一斉にエボの元へと飛び掛かってきた。
「わっ!────」
すぐに助けに入ろうとしたアイリーだったが、次の瞬間。
エボの口からビーム状の炎が吹き出した。
「あぢゃぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ッッ!!!」
これは「オーバーヒート」。ほのおタイプの中でもトップクラスの火力を誇る大技である。
「……力入れたらなんか出た……」
エボ本人もぶっつけだったらしく、自分の出した技であるが、目を見開いて驚いた。
突然の大技に怯んだマンキー達を、アイリーはすかさず無力化する。
その後、マンキー達を縛り上げ、アイリーは腕に付けられたブレスレットのスイッチを押す。
「それは?」
「依頼が完了したっていう信号を送ったの。これで看守達が来る」
脱走防止の為に付けられた機械仕掛けのブレスレット。
一応こういう使い方はできるんだな、とエボは思う。
「これで刑期はどのくらい減るの」
「さぁね。帰ってみるまでわからないわ」
「そっか……」
「どう?今回は私がいたけど続けられそう?」
「……まぁ大丈夫かな」
「曖昧ね」
「今はなんとなく続けるよ。まだこんなの序の口だろ?」
「えぇ、まだこの先には本当の地獄が待ってるから」
今回の依頼は無事終了。
だが、これはまだ序章に過ぎない。
近いうちにエボは知る事になる。この世界に起きている本当の脅威を─────。
第2話終了。
次回、奴らが出てきます(予告がそう言ってます
次回、Mission.3「UB/ウルトラビースト」
そして今回から募集を始めます!
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