「22m級多数」
「数は29」
「着地まで最速7秒!! 来ます!!!」
空から女の子が降ってくる。
こんな戦いを、いつまで続ければいいのだろうか。
終わらなければいいと思うのは、私に道徳心が無いからだろうか。
29。歳の話ではない。敵の数の話。私は、今回も勝てるだろうか。
ふと匂いがした。煙草が好きだった先輩を思い出す。この薄気味悪い人形の中にあの人の匂いが残っていたら、なんて愛しいことだろう。
接敵。一番近いのと格闘を始める。弱い。相手は少女でこちらは猫、同じ大きさなら負ける道理はない。爪で腹を裂く。倒れた。次。二体目。腹を擦るようにして殴る。殴る。殴る。殴る。倒れた。次。
あの人の好きな銘柄はなんだっけ。思い出せない。吸い過ぎだと何度説教したんだっけ。
飛びついて、投げて、踏んで、力を込めて、折って。折って。作業だ。倒す。死なない程度に動けなくする。化け物から人に戻すのは妖精の仕事だ。人に戻った少女の身体を治すのは病院の仕事だ。昨日まで働いていたのに気づいたら巨大な少女になって街を壊していたことを知ってしまった人の心を治すのも病院の仕事だ。
私じゃない。私はこの化け物を倒すだけ。死なない程度に動けなくするだけ。
防御を相手の細腕ごと引き裂いて、顔を二つにして。振り返りざまに後ろにいたやつの首を飛ばして。あっ、ミスった。まあいいや。声が聞こえ始めた。歌うような高い声。まずい。
『おい29のクソ女! 何やってんだお前ェ!!』
最悪だ。やってしまった。14で魔法少女になってから約15年、このミスは387回目だ。最悪だ。最悪だ。好きな人の声で、嫌いな畜生が喋っている。
『何が畜生だお前! ミスっちまった時以外は黙ってるって約束守ってるだろうが! 律儀に!!』
はあ。萎えた。
『代わるぞ!! 俺が相手だヒャッハー!!! 子猫妖精さんのお通りだァあはははアハハハ』
煙草の匂いがだんだん強くなっていく。眠気が強くなってくる。苛立たしいが、幸せだ。ここにいるとあの人と一緒にいられるような感じがして気分がいい。
足が八本で気色の悪い継ぎ接ぎの猫だけど、これに乗っていると先輩が近くにいてくれるような気がして。また戦いたいと思ってしまう。いつまでも戦い続けたいと思ってしまう。この愚かで無益な戦いが終わらなければいいのにと、願ってしまう。
この戦いは終わらない。私が先輩を殺したから、終わらない。先輩なら終わらせられたのかもしれないのに。
先輩と一緒に戦う時間が終わってしまうのが嫌だった。ごめんなさい、先輩。
おやすみなさい。
読んでいただき感謝を。