それではどうぞご覧ください。
エリアAはごく普通の街である。ごく普通の街というのは、この世界においては異例中の異例。
かつてポケット戦争にて、ポケモンたちの住む世界は、前代未聞の大打撃を受けたというのは記憶に新しい。
4つのエリアで区切られたこの世界で唯一、ポケモンたちが勝ち取った場所こそがエリアAである。
平和と言っても犯罪や事故が起こるのは当然だ。だが、それを踏まえても他エリアと比べると治安が良い。もしエリアA以外で道端に財布なんて落ちていたら、まず交番に届ける事はなく、寧ろ争いの発端となる場合だってある。
そんな平和である街エリアAには、もちろん統率者、皆呼びやすいように市長と呼ばれるポケモンがいる。
それこそが────。
「ブレイン……?」
「あーそっか。お前記憶喪失だったな……ブレインってのはエリアAのお偉いさんだ」
フォスがエボに説明している間、カフェ内はザワザワと少し騒がしくなっていた。
「それこそガブリアスとかバンギラスとかよ。もっと強そうな奴がいる中でピカチュウが選ばれるってのは驚きだよなー……というのは置いておいて、その市長さんから直々に依頼来たってんだから、そりゃもうやべーだろ!」
「お、落ち着いてフォス。周りを見てよ」
「んあ?………あっ」
そう、ここは囚人たちが収監される大監獄。1000年という一生牢屋の中で過ごせと言わざるを得ない長い刑期を背負わされた者たち。
そんな彼らが市長直々の依頼。ましてや報酬もうまいとなれば、揃いも揃って目をぎらつかせるのも無理はない。
「おーい狐野郎。その依頼俺たちに受けさせてくれよ、なぁ?」
「な、なんだよ!これは俺様が見つけたもんだぞ!」
やはりカフェ内でこんな話をするべきではなかった。
フォスの周りを次々といかにも悪そうなポケモンたちが取り囲み始めた。
「大人しく渡した方が身のためだぞ?」
「大人しくするのはあなた達よ。騒ぎを起こしたら看守たちが飛んでくるわ」
「お前はアイリーだな。こんなクソッタレの奴らと組むより俺たちと組んだ方がいいだろうに」
「生憎、あんた達みたいな下品でみっともない奴らには興味ないの」
「あ……?」
まさに一触即発と言った状況。その時だった───。
「なんだ?お前たち争い事か?」
「きゅ、『吸血候ランテ様』!!」
そこへ色違いのカリキリが姿を現した。途端に荒くれ者のポケモンたちはスッとその道を開ける。
女性の様な顔立ちをしており、小さくて愛くるしく、如何にも弱そうなイメージを持ってしまうが、この状況を見るに相当な実力者である事は確かだ。
吸血候と言っていたが、囚人達の中には2つ名が付けられているものがいる。当然のことながら、外の世界にて名の知れた猛者が付けられているのがほとんどだ。
「そこのお前」
「お、俺様か……!?」
「お前が意外に誰がいる。その依頼だが私も受けさせてもらう」
「はぁ!?」
「なんだ?不服か?」
「いえ滅相もございません」
かくしてランテというカリキリにより、その場は丸く?治ったのだが、この市長直々の依頼に同行する形となってしまった。
フォスは長年の勘から自らの同行を拒否し、この依頼を降りたが「紹介料は払えよな!」と、最後にエボに念押しして去っていった。
市長からの依頼とは一体なんなのか。エボは詳しい内容を見ることにした─────。
*****
エボの今回の同行者はいつも通りのアイリー。それから先ほど知り合ったランテというポケモンだ。
ちなみにではあるが、今回のエボはサンダースらしい。
監獄の外に出たので、元の姿のラランテスに戻ったが、やはり美しいビジュアルである。口調と見た目が合っていないとはまさにこのこと。
「さて、市長の依頼なんだけど……」
「聞いてやろう」
「はい」
【依頼詳細】
誰でもいいから手伝って欲しい。よろしく頼む。
依頼主:ブレイン
場所:エリアA
エリアAから少し離れた場所の、とある小さな施設の前。
なんの変哲もない場所なのだが、どことなく懐かしさを感じる。
「なんでこんな所に呼び出したんだろう?」
「私たち囚人は依頼主に直接会うことを許されてないからね。どこかにメモ書きとか残されてない?」
「探してみるよ」
そう言ってエボは施設の周りをぐるぐると回って観察したが、それらしいものは出てこなかった。
ランテも暇そうに腕の鎌を擦り合わせている。
そうして暫く待っていると、彼らに手を振りながら近づいてくるポケモンが1人いた。
「あ、えっ!?まさかあれって!?」
「おやおや、まさかご本人登場とはな」
その場に姿を現したのは、この依頼の主であるブレイン本人であったのだ。
本来ならば依頼主が囚人に会う事は禁止されている。危険というのもあるが、下手に関わりを持っては同情を買ってしまうなど、監獄の方においては都合が悪いからだ。
「君たちが例の囚人の方々だね。お初にお目にかかるかな?」
「あなたは市長さんね。こんにちは。けど、こんな危険な囚人たちの前に丸腰で、しかも護衛までつけていないだなんて」
「ははっ、こう見えても私はポケット戦争の参加者の1人でね。これでも結構強い方なんだよ。まぁその話は良しとして、君たちが危険なポケモンではないということは事前に聞いていてね」
ブレインによれば最近エリアBから、危険を顧みないならず者たちが攻め込んできているというものだった。
街の守衛たちによりなんとか退けてはいるものの、あちらもわかっているのか、日に日に攻撃頻度を増し、守衛たちの体力も、人員も段々と底をついてきているらしい。
「………話は分かりましたけど、それって僕たちだけで足りますかね?」
「あぁ、その事に関してなんだが……申し訳ないが、君たちには元締めを倒して欲しいんだ」
「やっぱりそうなりますよね……」
フォスから簡単だとは聞いていたが、都合よく本当に簡単な依頼なんて来る筈もない。そう思っていた。
「ただこの依頼なんだがね。パッと聞いただけでは難しそうに聞こえるかもしれないけどそうでもないんだ」
「え?」
「その元締めというのが、このエリアA内にいるようで、どうやら裏で情報を漏らしているスパイらしいのだよ」
「でもそうだとしたら見つけるのはだいぶ苦労するのでは……?」
「それも心配には及ばない。既に場所は把握している。我々は守衛たちと共に街を守るから、君たちはその間に元締めを倒して欲しい」
「……わかりました。では、僕たちに場所を教えてください。すぐに向かいます!」
「頼もしい限りだ。場所なんだが────」
*****
エリアAとエリアBの境目付近にボロボロな家が建っている。
そこにブレインが言った元締めがいるようだ。
早速エボたちは、その元締めの所へと駆けつけていくと、奴もそれに勘付いていたのか、周りにはならず者のポケモンたちが待機していた。
「うわっ、なんて敵の数だ!?」
その数の多さにエボが驚いていると、後ろからぬるりとランテが現れる。
エボとアイリーの隙間を縫い、両手の鎌を構える。と、次の瞬間であった───。
「うぎゃぁ!!」
1体のポケモンの首から血が流れる。
すると、その横にランテが現れ、口の端に血が伝っているのが見えた。
「……味気のない血。舌触りの悪い血……せっかくだ。有り余っているお前たちの血をもらってやろう」
今のは「きゅうけつ」攻撃だ。あまりの速さについていけなかった。
エボは援護をしようとしたが、それをランテは静止する。
「お前達は奴らの頭を狙え。この雑魚は私が相手をしよう。こーーんなに血が見れる事は殆どない」
ランテの目が捕食者の目になっている事を確認したエボは、アイリーに目配せをしてボロ家の方へと移動を始める。
その際邪魔が入りそうになるが、そこはすかさずランテが、花風を巻き起こす「はなふぶき」をお見舞いする。
「さぁ私にもっと血を見せてくれ」
「この野郎調子に乗りやがって!!」
そして数匹のポケモンがランテの周りを取り囲む。「にらみつける」や「きんぞくおん」などこれでもかとデバフ系の技を次々に繰り出した。
「よし!畳み掛けるぞ!」
「おう!」
ならず者たちが一斉に飛びかかってくるが、その時、ランテの翡翠色の瞳が輝き、次の瞬間には「リーフストーム」が繰り出された。
その威力が桁違い。周りにいるならず者たちは皆一撃で瀕死になってしまった。
「な、なんだこいつ……!」
「……苦しみを力に。それが私の特性だ」
このランテの特性は「あまのじゃく」。どれほど自分に不利な効果を与えられたとしても、逆に力に変えてしまうという希少な特性だ。
逆にバフを掛けられてしまうと弱体化してしまうという、まさに天邪鬼。
「まだまだ数匹残っているな」
「ひぃっ!!」
「お前たちに恨みがあるわけではない。ただ血を見たいだけ。さぁ、もっと見せてみろ。お前たちの血をッ!」
ランテが外で大暴れしている時、エボ達はボロ家の中へと侵入した。
そこに居たのは───。
「ジュペッタ……?」
一筋の明かりが差すその場所に、ポツンと呪いの人形が置かれていた───。
本当にお待たせしました申し訳ございません。
次回はできれば早めにやりたいところではあります。頑張ります。
人見知りさんから【ランテ/ラランテス】でした!
Mission.8「人形」
次回もよろしくお願いします!!