弱キャラ友崎くんとサンドバッグ相原くん 作:mosumosu
俺の発言にしんと静まり返った教室。
思いのほか声が通ったようだ。
周りからぽつりぽつりと呟く声が聞こえる。
『あの二人……』『うそぉ……』『でもたしかに最近仲良さそうだったよね……』
そんな声が。
「というわけで、関係大有り。たまへの文句は俺に言え」
「はぁ?……つーか、嘘だろそれ。そもそもお前はみみみに告ったってはなしも知ってるんだけどぉ」
少しの間を空けてから、攻め口を見つけたようにニヤニヤしながら口を開く紺野。
そのへんの返答は脳内でシミュレーション済みだ。
「それは一学期の話じゃねぇか。俺が振られて終わってんだよ。その後にいろいろあって、今はたまと付き合ってんの」
「そんな話、噂も聞いたことないけど?」
「そもそもなんで本人の言葉より噂の有無を気にするんだっての」
「へぇ。……本当なん、夏林?」
紺野は俺からは崩せそうにないと悟ってか、今度はたまに話を振る。
「それは、相原!どういうっ……!」
「球技大会から付き合ってるけど、たまが恥ずかしいとかでしばらくは黙っておこうって言ってたんだよ。ほらたま、そんなに怒るなよ。そろそろみんなにも言うって言ってただろ?」
「そ、そんなこと言ってない!」
「いや、いまさら照れるなって」
幸いにもたまは嘘を言っている俺への怒りやら何やらで顔が赤くなっている。
それを利用して周りの人間に『たまが恥ずかしがっている』と思わせるように誘導する。
そして、俺は紺野に向き直る。
「そろそろ何人かに話してもいいよねって言って、昨日水沢や友崎に初めて話したわけ。だから、その2人は証人にもなると思うよ」
これで、昨日たまと俺たち三人が一緒にいたことへの理由もできた。
水沢に目配せをすれば渋い顔をしてはいたが、空気を読んでくれそうに頷いてくれた。
紺野は俺から目を離すと水沢の方を見る。
「エリカ、それ本当だわ。昨日だいじな話があるとか言ってさ。帰りに寄り道してその話を聞いたな」
「ふーん」
状況証拠が揃っているうえで水沢に言われたからか、紺野もついに認めたようだった。
俺はともかく、水沢に対して紺野は甘いところがある。
というか水沢のクラスでの影響力というものは計り知れないものがあるからな、紺野としては影響力が大きい水沢に反論して突っかかるのは得策じゃないと思ったんだろう。
「ま、あんたが関係あるとかないとかはもうどうでもいいけど、机に足が当たったことは謝ったよね?もういいじゃん」
紺野は開き直ったようにそう言う。
だが、これで俺も関係者として認めたということだ。
あとは、紺野にたまにちょっかいを出したら面倒くさいことになる、と思わせてしまえばいい。
「じゃあ分かった。謝罪はたまが受けた。終わったことを言っても建設的じゃないよな。でも、さすがに毎日一日一回以上足ぶつけるのは不用意すぎだろ?だから」
ここで一拍区切る。
「今後は気をつけてくれよ?」
声の大きさは変えないが、強調するためにほんの少しだけトーン下げてそう言った。
「はぁ?なんで私が」
「別に難しいこと言ってるんじゃなくて、ちょっと気をつけてくれって話だよ。それとも何か?謝罪は口だけで反省してないでーすってことだったか?明日も明後日も足が滑って机蹴っちゃいまーす、と?」
「チッ。わかったわかった。気をつけますー。今度こそもういいだろ!」
そう言って紺野は面倒くさそうに答えるといつものグループのところに歩いていった。
……これでたぶん、嫌がらせに関しては解決だろう。
紺野は『たまに突っかかると面倒な奴が出てくる』と認識したはずだ。
その面倒な奴は水沢、ひいては中村達とも仲がいい。
水沢の言う、″政治がうまい″紺野なら嫌がらせを続けることのデメリットを考えてやめるはずだ。
机を蹴るような表面的なものだけでなく、裏で行っていたものも含めてやめるだろう。
場合によっては、俺に対して嫌がらせを仕掛けてくる可能性もあるが、まぁその時はその時で仲村や水沢にすがりついときゃ何とかなるはず。
そして、周りの人間のたまへの中傷も昨日のファミレスでの事を″三人に守られている″という認識から″たまと俺が付き合っていることを知らせている″、という話に変えてしまえば誰かがたまを傷つけるようなことも言わなくなるだろう。
……このあたり、さっきの会話だけだと弱そうだから何とか泉か誰かに頼めないかな。
まぁ、直近はこれで問題解決だろ。
ふぅー、終わり終わり。
「相原!さっきのはどういうこと!?」
と思ったけど終わってなかったね。
このあとはたまにあれこれ話をして、なだめて、説明しなきゃか。
……やっべぇ、逃げてぇ。
毎回だけど、行動してから後悔してしまうんだよなぁ、俺。
「いやほら、そんな怒るなって」
「説明!」
周りから怪しまれないように言葉に気をつけながら返答する。
あくまで付き合っているが、関係をバラした事を責められているというふうに思われるよう言葉を考えて発する。
「いや、みてられなかったんだって!あ、今日は部活もあるだろ。ほら、移動移動!」
「……わかった」
そう言って荷物を持って移動をする。
「ま、まって!私も!」
「あーいや、今はたまと二人で話させて。悪いけどさ」
そう言って、ついてこようとしたみみみにストップをかける。
「え?う、うん。わかった……」
そう言ってみみみは引いてくれたので場所を移してたまと会話をすることにした。
***
校舎から部室に向かうまでの道から少しそれた、人通りの少ない道。
そこから少しそれた旧校舎の裏側。
一応、誰もついてきていないことを確認する。
誰とは言わんが、アイツラには中村と泉を尾行した前科があるからな。
……ヨシ。
「ここなら誰も来ないだろ」
「うん、説明!」
「わかったって。とは言えどこから、話をすればいいのかね」
そう悩んでると、たまから質問をしてくる。
「なんで、あんな嘘をついたの?」
「あんな嘘。俺とたまが付き合ってるって話だよな」
コクリと頷くたま。
どうしてって、そりゃあさぁ。
「いろいろな問題を解決するのにこれが一番だと思ったんだよ。たぶんだけど、たまへの嫌がらせはこれで終わる」
「そういう問題じゃない!あんな事するなんて何も聞いてない!」
「いやまぁ、うん。相談しなかったのは悪かった」
「この嘘、どうするつもりなの?そもそも相原はみんみのことが好きなんでしょ?」
この後かぁ。
そうだよなぁ。
でも、考えはある。
「たまには悪いんだけど、少しの間は俺と付き合っている振りをしてくれよ」
「少しってどれくらい?」
「二学期終わりくらい?いや、もうちょっと短くてもいいかなぁ、秋に部活が終わるあたりとか。終わらせ方も考えてるから」
「終わらせ方?」
そう、終わらせ方。
付き合っているという嘘をいつまでも続けることはできない。
だから、今回の実行前に終わらせる方法も考えておいた。
「つまりこうだ。この前の球技大会でうちのクラスは大活躍。そこではしゃいだ俺は勢いのままにたまに告白をした!」
「されてないけど」
細かいよ!
「告白した、
「私が相原を振って終わるんだ」
当たり前だろ、この状況で俺が振って終わりにするとかありえないだろ。
「人の噂も七十五日というし、その頃になったら誰も気にしてないはず。というわけで落ち着いた頃に俺を振ったことにしてくれればいいから」
「それまでの間はどうするの?」
「申し訳ないけど俺と付き合っている振りを頼む」
「……わたし、嘘つくの苦手なんだけど」
「んー、別に嘘ついてくれってわけじゃないんだよね。今までどおりでいいだろ」
「誰かに相原との関係を聞かれたらどうするの?私、ごまかせる自信無いよ」
あ、それは考えてなかったかも。
根掘り葉掘り聞かれたら、ボロが出るか……?
「う、どうするかな。そういう設定とか必要かな……」
「さっきも言ったけど私、嘘つくのは苦手だよ?というか、私は嘘をつきたくない!」
たまの性格ならそうだよな。
どうするかなぁ……。
いやもう、こうするしかないか……?
たまには、申し訳ないけど。
嘘がつけないなら、1つしかない、かもしれん。
意を決して提案をする
「……じゃあ。一ヶ月の間でいい。たま、別れる前提で俺と付き合ってくれ」
「えっ!?」
「嘘はつけないんだろ?だから、1ヶ月の間俺と付き合ってくれ。それなら、何か聞かれたら本当のことを言えばいい」
「い、意味わかんない!」
まぁ、そうだよな。
急に色々押し付けすぎている気がする。
順番に説明をする。
「勝手なおれの発言からで悪い。1ヶ月後を目安に俺のことをフる前提で、俺と付き合ってほしい」
「なんでそうなるの!」
「例えひと月の間でも、実際に付き合ってしまえば嘘にはならないだろ?誰かに聞かれたとしても、そのまんま答えればいいから」
「ても……!」
これなら、全部クリアだ。
たまの気持ちを無視している、ということさえ除けば。
でも、これを断られたら本格的にどうしようもないぞ。
「た、たのむ!こう、俺を助けるためだと思って!」
「か、仮にそうするにしても、そもそも今日までは何もしてない!球技大会からはもう2週間以上も経ってる!」
「それは、俺がヘタレだったとかで2週間何もなかった、ってことにすればいいから!ほら、嘘はないだろ?」
「う……ほかには……」
「いや、理由探しに必死だな!そ、そんなに嫌か!?」
まぁ、嫌なんだろうなぁ。
たしかに急に別れる前提で付き合ってくれとか言われて困ると思うけど!
でもこれは現状を改善するためにも必要なこととして、何とか飲んでもらいたい。
「私が気にしてるのは……。相原の気持ちはどうなの?」
「え、俺?」
たまの言葉にポカンとして返してしまう。
「相原はみんみのことが好きなんでしょ!なのに、嘘みたいな関係だとしても付き合っているフリをすれば……相原の、みんみへの気持ちをないがしろにすることになる!」
「それは──」
「私のことで二人の関係がおかしくなるのは、嫌だ」
「あー……」
言っていることはもっともで、たまからしたら俺の勝手な嘘のシワ寄せが行っているだけだ。
「私のために、嘘をついてでも助けてくれようとしたのは嬉しいよ。でも、そのために私は友達との関係を、友達同士の関係を壊したくない」
友達同士、か。
たまにとってみみみは親友だろうけど、友達という枠のなかに俺が入っていることに少しだけ嬉しさを感じてしまう。
こんな時じゃなければもっと大げさに喜んでいたかもな。
「それでも、ああするしかないと俺は思った。それこそみみみがたまのことを──今の状況をどれだけ心配していたかも分かるだろ?だから、勝手にやった俺の尻拭いで悪いけど、今回は俺に付き合ってほしい」
……。
たまの反応を待つ。
少しの間をおいて、たまが回答を返す。
「わかった。条件を2つ付けてもいいなら、いいよ」
「条件?」
首を傾げて聞き返す。
「うん。1つは、別れる前提で付き合うってことをみんみとか、何人かには説明をさせて」
「それは、わかった。俺も水沢と友崎には伝えようと思ってたから。でも、あんまり多くには言わないでほしい。人の口に戸は建てられないから。これが嘘でしたみたいにバレたら、それこそもうどうなるかわかったもんじゃない」
例えば竹井とかに話そうものなら即バレちまう。
……友崎も正直問いただされるとボロを出しそうだが、まぁ人柄としては信用できるし大丈夫だろう。
「うん。みんみと、葵にだけ話すね」
「わかった。おれも水沢と友崎にだけ話すよ。二人にも絶対口外するなって釘は刺しておく」
「わかった」
1つ目は以上か。
もっともな内容だったな。
「それで、2つ目は?」
「ふ、2つ目は……」
「……?」
言い淀むたまを見つめながら続きを待つ。
「き、キスとか、そういうことは禁止!付き合ってると言っても、形だけだから!」
そう、顔を真っ赤にしながら言い放った。
「は、はははは!そ、そりゃそうだよな!了解!はははっ!」
「何笑ってるの!だ、大事なことでしょ!」
「ははは、たしかにそうだわ!ははは」
「あー、もう!笑いすぎ!」
膝に手をついて笑う俺に対して、たまは怒ったように背中をバシンと叩いた。
それはみみみのマネか?
みみみにはよく叩かれるが、たまに叩かれたのはなかなか新鮮かもしれん。
絶妙に痛くはない威力でなんとなくみみみとの性格の違いを実感する。
「はは、あぁ、けどわかったよ。とりあえず話は以上でいいよな?あ、みみみと日南への説明は任せていいのか?水沢と友崎の方は俺が話しておくし」
「うん、わかった。それでお願い」
「おう。──そうだ、たま」
「ん?」
成行きでも形は大事だと思った。
嘘を仮初めの本当にするなら、それなりの形が必要だ。
右手をたまに差し出す。
「改めて。期間は短い間かもしれないけど、その間だけでも。俺と付き合ってくれ」
「!……相原はズルいよね、そういうところ」
「ズルい?むしろ半端にしたくないって気持ちがあるから、ちゃんと口にしとこうと思ったんだけど」
「ふぅーん?」
「で、手は取ってくれないワケ?」
ジト目でこっちを見てくるたま。
なんだその目は。
俺は誤魔化すようにまだ握られない手をぷらぷらと揺らす。
「もしも相原との関係を人に聞かれたら、ありのまま答えるんだよね?」
「ん?そうだな。別れる前提ってことは隠してだけど」
「……じゃあ、もし周りから『相原からなんて告白されたの?』って聞かれたら、私はなんて答えばいいの?」
「え?」
「球技大会の日に相原から告白されたって設定なんだよね? 話を聞かれた時に嘘をつかないように、『正しい告白のセリフ』が必要だよね?」
からかうように笑いながらも少し顔の赤いたま。
その発言の内容を理解してから、俺の顔も赤くなっていくことを自覚する。
たぶん俺の羞恥心を煽るための、たまのささやかな仕返しなのかもしれない。
「えっと、ちょっとまって。言わなきゃだめか?」
「だめ」
「う……い、今考える……」
くそ、急に言われても特に言葉は思いつかない。
ええい、思ったままでいいだろ!
「えっと、なんだかんだでさ。隣の席で俺のくだらない話を聞いてくれるたまには感謝してるんだ。困った時に相談して助けてもらったり、逆にほっとけないなと思った時には俺になんとかできないかって、色々勝手ながらも動いちゃったりしてさ」
「うん?」
やべ、言ってんだろ。
たまも何言ってんだって顔してる。
「なんというか、一緒にいて素で要られるんだよ。最近は特に俺って、人の前ではカッコよく見せようとか、逆に少し馬鹿な振る舞いをして和ませようとか、正直色々考えはじめてさ」
「長い!」
直球のダメ出しを喰らってしまった。
もうダメだ、俺の頭の中は完全にテンパっていた。
なんかこの状況に既視感があるな……。
俺はよく突発の衝動で動くくせにアドリブは苦手らしい。
ええい、こういうときは 思ったことをそのまま、できるだけ端的に!
「あーもう! 要するに!」
俺は左手で頭をガシガシと掻きむしり、赤くなっているであろう顔でたまを見つめる。
右手を再びたまの方に伸ばし、そのまま言葉を吐き出す。
「たまといるときが1番楽なんだよ!気も遣わないし、いつも俺が馬鹿なことを言ってさ、それをたまが突っ込んで、そんで2人で笑って。それが楽しいんだ。だから、その延長って考えでいい。俺と付き合ってください。――これでどうだ!」
やけくそ気味にそう伝えると、シーンと静まり返る人通りの少ない道。
たまの様子を伺うと、そこには顔を真っ赤にしているたまの姿があった。
仕返しのつもりで聞いたつもりなのだろうが、意外と照れた、のか?
やめてくれ、そんな反応をされると俺まで小っ恥ずかしくなってくるだろ。
たぶん、俺の顔も真っ赤になっているだろう。
「っ……、そ、それって本音なの?」
「と、当然だろ!告白のセリフが必要って言うから、思ってることをまとめて考えたんだけど」
「ふーん。そういうふうに思ってたんだ……?」
俺は照れを隠すようにいう。
「思ったことをそれっぽく並べた、だけだ!ほら、文句ないなら手を取れって!」
俺がバツの悪さを誤魔化すように差し出した右手をさらに揺らすと、たまはどこか照れくさそうに自分の小さな手を重ねてきた。
パシッと、小さく乾いた音が響く。
恥ずかしさからか、手が触れる体温は暖かい。
「うん。誰かに聞かれたら、今言った通りに答えるから」
「うひぃー、誰にも聞かれませんように。ま、とりあえず一ヶ月よろしく」
「しょうがないから、1ヶ月だけ付き合ってあげる。1ヶ月だけはね」
そう言って握った手を軽く上下に揺らす。
「おう。あ、なんなら1ヶ月と言わずに延長してもいいぞ。なんてな」
「するわけないでしょ!」
そう言ってこの話は終わり、それぞれ部活に向かった。