それではどうぞご覧ください。
「何故、あなたがここにッ……!!」
「…………」
スタジアム内の空気が一変した。
監獄長のイルカマン。名はウルティマス。
本来可愛らしい印象を与えるナイーブフォルムでありながら、その威圧的で氷の様な冷たい視線は場を一瞬で静まり返らせる。
「……ッ!!」
あのガンドゥが声を上げることもできない。
言いたい事があるなら言えばいい、という風にウルティマスは彼をジッと見続ける。
ガンドゥは自分の身体が震えているのに気がつく。自身の腕をもう片方の腕で爪が食い込むほど力一杯に掴みながらウルティマスに再び問い掛けようとした。
「ウル──────」
「それ以上、口を開かない方がいい」
その瞬間、ガンドゥの頭が地面にめり込んだ。
首の骨が折れる鈍い音と共に。
「えっ……」
エボも一瞬の出来事に戸惑った。否、戸惑うどころの話ではない。
脳が理解する前に目の前でガンドゥが殺された。先ほどまで死闘を繰り広げていた相手。Level4の囚人。
そんな彼が一撃で生涯を終えたのだ。
ナイーブフォルムの姿のままのウルティマスの手によって。
「な、なんで……」
「……?」
「なんで殺したんだ!確かに彼はLevel4の囚人で、極悪なポケモンだったんだろうけど……何も殺す事ないじゃないか!」
ウルティマスはエボを見据える。その瞳は本当に冷ややかだ。
「────君は被害者のポケモンにもそう言えるのか?」
「え?」
「君がもし被害者の家族だったと仮定して、目の前で大切な家族を殺され、希望を潰され、精神的苦痛を与えらても同じ様に"何故殺した?"と言えるのか?」
「そ、それは……」
「殺す事は簡単だ。だが、逆に生かす事は難しい。罪を償わせる為に監禁して寿命を終えるまで生かす。いつ死ぬかもわからない環境で生活を続けさせ死んだ方がマシだと思わせる。永遠と続く反省の中で被害者は何を思うか」
「………」
「早く殺して欲しい。そう願っている」
「………なら」
それを聞いたエボは真っ直ぐな瞳で彼に聞く。
「何故、この大監獄を作ったんだ?」
「反省を促す為だ」
「投獄されたポケモンは善良な市民たちの依頼をこなして1000年という長い刑期を減らしていく。非常に重い枷だけど、その分依頼内容は死と隣り合わせなもの。犯した罪と向き合っていくには十分過ぎる。僕みたいな殺人罪で捕まる様な奴なら君の話はよくわかる。反省したとしても罪が消えるわけじゃない。だけど、道を歩いていたら肩がぶつかった事や睨まられたから睨み返したというだけで投獄するのは流石におかしい筈だ」
「………軽度だからと言いたいのか?」
「軽度だろうとなんだろうと罪である事に変わりはない。ただ僕が言いたいのはこれは軽度ですらないって事だ。あまりにも理不尽過ぎる。ここには明らかに善良な市民がいる!利用されてきたポケモン……被害者達がいるんだ!この監獄内に!」
エボがやってきた事は立派な罪である。記憶があろうとなかろうもそれは関係ない。やってしまった事ならば一生を掛けて償うべきだと。
ただ彼の周りにいるポケモンは違った。明らかに理不尽な理由で投獄されているポケモンが数百名といた。
これらはエボがロトガーから聞いた話であり、監獄内の本当の闇の部分と言える所。
「あなたはあのポケット戦争を終わらせたリーダーだ。そしてこの監獄を創り上げた」
「そうだ。混乱に乗じて犯罪が増えた。それらを制御、抑制する為にこの監獄を立ち上げた。善良な市民の為に」
「なら、一つ教えて欲しい事がある」
「なんだ?」
「ガンドゥと知り合いだったのは何故なんだ?」
「………何の事かな」
「ガンドゥはあなたの事を知っていた。ただ監獄長だからって訳じゃない。あなたを恐れていた……恐れ、得体の知れないものや自身の遥か上をいく存在を前にした時に起こる。あなたの事を知っているからこそ、あのガンドゥが"あなた"という発言をしたんだ」
「………」
「今まで顔すら見せないどころか監獄内にもいた形跡もない。大会終了間際のこのタイミング。Level4の囚人ガンドゥと知り合い」
「何が言いたい?」
「何を企んでいるんだ」
スタジアム内がざわつき始める。
皆が皆エボが何を言っているんだと笑うものもいた。しかし、中には疑問を覚えるものもいる。それは先ほどから言われている善良な市民からだ。
「ポケット戦争……実に困難を極めるものだった。勝利を手にした時のあの喜びは今でも覚えている。だからこそ今は精鋭が必要だ」
「精鋭……?」
するとその時、監獄内に警報が響き渡る。
周囲がざわつく中、エボも警戒していると、セコンドからリングに上がってきたアイリーが彼を宥める。
「エボ、大丈夫だから。あなたは傷の心配をしてなさい」
「アイリー、この警報は?」
「………この警報は監獄内で緊急事態が発生した時だけ流れるの。私もここにいる間、2度聞いた事がある」
「それって……?」
「脱獄囚って聞いたことあるでしょ……アブソルのソウルから」
「じゃ、じゃあまさかこの警報って……!?」
「ええ、現在進行形で脱獄が行われてるって事」
*****
「逃すなぁッ!!」
「追えッ!!」
焦りと怒号が響き渡る監獄内部地下4階─────Level4。
看守たちが血眼になりながら追っているのに対し、追われている側のポケモンは悠々と逃げている。
たまに後ろを振り向いて葉っぱの腕をヒラヒラと振る。
「キキキ〜、そのスピードじゃ日が暮れちまうな?」
そのポケモンはマスキッパの"スキアリ"。
地上にいた頃は通り魔をしており、殺されたポケモンは数知れず。
かつてのポケット戦争参加者である為、実力は見た目からでは想像以上できないほど高い。
「"グラスミキサー"!!」
スキアリが手を合わせると、その間から激しく乱れる葉が出現。
一気に腕を大きく広げて解放してやると、鋭い葉が名の通り渦状に回転して患者たちの方へと飛んでいく。
通路も広いわけではない為、回避する事はまず不可能。更にこのグラスミキサーは通常のものよりも威力が桁違い。
間も無く看守たちは粉微塵となって壁に鮮血を塗りつけることとなる。
「キキキキキキ〜!」
そしてスキアリは笑いながらLevel4の牢屋を見て回る。
暫くすると彼は適当な牢屋の前で立ち止まった。
「キキキ〜お久〜」
「………」
牢屋の中にいるのはカメックスの"コウラク"。
彼もかつてはポケット戦争に参加していたポケモンだ。
「スキアリ、脱獄したのか」
「ああ、そうだ。こんな狭い所で遊んでなんかいらねーからなぁ……もっとだ。これからもーーーっと面白い事が始まるぜぇ〜キキキ〜!」
「面白い事……だと?」
「そうさ!これから待ちに待った俺たちの"戦争"が始まるんだよ!脱獄囚と─────"ウルトラビースト"のな」
「……!?お前、いやお前たちは何をするつもりだ!」
「参加するかぁ?コウラク。昔みたいにお前のハイドロポンプがみてぇなぁ〜」
「………………する訳がないだろ」
「おいおいおい!あの憎きウルトラビーストと戦えるんだぜぇ?エリアAでのうのうと暮らしてる平和ボケした成金のカス共の為によぉ!?今こそ根元を断たなきゃだろうがよぉ!?」
「今、下手に手を出して奴らを刺激すればエリアDだけじゃない。脱獄囚共がいるエリアCどころか軽度危険区域エリアBでさえ……」
それを聞いたスキアリは悪魔の様な形相で笑う。
「仕方ないだろ?平和の為、なんだからなぁ!」
「スキアリ貴様ッ…………なら、伝えておけ」
「ええ?」
「『行き過ぎた正義は身を滅ぼす』。そう伝えろ。ウルティマスにな!」
「キキキ〜気が向いたらなぁ〜」
スキアリはヒラヒラと手を振り、上層部へと繋がるエレベーターに乗り込んだ。
*****
「どこへ行くんだ!?」
エボはどこから行こうとするウルティマスを大声で静止する。
自らが進んで行こうとしたが、先の戦いでまともに動ける身体ではなかった。
「ぐぅ……」
「君はあのガンドゥと戦った。普通なら死んでいる」
ウルティマスは再び背を向けて歩き出すが、何を思ったかその足を止めた。
そして背中越しに彼は告げる。
「私はこれより地下へと向かう」
「地下……やっぱり脱獄囚と繋がっていたのか!」
「………Level4は私の仲間に任せている。それより更に下、つまり最下層に用がある」
「最下層……!?」
最下層という言葉にエボとアイリーは固まった。
この地下大監獄の最下層と言えば──────。
「最強であり最悪の囚人。どうやって捉えたかどう戦ったのか思い出せないほどの実力。ポケット戦争終わらせた真の立役者であり、唯一その階層にたった1人のみ存在する。これより向かう─────"Level5"に」
次回Level5の囚人登場……!?
ウルティマスの目的とは?
Mission.23「Level.5/最下層」
脱獄囚編スタートです。
次回もよろしくお願いします!!