蒼の瞳と無限の世界   作:天上金

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 聖杯戦争が始まって、速攻で一騎が脱落した今回。

 

「最初に落ちたのは、アサシンか」

 

 教会のステンドグラスを見上げ、カソック姿の神父が呟く。

 反響する渋い声。返ってきたのは静寂、ではなくクツクツとした笑い声だった。

 

「当然だろう。アレに手を出したのなら、そこらの凡夫では相手にならん」

 

 教会内に設置された長椅子の一つにだらりと腰かけ、ワイングラスを揺らす金髪の若い男。

 そのピジョンブラッドとも言うべき鮮やかな赤い瞳を細め、彼はとある男の姿を思い浮かべていた。

 神父が振り返る事無く、問う。

 

「知り合いだったか」

「ああ。アレは、そもそもこちらの理合いの外に在る存在だ」

「ほう。魔術師の執心する根源か?」

「違う。アレは、神秘ではなく本質は権能に近いものだ。(オレ)の宝物庫にも入れるものではないな」

「ほう……」

 

 そこで初めて神父、言峰綺礼は振り返る。

 彼は、金髪の男がどういう存在なのか知っているからだ。だからこそ、興味が湧いた。彼ほどの男にそう言わせる存在を。

 

「権能と言ったな。では、アサシンを殺したのは現人神だろうか?」

「違うな。アレは、そこらの雑種と変わらぬ人間よ。眼と能力は聊か以上に過分だがな」

 

 ワイングラスを呷り、男は嗤う。

 

「そこらの雑種ならば、まず間違いなく力を得た時点で死んでいる。生き残ったのは、運に因る偶然に過ぎん。その偶然が、一匹の怪物を生み出した」

 

 椅子から男が立ち上がる。

 

「分かるか?アレは、神代ですらも持て余す代物だ。そんな物が、この脆弱な世にある意味を」

「そうであるのなら、抑止の対象となるのではないか」

「アレが本気で人類を掃討する気になるのなら、な。魔術師連中と違い、アレは根源なぞに興味はないだろう。だが、その実は敵対する者に容赦がない。我に楯突くのならば、宝物の半分以上は意味を成さんだろう」

 

 だからこそ、面白い。男は嗤う。

 

「アレが死んだ暁には、その首を宝物庫に納めるとしよう」

 

 そう言って、教会には男の愉悦の嗤いが響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――アーチャー」

 

 屋上にて、遠坂凛は己のサーヴァントを呼ぶ。

 現れるのは、赤い外套を纏った白髪に浅黒いの肌をした青年だった。

 

「アンタはこの聖杯戦争、どう見ている訳?」

「随分と漠然とした問いだな。生憎だが、私はエスパーではないのでね。もう少し、要件を絞ってくれないか?」

「分かってるでしょ?アサシンの脱落よ」

「それは、流れの魔術師がマスターだったから、ではなかったか?君も、そう結論付けた筈だ」

「ええ、そうね。でも……」

 

 凛が悩むのは、自身のサーヴァントであるアーチャーと、そして襲撃してきたランサーの戦闘を見た為。

 三騎士と比べても、白兵戦能力が高くないのかもしれないが、それでもアサシンはサーヴァント。英霊だ。

 打倒するならば、サーヴァントは必須。

 

「アンタなら、アサシンに勝てる?」

「無論。少なくとも、正面戦闘でアサシンに後れを取る気は無い」

「なら……もし仮に、ソレが魔術師だった場合はどうかしら」

「妙な事を聞く。凛、君も知っての通りサーヴァントは、いわば神秘の塊だ。封印指定を受ける者であったとしてもどれ程食らいつけるか」

「そうよね……」

 

 何を悩んでいるのか、凛の眉間には皺が寄っている。そんな彼女を、鋭い鷹の眼は見咎めた。

 

「何をそこまで悩んでいる」

「……何か、違和感があるのよ。でも、ソレが何なのか……」

 

 年若くとも、凛もまた研鑽を積んだ魔術師だ。その実力は、まだまだ伸び代があり且つ既に生半可な者よりも上。

 そんな彼女が違和感を覚える。

 何かがあるのだろう。しかし、何があるのか。

 尤も、()()()()()アーチャーからすれば敵サーヴァントが落ちる事は特段問題ではない。それがいかなる手段であろうとも。

 そもそも、

 

「サーヴァントの戦いは、ステータス一つでは決まらない。宝具、スキル、マスターの采配、地理的状況、心理的優位性。あらゆる要が考えられる。君が違和感を覚えるのも、君の考えうる範囲外の方法でアサシンが敗れ去ったからではないか?」

「それって、どんな方法よ」

「さて、ね」

 

 肩を竦めるアーチャー。

 少し話が逸れるが、彼は弓兵のサーヴァントであり非常に優れた目を持っている。

 動体視力や、純粋な遠距離の視認性など。

 

 故に彼は、アサシンが敗れた際にその光景を目にしていた。

 

(サーヴァントでも魔術師でもない存在が、この街には居る。そして、聖杯戦争に絡んでいる、か)

 

 本来ならば報告すべき事だろう。

 だが、アーチャーはアーチャーでその何者かがいったい何なのか分からないのだ。

 とはいえ、やはり彼の目的に関係するものではない。

 

 事態が動いたのは、その日の夜だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 キャスタークラスのサーヴァントにとって必須である工房。

 そして、今回の聖杯戦争に参加するキャスターは、工房を上回る神殿を作成可能。

 

「龍脈から一本引いたけど……マスター、魔力の消費はどうかしら?」

「ん?特に何ともないよ。足りないのなら、令呪も足そうか?」

「いえ、十分よ」

 

 キャスターの想定以上に、神殿の作成は早く終わった。

 太い龍脈が近かった事と、そもそも菅原邸自体が霊地擬きであった事もその助けになったのだろう。

 庭に立ち、ぐるりと周囲を見渡してから司は感心したように口笛を吹く。

 

「ヒュ~♪それにしても、凄いね。家を囲んでる壁を起点にぐるりと周囲を囲んでる訳だ」

「ええ、そうよ。物理的にも魔術的にも侵入は不可能。ただ一点、入り口だけは別だけれど」

「ま、それは仕方ないって。郵便とか宅配とかあるからね。俺も出入りできなくなっちゃうし」

「……そうね」(貴方は、すり抜けてきそうだけど。そうでなくとも、神殿を破壊しそうだわ)

 

 魔術師としてのプライドが無い訳では無いが、それでも相手の優れた部分を確りを認め受け入れる度量がキャスターにはあった。

 いや、()()()と表するべきか。

 共に食事をし、語らい、どれ程に自分が裏切者であると述べようとも欠片も揺らぐ事のない関係性。

 恋愛感情とは、違う。ハラハラする事もあるが、確りと自分を見ていると確信できる宝玉の様な瞳を確認するだけで心安らぐ。

 その感情に名付けるなら――――

 

「マスター、来客よ」

「こんな夜に?予定はないけど」

「律儀な相手ね。トラップ代わりの竜牙兵は粉砕されたみたいだし」

 

 キャスターがそう言うと、司の耳にも何かが粉砕される音が届く。

 足音が近づき、入り口から家屋を回って現れるのは月光に照らされる青い髪をした男。

 逞しい体つきに、青い装束。青い髪とは対照的な紅蓮の瞳。

 

「よぉ、見つけたぜキャスター」

「あら、私の事?」

「そうだろ。派手な工房じゃねぇか、全く」

「その魔術師の工房に入り込んで、無事で済むとでも?」

「外から叩いてぶっ壊せるなら、ここまで来ねぇよ」

 

 そう言って男、ランサーはその手に一本の朱槍を握る。

 

「さて、長話も要らねぇだろ?そっちの坊主がマスターなら、下がっていいぜ?」

 

 ランサーの紅の瞳が向けられ、ソレを真正面から受け止めるマリンブルーの瞳。

 

「あっははは、お気遣いどうも。でも、大丈夫だよ。俺も自衛位は出来るからさ」

「……そうか。まあ、精々巻き込まれないように、なっ!」

 

 槍兵のサーヴァントであるランサーは、最速の英雄が選ばれるとされる。

 男もまた、その例に漏れずその速度は常人が追えるものではない。

 だが、ランサーと相対する男もまた、()()()()()

 

「……ほう?」

 

 キャスターを貫かんとした赤い穂先は、しかしその前に立っていた少年の更に前の空中で不自然に止まっていた。

 槍の穂先を前に、司は緩く笑みを浮かべる。

 

「ねっ?」

「成程、確かに自衛は出来るらしい。どういう理屈だ?」

 

 軽口をたたいて距離をとったランサーは、油断なく構えなおす。

 槍を主体とした白兵戦こそが主戦場の彼だが、その本質的な強さは敏捷性と百戦錬磨の戦闘経験にある。

 英雄、大軍、怪物等々。恐らく彼は、想定される多くの敵対象の大半と戦闘を経験した事があった。

 それら経験と照らし合わせ――――

 

「相手は、マスターだけじゃなくってよ」

 

 瞬間降り注ぐ光弾の雨あられをその場から飛び下がる事で回避する。

 そう、コレは2:1の戦い。それも、得体の知れない能力持ちと神代の魔女の組み合わせだ。

 舞い上がった土煙を突き破って、司がランサーへと迫る。

 迎撃に振るわれる槍。横薙ぎのソレは、しかし司には届かず。司自身も槍の行方など一切見らずにランサーのみを見据えていた。

 突き出すのは拳、ではなく掌底。

 菅原司は、武術の鍛錬を積んできた訳ではない。彼自身も自覚している通り、基本的には喧嘩慣れした素人体術でしかない。

 その一方で、彼は天賦の才も有していた。

 

「ッ!」(随分と重てぇな!)

 

 槍の柄で受け止められる掌底。

 鍛えていない拳では、相手を傷つけることは愚か寧ろ自分自身へのダメージの跳ね返りが酷い。

 その点、掌底は指の骨よりも幾分か頑丈の掌の骨と、掌その物の肉付きがクッションとなるために拳を叩きつけるよりも幾分かマシ。

 仕掛けられる体術。それらはまだまだ拙い、がそれでも劣勢はランサーだ。

 体術は、当たればデカいが防げる。問題なのは、司の扱う異能と、それからキャスターの魔術。

 

 更に彼自身に仕掛けられたとある制限。

 

 以上三要素が絡み合い、ランサーは防戦一方となっていた。それでも、致命傷は愚か有効打の一発も無いのは流石と言うべきか。

 

「おいおい!ここまで派手に魔術ぶっ放して良いってか!?」

「野暮な事を言うわね、ランサー。ちゃんと保護しているに決まっているでしょう?」

「そうかよ!っとぉ!」

 

 魔術を躱し、掌底を捌いてランサーは距離をとる。

 同時に、司もまた手を下した。

 

「ランサー、君やる気がない訳?」

「ああ?手抜きだってか?」

「違うの?」

「………………はぁ」

 

 槍を肩に乗せて、ランサーは俯きながらため息を一つ吐き出した。

 

「気付いても無視するもんじゃねぇか?」

「俺の能力に対応できていないのは分かったけど、同時に何かしらの一発を狙ってたのは見て分かったからね。その一発を躊躇する上に動きが悪いなら分かるよ」

「はぁ………坊主の事は素人だと思ったんだがな」

「素人さ。その素人が提案するんだけど、君こっちにつかない?」

「あ?」

「その手加減は、君の方針じゃないでしょ?そこで、君のマスターの元まで案内してほしいんだ。そこで俺がそのマスターの令呪を奪う。君は自由に戦えて、俺は手駒が増える。悪い提案じゃないと思うけど?」

 

 どう?と問うてくる青い瞳の少年。

 運命の分岐点。聖杯戦争は加速する。

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