なんてことだ、大嫌いなキャラに転生してしまった。つまりこの状況は………最高だな。   作:一味違う一味

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第12話

綺堂 薊(きどう あざみ) side

 

 

 

 

 

 

 

 現在、俺が向っているのは『血封の迷宮』で使ったアイテムを買った道具屋だ。

 

 あそこは前世から世話になってる店で、品質やサービスも充実もしてる上、店員の人柄も完璧というダンジョン都市で最も信用できる道具屋である。

 

 実は隠しヒロインの店員は主人公を、たとえルートに入らなくても弟のように可愛がったり、恋愛のアドバイスをしたり、病み(・・)に染まった彼に光を与えてくれたりと八面六臂に尽くしてくれる。そんな素晴らしい人なのだ。

 

 …………まぁ、『病みラビ』ヒロインの宿命として盛大な病みイベントがあるのだが。

 

 

 

「止めだ、止めだ」

 

 

 

 なんで俺は気晴らしの散歩で心を曇らせなくちゃならないんだ。アホらしい。

 

 と、そんな事を考えてる内に店の前に着いた。早く入って店員さんに癒やされよう。俺の事を覚えててくれてると嬉しいのだが。

 

 

 

「ちわー」

 

 

 

 雑な挨拶で入店すると、覚えていてくれたのだろう、店員さんが笑顔で迎えてくれた。

 

 

 

 

「あっ、廃棄油のお客さん。また来てくれたんですね~」

 

 

「お、おう」

 

 

「ふふっ。嬉しいです~」

 

 

 

 覚えられ方はアレだが。

 

 まぁ、贅沢は言うまい。まだ二回目の来店なのに顔を覚えてもらったのだから。

 

 

 

「それで今日は何をお探しですか~? またサービスしますよ~」

 

 

「助かる。今日はタバコを探しに来たんだ」

 

 

「銘柄はどうしますか~?」

 

 

「定番の物を一通り頼む」

 

 

 

 当然だが、前世と同じ銘柄は『病みラビ』に存在しない。今世では初なので、色々試しながら気に入るのを見つけるつもりだ。

 

 『病みラビ』でもタバコは体に害があるものだが、それくらいなら俺の【不死の残滓】で治せる範囲だ。

 

 

 

「少し待っててくださいね~」

 

 

「ああ」

 

 

 

 そう言ってからカウンター奥に引っ込む店員さん。前世と同じくタバコは客の手が届かない場所にあるので、俺には待つ他に出来る事はない。

 

 まぁ、急いでいる訳では無いのだ。ダンジョンに潜る夜まで、のんびり過ごそう。

 

 

 

「どぅ……ょ……」

 

 

「ん?」

 

 

 

 商品棚が影になって見えてなかったが、どうやら俺以外にも客がいるらしい。かなり小声なので断定は出来ないが多分女性だろうか。

 

 『病みラビ』で、この手の思わせ振りな事があると大抵は病みイベントに繋がるのだが、今回のパターンは累計プレイ時間が五千を超える俺の知識にもない場面だ。

 

 

 

「……と、なると気にする程でもないか」

 

 

「どうかしました~?」

 

 

「いや、なんでもない」

 

 

 

 両手にタバコを抱えた店員さんが帰ってきたようだ。

 

 俺の返答に釈然としない雰囲気を出したのも一瞬、すぐに笑顔へ戻りカウンターに持ってきたタバコを並べてくれた。

 

 

 

「右からダンジョン・セブン、ダンジョン・ピース、ダンジョン・スピリットで……」

 

 

 

 銘柄のネーミングセンスが絶望的なのに目を瞑り、持ってきてもらった十種の説明をしてもらった俺は少し迷った後、全部購入することにした。

 

 元々、好みの銘柄が見つかっても定番物は一通り吸うつもりだったのだ。軽く特徴を聞いたところ、前世のタバコの感覚で吸えそうな物ばかりだったし、不都合はないだろう。

 

 

 

「わぁ。ありがとうございます。沢山買ってくれたので、一箱おまけしちゃいます」

 

 

「昨日から悪いな」

 

 

「いえいえ~また来てくださいね~」

 

 

「ああ、また来るよ」

 

 

 

 店員さんの優しさに触れて、メンタルも大分回復できた。そろそ来紅に会っても大丈夫だろう。

 

 そう思って店の出入り口へ目を向けると人影がある。どうやら、もう一人の客も帰るところだったらしい。

 

 フラフラと幽鬼のように進む女性が心配になり、顔を覗くとそこには見知った顔があった。

 

 

 

「えーと、大丈夫か?」

 

 

「あっ、昨日の人……だいじょばないです……」

 

 

 

 そこには、ちょうど会いに行こうと思っていた雁野 来紅(かりの らいく)の姿があった。

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