いやん虹夏のえっち(Not R18)
「お、やっと晴れたか」
驟雨に晒されるのを回避するべく、雨宿りがてらスーパーで買い物を済ませた虹夏は、雨雲の隙間から覗く日の光を手で遮りながら空を仰ぐ。
一時的なもので良かった。天気予報にはない突発的な雨だったので傘を持ってきていなかったのだ。通学鞄にならこういう時の為に折りたたみ傘を2本常備しているのだが、生憎今日はお出かけ用の鞄だ。
因みに何故虹夏が傘を2本も常備しているのかというと、天気予報を見る習慣のない幼馴染が相合傘には適していないサイズの折りたたみ傘に無理やり入ってくるのを防ぐためである。
「ただいま~っと。ん?」
時間的に星歌は帰宅していないだろうが習慣で無人の自宅に挨拶を告げる。だが玄関には家族以外の、しかし見慣れた靴がある。
「リョウの靴? 鍵掛かってんのにアイツどうやって入ったんだ……?」
つい先日、虹夏のベッドを占領しながらスマホを弄っていたリョウが「ピッキングってなんかカッコいいよね」等と宣っていたことが頭をよぎる。
もし悪い予感が的中していたら吊り天井固めの刑に処そう。
「リョウ、鍵どうやって開けたの──ってあれ? いない?」
居間の扉を開けるもリョウは見当たらない。伊地知家にいる時は大抵居間のソファーか虹夏の部屋で寛いでいるのでそっちかもしれない。
取り敢えず買ってきたものを冷蔵庫に入れてから問い詰めるか。虹夏は手際よく食品をしまっていく。
すると、リョウが湿った髪を首にかけたタオルで拭きながら居間の扉から入ってきた。
「あ、虹夏お帰り」
「ただいま。靴あるのに見当たらないと思ったらお風呂に入ってたんだね」
「急に雨に降られて濡れちゃったから借りてた。お、丁度良い。牛乳貰うね」
ひょい、と今まさに冷蔵庫に入れようとしていた買ってきたばかりの牛乳が虹夏の手から取られる。
「あっこら! 古いのから飲め!」
慌てて奪い返し、元から冷蔵庫に入っていた牛乳を手渡す。リョウはやや面倒臭そうな顔をしたが、黙って受け取りコップに注いだ。
「っていうかさ、どうやってウチに入ったの? 鍵掛かってたよね?」
注ぎ終わった牛乳を受け取り冷蔵庫にしまいながら虹夏は尋ねる。ぐいっ、と半分ほど一気に牛乳を飲んでからリョウは答えた。
「ぷは。普通に下で店長から鍵借りて入ったよ」
ほら、と指で示された先にはテーブルに置かれた星歌の鍵。
被告人山田リョウ、無罪!リョウの容疑は晴れた。
「なんだ、てっきりピッキングでもしたのかと思ったよ」
「そんな技術は持って無い。でも──」
「まぁもしやってたらシバいていたし、手間が省けて良かった~」
今度通販でピッキングツールが届くからぼっちと一緒に練習するんだ、と続けようとした言葉をリョウは間一髪飲み込んだ。虹夏には内緒で練習しよう。
そこでふと思い出す。
「あ、そうだ虹夏。洗濯機借りてるよ」
「濡れた服自分で洗濯したの? 偉いじゃん!」
脱いだ服はその辺に置いておくのがデフォルトのリョウにしては珍しい。
「今日着ていたのは買ったばかりの服だったから。流石に家に持って帰りたい」
「普段からこうやって自分で洗ってくれれば楽なんだけどな」
「虹夏の趣味を取ったら悪いから」
「勝手に人の趣味を捏造するな!」
「だって今日も替えの下着を取ろうとしたら全部洗われてたし、洗濯好きなのかと」
心当たりが無いことを言われ、虹夏は首を捻る。頭上の三角が疑問符の形に変わり、やや遅れて電球の形を取った。
「え、もしかしてベッドの下に落ちてたやつ?」
「違う、置いといたんだよ。この間タンスに入れたら怒られたから」
「だって私の下着と混ざって分かり辛いし……。てかあんなとこにあるから脱ぎ散らかしたやつかと思ったよ」
使ってないのに洗っちゃうなんて勿体無いことをしたな、と少し悔やむ。
ん? いや待てよ。
引っ掛かりを覚え、虹夏は先程の会話を思い返す。
リョウの替えの下着は全部洗って干してある。そして今日着ていた下着は洗濯中。ならば今、現在。リョウは下着を身に着けているのか……?
会話が終わり、呑気に残りの牛乳をちびちび飲みながらテレビを付け出したリョウを見やる。
泊っていく時、夜によく着ているグレーのスウェット。やや大きめでダボっとしているので仮に下着を着けていなかったとしてもわかり辛い。
判断に困った虹夏は考えるのを止め直接聞くことにした。
「ね、ねぇ。下着全部洗われたって言ってたけど、今って着けてるの……?」
「? 当たり前じゃん。いくら自宅とはいえノーブラノーパンはないでしょ」
「だっだよね! あとここは伊地知家です」
良かった、ちゃんと着けてた。虹夏は胸を撫でおろす。
「という事は、洗濯もの乾いてたんだね」
「いや、まだだよ」
「え? 乾いてたから下着着けたんじゃないの?」
「乾いてなかったから仕方なく虹夏のを借りた」
「は?」
「ブラがちょっとキツい」
「知らんわ!」
反射で突っ込んだ後、軽く息を整えてから祈るような気持ちで尋ねる。
「……冗談だよね?」
リョウは目を瞑り首を振ると、
「残念ながられっきとした事実だよ。というか私との胸囲の差は前から知ってるでしょ?」
「ブラのサイズの話じゃねーよ!」
叫んでから虹夏は崩れ落ちる。この反応、本当に私の下着着けてやがる……!
「いくら幼馴染でも下着の貸し借りは無しでしょ……」
「いいじゃん、後でちゃんと洗うから。虹夏が」
「そういう問題じゃない! っていうか洗うの私かよ!」
「じゃあ私に痴女になれと?」
「乾燥機にかけるとかドライヤーで乾かすとか他に方法あるでしょ!」
「生地が痛むから嫌だ」
虹夏の代替案を却下し、リョウは話は終わったとばかりにテレビに意識を戻す。
「こ、こいつ……!」
リョウの不遜な態度に虹夏は拳を握りわなわなと体を震わせる。
「リョウ、脱いで」
「やだよ、虹夏のすけべ」
最終勧告に対しても軽口で返すリョウに、虹夏の堪忍袋の緒が切れた。
よし決めた、引っぺがそう。
「うるせーッ! いいから今すぐ脱げ山田ァ!」
「うわぁ!?」
ソファーに座っていたリョウを押し倒し、虹夏は下着ごとスウェットの下を引きずりおろそうとする。が、リョウも全力で阻止すべくスウェットの下を下ろされないように上へ引っ張る。
「服が伸びる!」
「じゃあリョウが手を離せばいいでしょ!」
「虹夏になら裸位見られ慣れてるけど、無理やり脱がされるのはなんか恥ずかしい!」
「私も洗ったとはいえリョウに自分のパンツ履かれてて恥ずかしい!」
互いに譲らず、ソファーの上で攻防が続く。時間と共に筋力差から徐々に虹夏が優勢になってきたところに星歌が帰ってきた。
「ただいまー。って何してんだお前ら……」
帰宅したら思春期の妹が幼馴染をソファーに押し倒してズボンを脱がそうとしていた。
実に気まずい状況である。
「あのさ、そういう事するなとは言わないけど、せめて私がいない日とかにやってくれないか……?」
「誤解だよお姉ちゃん!」
「店長助けて! 虹夏に下着を脱がされそう!!」
「虹夏、いくら恋人同士でも無理やりは良くないと思うぞ?」
「色々違う!!」