それではどうぞご覧ください。
「ザクロの様子は!?」
エボは控え室に戻ってきたアイリーに尋ねる。
アイリーは一言「命に別状はない」と言っただけでそれ以上のことは何も言わなかった。
「よかった……ザクロが大丈夫そうで」
「仲間の心配もそうだけど、これで1勝1敗2分。今度はエボの番よ」
遂に危機していた事が現実となる。
5回戦目にエボを置いたのは大会のルール上、先に3勝した方の勝ちとなる為、メンバーの実力を総合して1番劣っていた彼を最後に、4回戦目で決着をつける流れだった。
だが、相手の実力は彼らが想像していたものよりも強力であり、1人また1人と倒されていった。
そして5回戦。相手チームにはLevel4の囚人がリーダーとして君臨している。ロトガーの情報通りならエボの相手は絶対的な力を有するLevel4が相手となる。
「勝てるのか……僕は……」
エボの心は不安と恐怖に満たされる。
そんな彼の心情を察したのかアイリーが声を掛けた。
「エボ、怖い?」
「……うん。正直怖いさ。Level4の囚人と戦うなんて想像したくもなかった」
心に渦巻く暗雲は確かだが、エボの瞳は揺らがない。
「けど、仲間がここまで繋げてくれたバトン。落とす様なことはできない!必ず勝って地上に出るんだ!」
「そう……なら、勝ってきて」
2人は互いの拳を合わせる。
そしてエボは向かう。決戦へ──────。
*****
スタジアム内は今まで以上の大歓声に満ちていた。
誰もがここまで耐えられるとは夢にも思わなかっただろう。ブラック・イルカマン大監獄始まって以来の異例。
血に飢えた彼らが興奮しない訳もなく、試合が始まる前から最高潮。
「さぁゴミ共ォ遂に決戦だァッッ!!!ここまでよくもまぁ耐えやがったぜッ!!!今日ここで全てが決まるッ!!!準備はいいかァァァァァァァァッッッ!!!!!??」
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ
シャウトの雄叫びに会場内がさらに湧く。
そしてその歓声の中、2人の影が遂にリングへと足を踏み入れた。
「両ゴミ共準備はいいなッ!?いいんだよなぁッ!!?」
片やイーブイのエボ。
対戦相手は──────。
「それじゃあ試合ィ────────開始イィィィィィィィィィィィィッッッッ!!!!!」
ゴングが鳴り響く。
両者まずは互いに睨み合い一歩も動かない。
「ロトガーでも仕入れる事ができなかったLevel4の囚人情報……」
Level4の囚人。その対戦相手は"クリムガン"であった。
左目から腹部にかけてバックリと割れた傷が入っており、その傷の深さから左目は盲目な模様。その異様に目立つ傷以外にもあらゆる箇所に痛々しい傷が残されている。
一体どれだけの修羅場を潜ってきたのだろうかとエボは冷静に観察する。
「お前がエボか」
「……ッ!」
エボは自身の名前を言われてゾッとした。
対戦相手の名前を把握しているというのは別に不思議ではない。だが、このクリムガンから放たれる異様な空気がエボの身体を震わせる。
「俺の名はガンドゥ。知っていると思うが俺はLevel4から来た。自分で言うのもなんだが、実力に関してはここにいる誰よりも優れていると自負している」
ガンドゥと名乗ったクリムガンは意外にも低姿勢でエボに話しかけてきた。
「対戦相手がわからなくて困っただろう。流石にあのロトガーと言えどLevel4までは難しかった様だ」
「……ロトガーを知ってるの?」
「ああ、知っている。そしてお前たちに情報を渡したのはこの俺だ」
その言葉にエボは目を丸くして驚いた。
自身の仲間の情報を売ったという事なのか、と考えていると察してガンドゥは首を振る。
「あいつに情報を売ったつもりはない。渡しただけだ」
「な、なぜ?態々自分たちが不利になる様なことをして……」
すると、ガンドゥの空気が一変。
口角が上がり、異様な空気はエボにもわかる殺気へと変わる。
「対策された状態からLevel3の奴らがどう戦うのかを見たかった。予想に反してお前たちの強さが上回ってくれて何よりだ」
そう彼はLevel4の囚人。常識的な範疇にいる訳がなかった。
「だが、俺は敢えて俺自身の情報を渡さなかった。何故だと思う?」
「……そうする必要がないから」
「お前は賢いな。安心しろ────────」
ガンドゥの爪が伸びる。
「すぐ楽になる」
次の瞬間、振り下ろされた巨大な爪。
エボは咄嗟に回避すると、叩きつけられた地面が大きくひび割れた。
「………ッッ!!?」
その計り知れない一撃にエボは声も出せず驚く。
"ドラゴンクロー"でこの威力。まともに受けたらタダでは済まない。
「よく避けたな。俊敏性の高さは嫌いではない」
今のままでは、"今の姿"では勝てない。
エボはバレない様に自身の腕に装着してある装置に触れた──────。
*****
「ワタシの発明したエボ君専用アイテム。その名も『エボリウム1号』です」
「エ、エボリウム……?」
エボは大会の始まる前の特訓期間中にツツミンに手渡されたものがあった。
それがこのエボリウム1号。
「エボ君の身体をそれはそれはもう隅々まで検査した結果ですネ。イーブイらしい進化の可能性を無数に持っているのはまぁ当たり前なんですが、驚く事にキミの遺伝子はキミ自身の身体で制御できてない状態。所謂バグが発生してしまっているんですネ」
「僕の身体がバグってるの?」
「記憶を失ってしまっているからなのか。はたまた別の要因か……ワタシもこんな事例初めてですし聞いたこともありませんからネ。ただわかっている事はキミがそのバグのお陰で本来なら有り得ない進化と退化が可能になっている点ですネ」
ここに来る前からエボはイーブイの姿のままであった。
囚人たちは収監される前に進化前まで戻されて力を奪われてしまう。ただ依頼を受けて地上に出た場合は収監される前の状態に戻る事が可能だ。
エボの場合は地上に出る度にランダムで姿が変わる特殊な状態が続いていた。
「そこで!そのバグさえどうにかしてしまえば、キミは極論様々なタイプへと姿を変えて臨機応変に戦う事が可能となる訳ですネ!」
「す、すごい!そうすれば僕でも強敵とそれなりに戦える様になるんだ!……それでどうすれば……?」
「さっき渡したエボリウム1号がそれを可能としますネ。その装置はキミの中の遺伝子を一時的に制御化に置く事が可能です」
「じゃあこれをつけていれば僕は自由に……」
しかし、ツツミンはヌッとエボに近づいてこう警告した。
「ただし、逆を言えばキミの遺伝子を無理やりこねくり回している状態です。普通のポケモンであれば危険も危険。あなたが"進化"し、様々なタイプへと姿を変え、それらを合計して維持できるのは多く見積もっても10分程度。これ以上は何が起こるかわかりませんからネ。最悪死んでしまう可能性も考慮して下さいネ」
「わ、わかったよ。気をつける……」
*****
エボの身体から炎が弾ける。
"ブースター"。それが今のエボだ。
「絶対に勝つ。僕は弱いままじゃないぞ」
お待たせしました。申し訳ありません。
満を辞して主人公登場。今まで良い戦績がありませんからここでバシッと決めて欲しいところ。
次回、Mission.21「進化 その2」
次回もよろしくお願いします!