アニメのどっか。仲良しスペスズ

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スズカさんのメンコ!!!!!!!!

 耳カバー、あるいはメンコ。

 ウマ娘特有の形状のふさふさな耳は、かなり自由に動かせる上に感度がいい。その感度の良さが祟って、煩わしく思うウマ娘は少なくないのだ。だから、そういうウマ娘のために耳をすっぽり覆うメンコができるのは自然の流れだと思う。

 かくいう、私と寮の部屋を共にしているスズカさんも、普段は若緑色のメンコで耳を覆っている。

 日がな一日、お風呂に入るとき、寝るとき以外は片時も取り外すことはなく、冬の寒い日はもちろんの事、夏の暑苦しい日も、スズカさんの耳は緑色のメンコに守られている。

 その事実にふと気づいた時、私――スペシャルウィークは、つい魔が刺してしまった。

 

「こんにち〜……」

 

 お昼を食べて、スピカの部室の戸を開いて挨拶…… といったところで、私は小さな息の音をとらえた。

 聞き馴染みのある、静かで癒される寝息。ちょっと目線をずらして、いつもミーティングのときにあの人が座っている、ホワイトボードに一番近い先頭の席。

 スズカさんは走ることに関しては行動が素早い。だから、大抵部室の戸を開くのはスズカさんの役目になる。

 だから、そこにスズカさんが座っているのには全く驚かなくて、でも、まさか項垂れてすよすよと眠ってしまっているとは思わなかった。昨日帰りが遅かったのが影響したのだろうか。

 

「……」

 

 抜き足差し足近寄ると、レースのカーテンみたいになった栗毛の前髪の下に、長いまつ毛が見えた。膝を折って下から覗き込むようにすると、目の前いっぱいにスズカさんの緩み切った顔が広がった。

 口角が上がるのを禁じ得ない。

 あと、ちょっとこそばゆい感じ。

 薄く色づいた下唇が動いて――

 

「ん……」

「あっ……!!!」

 

 口からまろびでた心臓を押し込むかのように口を押さえて、私はハッと顔を上げた。もちろん心臓は飛び出ていなくて、代わりに胸の中で忙しなく脈うってるのがよくわかった。

 

「……」

 

 揺れる視界にスズカさんを収め続けた。息を殺して、背中を掻きむしりたくなるのを我慢して、火照る身体を必死に止めた。

 いや、別にスズカさんの寝顔を見たことがないわけじゃないのに。スズカさんはそのことを知ってるし、怒られなかったし。なんで後ろめたく思う必要があるのか。

 と、そんなふうに言い訳を頭の中で作り続けているうちに、ふと、私は妙に静かなことに気づいた。

 

「……」

「……すぅ。……すぅ」

 

 ひらり、とスズカさんの緑色の耳が揺れて、艶やかな毛並みが流れる頭が呼吸に合わせて揺れて。

 私は勤めてゆっくり息を吐き出した。いや、悪いことはしていないはずなのだけど。なんだか、安堵した。

 ひらり、また、スズカさんの耳が揺れる。視界をくすぐるように動くスズカさんの耳。

 

「……」

 

 熱を持った気持ちが静まってきて、冷えた頭にふと飛び込んできたスズカさんの耳。

 そういえば、昨日洗濯し忘れたとか言って、一日洗濯してないメンコをつけてたっけ。

 ――そのときに、脳裏によぎったのがメンコの一般常識だ。

 

「……ふぅ〜」

 

 尻尾から脊髄を伝って頭に伝えられた衝動。私はそれを一旦落ち着かせて――

 

 否、すでに手が動いてた。

 

「……」

 

 思わずスズカさんの頭に伸ばした手。それは、たとえば頭を撫でるとか、そういう目的で伸ばされていないのは明白で――

 明らかに何かを摘もうとしてる指先に、スズカさんの耳が掠めた。

 

「……」

 

 嚥下音がやけに大きく聞こえる。いや、間違いなく起きる。ただでさえ繊細なスズカさんだ。そんなことすれば起きるに決まっている。

 私とスズカさんだけが取り残されているかのように、部室の中は嫌に静まり返っていて、それが余計に私の葛藤を加速させる。

 やるか、やるのか、やっちゃうのか。

 そのとき、また指先がこしょばくなって――

 

「は、はぁっ」

 

 掴んだ。すっぽ抜けた。

 恐る恐る右手に目線を向けると、そこには緑色のメンコがあって、その真下あたりには裸ん坊の耳が垂れていて。

 背筋の粟立ちがおさまらない。やってしまった。

 

「スズカさんの、メンコ……」

 

 気づいたときには、私はそれを顔の前まで持ってきていた。ちょっとごわついていて、右掌に籠った温もりは、明らかに私だけのものではなかった。

 当たり前だ。今までずっとスズカさんの耳を守っていたんだから。

 

「……」

 

 とっくに私の右耳は準備万端で、かつてないほどピンとそりたっていた。たまに切なく震えた。

 なんの準備万端? なんて、理性で最後の抵抗をしてみたけど、それ以上の知的好奇心だった。

 そう。私はただ、スズカさんのつけ古したメンコを身に付けたかっただけなんだ。

 

 ――そっと、針先のような毛並みの自分の耳を探って、私はスズカさんのメンコをそこにかけた。生暖かい感じが先っぽから伝わって、尻尾の奥がキュンキュンする。

 

「ふへっ……」

 

 仮にも女の子の私から出てきた下品なため息に驚いている暇もなく。

 

「……っ!」

 

 私は、メンコの端を持って、一気に下に引いた!

 スズカさんのメンコを、私の右耳に深々とつけてやった。

 スズカさんが左耳につけているものと同じものを、私の右耳につけた。

 スズカさん以外の侵入を許したことのないだろうメンコの中に、私の耳が無遠慮に分け入って奥まで届いてしまった。

 

「……」

 

 今どんな顔をしているのか。想像できない。案外無表情かもしれない。そんなことを考えてる暇がない。

 だって、だって。嬉しい。うれしい、嬉しい。

 いま、私はスズカさんと密着しているのだから――

 

「すぺ、ちゃん?」

「えっっっ」

 

 そんな気持ちが熱暴走して。

 

「あっ……その、えっと。……くさくないですよ! 1日ぐらい洗濯しなくても――」

「スペちゃん!?」


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