それではご覧ください。
外観から見てもわかる通り、内装はお世辞にも綺麗とは言い難いくらい、どこもかしこも穴だらけだ。
エボとアイリーが一歩踏み出すたびに、床の軋む音が静寂の中に響く。
そして彼らの目の前にはポツンと人形が置かれている。穴だらけの天井から漏れ出した光が、1体の人形を照らす。
───「ジュペッタ」というポケモンだ。今回の黒幕、ターゲットであるには違いない。
「君がエリアAを襲わせている黒幕だね」
エボがそう声を掛けるが、人形はぴくりとも動かない。
なんとも不気味である。
「さっさと攻撃するわよ」
「えっ!?いきなりそんなことして良いの!?」
「いきなりも何も外の奴らを仕向けたのはこいつでしょ。先に攻撃してきたんだから当たり前じゃない」
アイリーはエボが何か言おうとする前に飛び出した。
挨拶代わりと腕の鞭のような体毛を、まるで刃を振るうかの如く"つばめがえし"を浴びせる。
ただし、それは空を切る。
「えっ……!!」
チャックで閉じた口角が上がる。
ジュペッタは大振りとなったその攻撃に合わせ、"シャドークロー"をアイリーの脇腹へ直撃させた。
「カハッ……!!」
「アイリーッ!!」
すかさずエボはサンダースのスピードを活かして、吹き飛ばされたアイリーのクッション代わりとなって威力を和らげる。
「ありがとう、エボ」
「気にしないでよ」
そして今度はエボが前に出ると、ジュペッタの周りを一定の距離感を保ったままぐるぐると回り始める。
狙うは背後。死角からなら当たるはず、と。
「くらえ!!」
エボは口から電撃エネルギーが凝縮された玉"エレキボール"を放つ。
だが、ジュペッタは首をグルンと回したかと思うと、身体を捻りながら"シャドーボール"を繰り出してそれを相殺する。
そしてエボにターゲットを変更し、再び"シャドーボール"を放った。
「うわっ……!」
"シャドーボール"をギリギリで回避するエボ。
彼も負けじと"10まんボルト"を、まるで蛇の様にうねらせながら放つ。
それに対してジュペッタは冷静に回避を行う。が、そこにアイリーが合わせて"トリプルアクセル"を浴びせる。
この技は1.2.3回と連続で行うこおりタイプの技であり、命中する度にその威力を増す。
アイリーの最後に放った一撃でジュペッタはボロボロの壁へと吹き飛ばされる。
「エボ、怪我はない?」
「僕は大丈夫。それより流石首謀者だ。強いね」
「全く相手がゴーストタイプなんて聞いてないわよ。私の技は殆どが"かくとうタイプ"だって言うのに……」
「なら、今回は僕が前線を張るよ。ずっと皆んなに任せっきりはいけないから!」
エボがそう言って前に出る。
ぶつかった衝撃で壁が崩れ、瓦礫の山に埋もれたジュペッタ。まるで効いていないかの様に平然と瓦礫から姿を現した。
赤い瞳が怪しく光より一層不気味さを増す。
「………オマエラ、アノ"ソウル"ヲ、タオシタラシイナ?」
「ソウル……?」
ソウルという名前はどこかで聞いたことがある。
それからすぐにエボはハッと思い出した。
「ソウルってあのアブソルのこと?」
「アァ、ソウダ。ヤツハ、ソレナリノ、ジツリョクシャデハアッタ。シカシ、ケッキョクハ、オマエタチゴトキニオクレヲトッタ」
「……君は彼の仲間なの?」
「ソノトオリ。ダガ、ハイボクハ、『ダツゴクシュウガ』ユルサナイ」
「『脱獄囚』……あのエリアCを牛耳っているLevel4の囚人たちが今回の件に絡んでいるのか?」
「『ダツゴクシュウ』ハエリアAヲホシガッテイル。ナゼカ、ワカルカ?ソレハ───」
何かを話そうとしたジュペッタであったが、急に口を閉じた。
「───イヤ、コノケンニカンシテハ、オマエタチニ、ワサワザイウヒツヨウモナイ」
「なら、話してもらうまでだ!」
エボは駆け出して飛び上がり、上空からエレキボールを放とうとした。
が、その瞬間いきなりジュペッタが目の前に現れたかと思うと、"ふいうち"を食らわされ、鋭い爪が生えた腕で首を掴まれた。
「うぐっ……!!」
「ワタシハ"パペット"。ソウルヲタオシタ、トハイエド、4ニンガカリダッタトキク。サテ、ソウルトドウトウノワタシニ、オマエタチハ2リデカテルノカ?」
更に首を絞められるエボ。だが、このままという訳にもいかない。
エボは全身の鋭い体毛を逆立たせ、至近距離で"10まんボルト"を直撃させる。
そのまま締め落とすつもりであったパペットは、すぐに離れることができず、身体がわずかに硬直する。
その隙をアイリーは見逃さない。上空に飛び上がり、"つばめがえし"で撃ち落とす。
パペットが落下する最中に、アイリーはエボの尻を叩いて吹っ飛ばす。
「でんじはッ!!」
その意図がわかったエボは、すかさず"でんじは"を放ってパペットに命中させる。
身体が自由に動かなくなったパペットは、自分に何が起こったのか驚きを隠せない。
「ナゼダ。キュウニウゴキガヨクナッタ……ダト……?」
「僕がただ呑気に監獄生活を送っていると思ったら大間違いだ!」
エボはここ数日、監獄内でゆったりとした生活を送っている訳ではなかった。
先ほどまでは力を出して切れていなかったのだ。それはエボ自身の実戦経験の少なさによるもの。
それを少しでも補う為、エボは誰も見ていない場所で、誰にも気づかれない様にただひたすら"自分の技"を磨いていた。
だが、やはり何かが足りなかった。原因はもうわかりきっている。
だからこそエボは何度も何度も自分の身体に鞭を打った。
そして結局は今も完成できていない。しかし、重要なのはそこではない。その技を磨く過程で己自身も鍛えられてきたという事だ。
「くらえぇぇぇぇぇぇぇッ!!」
追い詰められてこそ、危機的状況だからこそ生物は自分の限界は突破できる。
全身にバチバチと音が鳴る。未完成の"自分の技"を全身全霊でぶつける。
───【エレメンタルブラスト】。
その技はまるで"ボルテッカー"の様な印象を受けるが、全身が七色に輝いているのが特徴的だ。
ただ未完成である為か中途半端な光を放ち、威力も底が知れている。
その一撃を喰らっても尚、パペットが立っているのが証拠だ。
「クッ……ソォ……」
パペットは両手を交差させて"シャドークロー"を放とうと構えた。
が、弱りきっているパペットに対して、アイリーはすかさず"トリプルアクセル"による3段回し蹴りをくらわせると、パペットはクルクルと回転して地面に倒れた。
「か、勝った……?」
「ええ、勝ったわね。あなたの力で」
「良かったぁ……」
エボはそれに安堵したのか地面にべちゃっと倒れる。
それからまもなくボロ屋の中にランテが血塗れで入ってきた。
「私は終わったぞ。お前たちの方は?」
「終わったわ。エボが片付けてくれた」
「そうか」
ランテは何か言いたそうにしていたが、そのままボロ屋から出て行った。
「じゃあアイリー」
「なに?」
「帰ろっかぁー」
へなへなになったエボを抱え、あとから来た看守たちの監視のもとエボたちは監獄へと戻っていくのだった────。
*****
それからまた暫くして、エボは自分1人でのトレーニングをやめて、仲間たち協力のもと訓練を行う様になった。
周りには「かっこつけて自分1人で訓練とかやめろよ」と散々弄られたが、結局のところは皆手を貸してくれたお陰で、あの技も完成に近づいている気がする。
「よし今日はここまですっかぁ」
「ありがとうドッピン」
「いいって事よ」
この監獄は相変わらず様々な施設を導入しており、現在エボたちがいるジムもあらゆる器具がズラリと並び、スパーリングをする場所や休憩所なんかも完備しており、地上のものと遜色ないレベルである。
「……ところでエボ。お前も耳にしていると思うが」
「ん?」
「そろそろ『ブラック・イルカマン闘技大会』が始まるらしい」
「ブ、ブラック・イルカマン闘技大会……?」
「なんだ知らないのか?なら、教えてやるよ。この大会はな───」
ドッピンの話を聞いたエボは、早速仲間に声を掛けにいく。
監獄内の一大イベント闘技大会とは───?
お待たせしました。いやほんと。
さて、次回から新章【闘技大会編】開始です!
次回、Mission.9「チーム結成」
次回もよろしくお願いします!!