無職少女ラブリィベル   作:ゴマ醤油

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燃やし尽くすように、或いは逃げるように

「というわけでー♥ みんなおひさー♥ いつか朝アニメの柱になる予定のベルだよぉ♥ 早速配信始めるよー♥」

 

『は?』

『え、うそでしょ?』

『待て待て待て待て』

『死ね売女』

『きもいんだよアバズレが』

『朝四時くらいに耐久枠が終わったよね……?』

 

「心配ないよ♥ ベルは魔法少女だからと・く・べ・つだから♥ あ、あと過激なご意見はやめようね♥ 楽しんでくれてる人の迷惑だし♥ ベルだから許してるけど、普通だったら訴えられてるゾ♥」

 

 めいが帰ってからしばらくして、空の色が変わった頃。

 鈴野(すずの)は困惑する視聴者(リスナー)を流し、暴言に釘を刺しながら配信を始めていく。

 コメントの困惑はもっとも。何故なら前回の配信終了が同日の午前四時、つまり約十二時間前。

 実質三日にも及ぶ積みゲー耐久配信からたった半日しか経っておらず、並の人間であれば最低一日は休息を取るであろうと誰しもが思うもの。そしてそれが、人間としては当たり前のはずだ。

 けれど鈴野(すずの)はその常識の一切を無視し、更にはあたかも久しぶりの配信であるかのようなテンションでゲームを進めていく。

 

『まじで休みなよ』

『流石に死ぬぞ?』

『馬鹿だ馬鹿だとは思っていたがここまでとは』

『¥1000 ベル。君は最高だ』

『ラビラビやるのか。マイナーだけど良いゲームなんだよな』

 

「あっははー♥ ベルは魔法少女だからねー♥ やりたいときに好きなだけな精神なんだー♥ みんなは無理せず休んでからアーカイブ追ってね♥」

 

 一層に調子を上げつつ、衰えのない指使いでさらりとゲームを進行していく。

 とはいえ今やっているのは、サイトのセールで割引だったので適当に買った名前すらついさっき知ったばかりの2Dアクション。

 軽快に跳ねる兎を操作し、突如出入り口のなくなった奇々怪々なテーマパークを探索していきながら脱出を目指していくといった感じのシナリオだ。

 銃や剣、トンファーやらフライパンやらスコップやら、果てはパチンコやスリッパやポップコーンなど。

 遠近共に充実した武器……武器? が揃った、三百円で買ったにしてはえらく充実したゲームだと感心しながら、鈴野(すずの)はまた一体ボスを倒した。

 

「んー♥ まあパンダは所詮パンダだね♥ 白黒はっきりつけてやったぜ♥」

 

『は?』

『は?』

『は?』

『やっぱもう頭回ってねえよこいつ』

『寝ろ、まじで』

 

「いーやーだー♥ 寝たらもう明日になっちゃう♥ あ、大鐘だって♥ 武器これにしよ♥」

 

 流石に危ないのではと、いつもの辛辣のない心配の声を無碍にする鈴野(すずの)

 ボスであった巨大風船パンダを倒して入手した大きな鐘をメイン武器に変え、重い塊を振り回しながらテーマパークの雑魚共を一掃していく。

 

「この武器ゴーンゴーンってうるさっ♥ でも気に入った♥ これでクリアまでいっちゃお♥」

 

『やめてくれ』

『自律神経だけじゃなく耳まで壊してくる魔法少女』

『¥10000 ゴーンゴーン♥ ざーこ♥ ざーこ♥ ってお願いだから言ってほしい』

『ラビラビネタ武器御三家を真剣に使ってるやつ初めて見たわ』

 

「……ごーんごーん♥ 雑音(ノイズ)さんたちざーこざーこ♥ 三半規管なよなよのおじじ共ー♥」

 

 赤いスパチャを貰ったのでと、鈴野(すずの)はマイクに顔を近づけてこしょこしょと囁く。

 それは鼓膜を擽るように優しく。脳を蕩かすように甘く。愛しい誰かを悦ばすかのように。

 そして言っている最中、段々と楽しくなって言葉数を増やしていく鈴野(すずの)

 鈴野(すずの)も以前ASMRの類を動画にしたことはあるので初めてというわけでもないのだが、再生数が三桁止まりだったあの頃と違い、そこそこの人が観ているという状況についつい興が乗ってしまっていた。

 

「ばーか♥ へんたい♥ 積極的なくせに誘い受け♥ 変態なくせによわよわ♥ ……あっ、ボス着いた♥」

 

『うっ……ふうっ』

『なんだろう、新しい世界を開いた気がする』

『子供の味方がそれでいいんですか』

『魔法少女なんて今や深夜の方が多いからセーフ』

『¥50000 ベルちゃんひめちゃん、どうぞ結婚して永遠にボクの全てを使い潰してください』

 

「……さあ続けていこっ♥ あ、赤スパありがとねっ♥」

 

 いつものご常連である鐘の嫁さんによる、とんでもお貢ぎを食らいながらも声はそのままに進めていく。

 しかし明らかに昼まで家にいたやつの気配を感じ、内心で納得と同時に若干へこんでしまう。

 

 なるほど、あいつが鐘の嫁だったのか。道理で羽振りが良くて遠慮なしに私に金を落とすわけだ。

 ……待てよ? つまり、私にちゃんとしたガチ恋はいなかったのか? 意外とダメージ来るんだが。

 

 落ち込む気持ちを励まそうと、ゲームに没頭していく鈴野(すずの)

 とはいえゲーム自体難易度が高いわけではなく、特段力を入れずともクリア出来てしまえる範疇であり、らだらとしながらも必然的に雑談の方に力が入ってしまう。

 

「へー納豆と卵って相性悪いんだー♥ いがーい♥」

 

『悪いけど別に気にするほどじゃない』

『他でビオチンやらビタミンやら摂れば平気やで』

『っていうか鐘がうるさいんだけど』

『ごーんごーん』

『攻撃の度に鳴るからな。大して強くもないしクソ武器よこれ』

『人減ってて草。やっぱ武器変えようよ』

 

「えー♥ だって鐘だよー♥ 本当にベルのこと好きなら気合いみせてほしいなー♥ ほら雑音(ノイズ)さんっ♥ がんばれがんばれ♥」

 

『ぶひぃー!!!』

『やっぱ声は良いよな。声だけは』

『顔と体が最高でも騒音は立派な破局の原因なのよ?』

『鈴ならともかく鐘じゃあねえ……?』

 

 脊髄反射で話題を二転三転させながら、視聴者と話しつつゲームも最終盤へ。

 テーマパークの守護者らしき、謎のネズミの新設された猫ロボットの遊園地をうらみつらみをBGMにしながら、いきなりバトルが始まってしまう。

 

『すっげえカオス』

『武器の音のせいでもう混沌』

『これ本当にラスボス戦?』

 

 奇妙奇天烈摩訶不思議。まさにそんな感じなラスボスであろうネズミ戦。

 BGMと背景、そして自らの装備の混ざり具合で反応に困りながらも、危なげなくボスを撃破した(すずの)

 あんまりな手応えの無さだったので第二形態でもあるのかと思っていたのだが、意外にもなさそうな気配で締めの台詞(セリフ)に入ってしまう。

 

『ば、馬鹿な……!! このネッキーがッ!! ハハッ!! だがネッキーパークは永遠だァ!!! あの青猫の遊園地などには負けない夢の国なのだッ!! ハハハッ!!』

「アウトじゃねえのこれ♥ 断末魔がそっくり♥ 何より夢の国とか♥ ……ハハッ!」

 

『おいやめろ』

『もうセーフだぞ』

『いやアウトだぞ。使者が来ちゃうぞ』

『遊園地ってこわいなー。今度のデート、デートは水族館にしておこっと』

『¥10000 ボクはホテルがいいな☆』

 

「えっと……ああはい、ひめラブさんスパチャありがとー♥ ホテルは行かないかなー♥」

 

 もう名前だけで誰なのか一目瞭然な複垢女に礼を言いつつ、鈴野(すずの)は姿勢を崩して流れるエンディングをぼんやりと眺める。

 時間は十九時と少し。ノーミスで四時間と少しだが、三百円のゲームであれば上々だろうと体を伸ばしながら、ふとゲームについて少し考えてしまう。

 主人公の兎についてはどうでもいいが、人気を失った遊園地の怨嗟こそがこのゲームの根幹。夏にしてはどうにも肝が冷えきれないホラーゲームってわけだが、それ故に抱いてしまう感傷というものがあった。

 

「盛者必衰、栄枯盛衰、つわものどもが夢の跡ってな。……はあっ」

 

『急に中の人を出すな』

『ベルの時にふと出ちゃう姫野鈴(ひめのすず)(25)いいよね……』

『そこはかとなくえっちだよね』

『それはもうえっちだよね』

『退廃的というか禁忌的というか、店裏で煙草吸ってるメイドさんみたいな』

『でもベルって強者ではないよね。登録者数的には』

 

「う、うるさいよ雑音(ノイズ)共♥ 休憩中のメイドさんも苦労してるんだぞ♥」

 

 つい零してしまったベルらしくない言葉。

 それを容赦なく突きつつも、あろうことか褒めてくる視聴者(リスナー)鈴野(すずの)はどうにも照れくささを隠せなくなってしまう。

 

「もーからかわないの♥ それにしても、意外と早く終わっちゃった♥ 今日は日が変わるまでやるつもりだったからちょっとがっかりかも♥」

 

『流石に止めた方が』

『まじで死ぬぞ、まじで』

『まじでどっか壊れてない? 大丈夫?』

 

「壊れてなーい♥ 私はすこぶるけんのこうー♥ とーいーうーわーけーでーぇ♥ そんなノリの悪いみんなを盛り上げるたーめーにー♥ この後近場のカラオケに突撃して歌配信でも……あっ」

 

 いまいち乗り気になってくれない視聴者(リスナー)にぶーたれつつ。

 それでもなお満ちるモチベに突き動かされ、一度配信を切ってカラオケにでも向かおうとした鈴野(すずの)

 けれど、その最中に目にしてしまった一つのコメント。知っているアカウントで呟かれていた、何の変哲もないたった一言。

 

『体を大事にしてください。あと、寂しいです』

「……はあっ。みんなごめーん♥ そういうのをやろうと思ったけど、今日はこれで終わりね♥ じゃあアデュー♥」

 

 鈴野(すずの)は大きくため息を吐いてから、簡単に締めてから配信を切る。

 ハイだった高揚は冷や水を掛けられたように静まり、すっかり冷静さを取り戻してしまっている。

 そんな中で無音になってしまえばもう戻そうとも思えず、おもむろにデスクに置かれた煙草の箱を手に取ってしまう。

 

「……ほんと、なにやってんだかなぁ」

 

 一本取り出し、火を付け、弱々しい自嘲混じりに煙を吐く鈴野(すずの)

 部屋の中で揺蕩う白煙。その揺れ様は、まる吐いた自身の胸の内をそのまま示すかのよう。

 普段は大人ぶって。あの変態にすら諭されながら、こうして配信に逃げて。

 その上守るべき、義理を通すべき子供に身を案じられてしまうのだから、情けないことこの上ない。

 

 ……笑っちまう。今の私をあの人が見たら、きっと背中にきつい一撃をお見舞いされるんだろうな。

 

 もう随分と朧気な、記憶の中で笑う錆色の魔法少女を少しだけ憎らしく思いつつ。

 それでもスマホに伸ばし、それから少女へメッセージを送ろうとアプリを開き、一文字目を打つ前にその手は止まってしまう。

 

 ……嗚呼、情けない。やっぱり私はどこまでいこうと、所詮はあの頃のままか。

 

 言いようのない胸の痛みに小さく舌打ちながら、鈴野(すずの)はスマホを投げ捨てる。

 鈍く不快な微音を立て、床を転がったスマホから目を離し、シミの付いた天井をぼんやりと見つめた。

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