一人くらいそういう黒笛がいてもいいよねって話。

※本作は『メイドインアビス 闇を目指した連星』の二次創作小説です。ゲームをクリア後に読むことを強くお勧めします。
※ネタバレばっかです。すみません。

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メイドインアビスのゲームの二次創作なくね?
色々言われてるけど作品ファンとしては結構楽しめたけどなぁ…という想いから生まれた二次創作。

ゲームをやってない方は…こんな小説見てないで買おう!バグは多いけど!


白笛になるのを拒否る黒笛探窟家

『そんな顔するなよ。二人で白笛を目指してたじゃない』

 

『そう、そうだよ。二人で目指してたんだ! 二人で、だ! あたし、あたしはアンタがいない世界で白笛なんて…』

 

『あーあー、聞こえない聞こえない! …どっちにしろ、私はもう助からん。この傷じゃ、な。だから、私は私の意思でそうするよ。お前がどう思おうともな』

 

『嫌だ! やめろ、そんなことしてもあたしは白笛になんてならない!』

 

『私の命を響く石(ユアワース)をどうするかは、お前に任せるよ。でも、お前のためなら、私は奏でられる』

 

『逝くな、だめだ、一緒に帰ろう』

 

『じゃあな────』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んぅ?」

 

 机に突っ伏していた頭が持ち上がる。

 同時に、床に垂れるほどの緑の長髪がさらりと揺れ、光に晒されて煌めく。背景の逆さまになった森と合わせて、美しい光景だった。その髪の一部が涎まみれになっていなければの話だが。

 

「夢か…全く、いつまであたしを苛むんだか。いくら催促されてもねぇ」

 

 首元に下がる黒い笛、その隣にある真っ白な石のようなものを軽く握りながら女性は言う。

 それこそは命を響く石(ユアワース)。遺物としての価値も高いが、それ以上にあるものの素材としての価値がある。

 

「別に白笛にする義務なんてないし?」

 

 白笛。

 それは探窟家たちの頂点であり、憧れであり、目指すべきもの。赤笛や蒼笛ならともかく、月笛や黒笛になるような探窟家は全てが最終的に白笛になることを目指していると言っても過言ではない。

 何故なら、浅い階層で遺物を拾うだけでも十分生計は立てられるからだ。赤笛でも一階層で遺物を集めればそれなりの金額になり、青笛になって二階層に潜れるようになれば尚更。逆に三階層からは危険度が跳ね上がり、装備を整えた熟練の探窟家でも容易に命を落としかねない。アビスの底に憧れていない者にとっては三階層まで行く必要はない。三階層以降に潜る者たちは、アビスの神秘的な光景や秘密、摩訶不思議な遺物を自分自身で見たいという者ばかりで、好きで下を目指している。つまり月笛以上の探窟家は、程度の差はあれど白笛を欲している。基本的には。

 

 例外もあるということだ。

 

 体を起こして伸びを一つ。昨日探索から戻ってレポートを書いていたら、そのまま寝落ちしてしまったらしい。

 監視基地(シーカーキャンプ)に備え付けてある風呂で体を清める。もちろん涎のついていた緑の髪も。汚れが落ち、より一層輝くその長髪を後ろで一纏めにする。

 私室に戻るために中央の部屋を通ると、青笛を下げた子供が駆け寄ってきた。

 

「あ、イクルさん。起きたんですね!」

 

「あー、おはよーマルルク。オーゼンさんは帰ってきた?」

 

「いえ、まだです。でも、予定ではそろそろのはずです!」

 

 イクルと呼ばれた女性は近寄ってきた青い髪の子供、マルルクを撫でる。少し目を細めたマルルクだったが、ハッとしたように一歩下がってイクルの撫でる手から逃れた。

 

「も、もう! 子供扱いしないでください!」

 

「えー? だって子供じゃん。どうせ今しか撫でられないんだからさ〜おいでよ〜」

 

「む〜」

 

 マルルクを揶揄って遊ぶイクルだったが、急にその動きがピタリと止まる。それに気づいたマルルクがイクルの視線の先、つまり自分の後ろを振り返ると。

 

「楽しそうだねぇ、私も混ぜてくれよ」

 

「お師さま!」

 

「オ、オーゼンさん…おかえりなさい」

 

「ああ、ただいま。それで? イクルは私の弟子を捕まえて遊んでるみたいだけど、ずいぶん暇みたいだねぇ?」

 

「あ、いやこれはその…」

 

 マルルクの後ろにはいつの間にか巨大な人間が佇んでいた。マルルクの倍以上はある身長、威圧感が半端ではない。成人女性のイクルと比較しても頭二つ分は下らないだろう。笠の中に隠れているはずの目が光ったようにイクルは感じた。その巨大な人間が相応の大きさの装備を外していくと、中から奇抜な髪型の女性が現れる。

 

 不動郷、動かざるオーゼン。

 

 ここを拠点とする探窟家であり、現在認定されている五人の白笛のうちの一人でもある。今は目と口を真っ黒にして恐ろしい表情をしているが、他の何人かの白笛に会ったことのあるイクルは、オーゼンがまだマトモな方、というより白笛の中で一番まともな人物であることを知っている。

 ただ、怒れば当然怖い。

 

「そんなに暇なら、オースで買い出しでもしてきなよ。ちょうど色々買ってきて欲しいものがあるしねぇ。そうだ、マルルクも色々買ってきてもらいな。優しいイクルが奢ってくれるさ」

 

「え゛」

 

「本当ですか? うわぁ、何にしよう!」

 

「あの、あたしも昨日四階層から戻ってきたばっかなんですけど…」

 

「文句あるのかい?」

 

「いいいいやまさかそんな無いですよはははは!」

 

 これ以上ここにいれば厄介事を増やすだけだと察したイクルは、机の横に置いてあった自分のリュックサック(特大)を引っ掴んだ。

 

「じゃあよろしくねぇ、【門番】のイクル」

 

「そのあだ名はよしてくださいよ…」

 

 オーゼンがマルルクの欲しいものを追加した買い物メモを手渡しつつその背に声をかけるが、イクルは嫌そうに返す。

 イクルは白笛ではないので二つ名は無い。しかし、色々な意味で有名なイクルには黒笛ながらあだ名がいくつかあった。門番はその内の一つで、イクルを表すあだ名の中では二番目に有名だった。

 

「あたしなんて、【弱虫】イクルで十分ですって」

 

 そう呟き、引ったくるようにメモを受け取ったイクルはシーカーキャンプから飛び出して行った。

 イクルの最後の言葉に、マルルクは心配そうな表情になる。それを見て顔を元に戻したオーゼンは、イクルの言葉を繰り返した。

 

「弱虫、ねぇ」

 

「お師さま…」

 

「お前が本当に弱虫なら、三年前のアレでオースは壊滅してるだろうよ」

 

 オーゼンは三年前に起きた、イクルが【門番】と呼ばれるようになった災害を思い出す。マルルクも同時に思い起こし、当時の惨状を脳裏に描いて青ざめた。

 最も、イクルがやけっぱちのような言動を取るようになった原因はそこではない。そのさらに一年前に起きた出来事に起因している。

 

「イクルさん、やっぱりまだ…?」

 

「割り切れてはいないだろうねぇ。むしろ割り切れてたらあんな風に拗らせてないよ。…あの子じゃなくて、イクルが死んでたらこうなってはなかったんだろうが…」

 

 ままならないねぇ、とオーゼンは下層への道がある方を眺めながら呟いた。

 四年前、当時から黒笛だったイクルは、親友と二人で五階層・なきがらの海へ潜った。

 そして。

 

 

 帰ってきたのは、イクルだけだった。

 

 

 探窟家にはありふれた、どこででも耳にするようなことだ。

 しかし、当事者にしてみたら人生が変わってしまうほどの悲劇だった。

 

 ただそれだけのことだ。

 

 

 ────────────────────────

 

「つかまって!」

 

 崖から落ちかけているアキに、ティアレが手を伸ばす。その腕は何とかアキに届き、落下を防いだ。

 しかし、ティアレとアキの体格は同程度であり、ティアレの力だけではアキを崖から引っ張り上げることができない。

 

「ティアレ、頑張って! すぐ行くから!!」

 

 ティアレの後方からドロテアの声が聞こえる。走ってこちらに来ようとしているが、ティアレとアキを繋ぐ手はギリギリの状態であり、いつ離れてしまっても不思議ではなかった。

 必死にティアレの手をつかむアキは、引き伸ばされる意識の中で、どうしてこうなってしまったのだろうと思っていた。

 

 朝の時点では、初めての探窟にワクワクし、希望で胸が一杯だった。

 ティアレ、ドロテア、ラウル、そしてアキ。

 同期とも言える四人で、大冒険をしていくのだと。誰も見たことのないような景色を、神秘を、不思議を求めてこの大穴に向かうのだと、そう思っていた。

 

 そうして始まった探索。しかし、蓋を開けてみればこのザマだった。

 

『落ちる…誰か、助けてくれ…! うわああああああ!!!』

 

 ラウルが、落ちた。それもアキの目の前で。

 もちろんアキは、崖にしがみつくラウルに向かって必死に手を伸ばした。全力で走って、その手を掴むために半ば飛び込むように。

 しかしそれも報われず、伸ばされた手はアキをすり抜け、ラウルの体は奈落の底へと落下した。

 

 そして今度は、ラウルを助けるために伸びた手に向かって飛び込んだアキが、崖から落ちようとしていた。

 

 ティアレの救援は間に合い、手を掴むことには成功している。しかし、それでもまだ首の皮一枚の状態。助かったとは言い難かった。

 アキの生存本能が叫ぶ。このまま全力で指に力を入れろと。そうすればドロテアが間に合うかも知れない。

 アキの冷静な部分が言う。おそらく間に合わない。このままではティアレを巻き込んで落ちてしまう。一人でも助かるために、手を離せ。

 どうすればいい。

 

 その時アキの脳裏をよぎったのは、落ちるラウルの姿だった。

 アキは間に合わなかった。しかし、ティアレは間に合った。運もあるが、ティアレの優れた身体能力による部分が大きい。

 

 そんな優秀なティアレを巻き込んで死ぬのか? 

 

「アキ?!」

 

 ティアレが叫ぶ。アキが掴む手から力を抜いたのだ。

 当然、片方から力が抜ければもう片方の負担は増大する。そしていくらティアレが身体能力に優れるとはいえ、元々ギリギリの状態だったものを維持できるはずもなかった。

 

 ずるりと手がすり抜ける。

 目を見開き、悲痛な表情のティアレがアキに手を伸ばす。

 

 アキはこれでよかったのだと思いながら、それでも悔しげな顔をし、浮遊感に身を任せて雲海へと落ちていった。

 

 

 

 

「アキ…」

 

「ティアレ、アキは?!」

 

 崖に辿り着いたドロテアの叫びに、ティアレは首を横に振る。

 救えなかった。

 ティアレの頭を占めていたのは、アキの最期の顔。悔しげな、しかしどこか安堵したような。確かに、笑っているのが見えたのだ。

 

「アキ、どうして…」

 

 ティアレにも分かっていた。おそらくドロテアの助けは間に合わなかっただろうと。

 ただ、それでもアキに諦めて欲しくなかった。

 いつ終わるとも知れない自身を案じる必要などなかったのだと、声を大にして言いたかった。それも、もう叶わないが。

 

 打ちひしがれたティアレは四つん這いの状態で俯いていた。しかし、ふと、ドロテアの反応がないことに気付いて顔を上げる。

 ドロテアを見ると、崖の方を指差し、これ以上ないほど動揺している。

 

「アレ、なに…?!」

 

 ティアレが崖を振り向くと、そこには確かに「何か」があった。

 

 崖を掴む、複数の手。しかしその手の指の数は三本しかなく、明らかに人間のものではない。

 色もおかしい。肌色や手袋の色ではなく、例えるなら肉そのもの。悍ましいほどに鮮やかなピンク色だった。

 そもそも、数が異常だ。二本どころではなく、同じ見た目の手が少なくとも五本は崖の淵を掴んでいる。

 

 遭遇したことのない状況に、ティアレとドロテアの動きが止まる。逃げることも、攻撃することもできなかった。

 

 そうしているうちに、複数の腕が、その下に繋がっているものを崖の上に持ち上げようとしていた。崖の縁を掴んでいたものが段々と縁ではなくもっとこちら側に侵食してくる。さらに、新しい腕が奥からまた這い出てきた。

 

 固唾を飲んでそれを見つめることしかできない二人の前に、ついにソレが姿を現した。

 

 

 

 

 

 腕に首根っこを掴まれているアキとラウルが。

 

 

 

 

 

「へ…?」

「は…?」

 

 状況が分からず、再び混乱の極地に陥る二人に呑気な声が降り注ぐ。

 

「お届けもんで〜す。お仲間で合ってるよね?」

 

 掴まれて浮いた状態の二人の、そのさらに奥。ティアレたちとは明らかに装備の質が違う女性が、大量の『異形の腕』を背中の特大リュックから生やして浮いていた。

 その女性は緑の長髪を風に靡かせながら移動し、掴んでいた二人と自身を地面に下ろす。

 

 アビスの底に落ちていったはずのアキとラウルを捕まえていたのは、二層から買い物のためにオースに上がる途中のイクルだった。

 

 

 ────────────────────────

 

「「ありがとうございました!!!」」

 

「いいっていいって。頑張れよ〜『鈴付き』の諸君。立派な探窟家になるんだぞ〜」

 

 四人がイクルに礼をするが、恩に着せることもなくイクルはオースの中へと去っていった。

 アキとラウルは急な上方向の移動により上昇負荷がかかり、目や鼻から血を流していたが、概ね無事と言って良かった。

 イクルはそんな二人の分の荷物を持ち、二人自体も『腕』で持ち、尚且つ帰り道での敵対的な原生生物の駆除までやってくれた。

 

 おかげで事故があったにもかかわらず、十分な量の遺物を持ち帰ることすらできていた。

 

 長髪を揺らしながら去っていくイクルの後ろ姿を見て、ティアレが呟く。

 

「あれが、最強の黒笛、イクル…」

 

「ティアレ、知ってるの?」

 

 普段無口なアキだが、この時は流石に好奇心が勝ったのか言葉に出す。オースに来たばかりのアキは、探窟家事情に明るくない。ティアレもそれは同じだが、彼の場合は事前に色々なことを調べていた。その中に、イクルの情報もあったというだけだ。

 

「うん、ちょっとね。彼女の名前はイクル。アビスに潜る人間の中でも上位に位置する、黒笛の探窟家だよ。それで、普通の黒笛は二つ名なんて付かないんだけど…彼女は色々と有名で、複数の二つ名未満、あだ名が付いているんだ」

 

「あたしも聞いたことある。確か、【長腕】とか、【門番】とか言われてるよね?」

 

「おれも少しはあるぜ。【運び屋】とか、後は…【弱虫】、だったっけ?」

 

「【弱虫】…?」

 

 ラウルの言葉に、アキは首を傾げる。探窟家の持つ笛は色によってランク分けされているが、イクルが持つのは黒笛。最上位である白笛の一歩手前であり、オースでは達人の探窟家として扱われる。

 それと【弱虫】という言葉がいまいち結び付かなかった。

 顔に出ていたのか、アキの方を見たティアレが説明を続ける。

 

「イクルさんは若くして色んな成果を上げてるから、やっかみで言われているという面もあるんだけど…これに関して、ちょっと興味深い噂もあるんだよね」

 

「噂ってなんだ?」

 

「イクルさんは、白笛になる資格を持っているのに、それを断っているって噂があるんだ」

 

 しかも本人はそれを否定していない、とティアレが続ける。

 アキはそれを聞いて、人生で一番驚いたかも知れないと思うほどの衝撃を受けた。

 アキやティアレ、ラウルの目標である白笛。いや、三人だけでなくアビスに潜る多くの探窟家が目指すものだ。

 

「断っている理由は分からないけど、周りの人間が勝手に、死ぬのが怖いから、ラストダイブしたくないから白笛にならないって言ってるんだよ」

 

 アキはそれを聞いて、直感的に『違う』と思った。

 イクルとは少し話しただけで、その人間性を知っているとは言えない。しかし、その少しの会話だけでも分かることはある。

 アキが運ばれているときに、ふと目に入ったイクルの笛。その横に、笛とは別の白い石が見えた。

 

『これ? いいでしょ。あげないよ〜?』

 

 アキの視線から察したのか、イクルはその不思議な形をした白い石を軽く握り込んだ。

 そのとき、イクルの顔は笑っているように見えたが、目は笑っていなかった。

 

(多分、あの石だ。イクルさんが大事にしてるのは)

 

 アキはその石の価値を知らない。しかし、イクルがその石を失うこと、いや傷つくことすら恐れているのは分かった。

 イクルが後生大事に抱えている白い石、その詳しい情報をアキが知るのは、もう少し先の話だ。

 

 

 

 

「あいつを、白笛に加工? そんなこと、させる訳ない。誰にも触れさせない、傷つけさせない。あいつは、あたしのものだ」

 

 

 

 




続くかは未定

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