──メジロアルダンの場合──
「こんにちは、トレーナーさん」
「やあ、こんにちは。今日はレース映像を見て戦略を勉強するトレーニングだよ」
「了解しました」
「じゃ、まずは過去のレース映像をウマチューブで見てみよう」
トレーナーさんがパソコンでゴーグルを開く。マウスが検索窓の上を通った瞬間、ズラーッと履歴が映し出される。
その中に「指輪 おすすめ」という項目があったのを見かけた。
少なくとも今までトレーナーさんが「そういったもの」を調べたことはありませんでした、つまりは「そういうこと」を期待しても良いのですかね?……いや、私は別に……トレーナーさんがその気なら喜んでお受けいたしますが……流石に時期的に早すぎるというか……少し気後れしてしまいます。
「フフフッ」
「? どうかした?」
「いえ、何でもないです♪」
まさかトレーナーさんがそこまで積極的な人であるとは思いませんでした。……それにしても指輪、ですか……もう少し隠す努力をして欲しいものですが、ここは敢えて何も言わないようにしましょう。
「じゃ、再生するぞ」
「はい」
映像が流れ始める。パソコンの小さな画面を共有しているため、トレーナーさんと距離が近くなる。
たまに、トレーナーさんの右手と、私の左手が触れ合う。
私は敢えて「薬指」をトレーナーさんに近づける。
「あ、ごめんアルダン、少し近かったかな?」
「いえ、大丈夫ですよ」
「そう?ならいいけど……」
しばらくすると映像は終わりました。正直あまり頭に入っていませんが、そんなことは今は些細なことです。
「すいませーんお届け物でーす」
突如としてトレーナー室の外から声がかかる。
まさかあの「指輪」!?
……い、いえ。私が落ち着かないとトレーナーさんも思いをしっかりと伝えられない。落ち着くのよ……
「あー頼んでいたやつだ。アルダン、少しいいか?」
「……はい」
真剣な眼差してトレーナーさんをみる。ここまで気持ちが高揚するのはレース以来です。
「渡したいものがある」
「……はい」
一歩、トレーナーさんに近づく。
「これを受け取ってくれ。…………【スピードが上がる指輪】だ」
「……はい、喜んで────ちょっとまってください?」
「ん?」
「【スピードが上がる指輪】ですか?」
「そうだけど?最近ネットで見つけてね。しっかりと科学的根拠に基づいているから安心だよ」
「……ト」
「ん?」
「トレーナーさんのバカ〜!」
どうやら期待した私の負けだったみたいです……
──ジェンティルドンナの場合──
「ごめん、ジェンティル。俺のパソコンに入っている【練習53】っていうファイルを俺のメールに送ってくれない?」
「わかりましたわ」
私がたまたまトレーナーのパソコンの近くにいたことで、そんなお願いをされた。
「……えっと……?これかしら?」
ファイルをメールで送信する。
2秒後にピロン、と電子音がトレーナーのスマホから出る。
「ありがとう」
「いえ、お礼には及びませんわ」
ついでに私はゴーグルの検索履歴を拝見する。決してやましい気持ちなどなく、ただ「トレーナーが【聖職者】として変な検索」をかけていないか調べるだけです。大丈夫、きっとあの人ならそんな真似をしないはず……
「【指輪 おすすめ】……?」
不思議な検索履歴を見つけた。このパソコンは一応業務用となっている。つまりそのパソコンでこれをわざわざ調べるということはなにか意味があるはず……
「まさか私が見るのを知って……!?」
全身の血の気が引く感覚を覚える。
「あ、もしかして、見ちゃった……?」
後ろで気まずそうにトレーナーが画面を覗き込む。
「えっと……その……トレーナー」
「君に渡したいものがあるんだ」
「え……?」
「それは……」
「……」
「この【力を鍛えられる指輪】だ!」
「はい?」
「これを使えばさらに君のパワーを高めることができるぞ!」
「そ……そうですわね」
がっかりというか、なんとも言えない感情がこみ上げる。
「……」
いっそのこと【強行突破】してしまおうかしら?
「はい、使ってみて!」
「ありがとう……フッ」
リングを一瞬にして吹き飛ばす。
「ええー!?」
トレーナーが驚きの声を上げる。
「最初からこうすればよかったのですわ」
「じぇ、ジェンティル?何を言って……?」
「最初から、私の【力】をもってすれば思い通りにすることも可能……!」
「えっと……?」
「さあ、トレーナー。私の【力】から逃げて見せて頂戴?」