なんてことだ、大嫌いなキャラに転生してしまった。つまりこの状況は………最高だな。   作:一味違う一味

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第6話

綺堂 薊(きどう あざみ) side

 

 

 

 

 

 

 

 危機により加速した思考の影響でスローモーションのように迫る赤黒い壁。否、ボスモンスターである『ブラッド・スライム・キング』。

 

 ゲーム知識を参考にすれば耐久性に秀でた俺なら数発攻撃をもらっても問題ない計算だったが、計算の骨子となるゲーム知識が信用出来なくなった今ではとても当てになるものではない。

 

 いや、今それはどうでもいい。今の俺に必要なのはゲーム知識ではなく───

 

 

 

「火力だ!」

 

 

 

 俺を掴んでいた触手ごと体内に取り込もうとする『ブラッド・スライム・キング』へ塩を入れていた袋ごとぶつける。対ブラッド・スライム系統には最悪の相性と言える武器を。

 

 帰り道を考えれば愚策中の愚策だが、後先なんて考えられる状況ではない。

 

 

 

「ギュガァァァァァァッ」

 

 

 

 道中のスライムとは違って汚い叫びを上げながら、のた打ち回る『ブラッド・スライム・キング』を尻目に触手から足を引き抜く。

 

 

 

「あ、ぎぃ……」

 

 

 

 足は体液の強酸で触手と癒着しかけており、あまりの激痛に呻き声を漏らす。

 

 ふざけるなよ。開幕から清めの塩:下(特攻アイテム)を使い切ったのに敵は大ダメージを負ったとはいえ余力はありそうだ。

 

 当初の予定では手持ちの塩で充分倒せる計算だったと言うのに。とんだ誤算である。

 

 道具屋で買ったポーションで傷を癒しながら内心で吐き捨てた。

 

 

 

「オオォォォォォォッ」

 

 

 

 あっ、こいつブチ切れてやがる。しかも、のたうちながらちゃっかり移動したのだろう、俺を引き摺り込んだ入口に陣取ってだ。

 

 こうなると、もはや倒す他に道はない。狭い入口は『ブラッド・キング・スライム』から溶け出した粘液で塞がれてしまっている。塩がない現状、戦いながら入口をどうにかするのは不可能に近いのだから。

 

 

 

「ちっ」

 

 

 

 どうやら向こうも戦闘態勢を整えていたらしい。最初より細くなった触手を転がっていた時とは比べ物にならないほど遅い速度で伸ばしてきたので転がりながら避ける。

 

 遅くなったと言っても俺と同速程度であり、ゲーム時代にはなかった酸や触手による攻撃は油断できない。

 

 しかし、弱っていることは確実であり倒すチャンスなのは間違いないだろう。なに、弱点が山程あるコイツらに有効な攻撃手段は塩だけではないのだから。

 

 

 

「こんな風に、なっ!」

 

 

 

 掛け声と共にポーションを投げつける。敵は避けようと藻掻くも、塩で不格好に縮んだ体では回避が間に合わずポーションに当たる。

 

 

 

「アアァァァァッ」

 

 

 

 再び響く絶叫。それは怒りすら感じられないほど痛々しい叫びだった。それはそうだ、ヤツからすれば骨が見えるような傷口に塩を塗り込まれたようなものだ。

 

 俺が投げたのは『清めの塩:下』と一緒に道具屋で買ったポーションで特別な効果がある訳ではない。

 

 だが、ポーションには『ブラッド・スライム』系統の弱点である神聖属性が含まれており、塩ほどてはないにせよ大ダメージを見込める。

 

 

 

「怨むなら親を怨みな」

 

 

 

 ゲーム内での親と設定担当(ゲーム外の親)をな。

 

 『ブラッド・スライム』系統の弱点の多さは、その特殊な出自故だ。怨みなら是非ともそちらにしてほしい。俺の怨敵同士で潰し合ってくれるなら、これ程いい事はない。

 

 

 

「それに、今のコイツに怨まれても何とも思わないがな」

 

 

 

 ボスとは言え、たかがモンスター一匹に怨まれた程度でブレるような安い覚悟は決めてない。ハッピーエンド(理想)の実現は、死んでも叶えてみせよう。前世でも、そうしたように。

 

 

 

 

 俺が思っていた以上にポーションが効いたのかジリジリと後退を始めた『ブラッド・スライム・キング』。そこらの人間より余程感情表現をする為、戦いやすい。

 

 一応、これまでの失敗を反省し俺の想像以上に知能があり弱ったフリをしていた場合を想定して、下手な突撃は行わないが。

 

 それでも充分だ。敵は、ただでさえ弱っているのに戦意まで挫けているのだから。

 

 それから(しばら)くヒットアンドアウェイを繰り返していると、とうとう俺がポーションを投げる射程距離にも触手が届かなくなり、(つい)には痙攣(けいれん)するのみとなった。

 

 

 

「流石に死んだか?」

 

 

 

 一本だけ自分で頭から被った後、念のためトドメとして残りのポーションを全てぶつけた俺は、このダンジョン最後の仕掛けを探した。

 

 本日通算三度目の隠し扉探し。

 

 大した距離もないのにいい加減にしろと言いたくなる頻度(ひんど)だが、それにはちゃんとした理由がある。

 

 このダンジョンの名前は『血封の迷宮』。その名の通り血に(まつ)わる化け物を封印しているのだ。そしてファンタジーで定番の、そんな化け物と言えば……

 

 

 

「おっ、あったか」

 

 

 

 やっとの思いで見つけたスイッチ。

 

 達成感と共にスイッチを押すも、仕掛けが起動しない。もしやと思い、引っ張ったり捻ったりもしたが、やはり反応はなかった。

 

 まさかここでも油が必要だったか。どうしよう、使い切った後なんだが……

 

 そう嘆きそうになる直前、一つの可能性に思い至る。

 

 最後の隠し扉が開く条件は二つある。一つはスイッチを押すことだ。

 

 そして二つ目は───

 

 

 

「オォォォォッ」

 

 

 

 ボスを倒すことだ(・・・・・・・・)

 

 背後から全てを絞り出すような雄叫びが聞こえた。急いで振り返れば、どこにそんな力が残っていたのかと疑いたくなる大きな跳躍をしながら。

 

 

 

のしかかり(スタンプ)か!」

 

 

 

 ここに来て初めてゲームと同じ技を使ってた。よりにもよって一番ダメージが大きい技を。

 

 周囲を見れば躱すのは困難な地形であり、手持ちのポーション(武器)は底をつきた。

 

 体積が半分以下になってる今ならば、即死はしないかもしれない。しかし、敵に動ける余力があった場合、格ゲーの如き嵌め殺しに合う可能性は非常に高いだろう。

 

 何か生き延びる手段はないか。死にもの狂いで思考を回転させると一つだけ見つかった。

 

 それは俺が綺堂薊である証にして、『病みラビ(この世)』全ての敵に勝てる可能性を秘めた切り札。

 

 改めて思う。この体でよかったと。

 

 そうして俺はその名を告げる。前世では憎悪の対象であり、今世では希望の象徴を。

 

 

 

「俺より堕ちろ【禍福逆転】」

 

 

 

 スキルの発動を確信すると同時に、俺の上半身は『ブラッド・スライム・キング』に包まれた。

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