聖夜にかける奇跡の魔法   作:激辛党

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あたしの大好きな使い魔

 煌びやかなオーナメント達が店の軒先に。広場中央にはモミの木を模したモニュメント。浮かれ調子のクリスマスソングは、いずこからとも知れず延々とリピート再生されてる。

「ねぇこっち! 見なさいよ、マジカルわんこの最新作が出てるわ! あ! あっちはプリファイの特別ライブやってるんだって! 見に行くわよ!」

「楽しそうだねぇ」

「なにぼさっとしてんの使い魔! 急がないとクリスマスが終わっちゃう! ほら早く早く!」

 使い魔のダッフルコートの袖を引っ張って、前へと急かす。クリスマスセール中の商店街は大賑わいだった。行き交う人々でどこもかしこもごった返していて、油断するとはぐれそう。

 特にあたしの使い魔は度を越したのんびり屋だから、握る右手に力を込める。

 でも我ながらはしゃぎ過ぎたようで、「ちょっと休もう?」と使い魔が言いだした。

「朝からずっと歩きっぱなしじゃない? お腹も空いてきたし、そろそろお昼にしよう?」

 言われてみれば、朝方に寝起きの使い魔を襲撃して以来、ろくに物を食べていない。せいぜい屋台の焼き菓子と、はちみつを何本か開けたくらいだ。

「そうね、そうしようかしら。……あたしハンバーガーがいいわ! ちょうどあそこにあるし」

 行く先にあったバーガーショップを指すと、使い魔は小首を傾げた。

「いいの? せっかくなんだし、もっと高級なものにしたら? 例えばステーキなんてどう?」

「そんな大層なもの、食べてる時間無いわよ。だいたいあんた、お金あるわけ? たまに行くファミレスだってひーひー言うくせに」

「あれはスイープが何杯もお代わりするからで……。でも今日は大丈夫、ボーナス貰えたし余裕あるから」

 言いながら、使い魔は無駄に大きな胸を叩いて見せる。コート越しにもぽよよんと揺れたそれに無性に腹が立って、あたしは「ふん」とそっぽを向いてやった。

「でもステーキは止めとくわ。使い魔のあんたがこれ以上太ったら、主人として情けないし」

「ええ!? 太ってないよぉ私。これでも平均体重プラマイ2付近を維持してるんだけどなぁ」

「なにマイナスの可能性を入れてんのよ! ウェストなんてあたしの何倍あるわけ?」

「変な言い方しないでよぉ。そりゃあ君の1.5倍……いや1.7倍はあるかもしれないけど」

 抗議する使い魔にささっと近寄り、脇腹の肉をつねってやる。ぷにっとした柔らかい脂肪の感触。それになぜだか物凄く安心してしまって、思わず鼻の奥がツンとなる。

「スイープ、たんま! 痛い痛い~。来年は痩せますから勘弁してぇ」

「痩せなくていい!」

 変に大きな声になった。ぎょっとした使い魔があたしの顔を覗き込む。慌てて両手を振って誤魔化した。

「ごめん、なんでもない。あとやっぱりステーキにするわ。あんたが誘ったんだから、さぞ美味しい店を知ってるんでしょうね?」

「それはもちろん。純朴な使い魔を弄った罰として、ご主人様も贅肉の宴にご招待してあげる」

 くすくす笑いながら、使い魔は自分からあたしの手を取った。

 手袋越しにも伝わってくる、彼女の皮膚の柔らかさと温かさ。

 トナカイに宣言した通り、あの写真の少女の面影はどこにも無い。

三年前、あたしを見初めてスカウトした山藤礼奈トレーナー。新人だった彼女はいっぱしの重賞連勝バを育て上げた名手として、中央トレセンで頭角を現しつつある。

 きっともうトナカイが心配していたような事は何一つだって起こらない。後はお似合いの二人が出会えばそれで完璧にハッピーエンド。どこに口を挟む部分があるっていうの?

 いいや無い。本当に無い。無いったらない。

「つか……ううん、礼奈さん」

「みゅっ!?」

 彼女はとんでもない奇声を発した。

「なによ、あたしがあんたを名前で呼んだらおかしいの」

「い、いやだってスイープから名前で呼びたくないって言ったんじゃない。礼奈トレーナーだと下手なダジャレみたいでキモイから改名しろとまで」

「冗談に決まってるでしょバカじゃない!? だいたい苗字で言うのを拒否したのはそっちが先でしょ」

「うー、それはそうだけどぉ」

 困ったように視線を彷徨わせる。彼女が自分の苗字を嫌う理由は、トナカイのおかげでおおよそ察しがついていた。これ以上深めると嫌な空気になりそうなので、話を早く元に戻す。

「それでとにかく! 今年こそあんたにサンタが来るから、覚悟しといて」

「はひ? サンタ……? もしかして去年のこと、まだ根に持ってる?」

「当たり前でしょ。魔女は執念深いものなのよ。せいぜい震えて待つがいいわ」

「うわぁそれは怖いなぁ。どんなプレゼントが来るんだろう?」

 彼女は楽しそうに言いながら、あたしの手を持ちあげた。

 ……なんだか盛大に勘違いしてそうな予感がしたので、あらかじめ断っておく。

「言っておくけど、あたしじゃないわよ」

「知ってるよぉ……ふふ」

「あたしじゃないわよ!」

「分かってるったら」

 ニコニコ顔を止めない。でも本当にあたしじゃない。あたしだったら良かったのにって昨日の夜から百回くらい唱えたけど、やっぱりあたしじゃないから困る。

 

 せっかく誘ってもらったのに、ステーキはあんまり食べられなかった。

一ポンド平らげたあたりで肉を噛むのがおっくうになってきて止めにした。だから食欲がどうとか言うより、寝不足による倦怠感が原因だ。

 朝、学園から数キロの距離を走って使い魔の家まで行ったのも良くなかったかも。今すぐベッドに入って温かい布団に浸かりたい。

 そして、そんなあたしの不調が見抜かれないはずもなく。店を出る頃には完全に使い魔は説教モードに入っていた。

「ダメだよ、スイープ。クリスマスが楽しみなのは分かるけど、ちゃんと夜は眠らないと。今日はもう帰って休みなさい」

「うぅ……そうするわ」

 立ったまま、こっくりこっくり船を漕ぎつつ答える。すると使い魔はわざとらしく驚いた顔をした。

「スイープが一回で言うこと聞いてくれた……。今日は雪でも降るのかしら?」

「降ってるじゃない」

 雪は午後一時になって今でも、ゆったりしたペースで降り続けている。停車している車のワイパーなど、薄っすらと積もっているところもあった。

「だからかなぁ? でもこれだと結果と原因どっちが先になるんだろ」

「どうでもいいわよそんなこと。それよりあんた、分かってるでしょうね」

 店の軒先で空を見上げている使い魔。その正面に回り込んで、頑張って背伸びした。

「えっと、なにが?」

「さっき話したでしょ! サンタよサンタ。午後六時、今からきっかり五時間後に丘の上にある展望台に行きなさい。そこでサンタに会えるから。絶対に遅れちゃダメよ!」

「やけにタイムスケジュールに厳しいサンタだねぇ」

「当たり前でしょ。子供みんなにプレゼント配らなきゃいけないんだから。いい? 六時だからね!」

 繰り返し言い聞かせると、使い魔は「分かった」とふんわり微笑んだ。

「ちゃんと待ってる。ずっと待ってるよ、スイープ」

「だからあたしじゃない! 話、聞いてた? あたしは今から帰って寝るの」

「あはは、そうだったね。じゃあスイープは七時とか八時に来てもいいよ。私、ぼうっとしてるの得意だし二時間くらい全然待つもん」

「だーかーらー! ……ああもういいわ。もうあたしは行くから」

 突っ込む気力も切れてきたので、一人で先に歩き出す。後ろから使い魔の「気を付けてね~」という声が聞こえる。

 真っ直ぐ走り続けた。

 

―――――

 

 夢を見てる。

昔の映画みたいに、モノクロの映像が動いてる。色が無いのは極度に疲れているせいだろうか。

 レース場、食堂、校舎、トレーナー室。次々と移り変わる背景。

脈絡のない、記憶を抽象化しただけの動画が飛び飛びで再生されてる。

 場面は移って、立ってる地面はターフに変わった。

口をぱくぱくと、鯉みたいに開け閉めする人の群れ。喋っているみたいだけど、内容は頭に入って来ない。たぶんすっごくどうでもいい事だから、あたしが憶えてないんだろう。

 でもその集まり様と立ち姿にはどことなく見覚えがあった。これはきっと……あたしが初めてあいつと出会った時のシーン。

「……まるで魔法みたいだった」

 そうそう。

 コースから戻るなり、あいつは走り寄ってきて、あたしに言った。痩せぎすな身体をサイズの合ってないスーツで隠した、見るからに頼りない女性。

 あたし側の第一印象は最悪だった気がする。使い魔にするなら、もっとどっしりした身体つきの強そうな奴がホントは良かった。

 性別とかの問題じゃ無い。レースの魔法を行使するなら、魔女の従者たる使い魔も奮闘しなければならない。こんな基礎体力の欠片も無いような、弱々しい女性をあたしの無茶に付き合わせる気は毛頭なかった。

 でも……。

「私は、貴方なら見つけられると思うよ」

 そう言われた途端、嘘みたいにぱぁっと視界が開けた。嫌な事ばかりで黒塗りだったレースの世界が、布巾で拭ったみたいにクリアになった。

 誰かに心の底から信じてもらえるってことが、こんなに気持ちいいことだって知らなかった。

 それからは散々、彼女に無理を言った。もっと正直に表現するなら、甘えた。

「今日はウッドチップは嫌」 「今日はタイム計るの嫌」 「今日は走りたくない!」

 ただ甘やかしたいだけのパパや、『スイープのため』が口癖のママと、使い魔は違った。

「貴方には貴方なりの理由があって、嫌だと言ってると思うから」

 彼女はあたしのワガママの、その奥にあるものを求めた。

 どれだけこっそりと胸に秘め、隠し通そうとしても無駄だった。結局、行動に出している時点で、あたしの負けは明らかだ。ゆっくり腰を据えて訊きだされたら、嫌々だって打ち明けざるを得ない。

 それなりにあった羞恥心は、いつしか背徳的な快感に取って代わった。

 幼稚で意地汚い本心は筒抜けとなって手の内に握られ、そうある事にあたし自身が気持ち良さを覚えた。知りたいのなら、あたしの全部を教えてあげよう。その代わりあんたがどうなったって――。

 そしたらホントに倒れちゃった。

 いつの間にシーンが切り替わってる。

 使い魔が借りてるアパート。毛布の中でこんこんと眠る彼女。あたしが変なトレーニングばっかり要求したせいで、疲労がたまりにたまってたらしい。

 そこへ更に慢性的な栄養失調も祟って、あっさり彼女は貧血で倒れた。

 呼んでも揺すっても起きやしない。たづなさんがその場にいなかったら、本当に緊急搬送されていただろう。

「心配かけてごめんね」

 おまけに起きた時の第一声がそれだ。

なんで謝る? バカじゃないの? 誰のせいで自分が倒れたか分かってないの? 

そこはあたしの首根っこを捕まえて「お前みたいなワガママ娘の相手はもう嫌だ」と怒鳴り散らすところでしょう?

 なにがなんだか分からなくなって、とりあえずドクダミを食わせまくった。

 悪い、、思い出だ。それだけに心に強く、痛く刻まれてる。

 あいつ自身にとって、この事件がどうだったかは聞けずじまいだったけど、あたしの内には確かな指針として残った。

 あたしは間違いなく、使い魔を不幸にする魔女だ。レースの魔法を見つけるという偉業に臨み、自分はもちろん他者にも努力と犠牲を強いる。

 でもいつか絶対に、魔法は叶う日が来る。だってグランマはそれを成し遂げた。あたしにできないはずがない。

 だからそれが終わって、あたしも使い魔も頑張る必要が無くなったら――。あたしは使い魔を幸せにしてあげる。それがこの世の摂理というものだ。

 大魔女の名に懸けて、なにがなんでも。

 あたしが幸せにするの。




ちょっとしたアンケートを用意しております。
今後の創作活動の参考に致しますので、お手数ですがどうかご記入いただけますと幸いです。

スイープトウショウの使い魔(担当トレーナー)と、山藤礼奈(トナカイの探していた女性)が、同一人物であると、どの段階で気付きましたか?

  • トナカイ男との初遭遇。写真を見せられた時
  • 二回目の遭遇。ダンス大会の直前
  • 三回目の遭遇。ラーメン対決のあと
  • 四回目、深夜の電話。
  • このエピソードを読むまで気付かなかった
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