なんてことだ、大嫌いなキャラに転生してしまった。つまりこの状況は………最高だな。   作:一味違う一味

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第35話

雁野 来紅(かりの らいく) side

 

 

 

 

 

 

 

「師匠、敵はどこにいるんですか?」

 

 

 

 武器庫を出てからメリッサに連れられていると、そう言えば聞けてなかった要件を思い出し質問する。

 

 道中で修行をつけてくれるという話だったが、手頃な敵がいないため暇だったのもある。

 

 

 

「ああ、工房だよ。この館を制御するにはソコにいるのが一番、効率がいいからね」

 

 

「ほえ~」

 

 

 

 なんでも、この館は住処と魔法の研究所を兼ねているがメインは魔法研究らしい。

 

 また、館ではメリッサの研究の一環として実験的に魔法を付与する事が多く、館の魔法関連は全て工房で操作出来るようになっている。

 

 館の造りも工房を中心に造られており、トラップやモンスター、果ては敷地(しきち)全体を特殊な次元へ移動させる結界も、そこで制御されているらしい。

 

 なんとも魔女らしい設計である。

 

 軽い座学をしてくれたメリッサ曰く、倫理に唾を吐き、己が欲望を至上とするのが魔女だと言うのだから。

 

 それはさて置き、

 

 

 

「ええっ!? ここって露店じゃないんですか?」

 

 

「は? 露店? なんの事だい?」

 

 

 

 そう、来紅にとってこの場所は未だ露店市場の一店舗の認識だったのだ。モンスターに襲われ内臓を落とそうと、初対面の相手に腕を喰われようと、ずっとそう思っていたのだ。

 

 メリッサからすれば瞠目ものである。

 

 

 なにせ彼女からすれば、現在の館の入口がどこと繋がってるかなど知る由もなく、知っていたとしても露店などと言う答えが聞けるとは思わないのだから。

 

 

 

「ふむ、詳しく話を聞いた方が良さそうだね」

 

 

 

 しかし、目の前にいる何も考えてなさそうな弟子は、ついさっき自分がベタ褒めした相手なのだ。表情通りに何も考えていないなど一切考えなかった。

 

 もしや自分の思い至らなかった壮大な理由があるかもしれないと思い、真剣な表情で話を促す。

 

 

 

「結婚を前提に仲良くしてる親友と露店市場でデートしてる時に、変わったお店に入ったら館に連れて来られました!」

 

 

「……」

 

 

 

 まぁ、壮大な理由など何もないのだが。

 

 頭痛を通り越し、目眩までしてきたメリッサは必死に考える。

 

 どうすれば弟子のやる気を削がず、物事を深く考えるように言い含められるかを。

 

 これまで数多くの難題を持ち前の明晰な頭脳で解決してきたメリッサだ。今回も乗り切ってみせると意気込み、あらゆる可能性を模索する。数百年の経験を総動員して。

 

 

 

「…………」

 

 

「……あの、師匠?」

 

 

 

 何も思い付かなかった。

 

 当然である。弟子を取ったのは初めてであり、魔女として倫理に唾を吐き続けた彼女に人材育成のノウハウなど存在しないのだから。

 

 類は友を呼び、ボッチはボッチを呼ぶ。コミュ障が集まっても得意分野でしか話は弾まないものである。

 

 しかし、指導しないという選択肢はない。故に色々と諦めたメリッサは普通に釘を刺す事にした。

 

 来紅も求道者たる魔女の端くれなのだ。他人に何を言われても好きな事は諦めないだろうと思って。

 

 

 

「あっ、もっと詳しい説明が必要でしたか? えっと(あざみ)くんの素敵なところは───」

 

 

「このバカ弟子!」

 

 

「あうっ」

 

 

 

 恋する乙女の瞳で検討違いな話をしようとした弟子を止める。無論、グーで。

 

 それに、のめり込むほど熱中してる事を話させると尋常ではなく長くなるものだ。数少ない魔女(同胞)との会話で散々経験済みである。

 

 急いで会話の軌道修正を行うと、来紅を正座させた。

 

 

 

「あんたねぇ、いくらんでも気づくのが遅すぎやしないかい? いや、それ以前に───(ガミガミ)」

 

 

「ううっ…… すみません」

 

 

 

 メリッサの小言を聞きながら来紅は思う。

 

 一応、自分でも薄々変だとは思っていたのだ、ここが普通ではないかもしれないと。

 

 しかし、メリッサの事情を聞いたとき館を乗っ取られたせいで店を開けなくなっただけで普段は店を開いていると思っていた。 

 

 なんなら武器庫にあった物は商品だと勘違いしていたし、全てが終わったら入口の小屋から館まで長過ぎると文句を言おうと決めていたほどだ。

 

 一通り小言を言い終えたメリッサは、内容が響いてるんだか、響いてないんだか分からない弟子へ言い放つ。

 

 

「お嬢ちゃん、あんたは魔女に関しては天才といっていいほどかも知れないよ」

 

 

「はぁ、ありがとうございます?」

 

 

 

 唐突に褒められた来紅がよく分からず頭の中に「?」を浮かべながら、取り()えず礼を言う。フォローのつもりだろうか?

 

 しかし、まだ続きがあるらしく、メリッサが「でもね」と話を続けた。

 

 

 

「バカと天才は紙一重ってのは、こういう事じゃないと思うんだ。あんたはどう思う?」

 

 

「はい……すみません……」

 

 

「まったく、先が思いやられるね」

 

 

 

 魔女のような異端者にとって、常識がないというのはプラスに働く事も多い。倫理という壁をぶち抜き、最短距離で理想を遂げやすいのだから。

 

 でも、これは違うだろう。

 

 メリッサは、シュンと落ち込んでいる可愛い(おバカな)弟子を、どう育成したものかと頭を悩ませた。




寝てはいけないさん、Rounaさん高評価ありがとうございました(≧▽≦)
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