無職少女ラブリィベル   作:ゴマ醤油

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そんなことないよ、昔からだよ

 突発的コラボの後、数日が経過した。

 あの日以降、少しずつ仲を深めていった鈴野(すずの)と宵闇バットは、たまに時間を設けては話せる距離感になっていた。

 宵闇バットがおすすめしたアニメの話から、どうでもいい世間話や些細な口喧嘩まで。

 拳や魔力を介さずの関係は鈴野(すずの)にとっての新鮮で、性に合わないと自覚しながらも、最近はどうにも悪くないとさえ思えていた。

 

「なあバット。お前さ、どうしてVになったんだ?」

 

 そんなこんなで早いもので、コラボ本番もあと数日となったある日。

 煙草を片手に座りながら雑談に興じていた鈴野(すずの)は、ふとそんな質問をバットへ投げかけた。

 

『……なに、いきなり』

「いやなにさ、くだらない世間話だよ。企業勢ってオーディションあるんだろ? わざわざ応募した理由って何なんだろうなって」

『……そう。別に大した理由じゃないわ。たまたま募集を見つけて応募して、偶然にも受かった。それだけよ』

 

 少しのための後、意外にもあっさりとそう答える宵闇バット。

 思ったよりも普通な答えに、鈴野(すずの)は少しばかり意外に思いながら頷きをみせる。

 

 意外だな。お前はもっと俗物的な理由で始めたのかと思っていたよ。

 

『そういうベルは何で始めたのよ。趣味?』

「あー。まあ興味があってぽつぽつと始めて、無職になって暇だったから本腰入れてみたって感じ」

 

 振り返れば、それこそいくらでも思い出せる底辺時代。

 何の動画を投稿しようが再生回数は二桁。配信でどんな企画をやろうが人は来ず。

 そんな自分が思えば随分とまあ遠くに来たものだと、鈴野(すずの)は苦渋の過去に少しだけ感慨深くなってしまう。

 

「まあ、私の性には合ってたな。企業勢の人気と収入には嫉妬するが、しがらみがない分楽だったよ」

『……そう。羨ましいわ、私も……』

「ん? 何だ?」

『……何でもない。そろそろ落ちるわ。じゃあね』

「あ、おい!」

 

 聞き取れなかった呟きに、鈴野(すずの)が再度尋ねようとしたのだが。

 それよりも早く、まるで逃げるように通話を切ってしまった宵闇バットに、鈴野(すずの)は怪訝そうに首を傾げながら、深々と椅子に座り直す。

 

「羨ましい、ねえ……。稼ぎも承認欲求も、そっちの方が満たせるだろうに」

 

 けどまあ悩みなんて人次第かと、白煙と共に思いを吐きつつ。

 鈴野(すずの)は役目の終わった一本を灰皿へと擦りつけて置いてから、ゆっくりと目を瞑ろうとして──。

 

「っていかんいかん。今日は寝ちゃ駄目だ。起きろ私」

 

 沈没しかけていた意識の中、電話越しに不満を拗らせていた中坊が脳裏を過ぎり目を覚ます。

 

 今日はこの後、結月(ゆづき)の買い物に付き合う予定があるんだ。

 最近訓練以外で構えていないし、このまえの起こしてもらったのに雑に切ったからな。こっちとしても、付き合ってやらなきゃちょっと申し訳ない。

 しかしあいつ、同世代に友達いないのかな。……いねえか。いたら誘ってなんて来ねえだろうし、私なんぞの配信に嵌まったりしないだろうし。

 

「……あ?」

 

 ひとまず汗でも軽く流して出掛ける準備を整えようと、鈴野(すずの)が立ち上がった、その瞬間だった。

 ひとりでに、微弱だが知覚できる程度に体の裡を奔る、覚えのない魔力の波長。

 それは魔法少女の連絡手段──魔伝の着信を告げるもの。

 その感覚に、緩みきっていた鈴野(すずの)は意識が少し引き締まるのを実感しながら、それが誰からかを考えてしまう。

 

 うーん結月(ゆづき)か? けどあいつは基本スマホで連絡してくるし、あいつの波長は覚えてるしなぁ。

 ミカンオレンジのとも違う気がするし、ギアルナやらエターナルも違う気がする。

 いっそイナリのやつだったら楽なんだけどな。あいつからならワンチャン掛けられるだろうし。

 

「……もしもし。誰だ?」

『お久しぶりです先輩ー。貴女の後輩ことシロホープちゃんですよー。ちょっとお時間いいですかー?』

「……お前かよ」

 

 聞き覚えのある声に力の抜けた鈴野(すずの)に対し、魔伝の相手──魔法少女シロホープは変わらぬマイペース口調で微笑んでくる。

 

「何だよホープ。私今、暇じゃないんだけど」

『あーお仕事中でしたー? そういえば先輩ってー、今なにやってるんですー?』

「……別に、フリーでちょこちょこと。個人事業主ってやつだよ」

 

 まあシロホープだし、どうせ大した用事ではないだろうと。

 鈴野(すずの)は職種についてちょっと誤魔化しながら会話に応じつつ、シャワーを浴びようと乱雑に服を脱ぎ捨てていく。

 

『いやー実はですねー? あの野良犬共の尋問は終わりましてー。お詫びも兼ねての情報提供でー、点数稼ぎでもしよっかなーっと』

「……お前、良いのかそれ? 外部に情報漏らすとか流石に越権行為だろう?」

『良いんですよ信頼してますしー。それにー、会長なんだからこんくらいの横暴は許されて然るべきなんですよー。仕方のないことなんですー』

「……秩序も形無しだな」

『ですねー』

 

 よれよれのシャツから更によれよれの黒下着まで。

 自分が身に纏う一切合切を脱ぎ捨てた鈴野(すずの)は、トイレ付きの狭苦しいユニットバスの浴場へ入り、空の浴槽の中でシャワーの水栓を捻って汗を流していく。

 

『おっ、シャワーですかー? 全裸なんですかー?』

「言ったろ? 暇じゃないって。出掛けるんだよ、この後」

『……ふーん。楽しそうですねー。ちなみにどこから洗うんです? 足? 頭?』

「セクハラだぞ。普通に上からだ」

 

 

 その頷きは何の間だと思いはすれど、セクハラにもいちいちツッコまず体を洗う鈴野(すずの)

 こういうよく分からない所で不満を抱くのは昔と変わらず、今の結月(ゆづき)みたいだと少し重ね合わせて笑みを零してしまいなるも、セクハラ発言はあの中坊にはないと思いとどまった。

 

「で? 本題を話せよ。くだらない雑談なら、また暇な時に付き合ってやるから」

『あーはい。そうですねー。そういえばー、そんな話でしたねー。かったるいー』

 

 長い黒髪から流し、胸から順に上から体を擦り、最後にさっぱりさせていく。

 そうしてシャワーを止めた鈴野(すずの)は、掛けられていたバスタオルで体を拭いた後に換気扇を起動しつつ、便座へと腰掛けて両股に肘を置く。

 

『んとーですねー。あの愚かな野良犬共、アンダードッグなんて組織なんですがー。その頭目の目的が一切不明らしいんですよねー』

「ん? 不明? どういうことだ?」

『何でも頭目の魔法少女、マンボウなんてダサい名前らしいんですがねー? 彼女に従えば報酬があるとか、そんな感じの噂で従っているって感じらしいんですよねー。笑えますよねー?』

「笑えねえよ」

 

 変わらない平坦な口調ながら、心底嘲るように話すシロホープ。

 その様子にそういやこいつ、ガキの頃からナチュラル鬼畜な所な部分があったなと、鈴野(すずの)は出会った頃の毒舌と仏頂面を思い出してしまう。

 

 確かギアルナが拾ってきた頃のこいつ、相当尖ってたからなぁ。

 じゃじゃ馬通り越して狂犬だった。こいつに比べたら、あの犬野郎なんて礼儀正しすぎてポチレベルだった。……レイドッグめ。

 

「じゃあ何だ。アジトとか分かったのか?」

『残念ながら駄目でしたねー。一応いじってげろらせた拠点らしき数カ所を潰したんですがー。ぜーんぶもぬけの殻。まさしく蜥蜴の尻尾切りって感じでしたねー』

「そうかよ。そらご苦労なこって」

 

 仕事だけは早いな。まあ一丁前に魔法少女共の治安を守ってないわけか。

 それにしても、いじってげろらせた、ね。……同情するよ、私じゃなくてこいつに尋問されたのだけは。

 

「……じゃあ振り出しか。ま、精々頑張れよ。任期満了直前な会長様?」

『え、あ、ちょ、まだ──』

 

 これで用件は終わりだろうと、シロホープとの魔伝を雑に切り上げる鈴野(すずの)

 便座から尻を離し、浴室を後にして散らばっている仲から適当な服を掴んで袖を通していく。

 

 最後に何か言おうとしていた気はするが、まあ別に掛け直さなくてもいいか。

 本当に重要ならば掛け直してくるだろうし、そもそも下犬と歯車共の戦いの進展なんて私が聞いても関係ない話だ。

 そんなことより早く準備準備っと。遅れでもしたら、あいつ本当に臍曲げちまうからな。

 

「しっかしぼろいなぁ。……流石に服買った方がいいなこりゃ」

 

 着替え終えた自分を見直して、これは流石にと困った顔になってしまう鈴野(すずの)

 簡素で生地の薄くなった黒シャツに、気持ち長めなホットパンツ。

 流石に腹は出さないが、とても未成年の隣を歩く際にはふさわしいと思えない恰好だと自分でも思えてしまっていた。

 

 しくった、ガキとの買い物にしちゃ流石に露出が多すぎる。こんな機会が来るのなら、適当な服でも買っておけば良かった。

 流石に腹を出したりはしないし、帽子も被るからそこそこましにはなると思うがそれでもだろう。

 ……まあでもいいや。どうにもならないし、暑いから今日は諦めよう。

 結月(ゆづき)も気にするのは最初だけだろう。顔も体も良い方だし、うん、気にしない。

 

 そこまで考えて、最近は誰かの機嫌取りばかりだなと思い至ってしまう鈴野(すずの)

 こんなにもお人好しじゃなかったのにと、もっと振り回す側だったはずなのにと。

 今の自分を内心笑いつつ、けれど悪くないとも思っていると、ふと目を向けた時計の針が進んでしまっているのが見えてしまう。

 

「やべやべっ、遅れちまう」

 

 恰好だの自分だのを考えている時間はないと。

 鈴野(すずの)は雑にスマホと財布を掴み取り、飛び出すように家を出て集合場所へと走り出す。

 その途中で鍵を閉め忘れたか疑問に思い、悩んだ末に一度帰宅を選択した結果、電車に乗り遅れ駅のホームで肩を落とす羽目になった。

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